いつでもいっしょ
 *ダテサナ前提。お子様話。


「討ち取ったりー!」
「うちとったりぃ!」

幼い声が二つ、快晴の空に響き渡る。小十郎は、畑仕事の手を休めて体を起こした。
ぐるり。と、辺りを見回すと背の高い農作物の向こう側にかわいらしい子どもが二人、きゃ。きゃ。と、楽しそうに騒いでいるのが見えた。
(ずいぶんと、賑やかだな)
一時期はどうなることやらと思っていた梵天丸の内向的な性格は…矯正されてはいないだろうが…、今はすっかりと隠れて元気いっぱいの…元気いっぱいすぎる子どもに育っていた。
これも、隣にいる弁丸のおかげだろう。天真爛漫という感じの、梵天丸よりも少しだけ年下の男の子は、片目を失くした子どもを忌避することなく、梵天丸のあとをくっついて歩く。始めは邪魔そうにしていた梵天丸だったが、今ではすっかり仲良しで将来結婚するとまで言っている。どうやら、梵天丸の初恋と弁丸の初恋は両想いらしい。困ったことである。

いつ、男の子同士はできないのだと説明すればいいのか、難しいところであった。



まだ言葉をはっきりと言えないのか、梵天丸が『ぼんちぇんまる』と聴こえるのがまたかわいい。
「弁丸、そっちを持て」
「うん!」
小さな体が同時に屈んで、何やら重たいものを持ち上げようとしていることに、小十郎は気付いた。
一体、何を捕まえたのだろか。
やはりここは、感心してやるべきだろうと小十郎は畑から出て、二人に近づいた。そこで絶句するとは、思わずに。




「何をやっているのですか!」



褒めるどころか、怒鳴ることとなってしまった。
















「いやー・・・面目ない。俺様としたことが、うっかりおチビさん二人の巧妙な罠にはまってしまってね? だってさ、あのかわいらしいおチビさん二人に『佐助、お願いがあるの』なんて、キラキラした目で言われてごらんなさいよ」
「……」
頭が、痛い。小十郎が見たのは、落とし穴にハマった忍の図。腰から下が見事に穴に落ちてしまった佐助を引っ張り上げようとしている子ども…という何ともアレな光景だった。
きれいに佐助の腰の幅ぴったりに作られた穴は、疑う余地なく彼らの仕業である。
元気なことはいいことだが、いたずらばかりでは困りものである。
小十郎の渋い顔に何を考えているのか、すぐにわかった佐助が苦笑いを浮かべた。
「まぁ、子どものすることだし大目にみてあげてよ」
と、言う佐助の顔には、スケベ・オカンと書かれている。彼の心は小十郎には想像できぬほどに寛大らしい。どこからみても、子どもにしてはやけに達筆なその文字は、小十郎自慢の梵天丸作に間違いないというのに。
小十郎がどうしたものかと、佐助の顔の文字を眺めながら考えていると、軽やかな足音が二つ聴こえてきて、渋面のまま彼は振り返った。




「ごめんなさいー」
「ごめんなさい」



障子で体を隠して、そっと顔を出して謝るちびっこ二人に思わず苦笑いを浮かべてしまう。説教しなくてはと思っていたのだが、弁丸の目はうるうるしているし、政宗にいたっては泣きだしそうなのを我慢している子どものそれである。口のがへの字になっていた。
小十郎に怒られ、佐助に嫌われるのが怖いのだろう。



まったく



小十郎は小さくため息をついてから、怒ってないというように笑ってやると、なぜか弁丸が近寄って来て小十郎の脚にしがみついた。
「怒らない?」
「ああ、怒ってない」
「!」
弁丸は、ニコー。と、した。手を伸ばし、ワシャワシャと頭を撫でてやれば、きゃ。きゃ。と、弁丸は笑う。すると梵天丸も近づいてきて、ぎゅうう。と、小十郎に抱きついた。
(かわいい)
強面ながら子どもに好かれる男は、やはりうちの子たちはイイコばかりだ!と、思う。





「あのー…俺様のところには来ないわけ?」



「「………」」


背後からかかった声にちびっこ二人は、振りむいて同時に。


「や!」
「嫌だ」



佐助が笑顔のまま凍りついた。このとき、小十郎はなんと佐助に声をかけたらよいかわからなかった。
大人の間に微妙な空気が流れる中、そんなことに気付きもしない無邪気な子供たちは小十郎にくっついているのに満足すると、また外へと駆けだした。
その声が遠くなった頃、ようやく我に返った佐助が叫んだ。


「反抗期なの?! 俺様泣いちゃう!!」


顔に落書きされたまま嘆き悲しむ声がしばらく続いた。




「弁丸、これからてきじんにつっこむぞ!」
「おう!」



今日もちびっこたちはとても元気だ。
数年後、二人が本当に恋人同士となり、かなり奇抜な育ち方をするだなんてこの時は思いもよらない小十郎は、ああ今日も平和だなと思いながら空を見上げた。
夏の日。
青い空はどこまでも澄み切っていて、二人のかわいらしい声が響き渡っていた。








原稿につかれて何かかわいらしいものが書きたかった。
年齢差とかこの際無視です。
佐助さんがかわいそうですが、彼らは「すけべ」「オカン」の文字を顔につけたままの佐助が嫌だっただけです。
自分たちで書いたくせに(笑)


2010.07.21.掲載