※日記でコツコツやっている小連載です。










伊達政宗は、破廉恥だ。




幸村は、耳元で囁かれた言葉にぼっ。と、顔を赤くする。
すると、政宗は意地悪な笑みを浮かべる。ゆえに、破廉恥であり意地悪である。



が、しかし。!




男子たる者、負けっぱなしでよいはずもない。
毎回、赤くなって絶叫して固まってからかわれたと気付いて怒って、お館様である信玄にそんな浅はかな自分を叱ってもらう。の、繰り返しではいけない。
ゆえに、考えた。


(お館様に教えを乞うのだ!)

素晴らしい考え。思慮深いお館様ならば、幸村が考えも付かないことをたくさん知っているに違いない。
早速幸村は、障子が壊れんばかりにスパァァン!と、開くとそのまま駆け出した。
「お館さまぁぁぁぁぁっっ!ご教授願いまするぅぅぅぅ!」









++++負けない+++++










時はきた。
幸村は今日やってくるはずの政宗を待っていた。
(今日こそは、勝つ)
心に秘めた決意に幸村の顔は自然と引き締まった。隣で、佐助が呆れを通り越して、がっくりと肩を落としたまま“俺様、泣きそう。”と、ブツブツ言っているのも聞こえていない。今、心を占めているのは。



破廉恥に対抗し、負け続けの弱き己の心に勝つことのみ。



(たとえ、政宗殿がそ、そそそ某の肌をぎゃぁぁ破廉恥っ!…い、いや。負けてはならぬ。そ、そのようなことを言われてもお館様の言う通りその言葉の裏を読むのだ、幸村。いくら政宗殿の声が掠れていようとも、硬い政宗殿の指が某の腹を撫でても、政宗殿があの異国語を操る唇をそそそ某のくくくく唇に寄せてき)
幸村はそこまで考えてピタリと固まる。
横で佐助が“旦那?息してないよ?”と、幸村の顔の前で手をひらひらさせるが見えてはいなかった。
「…」
カァァァァ。と、顔どころか耳まで赤くなる。




「はれんちでござぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁるぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」





幸村が。恥ずかしさのあまり、あまりの騒音に耳をふさいでいた佐助を吹っ飛ばしたことも気付かず、幸村は己がたるんどる!と壁に頭を打ち付けた。
「なんたることだ!叱ってくだされお館さまぁぁぁぁぁっっ!」
「ギャァァァァァッッ!旦那、落ち着いてっ。家が壊れるからっ。マジで頼むって。俺様大工じゃないの。直せないからっ」
しかし、幸村はやめない。
やめさせようと幸村を引っ張る佐助。壁に頭を打ち付ける幸村。もう当初の決意はどこかに消えていた。







「アンタら、いつ来てもこうなのか…?」
ぎゃぁぎゃあと、騒いでいたところに呆れた声が投げ掛けられた。
政宗、であった。











「ままままままま政宗殿!」
「いだっ!旦那、ひどいっ」

突然の政宗の来訪(本当のところは突然ではないが)に驚いた幸村は、家を破壊する勢いで頭を打ち付ける幸村を止めようとしがみついていた佐助を吹っ飛ばした。佐助は忍とは思えぬ情けない格好のまま、襖に直撃して政宗の隣辺りに落下した。
それを政宗はやや呆れた目で追いかけてからため息をつく。
「猿、生きてるか? まぁ、別に死んでてもいいがな」
「後半は余計じゃない?」
「…。で、アイツは何をしてやがる?」
くい。っと、顎で示すのは幸村だ。幸村は政宗に会う心の準備がまだできていないなかでの政宗の登場に、動揺のあまりぱたぱたと手を動かしている。
すーはー。と、息を吸って吐いて。ひたすら落ち着こうとしている幸村を他二人がじっと見ているのにも気付いていない。
少し落ち着いたのか、ようやく我に反って顔をあげた。
「よくぞ参られた、政宗殿」
気を取り直し、政宗と向き合う。今日も政宗は青色の着物を格好よく着こなしていた。どこがどう。とは、戦とお館様命以外に興味を持ったことがない幸村がわかるはずもないが、いつも通り政宗は洒落ていた。
それに対してどうだ。服装は張り合うだけ無駄ということは分かってはいるが、さきほどの騒ぎでやや服装が乱れ、髪もぐちゃぐちゃだ。人を迎えるには礼を欠いた姿であることは間違いない。幸村は、それを恥じた。政宗はこんな幸村を見てどう思ったのか。礼儀知らずだと呆れただろうか。
(情けないでござるよ)
しょぼん。としていると、頭にぽん。と軽く手がのせられた。
「政宗殿…」
なんてお優しい。礼を欠いた幸村に気にするなといいたいのだろう。
さすが一国を預かるものは度量が違う。幸村はやや感激しながら顔をあげた。
だが、政宗はなにか声をかける様子も無く、じぃ。と、幸村をみつめている。
「?」
「…いい具合に、はだけてやがる。なぁ、真田幸村?」
「ひぃぃぃっっ!」


ニヤリ。と、笑って先ほどまで優しく幸村の頭を撫でていた手がするりと幸村の頬を滑り、さきほどの騒ぎで緩んだ着物の合わせのなかにするり、と入り込んできた。
(なななな何事でござるかっ!)
完全に彫像のようにカチコチに固まった幸村にニヤニヤしながら政宗は幸村の顔に己の顔を寄せてくる。
いつのまにか腰に手を回されて体も引き寄せられた。





「政宗殿!」
「Ahー?どうした、真田幸村。男同士なんだから気にする必要もねぇだろうに、顔が赤ぇぞ?」
ニヤニヤしながら、ん?などと、さらに幸村に顔を近づけてくるものだから大変だ。政宗の長めの前髪が幸村の顔に触れて幸村は思わずビクリとする。
(ながい睫毛…)
ぼんやりと見つめていると、ぷに。と、唇になにかが、触れた。


触れ?



「※☆×!?△…!!?」
ズサササッッ。と、飛び退いて壁に張り付く。
(ままままま政宗殿の唇と某の唇が…こ、これは。もしや)



接吻では?!


行き着いた解答に幸村の思考は停止した。
「は、はれっれっんうがぁぁぁぁっっ!」
「…。なんつーか恥じらってくれんのはありがたいが…。あんなのkissにも入らねぇよ」
「んうっ…んんぅっ?!」
再び合わされた唇にに驚き、抗議の声をあげようとして少し開いたた幸村の唇の間ににゅ。と政宗の舌が侵入してきた。
「ふっ…ん…んっ」
政宗の舌がザラリと幸村の口の中を撫でてゆく。上顎をくすぐられて体が甘く痺れた。
(だ、だめでござる…。こんな風にいつも…)
流されてばかりでは。でも、気持ちいい。
政宗が口づけはどこまでも甘い。口の中をいいように犯されて幸村の体がほてり出す。じわりじわりと熱が体を蕩けさせてゆく。
「んっ…はっ…、ぁん…ぅっ」
いつの間にか口付けに夢中になり、幸村は政宗に体を預けるような格好になってしまっている。


「もっと…イイことしようぜ?」

政宗が唇を合わせたまま甘い声で誘う。
(イイこと?)
ぼんやりとした頭で政宗の台詞を反芻しながら、幸村はうっすらと目を開けた。
至近距離に政宗の、瞳。合わされた瞳が甘く蕩けた。
(うわ…そ、某…)
ドキドキする。ついでにふわふわして、体が熱い。
無意識に甘えるように身を寄せれば、政宗の右手がさわっ。と、幸村の腰をなで上げた。
「っ」


つづく



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