【その時まで 幸村編】



いつか政宗と幸村も信玄と謙信のように決着がつくときが来るのだろうか。
関ヶ原での戦いを終え、甲斐に戻った幸村は床に就く前にふとそんなことを思った。
関ヶ原でも、結局政宗との決着はつかなった。
それは当たり前な話で、勝負がつく前に2人して同時に倒れてしまったのだ。一時的に蘇った織田信長を倒すべく全力でぶつかったあとのことである。間を置かず全力でぶつかればどうなるかなど考えなくてもわかっただろうにそれを忘れてしまうとは、やはり政宗は幸村にとって特別な存在なのだろう。
政宗と相対していると、幸村は他のすべてを忘れてしまう。


自分が甲斐を背負うようになったことも。
今何をすべきなのかも。
なにもかもがすべて、政宗。と、いう存在の前ではとても小さな存在となってしまうのだ。
良いことなのか、悪いことなのか。


信玄はどうであったのだろうか。
上杉謙信という類まれなる武人と戦うことをなによりも楽しみにしていた信玄。戦というものを楽しみにするということは、武人以外からみれば褒められたことではないのかもしれないけれど少なくても幸村の目からみると信玄と謙信は、確かに友であったのだと思う。故に、上杉が武田に敗北を喫したあの瞬間。なぜか素直に幸村は喜べなかった。結局、家康の乱入で謙信は武田と手を携えていくことになったが、もし。幸村が政宗と。と、思うと少しだけ怖くなる。
政宗と戦い、その先に終わりがあるとするならばそれはそれで幸村に悔いはない。心から望む相手と戦った結果である。武人としては素晴らしい最期であるとさえ思う。
だが、もし反対だったったら……。
悔いはしないだろう。政宗も悔いたりしないだろう。それはきっと幸村と同じだ。
だが、幸村はきっと寂しさを覚えるのだと思う。
心に穴があいてしまうとさえ思う。


幸村と政宗はあまりに共にある時間を過ごしすぎたのかもしれない。
普通ならば、こんなに他国の武将それも大名である男と交流をもったりはしなかったはずだ。だが、さまざまな要因が重なって何度も幸村と政宗は共闘している。
そのたびに、色々な政宗をみてきた。
衝撃的な出会いから、一国の主である政宗の顔。仲間思いで情に篤いところ。意地悪なところがあるが、実は優しいところ。伊達の兵士たちとの深い絆……。
はじめは、手合わせをしてこんなにも心踊る相手がいたのかと幸村の魂が震えただけだった。
また会って今度は勝負に白黒つけたい。とことん戦いたい。そう思っていただけだったのに、いつしか政宗は幸村の中で大きな存在となっていった。


政宗ならばどう考えるだろうか。
政宗なら、どう動くだろか。


いつも思考の起点は政宗だった。いつからだろうか。信玄を起点として考えないようになったのは。今でも、さまざまことを信玄ならと考えてはいる。だが、本当に心から迷った時思い出すのは政宗である。
ゆえにいつか“その時”が来るのが、怖い。
その時にどんな行動にでるのか幸村は自分でよくわからないでいる。
自分が敗北ならば、たぶん笑って逝けるだろう。
考えてみるだけ無駄なことだとわかってはいるけれど、どうしても考えてしまう。
でも、と。


なにゆえ、寂しいのだろうか。
なにゆえ、悲しいのだろうか。
なにゆえ、政宗がいない世界がひどく色褪せたものになると想像してしまうのか。


本当はわかっている。わからないふりをしているだけだ。
ずっと昔から、幸村は政宗を慕っているのだ。
だから、政宗がアンタは俺にとってのゴール……終着点という意味らしいが……だと言った時、嬉しくて嬉しくて体が震えた。
同じだと感じたからだ。
政宗もまたこの幸村と同じである、と。


幸村は布団から起き出して、障子を開き中庭へと降りた。
静かな夜だった。
満月の夜の空は大変明るい。
「絆が作り出す世では、政宗殿ともまた繋がってゆけるのであろうか」
家康が示した道は、まだ出発点にすらたどりついてはいないけれど。


いつか、この長き戦国の世が終わったとき。
そして政宗と幸村の戦いに、その時がやってきたとき。

何かが変わり、何かが始まる。
その変化が何をもたらすのかはまだわからないけれど、幸村が望むことはただ一つ。


「政宗殿。それがしは    」


願いは言葉にはしない。してはならない。
幸村は黙って星空を見上げていた。




 
映画を見て、政宗と幸村はやっぱり特別な絆があるなぁと思いました。
で、なにかそういったものを書きたいと思ったら話がまじめになりすぎたような(汗)
個人的に、幸村にとって政宗は特別で政宗にとってもそうで。
2人はものすごーく深いところでわかりあってたらいいなぁ。と、思う。
幸村編と銘うってますが、政宗編もかこうかと思ってます。
またお付き合いいただけると嬉しいです。
ありがとうございました。


2011.6.23.ブログに掲載。
2011.9.4.書庫に移動。

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