「いきなりご挨拶だな。」

アスランは苦笑交じりに、わざとらしく肩を落として見せる。

 

そんなアスランにキラはさらに苛立つ。

こちらの方が血縁者としてカガリに近い存在のはずなのに、別れるよう宣言を出しても随分と余裕のある態度に、思わず声を荒げた。

「当たり前でしょ!以前にも言ったよね、「カガリに何かしたら承知しない」って。「その時はカガリを返してもらう」ってこともちゃんと警告してあげたはずなのに、君はあんなことをして…」

「『あんなこと』?」

「何しらばっくれてるのさ。僕が何も知らないと思っているの?」

そう言ってキラが苦々しい顔で、紙きれを一つアスランの足元に放り投げた。

あの週刊誌の切り抜きだった。「ミーアとの熱愛報道」。

ナタルが散々見せつけてくれた、数々の週刊誌の中の一冊にあったのと同じだ。

しかも記事には「二人の熱愛に、「I.F.」ボーカルのカガリは消沈し、現在体調不良と称して姿を見せられず。」と、まるで本人が言ったかのように実しやかに書かれていたアレだ。

確かに、この記事だけ読んだら、ウズミどころかキラも、愛するカガリが傷ついていると思い、はらわたが煮えくり返す思いだろう。

だが、それはこちらも同じだ。

「いい加減にしてくれ。その子と俺はその記事の内容のような関係じゃない。たまたまその子が俺たちのファンで、親しみを込めた態度が、些かはしゃぎすぎてしまっただけだ。」

「当事者の言い訳? そんなこと、僕が信じると思うの?」

「……」

そういうが、何を言っても多分キラは聞く耳を持たないだろう。こっちは正直キラにかまっている暇はないというのに。

だが、黙っていた分、キラはかえってそれを肯定の意味に取ったらしい。

「ふ〜ん、やっぱり弁解しないところを見ると、記事の方が正解みたいだね。やっぱりカガリはここには居させられない。僕と一緒にいるほうが、はるかに安全だし、絶対傷つけない!僕がカガリを守るよ。」

「何だと…?」

アスランの表情が怒りのそれに代わる。

ようやく本心を現した彼に、キラは食って掛かった。

「君にカガリの騎士はできない。こんな写真まで撮られるくらい、この女の子にのぼせ上がってカガリの食事も用意してあげられないなんて、カガリが可哀想だよ!」

(どう?自信満々に「カガリには自分が必要」と言い張っていたくせに!情けない自分の姿を晒され、無力さに打ちのめされればいいよ!)

キラは心の中でほくそ笑む。

いつもすました様な表情で感情を見せない彼が、今こそ己の非力さに膝を折って苦悶するはずだ!これでようやく彼に勝てる!

だが、相手はキラが期待するような反応がない。むしろ、

「「可哀想」か…。それはカガリがそう思っているのか?」

「え…?」

相手の急所を突けたと思ったのに、アスランは妙に落ち着いた口調だった。キラは畳みかける。

「カガリじゃなくても僕がそう思っているもの。このままここに居たってカガリは君が人間の女の子を好きになるのを黙って見守らせるだけじゃない!このまま弱っていくカガリを見殺しにするなんて!」

「君はカガリが本当にそんな「ただ流されるだけの可哀想な女の子」だと思うのか?」

「だからそうだって言ってるじゃない!」

「…君はやっぱり何も知らないな。「カガリ」のことを。」

「え?」

彼はまるで諭すようにキラに語り掛けた。

「カガリは自分を憐れんでほしいと思うような女性じゃない。むしろ目の前に壁があっても振りかえるどころか、それを俺すら考えつかない方法で乗り越えて行ける女性だ。そして、疑うより真実に目を向けられる勇気ある女性だ。彼女が欲しいのは哀れみじゃない。きっと共に並んで歩ける方法を考えることだ。」

「……」

真っすぐな翡翠の光に射抜かれる。

今度はこっちの言葉が出てこない。

キラがその視線に耐えられずに俯き、こぶしを握る。

「何を…わかったように…」

キッと顔を上げて、キラが必死にまくし立てた。

「でも結局一緒じゃない!君はその子が好きなんでしょ?カガリどころか僕への当てつけみたいに、そんな子と一緒にいるなんて!」

「君への…当てつけ?」

「そうだよっ!その子と一緒にいたって、君が僕に勝てると思っているの?」

「……あ……」

しばし黙って、アスランは気づいた。

そうか…つまりこういうことだ。

カガリのことはもちろんだが、キラが苛立っているもう一つの理由は、「ミーアがラクスにそっくりだ」ということだ。

キラはラクスをこよなく愛している。

姿も声も彼女そっくりのミーアが、誰であろう妹のカガリの恋人であるはずのアスランの傍にくっついているのは、居たたまれないのだ。

まるでラクスがアスランに恋しているように…いや、むしろアスランがカガリ以上にラクスに惚れこみ、ラクスの身代わりに瓜二つのミーアを傍に置いているのではないか、と。

そう思えば、キラの愛する二人を手に入れているように見えることで、単に敗北感だけでなく、こんな男から、二人を引き離したくなるのは当然と言えば当然か。

発想の単純さに呆れもするが、むしろ純粋に二人を心配するキラが、なんだか余程人間らしく感じる。

「…なに余裕ぶって笑ってるのさ。」

キラが酷い視線でアスランを睨んでいる。

アスランは首を横に振った。

「何度も言うが、俺の愛する女性はカガリ一人だ。そして、いくらそっくりでもラクス嬢には友情は覚えるが、女性に対してのそれはない。君の思い違いだ。」

「なっ!?///ち、違うっ!////// 別にラクスとそっくりだから、この子がダメって言ってるんじゃなくって―――」

「図星だな。」

「図星じゃないっ!///

今度は完全にキラの分が悪くなった。耳まで真っ赤にして言葉に窮している。

やっぱりカガリと双子だ。反応がそっくりだ。

アスランは苦笑交じりに言った。

「俺だって今までもそれなりに女性が周りにいたが、話の一つすらまともにできなかった。カガリ以外は。君だって知っているだろ?俺がそんな女性に器用な性格に見えるか?」

「あ、それはないね。」

「あっさり認めるんだな。」

キョトンとした顔を見合わせ、互いに苦笑する。ようやくキラも少し聞く耳を持った様子だ。

アスランは足元の週刊誌の切り抜きを摘まみ、細かく破ってゴミ箱に捨てた。

「それにしても、よくこんなものを手に入れたな。」

「バカにしているの?別に僕らは異次元とかおとぎの世界に生きているわけじゃないんだけど。情報くらいいつでも手に入るんだから。」

不満げなキラに、アスランは首を横に振った。

「確かに昔の俺だったら、君の存在を信じるどころか、吸血鬼なんて伝承の世界の者だと思っていただろうな。」

 

だが―――「カガリ」に出会ってしまった。

眠りの森の奥の城に住んでいた、吸血鬼の姫君。

幼かったとはいえ、それでも大人の考え方を持っていたアスランでさえ、すんなりと彼女の存在を受け入れられたからには、おとぎ話でもなく、大人の常識をはるかに超えた世界が存在することを知っている。

だからこそ、自分の世界は広がった。

こんな時でも思う。

 

―――「君に会えて、よかった」―――

 

アスランの表情は涼し気で…いや、まるで全てを悟っているようだ。この表情の前には、どんな言葉すら叶わないことをキラも本能的に感じ取ってしまった。

言葉に形容しがたい気持ちをアスランは知っている。

たった一人、その名を語ったときに、彼が纏い包み込むような柔らかな優しい空気

カガリへの「愛」だということを。

 

(君は…本当にカガリのことが好きなんだね…)

 

「はぁー…」

キラは小さくため息をついた。そして緊張が解けて脱力したように、ソファーに座り込んだ。

「君の言い分は…まぁ言っていないけど分かった。でもカガリはやっぱり返してもらう。君の傍にいたら危険だもの。」

「そうか、今カガリは君たちのところにいるのか。」

「っ!…何でそれを…」

目を丸くして驚くキラに、アスランは軽く笑った。

「いや、ここに怒鳴り込んでくるなら、まず最初に君が言うセリフは「カガリはどこにいるの?」だろ? だけど全くその言葉が出てこないところを見ると、君は少なくともカガリがどこにいるかを知っている。そして、俺かアスハ家以外の場所にカガリが居たなら、警戒心の強い君のことだ、真っ先に自分の傍に連れて帰るだろ。」

「…うん…まぁ…」

言いよどむキラ。

嘘を付けないあたりが、やっぱりカガリと双子なことがよくわかる。

キラが朴訥と話した。

「さっきの君の週刊誌の報道を見て、凄く心配になって僕はカガリの様子を見に来たんだ。でも、ここを訪ねた時、カガリはもう居なかった。そうなるともう僕には当てはない。アスハ家は結界がかかっているから、僕が入れる隙は無い。アスハ家にいればいいけれど、でもやっぱり不安で、暫く当てもなくこの街で探していたんだ。そうしたら―――」

 

(―――<キラ、カガリ様が!>)

(―――「ラクス!?」)

 

「激しい雨が降っていた夜、僕たちが仮住まいしている場所の近くで、買い物をしていたラクスから、僕の携帯に連絡が来て…」

 

(―――「ラクス、今どこにいるの!?」)

(―――<ご説明します。とにかく、カガリ様の様子がおかしいのです。直ぐに来ていただけませんか?>)

 

「僕が駆け付けた時、カガリはびしょ濡れで人気のない公園を歩いていたんだ。でも僕とラクスには直ぐに分かった。カガリから…人の血の匂いがしていることを。」

「……」

それが誰の血だったか、アスランは知っている。

ミーアを襲った直後だったのだろう。

帰る当てもなく、かといってまだ十分でもない血液の量に、自分でもどうしていいのか分からなくなっていたことが容易に想像できる。

キラは話を続けた。

「とにかく、血の匂いをさせていることは危険だったからね。クルーゼみたいな吸血鬼や、他の怪物たちから狙われる可能性もあったし。でも一番怖いのは人間だけどね。」

アスランの身体がピクンと反応する。

「特に警察は直ぐに犯罪と関係させて、調査に乗り出すから。そんなことされたら、カガリが人間じゃないってすぐにばれて、とんでもない騒ぎになっちゃうからね。僕だったら力づくで逃げるだろうけど、カガリは人間界で育ったせいか、人に優しすぎるんだ。自分が傷ついても、絶対に他人を傷つけようとしないから。」

 

そう、彼女はそういう人なのだ。

だから衝動的とはいえ、ミーアを襲ってしまったショックは計り知れない。

 

アスランはキュッと拳を握る。

一番怖いのは、「人間」。

その通りだ。

 

「キラ、暫くカガリを預かっていてくれないか?そのほうが今はカガリにとって安全だ。」

「預かる? 安全? それどういう意味?むしろ僕がカガリをこのまま君の知らない世界に連れて帰るってことは考えないの?」

だがアスランは首を振った。

「もしそうなったら、どこまででも俺は追いかける。一生かけてカガリを探し出すさ。」

「…難しいよ。」

「そうだとしても、きっとカガリと俺は繋がっている。何度遠く離れようと、また巡り合える。そう感じるんだ。」

そう言って穏やかに微笑んで胸をそっと抑えるアスラン。

キラは唖然とアスランを見つめた。

理論派で現実派だと思っていた彼が、まさかこんな非科学的な感覚を信じるなんて…

(…恋一つが、彼をこんなに変えるんだ。)

目を丸くしているキラにアスランは表情を引き締め、今回の事の次第を話した。

 

カガリが吸血に至った事件の事、

そして…「今、最も恐れるべき人間」の事を。

 

「そんな…その「アズラエル」って男に、カガリが狙われているっていうの…?」

アスランは頷く。

キラの表情が硬くなった。

「だったら、僕がそいつを倒してくればいいでしょ!そうすればカガリは安全だし。」

「いや、君が行ったらかえってアイツを喜ばせるだけだ。アイツは「吸血鬼」の何らかの力を欲している。もしクルーゼから情報が伝わっていたなら、間違いなく君の情報も持っているはずだ。今まで君は手の届かないところにいるため、ターゲットをカガリに絞っていたと思う。それに…」

アスランはキラを見据えた。

「君の吸血の副産物能力は『欲望を引き出す』ことだ。あんな強欲にまみれたアズラエルが、君に血を吸われたら…更に何をしでかすか分からない。」

「だったら、アイツの血をすべて吸い取れば―――!」

「ダメだ。君が完全吸血してアズラエルを死に追いやったとしても、事件の根本である製薬会社や第3者―――今のところ政治家と想定しているが、奴らをのさばらせたままになる。そうすると奴らが第2、第3のアズラエルを作り出して、またカガリを狙ってくる。そうなったらカガリ、いや、もしかしたら君も永遠に狙われ続けることになる。そんなことはさせない!カガリも、カガリの唯一の血縁者の君も、俺が守る!」

「あ……」

キラはそれ以上の言葉が出なかった。

「…さっきは「カガリは僕が守る」って言ったのに、逆になっちゃったね。しかも僕まで守る、なんてさ…」

「君にもしものことがあれば、カガリが悲しむ。そんなカガリの悲しい顔は見たくないからな。」

そう言ってお互い顔を見合わせ、軽く笑い合う。

 

ようやく人心地付いて、アスランは紅茶を入れた。

「どうぞ。…ラクス嬢の入れたものに比べたら、天と地ほどの差だろうが。」

「ううん、いただくよ。怒鳴り続けて喉が痛くなっちゃったから、今ならどぶの水だって飲めるよ。」

「それは酷いな。」

「でも…」

紅茶を一口飲んだ後、キラはまた深刻な表情に戻った。

「そのアズラエルっていう男、今どこにいるか分からないんでしょ? それを君だけで探し出して、しかも倒すってどうするつもりなのさ。」

アスランもマグカップを両手で包むようにして考え込む。

「とりあえず法的処置が可能かどうかは、君の嫌う警察に餌をまいてきた。証拠さえ押さえればあとはこちらが手を出さずとも、ここは法治国家である以上抑えることができるだろう。だが、その前に奴らが防衛線を敷いてしまったらそれまでだ。だからできればまだそこまで手が回っていないであろう、今のうちに炙り出したいところだが…」

「そいつが喜ぶ餌は撒けないの?」

「喜ぶ餌、か…今のところ、カガリに対して執着している以外、奴が欲しがっていたのはミーアの声と、俺の曲……ん?」

(―――「ミーア」と「俺」!?)

「?何かあったの?」

急に黙り込んだアスランに、キラが見やる。だが、彼は視線をまっすぐこちらに向けているものの、キラを見ていない。

何か、もっと遠くの―――

 

すると

 

「フ…クスクス…」

カップを持ったまま、急にアスランが俯くと、今度はそこから漏れる忍び笑い。

キラは眉をひそめた。

「…どうしたの? 考えすぎて、可笑しくなった?」

だがアスランは首を振る。

そして顔を上げると、彼は言った。

「キラ、頼みがある。」

「何?」

「カガリを預かってもらうこと以外に、あと2つほどあるんだが―――」

 

 

***

 

 

明け方近く帰ってきたキラをラクスが出迎えた。

「遅かったのですね。」

「ごめんね。ちょっと話が立て込んじゃって…」

ラクスはキラの表情と声を聞き取って、柔和に笑んだ。

「あらあら。そのご様子ですと、カガリ様を奪い返すどころか、逆に言い含められてしまわれたようですわね。」

「!?なんでわかるの!?」

「だってキラの事ですから。なんとなくわかりますわ。」

流石はラクス。なんでもお見通しだ。ずっと長い間傍にいてくれているから。

だとすると…

「だから、アスランもカガリの事、離れていてもわかるのかな…」

 

(―――「そうだとしても、きっとカガリと俺は繋がっている。何度遠く離れようと、また巡り会える。そう感じるんだ。」)

 

キラとラクスよりずっと短い時間ではあっても、人間の生きる時間に変えたら、あの二人はあの歳にして互いの人生の殆どを共に過ごしている。

吸血鬼だからでも人間だからでもない

 

「アスラン」と「カガリ」

 

二人の相性なんだろう。結びつけて、どんなことをしても解くことはできない。

寧ろ解こうとするほど、強く絡み合って…

 

血がつながっているのに、アイツの想いの前にはそれすらも敵わない。

 

「なんか悔しいな…」

そう言いながら、キラはカガリの眠るベッドの傍らで、彼女の頬に触れる。

まだ冷たいままのそれを撫ぜながら、キラはカガリを見つめながらラクスに問う。

「カガリ、目は覚めないまま?」

「いいえ、一度目覚められました。私の名を呼んでくださいまして。「ここは?」とおっしゃいましたので、エターナルプロダクション近くのホテルの一室であることをお伝えしました。その後、またお眠りになられましたわ。胸のあたりを大事に抑えながら。」

「胸を?」

「えぇ。それが何か?」

「ううん…どっかで同じ仕草を見た気がするな、と思って。…それよりカガリは何か口にした?」

「いえ…私の血液は既にキラしか受け付けられませんので。」

「そうか…また冬眠に入っちゃったのか…僕も少し話したかったな。」

そう言ってキラの人差し指がカガリの唇をなぞる。

本当はそのまま柔らかなそれに口づけしたかったけど、ラクスも見ているし…何よりあの男がそれを知ったら、アズラエルに対して以上に怒り狂うかもしれない。

「そっか…喧嘩の材料、こっちにしときゃよかった。」

「何がですか?」

「ううん、こっちの話。それよりラクス―――」

キラがすくっと立ち上がり、彼女をリビングルームに連れ出すと話し出した。

「アイツからの頼み事、預かったんだけど…」

 

 

***

 

 

それから2日後の昼の出来事だった。

街頭には数日前の暴動事件の影など、微塵も残っていないように、いつもの活気が戻っていた。

そしてこの3人も、相変わらずだった。

「あ〜あ。置き引きくらい、交番勤務巡査だけで何とか解決できないのかよ〜」

「何言っているのシン。結局管轄に上がってくるんだから、最終的には私たちの管理になるのよ。」

生欠伸をするシンにお説教するルナマリア。そして黙して必要時以外語らないレイ。

あの暴動事件に積極的な捜査はなくなっても、巷にはいくらでも事件事故は溢れている。

管轄各所に配置されている交番。そこで起きた事件や事故の報告書が上がってくるため、その現場調査に来ていたのだ。

シンが続けてぼやく。

「しかも、ここってこの前事件があった場所だろ? また街頭テレビでミーア・キャンベルの歌がいきなりかかったりしたら、暴動再発とかするんじゃないか?」

「縁起でもないこと言わないの!というか、ミーア・キャンベルって今入院しているんでしょ? 復帰未定ってテレビで言ってたし。」

そうルナマリアが窘める、と、レイが指さした。

「おい、あれは―――」

「え?」

「何!?」

シンとルナマリアがレイの指さした先、街頭テレビを見る。と―――

<プツン>

先ほどまで流れていたCMが一斉に止まり、画面が切り替わる。

そして

「―――っ!」

「おい!」

「あれって―――」

3人が息を飲む。

 

 

 

 

そして某所―――

 

最新設備の検査機器がずらりと並ぶその一室に、白衣の男がタブレットを抱えて大慌てで駆け込んでくる。

「あっ、アズラエル社長ぉぉーーーっ!」

「何なんです?騒々しい…」

ただでさえ狭苦しいここで鳴りを潜めて窮屈な思いをしていたアズラエルに、男はタブレットを眼前に突き出した。

「こ、こ、これ!これ見てくださいっ!!今、動画で流れているんですが―――」

「あー、はいはい、少し黙って―――」

顔の前を飛ぶ小蠅を払うようにシッシと手を振るアズラエル、だが

「―――っ!?!?」

絶句と共に、その画面に視線がくぎ付けとなる。

 

アズラエルが見入る液晶画面の中では、一人の少女が物憂げに歌っていた。

 

♪水の中に 夜が揺れてる

 哀しいほど 静かに佇む

 緑成す岸辺 美しい夜明けを

 ただ待っていられたら

 綺麗な心で

 

「あ…あ…」

あの少女が…ミーア・キャンベルが歌っている!

あの事件以降、PVはここに運んで誰にも手を触れさせていないはず。

なのに誰が!?

 

 

…いや…違う!

 

あの時の映像と全く違う!

しかも、掲載していないはずの『ドミニオンレコード』のマークまでご丁寧に刻み込んで!

 

「な…何なんですか…このPVは…???」

 

アズラエルの眼が驚愕に見開き、その顔はみるみる青ざめていった。

 

 

・・・to be Continued.