忍の星 ※英雄外伝ネタバレにつき注意
遥か彼方に飛ばされた幸村を佐助は、甲斐と奥州の国境で発見した。
どれだけ吹っ飛ばされたのかなんて、この際気にしてはいけない。
むしろ、よく命があったものだと佐助は感心する。
カサリ、カサリ。と、枯葉を踏みしめて地面に突き刺さっている主のそばにしゃがみこんだ。
「…旦那? 生きてる?」
「ぐっ、佐助。そ、某もまだまだ。さすがはお館さま。某はまだまだお館さまには敵わぬ」
そういいながら、ずぼ。と、いう音をたてて幸村は顔を地面から引き抜いた。
何度も言うが、人間が地面にめり込んでよく命が。
まぁ、相手は武田主従。あまり気にしてはならないと佐助は、無理矢理納得させる。
気を取り直して、佐助は幸村を助けお越し、つれて帰るべく幸村の様子を窺った。
(土で汚れてるけど、傷もないみたいだね)
ほっとして佐助は空を見上げた。
すでに陽は落ちて、空は満天の星空だ。木々の隙間から見える空はとても綺麗であった。
空を見上げた佐助の横に幸村も並ぶと、同じように空を見上げる。
「綺麗な空であるな、佐助」
「ほ〜んと、明日も晴れだろうね」
こんな晴れた日は、忍の仕事にはあまりむかない。まぁ、幸村回収が今の佐助の任務だったから、あまり関係はないが。
「旦那、帰ろっか」
「うむ」
数日後。
佐助はいつものように、茶と団子を盆にのせて、真田家の主の下へ向かう。茶に砂糖を入れぬよう見張り、隠し持った甘味を口にすることを監視することが今の佐助の任務である。
「旦那、団子の時間だよっと」
足で行儀悪く、襖をあけると、そこにはぼんやりと空を眺める幸村がいる。
「佐助か」
「そうですよー。誰だとおもったんです?」
団子をおくと、素早くそれに手を伸ばし、もぐもぐとほおばりながら、幸村はぼぉっと空を見上げた。
「佐助よ、某は佐助の友に出会ったのだ。そなたは、再会を果たしたのか?」
「は?」
友って誰だ。佐助はざっと己の交友関係を洗った。この主と接触し、なおかつ記憶に残るような友はいないというか、忍にそんな濃い関係の友などいない。
「会っておらぬのか。この真田幸村なんたる不覚。佐助の友だと知っておきながら、天狐仮面殿と佐助を引き合わせることを失念するとは!」
「ぶっ!」
それは、佐助がお面をかぶっただけのものである。佐助は、ありえないでしょうよ。と、ばかりに主をみた。
(大将にも気づいてなかったっぽいし・・・まさか、ねぇ?)
淡い期待を胸に佐助は幸村を見た。
そして、がっくりする。幸村は、真顔だ。
(本気だよ、この人! え?ちょっとまってよ。俺様、お面かぶっただけで服装も声もなにもかもそのまんまだったんだよ? なんで気づかないわけ?)
いくらなんでも鈍すぎる。と、佐助があきれ返っていることにも気づかず、幸村はそっと茶に砂糖を入れようとして、素早くその手をぴしゃりと叩かれて、ヒリヒリするのをさする。
「あ。あー・・・、天狐ね。会いましたよ」
「誠か。佐助のことをずいぶんとかっているようであったな、あの御仁は。それに、佐助のような動きをするなかなかの忍であった。アレ以来、見かけぬが。息災か」
「えっ? あ、あぁ、うん。息災も息災。殺しても死なないってね」
アナタの目の前にいます。なんてもちろんいえない。
ここはバラすべきか隠すべきか。佐助はそっと主をうかがった。
主は、苦いままのお茶をすすって、渋面を作っている。きっと、苦いといいたいのだと思う。
茶が、甘くないのは世の中の常識である。
「天狐殿はいずこへいかれたのだ?」
今度また手合わせを願いたい。そう続けた幸村の目は輝いている。
しまった、下手に本気で戦ってしまったことが裏目にでた。
佐助は焦った。二度とあんな面倒なことはしたくない。
「えっとね・・・。旦那。天狐はここにはいないんだなぁ。あははあっははっ」
「む。何処(いずこ)へいかれたのだ?」
「え。そこ!」
佐助が指差したのは、空だ。雲ひとつない晴天の青い空。
幸村は佐助が指差した先になにかあるのだろうと、目をこらしている。
(ご、誤魔化さないと!)
「忍びの星に帰ったんですよ!ははは・・・いやだなぁ。旦那に挨拶していなかったの。そうなんだぁ、ははは」」
どこだ。
と、自分につっこむ。そんな星聞いたこともない。乾いた笑いが佐助の口から漏れる。
(忍がこんなわかりやすい嘘ついちゃだめでしょうよ!)
俺様カッコワルイ。と、自己嫌悪に陥ってると、視界の端に変なものが映った。
いや、真田幸村なのだが。
「すごいでござる! 佐助。忍の星というものがあるのでござるか! うぉぉぉぉぉ、お館さま。世界にはこの真田幸村の知らぬことがたくさんでござる!」
目をキラキラとさせしきりに感心している幸村。
「・・・・あ、れ・・・?しんじ・・ちゃった・・・?」
佐助の呟きは幸村の耳には届いていない。幸村は、空に向かって。
「天狐どの、また会おうぞ!!」
と、叫んでいた。
その様子を伝え聞いた武田信玄が、修行第二弾を計画し始めたことを佐助も幸村も知らない。
完