■その手を離すな■





初めて出会ったときは、煩い変な女だと思った。
助けてやったというのに、あの態度。どういう育ち方をしたんだとか色々思ったもんだが、
彼女のそれはただの強がりですぐに本当は怖くて仕方なかったのだと知って後悔した。
けれど、自分はあまりにも素直ではなくて何も言えずにただ、重いと訴えるその鞄を持ってやっただけだった。
これが、彼女と拓磨との出会い。
それほど前のことではない。



何も知らずにこの村にやってきた珠紀。
何も知らず玉依姫として鬼切丸を守ることを義務付けられた珠紀。
だが、そのことについて彼女が何か文句をいったりするのはあまり聞いたことがない。
いつも煩いぐらい元気で、前向きな珠紀。
いつのまにか、そんな彼女が自分たちの中心にいるのが当り前になった時、気付いた。
珠紀は、いつも何か大事なことが起きたり考え事がある時、教室に居残る。
そんなときの珠紀は、一人で席に着いてぼんやりしているように見えた。
その時の彼女は、寂そうで。そのまま何処かに消えてしまいそうに見えた。だが、彼女はすぐに何かを決心したようにふっ。と、笑う。その顔がとても綺麗で拓磨は見惚れてしまう。こんなに綺麗だったろうかと思う。いつもとは違う珠紀。何をどうすればいいのか拓磨にはわからず。
いつもただ、じっと拓磨は珠紀をみつめていた。
たぶん、拓磨がここにいることを珠紀は知らない。
知っていたら、珠紀はたぶん強がって空元気を出して賑やかにするに決まっている。




珠紀は強がりだ。それゆえに不安になる。
ようやく顔をあげて教室を出た珠紀と屋上から降りてきたという顔をして合流した拓磨は彼女を送り届けて帰る道すがら、そんなことを思う。
思い出すのは、タタリガミとの一件だ。
戦いの後、大泣きした珠紀。おおげさだと最初は思ったけれど、縋りつくように拓磨の制服を握りしめるその手の小ささに驚いた。小刻みに震える体は本当に小さくて彼女が女の子なんだということを嫌というほど実感させられた。
守るべき対象だとは思っていた。だが、それは義務だと拓磨は思っていた。
正直、後悔した。こんなにも、彼女は小さく脆いのだ。
でも、一人にしてごめんとは言えなかった。
だから、決めた。彼女を守るのだと。
言葉で言うのは得意ではない。
この手が離れて行かないように、守るのだと。


(この俺が、)


この気持ちは何から生まれるのだろうか。そんなことを思いながら、夜空を見上げた。










ゲーム本編。封印を守る決戦前夜です。
もう少し長く話が続きそうだったのですが、もう一本分になりそうだなぁと別々のSSにしました。
ネタばれになっちゃいますが、拓磨が意識したのはこの決戦らしいので。
少し前ぐらいからこうだったのかなぁと妄想してみました。


2012.03.28.サイト掲載



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