『September one day』サンプル
「暑い……」
「拓磨、暑い暑い言うともっと暑いんだよ」
「わかってるが、暑いんだよ」
もう九月も半ばだというのに、残暑は依然として厳しく秋はまだかと毎日思っている。
都会の夏は、予想以上に厳しかった。同じ日本なのかと疑いたくなるぐらいであった。やはり、緑が少ないせいであろうか。季封村の夏はもっと爽やかだったように思う。実際、夏休みに帰省したとき村はもっと涼しかった。
もう少し、村に居たかったと拓磨は郷里を懐かしく思った。
九月に入り、大学が再開になったので拓磨は他の守護者の皆とこちらに戻ってきていたのであるが、今拓磨と珠紀がいるのは通うべき大学ではなく、ある神社へ向かう途中であった。
典薬寮からの依頼で、その神社に納められているあるモノを調査するためだ。
(中略)
ちょっとしたデートのようだ。拓磨は、隣を歩く珠紀を盗み見た。
今日の珠紀は、ふわりとした素材のワンピース姿で髪の毛をアップにしている。普段は長い髪を下ろしているので隠されているうなじが全開になっていて、拓磨は一人でドキドキしていた。しかも、だ。ふわふわのスカートは拓磨が思うに、ちょっと短い。強めの風が吹けば、まくれてしまうのではないかと思うと、いけないと思いつつ、珠紀の脚に目がいってしまうのは、仕方のない話であった。
(中略)
「拓磨!」
咄嗟に手を引こうとしたが、間に合わなかった。キィ。と、鈍い音を立てて扉は開く。その開いた扉の片方から、破れたお札がひらひらと宙を舞い、ぼっ。と、それは燃えてしまう。
なんだが、とてもマズイことになったか。と、拓磨がぼんやりと思った時、社の中にある水晶玉であろう。それがぼんやりと光った。眩しい。拓磨はそう思って、手で顔を覆った。
2012.09.11.サイト掲載
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