*小十郎が壊れてます。ご注意ください。
■怪人現る!■
奥州の冬は厳しい。
確かに、体も寒いが顔も寒い。
それは、わかる。
政宗もそうだから。しかし。いくらなんでも、これは。
政宗は目を泳がせた。
今、決して振り返ってはならないと思っている。いや、これはもはや断固たる決意だ。
見るな。
そして、気づくな。
自分は、今。
振り返ってはいけない病にかかっているんだ!
見たら、最後。
「政宗様」
幻聴が聞こえる。これは、幻聴だ。
(小十郎はいねぇ。いないんだ!!)
政宗は戦った。振り返ってはいけない。だが、それは相手が近づいてくるという行為により無に帰そうとしていた。
「政宗様。小十郎にございます」
「・・・・」
政宗はなおも戦った。
小十郎は幻だ。どんなに声が似ていようとも、どんなに今自分が覚醒していることがわかっていようとも。
認めるのは、嫌だった。
なぜならば。
「政宗様、風邪を召されては大事。これをお召しくだされ」
小十郎の手には、目出し帽。それも、赤。
「NO!!」
しまった。即答したせいで、政宗は振り返ってしまった。そこには、小十郎がいた。
首から下は。
しかし、首から上は目出し帽を被りはっきりいって、怪しさ爆発である。
目と口しかよくわからない。しかも、満足げなのはなぜだ。さらに、手に数枚の目出し帽を持っている。明らかに布教する気満々だ。
すでに数名の被害者が生まれているかもしれない。政宗はゴクリ。と、つばを飲み込んだ。
「実用的です。まず、暖かい。覆い方をご覧ください。一部の隙もありません。それに、こうしておけば・・・誰かわからないんですよ。つまり、政宗様を狙うやからを惑わすという利点も」
「断る!」
「なぜですか、暖かいですよ」
「・・・NO!」
「政宗さま!!」
駄目だ、これ以上小十郎をみていたら笑いの発作が。政宗は、足早に去った。その後ろを小十郎がついてくる。目出し帽を被ったまま。
政宗は再び、戦った。背後には誰もいない。そうだ、誰もいたりしないのだ。
あんな首から下は小十郎なんていう奇妙な生物など・・・。
「筆頭、背後に怪しい男が」
「筆頭、背後に刺客がっ!」
口々に言う部下たちの声に政宗は振り返った。
そこには。
目出し帽を装着した首から下は、片倉小十郎!
(俺は認めねぇ!)
「・・・なにも見えねぇ」
そうだ、心の目で消してしまえばいい。政宗は、くわっ。と、部下を睨みつけた。
「何も見えねぇよなぁ? ここには何もいねぇ。そうだろう?」
ガシっ。と、男の肩を掴み、揺さぶりながら同意を求める。その目は血走っている。
部下は蒼白になりながら。コクコクと頷いた。
「な、何もみえねぇっす!」
「政宗様っっ!!! 遅い反抗期ですかっっ??!!!」
小十郎の悲痛な声が響き渡る。
「あれ、小十郎様だったのか・・・」
「小十郎様が壊れたあぁぁぁぁぁ!!!!」
今日も伊達軍は元気です。
終
小話です。ブログにあったものを移植。同時アップの『蛸怪人と虎和子』が続きです。
(H21.4.12.再録)