■迷えるお年頃■

 

自分は、もしかしなくても変態なのだろうか。
無表情に近い顔つきのまま斎藤はここ数日悩み続けている難題について考えている。
(いや、そうではないはずだ)
自分はただ、かわいいと思ったから想像をしただけで決してその姿になって欲しいとか、懐におさめて誰にも見せずに自分だけのものにしたいなどと思った・・・少し考えなかったかというと嘘になるが・・・とにかく他意はないのだ。
(俺は、まったくの普通。ならば何故、平助はあのような顔つきをしたのだ)
おかしいのは斎藤なのか。そうなのか。
斎藤は数日前のことを思い出していた。







その日はその前日と同じように何ら変わることなく始まろうとしていた。
斎藤はいつもの起床時間に目覚め、井戸で顔を洗いすっきりとしたあと朝稽古をしに道場へと足を向けた。今日の食事当番は左之助と平助である。心安らかに稽古に打ち込もうと木刀を手にしたところで事件は起きた。
「いやぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「?!」
女性の悲鳴が屯所内に響き渡り、斎藤はすぐに道場を飛び出した。この男所帯の屯所に女性は一人しかいない。雪村千鶴、彼女しかいない。斎藤は、千鶴の部屋に駆けつけて緊急時だからと声もかけずに襖を開けた。
「雪村、どうした」
千鶴は答えない。彼女はひたすら一点をみつめたままである。何が彼女を怯えさせたのか。斎藤も千鶴の視線の先に目を向けて・・・驚愕に目を見開いた。
千鶴の部屋に置かれた文机の上にそれはいた。
生意気な目付きといい、親指ぐらいの大きさの癖に尊大な態度といい、いくぶんかわいらしくされてはいるが雰囲気そのままの小さな風間。背中に『あいらぶ千景』と書かれている姿はどこから見ても呪物だった。あいらぶとは何だ。新しい呪文か。
しかも添えられている文には一人で寂しいお前にちょうどよかろう。などと、妄想の果てに頭がおかしくなったとしか思えない文言が綴られていた。



殲滅せねば。



斎藤が即座に思ったのはまさにこの言葉だった。
「雪村、下がれ。このような不浄なもの。傍にあるだけで身が穢れる」
親指ぐらいの大きさと言えど、鬼の頭領が寄越したらしき呪物。強力な呪いがかけられているにちがいない。千鶴に何かあってはいけないと斎藤は奴を葬り去る前に、まず千鶴を抱き抱えるように部屋から引きずり出した。
そうしているうちに、千鶴の悲鳴を聞きつけた他の幹部たちが駆けつけてきた。皆が皆、千鶴の部屋を覗いて呆れ果てる。土方などは、脱力しすぎて頭痛がするのか額に手を当てて深い深いため息をついている。その横でこれ以上ないというぐらいいい笑顔の山南が、ひょいと小さな風間様をつまみあげて口を開いた。
「斎藤君。もしよろしければ、これを私にくださいませんか?」
唖然とする一同を尻目に山南は、笑顔のまま人形を持ってボキッと折った。
「おや、案外脆いですねぇ。本物も折れてくれているとありがたいのですが」
笑顔の山南に誰も何も言うことなどできやしなかった。爽やかな笑顔のまま、これは燃やしてしまいましょう。と、言いながら去って行く山南を見送った一同は、無言で立ち尽くした。沖田以外の皆の顔色が優れない。未だ怯える千鶴を原田が宥めて、風間呪物事件は山南の怖さを全員が再確認して終わりを告げたのだった。




だが。
何かの拍子で藤堂が思い出し、よくあんなことを思い付くよなと呟いたのがきっかけであった。
「なんだって、親指ぐらいの大きさの人形なんだ?意味わかんねぇ」
「変態の考えることを俺がわかるわけがないだろう」
「そうだけど、あれかな。千鶴にいつでも携帯させたいって・・・・うっわ。キモい!そんなの絶対ダメだって。千鶴が穢れる」
自分で導き出した答えに平助は本気で嫌そうな顔をした。
(いつでも携帯・・・)
あの呪物は許しがたい。二度とあのようなものを持ち込ませぬよう警備を厳重にせねばならない。
だが、もしもあれが千鶴だったらどうだ。
あの娘が小さな人形になって手のひらに・・・。
(む。いかん、このような想像。雪村に失礼だ。いやしかし、かわいらしいと・・・な、何を考えているのだ俺は。第一、彼女を携帯するなど破廉恥・・・携帯?!)
なんてことだ。己の考え出したことに愕然とした斎藤の隣で、平助はいきなり自分の世界に入ってしまった斎藤に困惑したように首をかしげたが、斎藤の目には入っていない。
「ちょっと、一君?どうしたの?」
ゆさゆさと肩を揺すられて、我に返る。
「な、何でもない。別に俺は、雪村があれだったらかわいいなどとは」
「一君・・・・。千鶴が、あれだったらかわいいとか想像してたんだ・・・」
平助があきれた声で突っ込んだ。
「なっ!ち、違う!あ、いや。何故、そう思うのだ」なぜわかった。そう思い、驚きの目で平助を見れば、彼はますます生温い目で斎藤を見、そのまま何処か遠くに目をやってから息を吐いた。
「・・・・一君。気持ちはわからないでもないから」
「ちがっ」
斎藤の必死の否定を理解することなく、何度も励ますように頷いてから平助は巡察があるからと去っていった。





そんなことがあって、現在に至る。
平助の誤解とはいえない誤解はまだ解けてない。
しかし、この話は平助以外に知られることもなく互いにこの話はなかったものとしようという空気がそこはかとなく漂うなか。斎藤だけが、ひたすら悩んでいる。
(何故、俺は。雪村ならばかわいいと思ったのか)
斎藤の疑問はここにある。これが土方だとか近藤だったら、おぞましい想像だと思うのに。・・・今想像しただけでも悪寒がする。
やはり自分は局地的に変態なのだろうか。雪村千鶴という一点において。
これは由々しき事態だと斎藤は思った。なぜならば、自分は彼女を守ることが任務なのだ。この先、任務をまっとうできるのか甚だ不安だ。
しかし、このようなこと。誰に相談すればよいのだ。誰にもできるわけがない。



斎藤の悩みは続く。この悩みが解決するまでには、相当の時が必要となることを彼はまだ知らない。







 す、すみません(汗)
謝ることがたくさんあります。まず、斎藤さんが壊れた。私的にはかなりアリなんですが、ダメな人がいたらごめんなさい。一応注意書をしていますのでご了承の上で読んでいただいているとは思いますが。
次に風間様。遊戯録の千景ストーリーを忘れられなくてつい、遊戯録の小さい千景様の人形があっても許されるかなと思ってしまいました。
人形は遊戯録のミニ千景様のイメージです。絶対に何処かで似たようなことをした人がいるだろうなと思いつつ、やりたかったので。
平助が呆れたのは、これでも千鶴が好きだと気づかない斎藤さんにです。さすが斎藤さん。そんなあなたが私は大好きです。