いざ尋常に



罰げいむ。

それは、勝負に負けた者が勝負前に約束を交わしたことを履行する行為なり。


そう説明されたのはずいぶん前で、それ以来幸村は政宗と勝負するたびこの約束をしている・・・ような気がする。と、いうのも毎回。いつも今度こそは乗せられないと思っているのにいつのまにか約束してしまっているのだ。しかも、この罰げいむを賭けた勝負で政宗が負けたためしはない。
そう・・・毎回なのだ。
毎回、毎回、幸村は辛酸を舐めている。なぜ毎回勝てぬのだろうか。いやそれよりも、何故毎回罰げいむの内容がこんななのか。
声を大にして言いたい。


な に ゆ え に ! !


幸村の魂の叫びが声になることはない。なぜならば、その相手が幸村の目の前にいて今か今かと罰げいむが行われるのを待っているからである。
何故、政宗は絶対に負けないのか。なにやら罰げいむがかかっているときの政宗は神懸っていた。
悔しい。非常に悔しい。


「どうした?」
ニヤニヤしながら政宗が問う。勝者の余裕なのか、政宗は幸村の部屋の隅に置かれていた滅多に使われない脇息を引っ張り出してそれに肘をついて頬杖をしていた。自室のごとき態度である。季節が夏にさしかかり少々暑いのか、着物を合わせを寛げていつもよりも肌を露出していた。変に色っぽい。
幸村は意味もなくドキドキしながら、何故こんな色気を垂れ流す御仁の目の前でにあのような罰げいむをせねばならんのかと思った。
猛烈に恥ずかしい。恨めしそうに政宗をみれば、政宗はひどく楽しそうな様子で口許をニィと持ち上げた。
「そんな風に、頬を膨らませてむくれてみせても現実は何一つ変わっちゃくれねぇぞ。男同士の約束をまさか違えるとか言わねぇよな?」
「それは・・・」
男同士の熱き約束を違えるなどしてはならないことは幸村もよくわかっていた。それがたとえ砂山崩しだったとしても、勝負は勝負。約束は約束である。政宗と幸村の立場は対等であったし、正々堂々と勝負した結果負けたのだから、約束は守るのが男であろう。
だがしかし。
幸村は手元に目を落とした。そこには、罰げいむの道具が握られていた。その柔らかな感触に決心がつかない。
(腹をくくるのだ、幸村。ただ、これを握りしめてあるセリフを政宗殿に向って言うだけではないか)
それが恥ずかしいのだが。
けれど、一度約束したのだ。守らねば。しかし。と、逡巡しながら政宗の様子を窺えば、彼は今度は脇息を正面に持ってきて両手で頬杖をついていた。
完全に待ちの状態である。
どんなに時間が経っても待つ気満々である。


幸村は、観念した。心を落ち着けようと、目を閉じ息を吐く。それから顔をあげて政宗をみた。政宗が気がついて片眉を跳ね上げた。
幸村は、例のブツを握りしめ気合いを入れるように息を大きく吸った。




「・・・それがしの・・・・髪に、この・・・うさ耳さんをつけてくだされ。優しく・・・し、してくだされ。そ、それと痛いのは嫌」


政宗に指定された通り、べったりと座り少し上を見上げるようにして告げて震える右手でつきだしたのは、ウサギの耳の形をした髪飾り。セリフも政宗の指定通り。恥ずかしい。このまま逃げ去りたいぐらいだ。幸村の顔は羞恥に染められ耳までも赤くなっていた。恥ずかしすぎて、声もやや上擦っていた。
あまりに恥ずかしかったので幸村はまともに政宗をみつめることができなかった。ゆえに、政宗がどんな表情でそれを見ていたか知らない。
目をそらし、畳へと視線を落としてた幸村の耳に。ガン。と、いう何かが壁にぶつかった音が聴こえた。驚いて顔をあげると、脇息を放り投げたらしい政宗が眼前に迫ってきていた。背後に壁にぶつかって落ちたらしい脇息が転がっている。
「Of course」
やけに甘い声で言いながら政宗は幸村の手からうさ耳を受け取ってそれを装着させた。そのまま手を滑らせて幸村の背中に手をまわしながら肩に顔を埋めてきた。
幸村は慌てた。うさ耳をつけてもらって罰げいむは完了のはずである。それなのに政宗の手は止まらない。たまらなくなって、政宗の名を呼ぶと政宗が幸村の耳に唇を寄せた。
「優しく・・・な?」
やけに艶っぽい声で囁いた政宗はそのまま幸村の耳たぶに吸いあげてきた。思わず声にならない声を幸村は上げた。
危険である。大変危険だ。
こんな日の高いうちからなんて破廉恥。
そう思って、嫌々するように体をねじると逃がさないとばかりに政宗は全体重をかけて幸村をその場に押し倒した。


「優しくしてやるよ。それと、痛くもしない」
「意味が…!!・・・!!」


罰げいむ。それは男と男の熱き約束ごと。
だが、毎回思うのだ。
何かまちがっておるのではないかと!!


決して嫌いではないのだけれど、ちょっとどころではなくとても恥ずかしい幸村はしばらく政宗相手に無駄な抵抗を試みるのであった。
幸村が恥ずかしさから抵抗するのを政宗が楽しみにしていることに気づくのは、ずっとずっと先の話であった。







砂山崩し。正式な名前は知らないです。砂山の上に棒を突き立てて、だんだん崩していって棒を倒した人が負けというアレです。
くだらない勝負をする蒼紅がかわいいな・・・と思います。
読んでくださってありがとうございました!
2011.6.22.サイトに再録

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