■母の嘆き 猿飛佐助の場合■
*DS前提ですが、二人ともでてきません。





「ちょっと聞いてるー?」
「聞いてるっての。ったく、なんだって俺が」


片倉小十郎は溜息をついた。小十郎と佐助は、今。
互いの主の密会(そう思ってるのは真田幸村だけだ)のために国境にあるある山荘の縁側に控えている。主たちはこの山荘の奥でたぶん・・・真田幸村的には破廉恥行為の真っ最中であろうと推察された。


政宗に、幸村を前にして我慢などあるわけがない。



小十郎は、城に残してきた書簡の山を思い出して胃の辺りが重くなった。
これをエサに毎月乗り切っていることにいくばくかの情けなさを覚えるが、背に腹は変えられない。
(許せ、真田幸村・・・!)
日々、政宗による幸村をどうかわいがるか話を聞かされ続けている小十郎には、きっと室内で行われているであろう数々の行為がありありと浮かぶ。だが、とめようとは思わない。
(奥州の民のためだ)
小十郎は、ほんの少しの罪悪感を酒と一緒にぐい。と、喉の奥に流し込んだ。


そうして小さく息を吐く。それから、ちらり。と、隣で先ほどからブツブツ言っているもう一人の従者を見やった。佐助の顔は赤い。今日も相当飲んでいる。彼は、ここで会うたび愚痴のレベルがあがってゆくように思う。
やはりあれか。子が政宗に食われている横でじっと控えていなければならない心労ゆえか。

「でね。旦那には。団子は一日6本まで。饅頭は1日2個まで。お茶に砂糖は入れてはいけません。お砂糖は高いの。高級なの。甘味をくれるからといって、誰にもついて行ってはいけません。ついでに、大将と殴り愛は大将のお屋敷で。うちはだめです。って、言ってるんだよ? なのにさぁ。給金丸々、甘味に変えちゃうし、団子をやるとか言われて敵方の忍についていこうとするし、大将とは真田家でおっぱじめるし。俺様そのたびに、後始末だよ? 信じられないよね。給金全部だよ。有り金全部の団子を、あの人一瞬で食べちゃうんだよ。誰が家の修繕費出してると思ってるのさ。俺様だよ?! しかも、夜は夜で。寝相が最悪っていうの。ある意味芸術的で布団なんてあって無きがごとしな訳。一晩中、おなかを冷やさないようにかけてやる俺様の身にもなってくんない? あの通り、いつもお腹でちゃってるけどやっぱり寝冷えはよくないでしょう?俺様、仕方が無いからハラマキを作ってあげたの。そしたら、旦那ったらどうしたと思う? いきなり頭に被って寝るからね。素晴らしき帽子ってあーた。上下穴あいてるから。帽子じゃないから。俺様・・・忍だよね・・・?決してお・・・げふんげふん・・・自分で言っちゃだめだよ、佐助。俺様は素敵でかっこいいナイスな超天才忍者なんだよ。そうだよねっ!」
「あ・・・・ああ」
息継ぎナシに言われた内容に、小十郎は頭が痛かった。
知ってはいたが、どう教育したらそう育つのか。そのほうが不思議でならない。それにしても。小十郎は、忍の癖に酒の匂いをプンプンさせて手酌でグイグイ飲んでいる佐助にそっと溜息をついた。
(そこまで世話してねぇと気がすまねぇのが母親気質なのではないのか?)
幼少時から政宗の世話を任されてきた小十郎だから、佐助の幸村を心配する心はよくわかる。
だが、佐助は。


どこから見ても、母だった。


いっそ。尊敬に値するほど、母だった。


ハラマキが手作りな時点で母だ。
寝冷えを心配する時点で、母だ。

さすが、武田のオカン。


それを口にしたら、バサラ技をかけられそうなので未だに言ったことはなかったが。



「たまに、突き放してみるのもいいのではないか?」
そう言ってやると、佐助はそうなんだけどさぁ。と、あまり乗り気ではない様子で返事をする。
「旦那に必要とされないのも・・・」
「寂しいか?」
「まぁ、ね」
それは、小十郎もそうか。政宗が、なんでも一人でできてしまえば小十郎だって寂しい。
「なら、我慢することだな」
「でもさぁ。俺様も休みが欲しいわけ。もう少し大人にならないかな。せめてご飯ボロボロ零さない程度には!」
「・・・・・」
小十郎は、ちらりと部屋の奥のほうに視線を投げた。やっている行為はじゅうぶん大人なのに。まったく。
いつの頃も。子どもというものは、親にとっては子どものままらしい。
「だからといって、このままでは真田にとってもよくねぇだろうよ」
「そうなんだよねぇ。一度・・・寝相に関してはどうにかしないとね」
(その前に常識だろうよ)
小十郎は声に出さずにつっこんだ。



「・・・・・」
「・・・・・」


沈黙が降りた。
「ようやく静かになりやがった」
小十郎は杯を置いた。隣で、自称天才忍者は眠っている。他国の人間の隣で寝る忍も珍しいが、相手が主の恋人あるところの伊達政宗の従者ゆえに警戒する必要を感じないのであろう。
伊達と武田が手を結んでもう6年になる。
小十郎は、佐助を一瞥してから再び酒に手を伸ばした。ぐい。と、酒をあおる。
笛を取り出し、口にあてる。
涼やかな笛の音が月夜に響き渡った。










お、オチがない!!!!(滝汗)
佐助さんの嘆き話。DS前提です。小十郎は、結構話を聞いてくれると思うんだ。
私のなかの幸村がどんどん低年齢化していきます。
(H21.4.8.)