●うちのコと婿がかわいすぎてツライ●



 必ず来るとは思っていた。


 王政を打倒するなどという計画を立てれば、間違いなく出てくるであろう人物などリヴァイにはわかりきっていた。過去自分を育て、教育を施した人物。
 リヴァイは、いつもの無表情のままその人物を見つめていた。対して、その男もまたいつもの表情でリヴァイを見つめている。男が、ようやくゆっくりと口を開く。
「久し振りだな、リヴァイ」
「ああ、そうだな」
 互いに被っていたフードを取る。男は、リヴァイの記憶にあるよりも少し老けたようだ。時の流れを感じるが、リヴァイはそんな感傷的な人間でもなかったので、この男がここに居るという事実に面倒なことになったと思うだけだった。
 そう、この男が現れるだろうことは知っていた。だが、面倒なのである。これは、知っていてもどうすることもできない事実だった。
「リヴァイとのみ名乗っているらしいな。アッカーマンの名は捨てたか」
 お前は、オレの誇りだった。と、淡々と告げるその口調に多少苛つきを覚えるが、リヴァイは黙っていた。そんなリヴァイの様子を気づいているのか気づいてないのか。男は、突然バッと帽子を高らかに投げ両手を開いた。いわゆる、さぁ俺の胸に飛び込めポーズである。


「リヴァイたん、アッカーマン捨てちゃ駄目! パパ本当に傷ついたんだよ、リヴァイたん!」


 きた。と、人類最強の兵士は思った。だが、しかし。リヴァイもあの時のような子どもではない。あの時のように、溺愛しすぎるパパから逃げる事しかできなかった子どもではないのだ。今度こそ、勝つ。と、リヴァイはカッと、目を見開いた。
「俺はもうアッカーマンじゃねぇ、リヴァイ・イェーガーだ」
 気持ち的にはとても高らかに。だが、実際はいつもの無表情で無感動な口調で言った。俺はこいつとは違う。あくまで俺は俺のままで行く。そうリヴァイが思っていると、目の前の自称パパの背後に稲妻が走り、広げた手を頭にやり、神は俺を見捨てたのかポーズをとっていた。その目は驚愕に見開かれ、ぱくぱくと口を動かしている。小さく、俺のリヴァイたんがパパのリヴァイたんが。と、言っているようだ。
「何だと? パパ。耳がおかしくなったかな。リヴァイたんがお嫁? そんなはずないよね、そんなわけないよね。リヴァイたんは、大好きなアッカーマン隊長との思い出をいつまでもその小さな胸にそっとしまって、慎ましやかに生きて行くんだよね。パパ、呼ばれてないよ。式に。結婚式に呼ばれてないよ! 泥棒は誰だぁぁぁぁぁ! リヴァイたんの処女奪ったのはどこの野郎だぁぁぁぁ!」
 地面にひれ伏し、高価な黒いコートが汚れるのも厭わず嘆く自称パパにリヴァイは冷静に応えた。
「式は出会ってすぐの頃に済ませた。第一、呼ぼうにも連絡つかねぇだろ」
「それは、一理あるけど。リヴァイたん酷い!」
 しくしくメソメソ泣く対人組織ナンバーワンの隊長は恐ろしく情けない。
「誰だ」
「何が」
 ゆっくりと顔をあげて、殺気を漲らせたアッカーマンにリヴァイは首を傾げた。
「婿さんだ」
「エレンたんだ」
 リヴァイは、真顔で言った。その顔は、いつもの無表情だ。
「エレン……たん?」
 アッカーマンは絶句した。たん。最上級愛情表現のたん付けなの。と、ブツブツ言っている。
「エレンたんは、素敵な旦那様だ。若くてかわいくて、かっこいい。今の俺の呼び名は、へいちょ、だ。リヴァイたんとは今後呼ぶな。だが、へいちょとも呼ぶな。エレンたん専用だ」
 ビシ。と、言ってやるとアッカーマンは固まった。
「そんな……あんなかわいかったリヴァイたんが。小さなお手てで、削ぎ終わりましたと嬉しそうに血濡れたナイフ差し出してきたリヴァイたんが。パパのお髭が嫌ぁぁって泣いてしまってパパ、毛という毛を全駆逐しようかと本気で悩むほどその様子がかわいかったリヴァイたんが。反抗期なのか、そうか。遅い反抗期なんだな?!」
「違ぇ。大人になっただけだ。お前も、早く俺を卒業しろ。今すぐに。そんなことよりも、エレンを早く返せ」
 リヴァイは、先ほどからアッカーマンの部下に担がれたままプルプル震えているエレンを奪取する。
「へいちょをへいちょ言っていいのは、エレンたんだけだからな、しっかり言ってやったぞ。あいつ、パパなんだが、挨拶するか?」
 エレンを下ろして拘束を解きながら、告げるとなぜかエレンは更にプルプルしている。
「へいちょが、自分でへいちょ言った……!!」
 顔を赤くして、震える姿のエレンこそかわいかった。なにこの可愛い生き物。こんな可愛い生き物が居ていいのか。この人がリヴァイの旦那様なんて、世界はこんなにも素晴らしい。エレンこそ、奇跡そのもの。地上に舞い降りた天使。旦那がかわいすぎて、ツライ。と、リヴァイは感極まって最愛の旦那を抱き寄せてぎゅう。と、抱きついた。だが、表情はいつものままだ。抱きついて、辺りを見回すその目は、エレンたんに惚れたら、どうなってるかわかってるだろうな。あぁ? と、言っている。目が合ったアッカーマンの部下が数名顔を蒼白にしてガタガタ震えていた。だが、そんな奴らに担がれたヒストリアだけは、新刊ネタきたわ。と、違う意味でガタガタ震えていた。
「へいちょ」
「なんだ、エレンたん」
「へへへ、何でもないです。呼んだだけ」
 照れて笑うエレンがかわいい。リヴァイは、内心で盛大にデレながら、エレンを抱きかかえたまま立ち上がった。
「エレンたんのエレンちょうだい」
 んー。と、キスを求めるとエレンも顔を近づけてくれた。ちゅ。ちゅ。と、キスをすると恥ずかしそうに顔をリヴァイの髪に埋めるエレンが本当に可愛くてリヴァイはルンルンで歩き出す。そこで、リヴァイは気が付いた。やけに、あいつが静かだ、と。
 エレンを抱えたまま振り返った。そして、後悔する。
「……お婿さんも天使。食べちゃいたい」
 だんだん。と、地面を拳で叩きながら、悶えている黒服のオッサンがいた。隊長は、ぼんやりと顔をあげた。そして、リヴァイに抱きあげられたままのエレンをみつけて、くわっ。と、目を見開いて唾を飛ばす勢いで話しかけた。
「エレンたん、リヴァイたんのパパです」
「あ、始めまして!」
 エレンがニコリと笑うと、アッカーマン隊長はどうやらダメージを受けたようだ。地面に転がった。エレンは意味がわからずぽかんとしている。その顔もかわいいと思いつつも、リヴァイは不機嫌になった。大変危険だ、あの男はリヴァイと趣味が似ている。ここは釘を刺さねばならないとリヴァイは思った。エレンたんのエレンはへいちょのものである。誰にも譲るつもりはない。
「エレンたん言うな。それはへいちょの特権だ」
「へいちょ。リヴァイたんって呼ばれているんですね、かわいいです」
「そうか。お前が好きならば、リヴァイたん呼びでも構わない。俺は元々呼び名には拘らない方だ」
「ねぇ、パパは」
「お前は、帰れ」
「酷い! パパやっとリヴァイたんに会えるようになったのに。どれだけ我慢してたと思うの。パパ。人間相手だから、巨人相手のときはずっと我慢してたのに。昔、お風呂に一緒に入った仲じゃないか」
「昔の話だろ」
「えっ。へいちょのへいちょ見たんですか! このオッサン。いや、お父さん」
「ふん、いいだろ? 一番かわいい時期のリヴァイたんはこの目にしっかりと焼き付けてある」
「くっ。でも、へいちょがトロトロに蕩けている最高にエロくてかわいい姿は、俺だけしか見てないですから! ね、へいちょ? へいちょのいいところ知ってるの、俺だけですよね。俺の好きなところも知ってるの、へいちょだけですから」
 にっこりとエレンが笑う。
「……そうだな。お前だけだ」
「はい」
 にっこりと笑うエレンがかわいくてかっこいい。リヴァイはほんのりと目元を赤らめた。もうこれは帰って早く二人きりになるしかない。と、リヴァイが再び歩き出した背後で、やっぱり突然途中で黙ったアッカーマン隊長がゆらりと立ち上がった。
 エレンを取り返すつもりか。そう身構えたリヴァイであったが。


「うちのコと婿がかわいすぎる!!!」


 神よ、ありがとうポーズで感激を表している育ての父がいただけだった。



 



別マガ5月号のネタバレでした。友達に萌えを投下されて、どうしても書きたくなって投稿したものです。
正直、なんの設定も明らかになってない人物なので、こんなにぶっ壊してよかったのかという話なのですが、楽しかった。
兵長にへいちょ言わせたのも、エレンたんとも言わせれたのも満足でした。

お戻りの際は、ブラウザを閉じてお戻りください。