■届かぬ声■




決戦当日。その日、ずいぶんと早く拓磨は目覚めた。
封印を守る戦い。ロゴスという強敵から何としても封印を守らねばならない。
だが、実力の差がありすぎた。
昨日、珠紀の手前落ち着いていつもどおりに見せていたが、拓磨もあの場にいた真弘も皆緊張していた。
無理もない、どう考えても勝機がないのだから。
それでも、戦わねばならない。玉依姫である珠紀の考えでもあるが、何よりも自分たちはそのために存在しているからだ。
封印を守り、玉依姫を守る。そのために守護五家は存在している。
子どもの頃から嫌というほど叩き込まれたそれに否はない。

(そこが怖いんじゃねぇんだ)
戦うことに恐れはない。
拓磨は靴を履き、玄関を出て朝の新鮮な空気を吸い込んだ。
まだ早いが、気持ちの整理もかねて拓磨はゆっくりと歩き出した。

そう、戦うこともそれで拓磨が大きな怪我をすることは怖くはない。
だが、珠紀を失うのが怖い。
前の戦いのとき、拓磨は珠紀が死ぬのではないかと思った。
何もできないくせに、珠紀は拓磨の前に立って必死に拓磨を守ろうとしてくれた。
本当は怖くて泣き出しそうだったくせに、歯を食いしばって声が震えそうになるのを我慢して彼女は立っていた。
あのまま彼女が死んでいたら拓磨はどうしていただろうか。考えるだけで、血が凍りそうで拓磨は頭を振った。
(あいつは、優しい奴だ。それで、強がりで無謀でとにかく不安なんだ)
拓磨を必死にかばってくれた気持ちは嬉しかった。本当に珠紀は拓磨を仲間だと思ってくれていた。以前に一度、自分たちは道具なのだと言った時に自分ことをそんな風にいうもんじゃないと言ってくれた彼女は、言葉そのままに拓磨を守ろうとしてくれた。
その気持ちは嬉しいけれど、それでは駄目なのだ。
正直、心配だった。
自分たちが倒れた時、たぶん珠紀は逃げないだろ。きっと自分たちを庇い、死ぬ。
それがたまらなく嫌だ。珠紀を守り通せるなら、こんなに不安にはならない。
ロゴス相手に、あのアイン相手に彼女を守り通せる自信がなかった。
こんな弱気では駄目だと思う。万に一つの可能性があるならば、諦めてはいけないとも思う。それは、何よりも珠紀がいつも言っていることだ。
守りたい。傷なんて負わせたくない。
だからだろう。宇賀谷邸に着いた時に、拓磨は思わずやっぱり行くのか。と、訊いてしまった。
その時の珠紀は何を言ってるのという顔をしたけれど。
拓磨のそれは本音であった。








体が、重い。戦いはたぶん終わった。俺たちの負けだ。
遠くで声が聴こえた。
ああ、珠紀が泣いている。
泣かなくていい。そう言いたいのに、声が出ない。
手を伸ばして、頭を撫でてやりたいのに手が鉛のように重くて届かない。
お前が、責任を感じなくていい。
自分たちのことを考えなくていい。

(謝るのは、お前じゃない)

謝るべきは、拓磨の方。
守れなかった。
守れなくて、ごめん。
泣かせて、ごめん。

全ては言葉にすることはできなくて、拓磨の意識はそのまま途切れた。








ゲーム本編。封印を守る決戦前後です。
『その手を離すな』の続きみたいな感じ。ゲームの内容を激しく割愛しているので、拓磨の独り言モードのSS続いてますが、書きたかった。
しっかしこの終わり方だとバッドエンドみたいですね。もちろん違うけど。


2012.03.28.サイト掲載



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