■男は筋肉■

 

「千鶴ちゃん、男はなぁ・・・筋肉だ!」

私、女です。
そう言えたらどんなによかったことか。千鶴は、自室に遊びにきてくれていた永倉を困惑の眼差しで見上げた。

事の発端は、いつもの三人組が千鶴の部屋にやってきていつものように世間話に花を咲かせていたときのことである。
いつのまにやら、原田は女にモテすぎる。と、永倉が嘆きはじめた。また始まったよ、やれやれ。と、いう原田の態度がいけなかったようで、永倉は突然ぐいっ。と、千鶴の方へ顔を近づけてがっしりと両肩を掴んだ。
「いっ・・・・・!!」
あまりの力強さに千鶴の顔が歪む。
「おい、新八。千鶴が痛がってるって」
「新八っつぁん!」
原田と藤堂の二人が引き離そうとするが、永倉自慢の肉体はびくともしない。
それでも、このままでは千鶴が壊れると思ったのかどうか知らないが、二人は千鶴から永倉を引き離そうとするものだから、永倉に肩を掴まれたままの千鶴もぐらぐら揺れる。目が回りそう。だが、千鶴の目はある一点から動くことはなかった。千鶴は、永倉の尋常ならざる様子に彼の顔から目が離せなかったのだ。
永倉さん、
目が血走っています。

ものすごい必死だ。池田屋事件のときよりも余裕がない顔つきである。
今の永倉は、川で溺れた人が必死に助かろうと藁にでもすがるというまさに、あれだ。
「千鶴ちゃん」
「は、はい!」
深刻な声に千鶴はびくりとした。こんな真剣で必死な永倉の顔は見たことがない。もともと男らしい顔立ちがよりいっそう精悍に見える。
な、なんだろうか。何か重要なことを告げる雰囲気に、千鶴はゴクリ。と、唾を飲み込んだ。
永倉は、千鶴の肩をさらに強く掴んだ。

「男は、逞しくてナンボだよな?」
「・・・・・・・・・え?」

い、今。永倉の顔つきと口調からは予想だにしない言葉がきこえなかったか。
千鶴はそっと、永倉の背後にいる原田と藤堂を見た。
原田は額に手をあて、藤堂は遠い目をしている。
(えっと・・・)
どう答えたものか。千鶴が曖昧に頷いてみると、永倉の顔がぱぁぁぁと輝いた。
「さっすが千鶴ちゃん。わかってるなぁ。男は筋肉が資本。この逞しい胸板に乙女たちはときめくってもんだ。そう思うだろう?」
「・・・・はぁ」
ふん。と、力瘤を作り。ニカッ。と、白い歯を出して笑う永倉に千鶴は脱力した。
「見ろ。この腕を。鍛え抜かれた無駄のなさ」
美しいだろう? と、言い募る永倉に腕は腕だ。と、言える勇気は千鶴にはない。
「そ、そうですね」
代わりに引き攣った笑顔で、そう答えた。
「だろ?」
筋肉がいかに男にとって重要で、鍛えることによって得られる肉体美のすばらしさについて延々と語られ、千鶴は気絶しそうだった。

ごめんなさい、永倉さん。
ぜんっぜんわかりません。

そう言いたかった。やっぱり言えなかったけれど。
「新八・・・、千鶴がついていってねぇって」
(原田さん!!)
救い主が現れた。原田さん、ありがとう。と、内心感激の涙を流していた千鶴だったが、永倉には通じていなかったようだ。
「なんだとぉ! そんなこと無ぇって。ちゃぁんとわかってくれてるって。なっ、千鶴ちゃん」

(目が!!!!)
そんな斬り合いの最中みたいな目で見ないで。千鶴は叫びたかった。
頷け。と、目が言っている。全力で再び掴まれた肩が粉々になりそうだった。

助けて、父さま!
千鶴は、選択を迫られた。選択肢はとてつもなく少なかった。肩が無事であるためにはどうしたらよいか。
このままでは千鶴の肩は永倉によって粉砕されてしまう。
そうして千鶴はよくわかないままに、コクリ。と、頷いた。
「げ・・・千鶴が新八っぁんの意見に頷いちまったよ」
「平助、よく見ろ。千鶴の目が遠いだろ。ぜってぇありゃわかってねぇから。勢いで頷いちまっただけだ」

外野二人の台詞を永倉は聞いてはいなかった。
千鶴の同意がよっぽど嬉しかったのだろう。感無量という様子で、何を思ったのかいきなり立ち上がり障子に手をかけ、開け放ち。庭に向かって大声で叫んだ。

「男は、筋肉だぁぁぁぁぁぁ!!!」

その後、騒ぎをききつけて乗り込んできた鬼副長によって、永倉は死よりも恐ろしい体験をすることになったのは、言うまでもない。





 永倉さん、大好きです。
でも、こんな話でごめんなさい(笑)