■お昼寝■






ひらひらと舞い落ちる雪を眺めながら、まだ降るのか。そんな風に思うのは、いささか風流ではないな。そんな風に思うが、なんといっても半年ほど毎日嫌というほど見てきた雪である。思わず、そんな感想しか抱けなかったことは、政宗のせいではないはずだ。
(まだ根雪が消えるには…かかるな)
雪融けは進んでいる。先月、あれほど城下の道路わきにうずたかく盛られていたもはや山といっても過言ではないそれは、半分ぐらいのちいさなものになっている。
しばらくすれば、それは残雪となり、気がついた時には跡かたもなく消えうせる。
そうなると、いよいよ雪深い奥州も活動時期に入ってくる。
家に閉じ込められて、鬱々とした日々が懐かしく思えるほどにあわただしい日常が政宗にもやってくることとなる。それは、とても楽しみではあるが、また気鬱でもあることを否定はできなかった。
どちらにしろ、春は巡ってくる。
この雪がすぐに懐かしくなるのだ。
そう思えば、この雪もまた愛しんでやるべきなのだろうと思う。

などと、かなりどうでもよいことを考えていられるほど、政宗は暇だった。
執務はとうに片づけた。これを知ったときの小十郎顔を思い浮かべて、政宗はニヤリとした。
政宗だってやるときはやるのだ。
ただ、そのやる気が恐ろしく出ないだけなのだ。
これは、政宗にもどうすることもできないことなので、その辺りは早く小十郎も分かって欲しい。
まぁ、これも今はどうでもよいことだった。


とにかく暇だ。
暇すぎる。

歌でも詠むか。いや、そんな気分じゃない。雪をみてうんざりしている時点で、今日はいいものができそうにない。ならば、軍馬を走らせて・・・だめだ。外は雪だ。しかも、春先の外は地面がぬかるんで馬が足をとられやすいし、見た目は凍っていないように見えて凍結したいたりもするものだから、危険だ。
では、なにかほかのこと。
あれやこれや考えて全部、やる気にならないと気付いた時、政宗はバタリ。と、寝ころんだ。

こういうときは、寝る。


そうは、思うのだが。
今度は、寒い。

春先とはいえ、雨ではなく雪が降るような気温である。
室内に入り込む空気の冷たさといったら、なまなかではない。床から這い上がってくる寒気に身震いをしてすぐに身を起こした。
(暖まりてぇ)
暖かいなにか。


火鉢ではなく、もっと・・・。


暖を求める政宗の耳に廊下を元気よく歩く音と、聞きなれた声が聞こえ、政宗の意識が部屋の外へと向かう。
その口元が、薄らと笑みの形をとったことは本人も気づいていない。
「政宗様」
小十郎の声に、政宗は応じると小十郎が来客を告げた。すぐここに通すように告げると、ほどなく先ほどの声の主が入ってきた。

「政宗殿、冷えるでござるな」
「そういいつつも、アンタは全くもって寒くなさそうだな」
政宗の前に通された真田幸村は、寒さで赤くなった顔ではあるが元気いぱいである。いつもの腹の出ている衣装の上に薄い上着を羽織っているだけである。
見ているだけで、寒そうだ。
「気合いでござるよ!」

いつも燃えていれば寒くない。だ、そうだ。
政宗は苦笑いを浮かべつつ、武田はそれを全員で信じてそうだと思った。
「成程な」
なにが、なるほどなのかは政宗にもよくわからなかった。だが、その頭に先ほどまで求めたものがずっと居座っていることだけはよくわかる。
「政宗殿も気合いで乗り切るでござるよ!」
「そいつは、無理だ」
俺は、COOLに生きる男だとわけのわからない返事をしつつ、ぼんやりとこの男はどんな用事でここにきたのだろうか。まぁいい。政宗にとっていま大事なのは。
幸村が。


熱い男=暖かい


という一点のみである。
きっと暖かい、そうに違いない。
幸村の技は炎である。暖かいを通り過ぎてそれは炎上であるとは気付かぬまま、政宗はふらりとたちあがり、何事かと政宗の動きを見守っている幸村の腕を強く引っ張った。


「わっ」


ぐい。と、引き寄せられた幸村は政宗の腕の中に転がり込むように倒れこんだ。
(ああ、暖かい)
思った通り幸村は暖かい。政宗の拘束から逃れようともがく幸村の顔はかわいそうなほど真っ赤である。いつもの彼ならば、政宗を突き飛ばすことも可能であろうに、動揺のあまり体に力が入らないようである。
それをいいことに政宗は暖かい幸村の体を堪能する。
幸村を引き寄せ、肩に顔をうずめる。彼の体温にうっとりする。そのままスリスリとしながら、腰のあたりをなでる。
幸村が、実に悲痛な悲鳴をあげた。
政宗殿、某まだ心の準備が。などと叫んでいるが政宗の耳には届かない。
政宗は幸せな気分のまま、幸村ごと床に寝ころんだ。


やはり床は冷たかった。
だが・・・今はそれもつらくない。暖かさを求めて政宗は幸村を強く抱きしめた。


「政宗殿! そそそそそそそそそそ某。しょ、初夜は布団がよいでござります!!」


幸村の心配する場所がずれている抗議はやはり政宗の耳には届かなかった。
なんといっても暖かい。
しかも、暇で暇でしょうがないから寝ようと決めていたのである。
当然の成り行きとして、彼の瞼はゆっくりと閉じてゆき、寝息をたてるまでそう時間はかからなかった。



普段刀を自由自在に操る政宗の腕力はすさまじく、幸村が小十郎に発見され助け出されるまで幸村のややずれた叫びは続いた。








あとがき
オチがうまくいかなかった。
突発SSです。なかなか春にならなくてうんざりしているのは、私ですよ。


ブログ掲載 2010.3.22.
サイト再掲載 2010.8.23.