お団子妖精YUKIMURA
*このお話は、ギャグです。筆頭と小十郎が壊れています。相当カッコ悪いです。
大丈夫な方のみご覧ください。

*6/20発行予定の『お料理妖精MASAMUNE』の反対バージョンです。






ある晴れた日のこと。畑仕事に汗を流す片倉小十郎の元に一人の独眼竜…複数いたら困るのだが…要は小十郎の主である政宗が駆けこんできた。
近頃はすっかり大人になって、小十郎の元へと駆けてくるなんてことはなくなって久しいものだから、思わず柔らかな笑みを小十郎は浮かべた。



「小十郎、きいてくれ。幸村が…幸村が…妖精になった!!」





「……は?」




この言葉以外なにが言えただろうか。いや、言えまい。まずどこからツッコミを入れればよいのか、主に忠実な従者は悩んだ。
妖精という聞き慣れない言葉からだろうか。それとも、幸村が妖精になったという意味不明のくだりだろうか。それよりももっと根本的なこと、何か悪い物でも口にしなかったか問いただす方が先か。南蛮渡来の秘薬とかを小十郎に内緒で取り寄せて飲んだとかいうことはないか。それとも、幸村恋しが行き過ぎてとうとう幻覚が見えだしたのか。どちらにしろ、いい傾向ではない。政宗を立派な当主に育てると誓った小十郎にとっては由々しき事態が起きていることは確か。だが、どう尋ねたものか。直球はまずいだろう。いくらなんでも、それは駄目だ。
小十郎の困惑に気付いていないのか、政宗は喜色満面の笑みで、小十郎に向かって手を付きだした。
その手の上にあるものに、小十郎の頭は完全に停止した。



「……!!……!!」
「おお、これは片倉殿。久し振りでござるな」



ちょこんと政宗の手の上で正座をし、馬鹿丁寧な礼をする男を小十郎は知っていた。
しかも、その両手に持っている団子がことのほか好物である人物。
正確に言うと、もう少し…いやもっと大きい人間の大きさの存在に知り合いがいる。
明るめの茶の髪。尻尾のようにひとまとめにされた髪の毛を持つ、ちょっと落ち着きが足りず、犬をつい思い浮かべてしまう小十郎の主人が現在夢中の他国の武将。虎和子と言われる甲斐の若き将である真田幸村。赤い戦装束もそのままだ。
だが、決定的な違いがある。幸村は、政宗とそう変わらぬ身長の若者であって、間違っても背丈一寸の不思議生物などではない。
さらに、かわいらしいと形容できるような若者であっても、決してこのような二等身でみるからにぽよぽよプニプニしてはいない。
丸い顔はまことに愛らしく、大きなつぶらな瞳がじぃ。と、小十郎を見上げていた。
思わず、腰が引ける。
かわいいのだが、どうにもなにかがいけなかった。
まず、それを抱えた政宗の笑顔がいけない。デレデレまでいかぬが、明らかに溺愛。と、いう風なのが小十郎の中で警笛が鳴り響いた。
しかも、だ。
幸村の手には小さな団子が握られている。どっからみても、それは明らかな手作りで誰が作ったなどと…きいてはいけないような気がする。
いや、待て。


一寸の不思議生物が真田幸村なわけないではないか。


小十郎は、落ち着けと息を大きく吸って吐いた。
目を閉じて開く。
落ち着いてみても、一寸の真田幸村のような不思議生物はそこにいる。困って政宗を見れば、なぜか非常に自慢気な顔して立っている。
嫌な予感がした。
「こいつは、お団子妖精っていうらしいぜ。真田幸村の心が俺の手製の団子を喰いたいとはるばる甲斐からやってきたんだ」
政宗は笑顔で、幸村のぷくぷくの頬をつつく。
小さな幸村は、プニプニされながら嬉しそうにキャキャ笑っていた。
それを見つめる政宗の目は優しい。
幸村が二コリ。と、笑った。すると、政宗の顔が蕩けた。
「My Honey!!」
ヒシッ。と、抱きしめ頬擦りしている主の姿に小十郎の魂は抜けてゆきそうだ。大きさが問題だったなどと思うのは、これが初めてだった。
なにがマイハニーだ。もう、どこから説教していいか小十郎はわからなくなっていた。



なんだ、この不思議空間は!!




呆れて物も言えない小十郎の目の前で、不思議な交流は続いている。政宗が大事そうに幸村(小人)を頭に乗せて、お団子の聖地とやらを話している。
聖地とは明らかに政宗の自室であって、この主はこともあろうにこの小人を自室に連れ込む気満々のようである。
「政宗様……お戯れが過ぎますぞ」
「何を言う。真田幸村をもてなしてなにが悪い。よくみろ、この妖精は幸村そのものじゃねぇか。きっとそのうち大きく育つ」
「育ちません!!」
「わかんねぇぞ。なんせ、妖精だ。お団子たらふく食わせりゃ、なるかもしれねぇじゃねぇか」
「政宗様、そもそも妖精とはなんですか」
「Ah-、異国のあやかしみたいなもんだ。どうだ、かわいいだろう? 幸村の愛らしさが加わって破壊力満点だよな」
早く育てよ。と、政宗はウキウキして幸村をつつく。妖精の幸村は機嫌よく笑っている。
団子、たくさん食べれるのでござるか。などと、きらきらした目で政宗に言うものだから、政宗が壊れる。
「お前、大きくもなれるのか?」
「わからぬでござるよ。お団子の力がたまれば可能かもしれませぬ」
「そうか! たくさん喰えよ。早く大きくなれ。できれば、本体ぐらい大人になってくれ」
「わかったござる!! 早く大きくなって政宗殿に恩返しをするでござるよ」
「妖精最高だ。なぁ、幸村」
「そうでござるな!」






小十郎は遠い目になった。だが、ここであきらめるわけにはゆかない。小十郎は考えた。
幸村が妖精になった。




政宗様は妖精が、お好き。





ならば!!






小十郎は駆けた。急いで、城下に向かい必要なものをかき集める。そうして、小十郎はこれ以上ないという速さで準備を進め、政宗の自室へと走った。
普段の小十郎からは想像もできない遠慮のなさで、スパァァァァァン。と、襖をあけた。
政宗と政宗の前でお団子の山に顔を突っ込んでいた妖精幸村が振り返った。






「政宗様!!! そんなに妖精がお好きならこの小十郎。妖精になってみせます! さぁ、そのお団子妖精を甲斐に返してきてください!!」





政宗が魂が抜けそうな顔をした。
一寸の幸村が団子を喉に詰まらせて危うく窒息しそうになった。



「こ、小十郎。お前…!!」
「お野菜妖精小十郎ですぞ」
「………!!!!!」


頭には、触角に見立てた蝋燭。背中には羽に見立てた笊。そうして、【お野菜ようせい】と書かれた鉢巻き。妖精の字がわからなかったようだ。
もう、どこからツッコんだらいいのかわからないというように、政宗と幸村は凍りついた。
その後、政宗が気を取り直すように咳払いをしてから、顔を思いきりそむけた。
「幸村、アンタ。大きくなれなかったとしても、本体があれば元に戻れるんだな? いつ迎えにくるんだ?」
「そうでござるなぁ。そろそろ佐助が某の中身がカラだと気付いて本体を持ってきてくれると思うのであるが」
「本体が来たら、アンタとはお別れか。少し寂しいな」
「そんなこと言ってくださるとは嬉しいでござるよ。でも、某。本体の大きさで政宗殿と一緒の方がよいことがよくわかった」
「Why?」
「そのほうが…つ、都合のよいこともあるゆえ…」
「…なるほどな」
ニヤリとする政宗と、赤面する一寸幸村。



「あの…政宗様」



小十郎の声は黙殺された。必死に無視しようとしている空気に小十郎は衝撃を受ける。
(こ、こんなに反抗的な政宗様は初めてだ)




「政宗様、この小十郎の何がご不満ですか!!!! 貴方の大好きな妖精になったじゃありませんか!」
「全部だ!!!!!」
「!!!!!!!!!」





妖精。

それは時に幸せを呼び込む素敵生物。




妖精。


それは――



時にまことに危険なものを呼び込む生物であると身をもって知った。と、のちに政宗はしみじみと語ったことを知る者は、少ない。









ものすごいギャグですみません(汗)
このお話は、6/20に出ているはずの新刊『お料理妖精MASAMUNE』の反対バージョンで書いてみました。
もし、一寸サイズの二等身に幸村がなったら…、です。普通に愛らしいので、新刊もギャグなのでこっちもギャグにしてみました。
ギャグにするため、政宗と小十郎には犠牲になってもらいました。ご、ごめん。
うちの政宗は一寸に何かするつもりは毛頭ありません。大きくなるのを熱望しています(笑)
でも、妖精に胸ときめかすんじゃないかな。と、思ってます。でもって、小十郎。
もう、なんかすみません!!(土下座)
お友達が前に、お野菜妖精小十郎とか言い出したのが。


あまりに


あまりに衝撃的すぎて忘れられず、使わせていただきました。



怖いよ(笑)そのときに、ぜひ書いてと言われたので・・・。
小十郎はさ。一生懸命真面目にやると思うんだよね。政宗様のためならなんだってやると思うんだよね。
それが政宗を救うならばあの人、どじょうすくいぐらい平気でやると思うんだよね。


いや、本当にすみません!
でも、楽しかった。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

余談ですが、新刊予定の『お料理妖精MASAMUNE』は、
精神的には政宗はとってもマトモですので!!!(大強調)

ギャグ本ですけど。


2010.06.17. サイトに掲載


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