●しゃっくりがとまらない兵長から始まるどうしようもない調査兵団●
「……ック?!……ヒック!……ヒック」
表情が常とまったくかわらないリヴァイは、しゃっくりが止まらないまま堂々と会議の席に座っている。
静まり返る室内に響きわたるリヴァイのしゃっくり。
表情と尊大な態度のミスマッチの面白さに誰もが視線を逸らす中。一人だけ勇者は存在した。
「やwwwwめwwwwてwwww」
ハンジである。小説では使用が全く好まれないwwwを多用しての引き笑いだ。
ひぃひぃ言いながら、ハンジは腹を抱え頭を机にガンガン打ちつけながら大笑いをしている。
そんなハンジにリヴァイの顔が一層凄味を増した。
「削ぐ……ヒック!」
「ぶはっっ!!!!」
調査兵団長エルヴィン・スミスが淡々と会議進めるので、誰もこの事態の面白さに笑える人間が居ない。皆が、ある意味試練とも思える腹筋耐久レースに突入の中、ハンジは瀕死であった。
死に急ぎではなく、既に死にかけ。椅子から転げ落ち、床をのたうちまわっている。髪の毛が乱れ、ひたすら怖い。
なんだ、この生き物。と、いうように先ほどからしゃっくりがとまらないままリヴァイは蔑みの目でハンジを見た。
そんな中、アルミンは今日も団長は大変だというように団長を見上げた。
本当に表情は変わっていない。
さすが団長!
そんなことを思ったアルミンであったが、ふとした拍子に下の方をみてしまいそのままアルミンは硬直した。
(貧乏ゆすりが……尋常じゃない!!)
速いなんてものではない。ユサユサではない。カカカカカカカカ。と、いう速さである。
怖い、なにこれ。アルミンは衝撃のあまりおそらく今までしたこともない男らしい顔つきになった。そう、まるで某秘孔を突くあの『お前はもう死んでいる』のあのマンガに出てくるような顔だ。ひたすらに濃い。
しかし、大丈夫なのだろうか。アルミンは心配でならなかった。
あんなに高速の貧乏ゆすり故に、頭も揺れてしまう。
頭が揺れる=ズラずれる
大変。と、アルミンはじっと濃い顔つきのままエルヴィンを見上げた。すると、僅かに髪の毛がちょっとずれた。
「ふん!!」
エルヴィンは、首振って器用に戻した。その間、全くの無表情である。団長只者ではない。
アルミンは思った。そして、この気持ちを披露するなら今だと思った。
故に、会議を進めるつもりの団長に輪い転げた挙句突撃をかましたハンジに戸惑い中断した今。アルミンは勢いよく幼馴染を振り返った。
エレンは顔をひきつらせた。なぜならば、アルミンの顔は●斗の拳のままだったのだ。
「今の僕の気持をなんて表現しよう。そう、秘孔をつかれて死の瞬間のようなとにかく巨人よりも恐ろしいものをみたと思ったんだ、エレン!」
エレぇぇぇぇぇぇぇぇン!!
どうする?!どうする?!エレン!!
「早く決めろグ…ヒック…ズ」
「……ふんっ(なかなかヅラがフォールインワンしない)」
「僕の人生に一片の悔いなし」
なぜかアルミンは笑顔だ。もう天に召されるのかというほど満ち足りた顔をしていた。エレンは焦った。
「ア、アルミ〜〜〜〜〜ン!!!!」
気絶したアルミンを抱え、エレンはジャンをみた。彼は、今回一般人代表としてこの会議に参加している。恥ずかしいだけの一般人という名札を下げて直立していればいいだけのはずだった。
意見なんていらねぇ。お前は、ここで話を聞いていればいい。と、兵士長はしゃっくりをしながら言ったはずだ。
なのに何故、俺をみる。と、ジャンはとてつもなく嫌な予感がした。
「俺をみるな!」
ジャンは思った。何故、俺はここにいるのだろうと。一般人代表とかいうこの名札を捨ててもいいだろうか。
どうするジャン。
死ぬな、ジャン。
今、彼の身には理不尽という名の怪物が襲いかかろうとしていた。
エレンの化け物じみた眼に耐えきれないジャンは追い詰められた。
(会議のはずがなぜこうなった? くそ……っ、こうなったら“一般人代表”の名札を捨ててやる!机に叩きつけて出て行ってやる!)
ジャンは、勢いよく名札を机に叩きつけた……つもりだった。しかし、名札は軽かった。薄かった。空気の抵抗でふんわりとした動きをし、風がエルヴィンに向かって吹いてしまう。
ふわり。と、浮いてはならないものがこのとき舞った。
「あぁぁぁ!!!!!!!!!! 団長!そんなつもりじゃなかったんです!」
ヅラずれた。助けてくれください。ジャンは泣きたかった。
全員が凍る中。
「被っと……ヒック……け。ハゲがバレ……ヒック……だろ」
兵長は豪快にエルヴィンのズラを被せなおした。流石は人類最強だ。どんなときでも動じないらしい。
だがしかし、真逆だ!!!
エルヴィンの貧乏ゆすりは神的な速さとなり、アルミンは気絶したままだ。ハンジは、息をしていない!
その時、ジャンと団長の目があった。
「ジャン・キルシュタイン、一般人代表では不服だと?」
エルヴィンがゲンドウポーズで眼を光らせた。
「不服とかはない……エレン!! 俺を見て頷くな!」
「ではジャン今か……お前はいっ……ヒック……たいな、にが……ヒック…」
「……リヴァイ。私がしゃべっている」
そんな団長のヅラは真逆。ジャンは腹筋を酷使しなければならなかった。厳しい訓練よ、ありがとう!
「俺は庶民代表であります!」
苦し紛れの発言にエルヴィンはふむ。と、言った。
「では、これを」
と、手渡されたのは“村人J”の名札だった。高速でジャンは名札を下げた。
もういい。一般人だろうが、村人Jだろうがどうでもいい。俺は、モブだ。関りたくねぇ。と、ジャンは思っていた。
その時。
ハンジが息を吹き返しエルヴィンの逆ヅラに気づいた。
「エルヴィン心臓逆になってるよー」
直してやろうと近づき足が縺れてエルヴィンに激突。エルヴィン逆ヅラが空を舞う。
「?……な…ヒック……んだ?」
エルヴィンの高級特注ヅラはリヴァイの小さい頭の上ですっぽり。金髪のワカメちゃん状態になってしまった。
「ファーwwwwwwww」
あまりの面白映像に、ハンジが爆笑した。
「削……ヒック」
だが、やはり当然の帰結だが、ハンジはその日。星なった。さようなら、ハンジ分隊長。君のことは忘れない。
その前に……とジャンはそっと団長をみた。
「?!」
慌てて目を逸らした。村人Jはみた。団長は常と変らなかった。正確に言うと頭部以外は常と変らなかった。
エルヴィンの真の姿とその動じない精神に感動すら覚える。
(波平や!!!)
目の前で揺れる1本の毛を見て、村人Jの名札を今度はそっと返す。金髪ワカメに削がれたハンジはサザエさんカットに変貌している。凄い、兵長凄腕すぎる。
こんな中に俺がいることが場違いだ。と、ジャンは静かな面持ちで口を開く。
「俺には村人さえおこがましいです」
そう言って白紙の名札に手書きで“イクラ”と書き込み胸につけ、涙が落ちないよう天を見上げた。
「ジャン、お前大丈夫か?」
「ちゃーん!」
「俺は強く生きるだそうです」
そんな! 訳された?! ジャンは驚きのあまりにエレンを見た。
エレンの首からは、タラちゃんの名札が。
(通訳いらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ)
ジャンは泣きたかった。出来ることなら、ミカサの胸に顔をうずめて泣きたかった。
「私の胸はエレンのためにある。さぁエレン、私の胸で泣いて」
だが、ミカサはどこまでもミカサである。悔しがるジャンの肩をアルミンがつついた。
「ジャン、団長が手を広げてるけど……」
予備のヅラを正しく装着したエルヴィンが両手を広げて立っていた。ヅラを探すために服を脱ぎ葉っぱ1枚姿で立っていた。なぜだ、何故脱いだんだ。
「ちゃ、ちゃーん……?!」
どうしたらいい。最善の方法があるはずだ。だがそんなものは、あるわけがなかった。ジャンは閃いた。俺は今、イクラだ。サザエになついてもおかしくはない。なにせママの友達だ。
ジャンは捨て身の作戦に出た。
「ちゃーん!」
思い切り抱きついた。
「あ″?」
(ま、間違えたぁぁぁぁ!!!!)
「ほぅ……悪くない」
(いや、アンタ絶対に悪いと思ってるよな、だって俺を削ぐ気満々で構えたよな?! ヒッ!! よりによって兵長に抱きつくなんて失態だ……てかワカメ怖ぇぇぇぇ!)
「ジャン、団長が泣いてるんだけど」
葉っぱ1枚で真っ白に燃え尽きたエルヴィンが静かに熱い涙を流していた。
「俺はなんてことを……ハッ……エレン!そんな目で俺を見るな!」
「ジャン……」
「ジャン……」
皆の視線が突き刺さる中、ジャンは世界は本当に残酷だと思いながら、何より残酷なのは今、俺を絞め殺す勢いの金髪ワカメだと思った。
「ギブ! ロープ! ちゃーん!」
ジャンの叫びはタラに届くことはなさそうだった。なぜなら、エレンが名札を捨てていた。酷い。
「クソ! もうサザエはいい! 兵長はそのヅラ取れ! 団長は服を着ろ! タラもいらねぇ! 俺は今日からサザエに追いかけられたどら猫が銜えたお魚になってやる!」
「ほぅ……興味深い。なら、お前はもう死んでいる。ということでいいんだな」
ギリギリギリと締めあげられた。
「し、しぬ、兵長……っ、ギブ」
俺の人生、短かった。と、ジャンが思った時であった。
「では、そのイクラ。私がいただこう」
いい加減服を着たらいい団長がシリアス顔で言った。
「たまには違う毛色の本体も悪くはないね」
「?!」
ヤバい、毛をむしられる! この若さでハゲだけは嫌だ! ジャンは死ぬ気を出した。死ぬ気で挑めば逃れることができるかもしれない。なんせ、相手はジャンより小さい。そう、思ったのであったが。
……悲しいかな、全く無意味だった。
*****
今日は冷えるな、エルヴィンが皆に背を向けて兵服を着る。
「ジャン、安心していい。ハゲたら私のコレクションを貸してやろう。特別にこの特注ジャケットの仕入先も教えてやろう」
そう言ってチラ見せしたエルヴィンのジャケットの裏側にはポケットならぬヅラポットが大量にある。どれだけ予備を常備しているんだ、この人は。
(いらねぇ! うちの家系フサフサ家系だし。ハゲなんていねぇ。てか、何だこの量? 多くね? が、待て。ジャン・キルシュタイン。反抗ばかりじゃどこぞの死に急ぎ野郎と大差かねぇ。俺は……やるべきことをやる!)
ジャンは黙って団長に向かって敬礼をした。
(ここは俺が大人になる!こんなアホな団長に腹を立てても仕方ねぇ。死に急ぎ野郎と同レベルであってたまるか!)
「……団長、1ヅラいただけますか?」
「ん?あぁ構わない。来るべき日に備えて訓練に励んでくれ」
「どうだエレン……って見てねぇのかよ!」
エレンは、やり取りに飽きたのか鼻ちょうちん作っておやすみ中であった。
さて、手元にはヅラ。
目の前には、何かを期待した団長。
どうする、ジャン。
どうするべきだ、ジャン。彼は、考えた。脳内で響くのはモンスター出現の音楽だ。もちろん、ジャンは迷わず逃げるを選択した。
(俺は勇者ではない。弱い人間なんだ!)
しかしジャンはまわりこまれた!
ハンジはいきをしていない。しかばねのようだ。へいちょうがしゃっくりをした!
ジャンのHPが300のダメ−ジをうけた。
ジャンはアイテムヅラをつかった。
ジャンのMPが100のダメージをうけた。
エルヴィンのHPが1000かいふくした。
ダメージを覚悟でアイテムを使う。エルヴィンのヅラは想像以上に強力で装着した途端足の裏が火を吹いた。
気づけば宙を上昇。ジャンは真っ裸だった。かろうじて股間は葉っぱで隠され、エルヴィンの偉大さを思い知る。ジャンはルパン脱ぎをマスター。
HPは3000にレベルアップした。
ジャンのレベルがあがった。ヅラレベルが100あがった。
どうやら勝てたらしい。ジャンは我に返った。そう、勝ったのだ。
俺はついに勝った!と、彼は歓喜した。が、待て。葉っぱ一枚にヅラだ。どう考えても変態だ。しかも、これはどう着地したらよいのだろうか。
考えろ、とジャンは思案する。そうだ! と、ジャンはヅラを地上を歩くコニー目掛けて投げつけた。
「ヅラ星の変態の襲撃?!」
驚くコニーが形状記憶で着衣を地上に残し空へ発射。ヅラを失ったジャンはゆっくり降下し始め上昇するコニーとすれ違う時ジャンについてた葉っぱが剥がれコニーへ移動する。
「ジャン!お前がヅラ星人?!」
「チガウ!」
葉っぱを無くしたジャンは地上が近づくにつれ冷や汗が流れてきた。
ヤバい。ジャンは、今更ながら後悔する。今、俺は大自然の一部となれそうな程にあらゆる部分が大自然だ。このままでは確実に変態。
「そうだった」
ジャンは叫んだ。
「あんなところにエレンのパンツが!」
兵長とミカサが壁外調査でもみたことがない超反応で駆けて行った。
エレンのパンツ。それはエレンが朝から明日の壁外調査用に洗濯して干していた勝負ぱんつだった。
ぱんつへ着地を目指してジャンが体を捻る。ジャンJr.は風圧でぶるぶる捲れながらワンテンポ遅れて左右に揺らいだ。ジャンはルパン履きをマスターした。ほかほかぱんつを奪われたエレンは怒った
「貴様……!」
兵長は怒りに震えた。エレンのパンツは俺のものだと怒り心頭だ。
同じように。
「貴様……!」
ミカサは怒りに震えた。エレンのパンツは私のものだと怒り心頭である。二人は互いを見た。ガシィッッ!! 最強の男女は、生まれて利害が一致した。
「馬面削ぐ! エレンのパンツ!!」
こうして新たに『エレンのぱんつ争奪杯』が始まった。馬面ジャンが人類最強と最強新兵に勝てるわけもなく、敢えなく敗北。ぱんつは剥奪の上、しり丸出しで放置の刑に処せられた。一難去ってまた一難……ジャンの尻を境にリヴァイとミカサでエレンぱんつ杯決勝のゴングが鳴った
「離せ、エレンのパンツが私のもの」
「あぁ?」
パンツを互いに引っ張り睨み合う。
「俺の勝負パンツが!」
緊迫する場。その背後でアルミンがジャンに、団長の勝負パンツであるハゲにも負けず抜け毛なんて怖くないとプリントされたパンツをジャンに渡してやっていた。
よかった。
ジャンが人類最強の男女の間から這い出し、パンツをはいてほっと息をついた。
ああ、パンツ。
すげぇ、大事だ……。
だがしかし。彼は知らない。
そのパンツが。
呪いのパンツであることを。
教会にパンツ一枚で向かう羽目になることを。
終わり
ツイッターでお友達となぜかリレー方式になったもののまとめです。なので話の流れや文書の感じが場所によって違うのはそのためです。
それを繋げて、一本にしたものになります。兵長が好きな友達とジャンが好きな私が愛の注ぎ方を間違えた結果です。なんでこんなに団長いじったのか愛なのか。
そうなのか。という謎だけが残りました。決して嫌いなんかじゃないんです。好きです。ほぼ、私と友人のためだけに投稿しております。
本当に何から謝ったらいいかわからないけれど。すみませんでした…。でも、満足した。
半分を担当したゆずちゃんのサイトはこちら
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