真田家の掟
「おい、小十郎。これは何だ?」 「・・・政宗様。この小十郎、申し訳ありませんが即答できませぬ。飾っているということは・・・おそらくは大事なもの」 「そうだな、がらくたなんぞ飾らねぇな」 「しかし」 「ああ、わかるぜ。小十郎」 政宗は真田幸村の自室に飾られたそれをしげしげと眺めた。 大きな一枚板に書かれたそれは、正直いっていいものか悩むのだが・・・いや、心の中で言うだけなら問題ないだろうから言うけれど、落書きにしかみえない。 ミミズが這ったような文字は頑張れば芸術に見えないこともないが、豪快にはみ出した文字といいバランスの悪さといいひどいものだった。 しかし、飾っているということは幸村にとって大事なものなのだろう。気になる。 幸村が戻るまでまだ時間はある。政宗はこれを解読してみようと決めた。 「小十郎、この隅にあるのは掟と読めねぇか?」 「言われてみれば」 いい滑り出しだ。 政宗は板を下ろして小十郎と二人、それをのぞきこむ。 「政宗様。小十郎には、真ん中のこのあたり。熱血と読めます」 「みろ、左下には熱き漢とあるぜ」 「・・・・」 二人は押し黙った。 なんとなく。本当になんとなくだが、この板に書かれていることの予想がついた。 二人は無言でそれを元に戻し、真夏よりはいくらか涼しくなったはずの庭を眺めて同時に額に手をあてた。なんというか、どっと疲れが出た。 「・・・・やめた。せっかく涼しくなってきたってのに、こいつを読みといたら暑くなりそうだ」 「御意」 二人はそのまま、黙って幸村が戻ってくるのを待つことにした。 「・・・・熱血なり!・・・・・熱き漢なり!」 朝から槍を振るう音と早朝にあるまじき大声に政宗は起こされた。 ぼんやりとした頭で室内を見回し、あぁ。真田幸村の屋敷に泊まったんだっけと思い出す。 しかし、五月蝿い。あの男は昨日あれだけ政宗になかされても翌日はすでに元気なのか。 あれやこれや幸村相手に試した昨晩を思い出してニヤニヤしながらも、幸村の奇声に近い雄叫びにまだ寝たいといいたげに布団を被って締め出そうとする。 頼むから、昨日のかわいいままでいてくれよ。と、思いながら。 (下半身はだるくも痛くもねぇのかよ・・・しっかし朝から熱血なりとは・・・熱血?) ぱち。と目を開く。がばっと起き上がって政宗はスパァァン。と、障子を開いた。 庭には幸村がいる。上半身裸のまま槍を手に汗を流しているようだ。昨日の名残は見当たらないが、つい政宗は目を細めた。 「政宗殿!おはようござります」 笑顔で挨拶する幸村に政宗は聞くべきことを思い出して口を開いた。 「Good morning、真田幸村。あんた、今。何か言ってなかったか?」 「あぁ、言っておりました。真田家の掟でござる」 「掟?」 「真田の男子が守らねばならぬ三か条でござる」 そういうと幸村はなぜか槍を振り回しながら叫び始めた。 「一、常にいかなるときも熱血なり! 一、常にいかなるときも気合いなり! 一、常にいかなるときも熱き漢なり! うぉぉぉぉ!!!さぁ、政宗殿も!」 「Ha?」 政宗は後悔した。訊かなければよかった。熱い幸村は嫌いではない。 しかし、何故。 この男は、キラキラした目でご一緒にとばかりに政宗をみているのだろうか。できない。と、いうかやったら伊達政宗のなにかを失う。 (何か対抗して・・・そうだ) 政宗はニヤリとした。これならば、伊達政宗が伊達政宗らしくなおかつおいしい。 「待ちな。たまには奥州流を試してみねぇか?」 「ぬ。そ、そうであるな。政宗殿がいらしているのだ。せっかくだからお頼み申す」 敵はあっさり引っ掛かった。政宗はニヤつかぬよう気をつけながら、真顔で幸村をそばに呼び寄せた。 「まずは目を閉じて」 「う、うむ」 ぎゅっと顔をしかめるほど目をきつく瞑った幸村に政宗は笑いそうになるのを堪えた。かわいい、奴。と、政宗は口の端を緩やかに持ち上げた。 「次に顔を前につきだす」 「んん?」 政宗に向かって顔をつきだすような格好にさせてから相手が両頬を手で挟むと言うと、幸村は素直に大人しくしている。 「そうして、唇を少し開く」 「政宗殿・・・んぅ!!!」 さすがになにかおかしいと感じた幸村を逃すことなく政宗は素早く唇を塞いだ。 「政宗殿!!」 「奥州では愛する恋人に朝から熱烈な口づけが掟だ」 「なんと!!!」 政宗の嘘を信じた幸村は、真剣な眼差しで朝の濃厚な口づけを受け続けたのであった。 終 |
なんとなく書いてしまいました。真田家の掟というか武田軍のはありそうです。 ゲームしていて鶴姫相手に熱血を熱く語る幸村をみて家訓とかありそうだなと。あ。幸村の自室に飾ってあるのは幸村作です。 字はなんとなくバサラの幸村は上手じゃない気がします。あくまでイメージですけど。 読んでくださってありがとうございました。 2011.6.22.ブログから書庫へ移動。 |
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