クルクルと無音で回る赤い回転灯。
その下の『夜間救急通用口』の自動ドアが開くと、バルトフェルドは背後から守衛の「静かに!」という注意も耳に入らないかのように、照明が落ちた非常口の案内板だけが光る廊下をひた走った。
エレベーターを待つのももどかしく、階段を駆け上がる―――と、指定の病室はすぐそこだった。
「キャンベル!」
個室のドアを開け放ったバルトフェルドの眼前には、まるで死んでいるかの様な蒼白な顔色のミーアが点滴を受けながらベッドで眠っており、その隣にはパイプ椅子にうなだれたまま、力なく座り込んでいるアレックス・ディノ―――アスランの姿があった。
突如湧き上がる怒りに<ギリ>と奥歯を噛みしめたバルトフェルドが駆け寄り、アスランの胸倉を乱暴に掴み上げる。
「おい!貴様、キャンベルに一体何をした!?」
抵抗することもなく、されるがままになっているアスラン。視線をバルドフェルドに合わせることもなく、いつも透き通るような翡翠は濁ったように虚ろだった。
バルトフェルドも目を疑う。事務所は違えどテレビや雑誌、バックヤードで度々見かけるその姿は、この業界にしては珍しいほどの「眉目秀麗」を体現したような男だと思っていた。
その彼が、今は指一つ抵抗することもなく、やつれた酷い身なりで茫然自失としている。
そんな姿が余計にバルトフェルドの怒りの炎に油を注いだ。
「落ち着いて、アンディ!ミーアが寝てるのよ!静かに!」
「社長、待ってください!倒れていたミーアちゃんを見つけて、救急車を呼んでくれたのはアレックスさんなんですよ!」
ようやく追いついてきたアイシャとダコスタが、慌ててバルトフェルドの背後から二人がかりで必死に止めに入る。
だとしても、バルトフェルドとしては怒りが収まらない。ミーアの熱愛報道が入った時点で、この男がミーアがこんな状態になったことの原因を握っていることは間違いないはずだ。
必死の静止に、ややあってバルドフェルドはようやくアスランを開放した。アスランは力なくうなだれたまま、そのまま床に座り込む。
「…どういうことか、一から説明してもらおうか。何故こんなことになっている?」
怒気を含んだ言葉でバルトフェルドがアスランを見下ろしながら言う。
すると、アスランは視線を上げることもなく、座り込んだままの姿勢で譫言の様に話し出した。
「俺が向かったのは、部屋に残されていたカガリの携帯に、アドレスと地図が添付されていたのを見たからだ…
カガリの携帯に指定されていた場所は、オートロックの高級マンションだった。
アスランの指がいち早く部屋番号を押した―――が、反応がない。
(まさか…)
アスランがマンション玄関わきのカウンターにいた、40代頃の男女二人のコンシェルジュにかけ寄る。
「すまない!急ぎなんだ!この1208号室をすぐに開けてくれ!」
二人で待機していたコンシェルジュはお互い顔を見合わせる。すると男性の方が手慣れた様子で対応した。
「申し訳ありません。お部屋の方をお呼びしてお返事がない来者様には、お引き取りをお願いしております。」
よくマンションにいる高齢の管理人とは違う、丁寧な口調。だが威圧感がある。コンシェ ルジュである片側、
警備員をも兼ねているのだろう。
だが引き下がるわけにはいかない。カガリが囚われているかもしれないのだ。事は一刻を争う。
あまり名前を出したくなかったが、カガリの命には代えられない。
「俺は『アレックス・ディノ』という。この部屋は『ムルタ・アズラエル』という者が購入、 あるいは借りている部屋のはずだ。彼に取り次いでくれ!『アレックス・ディノ』が来ている、と言えば開放するはずだ!」
すると女性コンシェルジュが「アレックス…」と何か気づいたように、口の中で小さく復唱したが、男性の方は
やや慇懃に返してきた。
「こちらのお部屋主様は『ムルタ・アズラエル』という方ではございません。尚、部屋 主様のお名前はプライバシー保護のために明かすことはできませんので、どうぞお引き取りを。」
視線で「出口はあっちだ」と示す彼に、アスランも必死に食らいつく。
「頼む!急いでいるんだ!『ムルタ・アズラエル』でなければ『ドミニオン・レコード』社の 社員で登録されて
いないか!?」
必死の形相で迫るアスランに、やや気圧された男性だったが、女性の方に 何か下の方で指で示している。
「警察に連絡を」、という指合図だとアスランは直感した。
女性が奥に下がると、男性は更に高圧的な態度に出た。
「いい加減にしてください。このマンションは警察への直接通報が取れるようになっていま す。幾ら熱狂的なファンの
男性でもこれ以上しつこいようであれば、連絡してかまわないように言われておりますので、お引き取りを―――」
警察の名を出せば、おそらく誰でもすぐ退去するだろうと印籠のように名前を出した。
だが、その言葉にアスランの脳裏に弾けるものがあった。
(―――「ファン」…?)
ファンが押し寄せる、ということはアズラエルではない。あのアズラエルの子飼い『Bursted Men』かとも考えられるが、「熱狂的な男性」というと、多くは女性に対してだ。
携帯を置き忘れたのはレコーディングスタジオ。そこにいたのは、アズラエルと、『Bursted Men』の3人と、あと一人―――
(―――『ミーア』!?)
いや、十分考えられる。ずっとレコーディングスタジオに2人で詰めていた上に、自分の携帯は繋がらないと断念して、コンソールの上に放って置いたのをミーアは目撃してい る。ということは、ミーアがアスランの携帯を持ち出したということは十分にあり得る。
(しかし…ここがミーアの自宅だとしたら、彼女もアズラエルのところから逃げ出せたのか? ならば何故、カガリを
呼び出す必要があったんだ…?)
まさかと思うが、ミーアがアズラエルに脅され、カガリを一端自宅に呼び出した、ということも十分に考えられる。
アスランは一見諦めたかのようにコンシェルジュから離れ、急いでカガリの携帯に登録されていた発信先を
スクロールした。
すると
<――もしもし、カガリさん?体は大丈夫――>
「すいません、社長!大至急『エターナル・プロダクション』に連絡を取ってもらえませんか!?」
<えっ!?…まさか、アレックス君!?一体今までどこに行って―――>
「説明は後で必ずします!とにかく今は大至急『エターナル・プロダクション』に連絡して、キャンベルさんの部屋をすぐ開けるように、彼女のマンションのコンシェルジュに取次ぎをお願いしてください!」
<う…わ、わかったわ!>
アスランの語気に飲まれたのか、事務所社長のマリューが慌てて切電した。
ほどなくして、コンシェルジュ2人の動きが慌ただしくなった。
先ほどの男性は気まずく感じているのか、女性の方がアスランに近づいてきた。
「今、部屋主様の『エターナル・プロダクション』様よりご連絡が入っております。」
そう言って差し出された携帯をアスランが受け取ると、時折スタジオで聴き馴染みのある声が聞こえてきた。
<あ、アレックスさんですか!? 僕はミーアちゃんのマネージャーのダコスタです。今、『アークエンジェル』のラミアス社長様より連絡を頂きまして。暗証番号を言いますので、それをコンシェルジュに伝えてください。>
「ありがとうございます。」
アスランが切電しようと耳を外したその時、
<あ、あの―――>
ダコスタが縋り付いてきた。
<ミーアちゃんは大丈夫なんでしょうか? ミーアちゃんのマンションを知っているっていうことは、やっぱり君たちは―――>
「そのことについては、後で必ずご説明します!とにかく急がないといけませんので!」
ダコスタが何を聞きたかったのかは理解できないが、とにかく今はカガリだ。アスランは 暗証番号を伝えると、
コンシェルジュが手元でカギを操作した。
内側の自動ドアが開くと同時に、アスランは同行するというコンシェルジュも待たずに、部屋に駆け付けドアを開いた。
そして―――
―――…」
「アレックスさんの直ぐ後にコンシェルジュも駆け込んだそうなのですが、その時すでにミーアちゃんは倒れていて、アレックスさんが直ぐに救急車を呼ぶように言ってくださったそうで…」
アスランの話を引き継いで、ダコスタが口添えした。
「キャンベルに何かしたのは、こいつではない、ということか…?」
「コンシェルジュさんも殆ど間を開けずに駆け込んだそうなので、アレックスさんがミーアちゃんに何か危害を加えている時間はないはずだ、と…」
「…そうか…」
バルトフェルドは大きく息を吐いた。そして傍にあったパイプ椅子を乱暴に一つ取り上げ、アスランの正面にそれを置くと、ドカリと座り込んだ。
「何故お前がキャンベルの家に行き、彼女を助けたのか、経緯は分かった。それに関しては礼を言っておく。」
形だけ軽く頭を下げたようだが、まだ腹に据えかねたまま、バルトフェルドは尚もアスランを見下ろしながら詰問する。
「…だが、話が全く見えない。お前の話からは何度もムルタ・アズラエル氏の名が出てくるが、アズラエル氏の部屋じゃないと解ったとき、何故直ぐにキャンベルの部屋だと考え直せたんだ? 彼とキャンベルには全く接点がないにもかかわらず、だ。」
「それは…」
口ごもるアスランにバルトフェルドがなおも畳みかける。
「それに、キャンベルが何故カガリ嬢を呼び出した? 今の話じゃ呼び出されたという割には、カガリ嬢はキャンベルの部屋にはいなかったというが。…まさか…カガリ嬢が、キャンベルを―――」
「違うっ!そんなことは―――」
カガリの名を出され、初めてアスランが顔を上げて、必死に否定する。
すると―――
「それは是非、俺にもゆっくりと話を聞かせてほしいところだなぁ〜」
アスランを遮ったその声に、アスランは驚きドアのほうを見やる、と、そこには
「よっ、久しぶり♪」
「…ディアッカ…」
ポカンと口を開けたままのアスランに、ウィンクしながら片手を上げるディアッカ・エルスマンがそこにいた。
「誰だ?君は。アレックス君の知り合いか?」
背後からの声に、バルドフェルドが不審気に問うと、改まってディアッカは胸ポケットから印籠=警察手帳を提示した。
「『警視庁第1課警部、ディアッカ・エルスマン』。アス…アレックスとはガキの頃からの知り合
いでね。ま、それはさておき、俺がここに来た要件の一つは、この傷害事件の通報を受けたか
らだ。」
救急車の出動があった時点で、既に警察にはコンシェルジュから通報を入れたのだろう。
「警部のお前がわざわざ傷害事件で動いているのか…?」
普通管轄内の事件であろうと、現場に出向くのは巡査や巡査長レベルだ。課長補佐官でもある彼が現場に出向くことはほぼあり得ない。普段滅多に驚くこともないアスランが呆気にとられるほど、ありえない出来事である。
そう…余程の重大事件に絡んでいる限りでもなければ…
そんなアスランの様子を察してか、ディアッカは印籠を胸ポケットにしまい込みながら真剣な面持ちになって、アスランだけでなく、バルトフェルドやダコスタ、アイシャを一瞥して言った。
「傷害事件程度であれば、確かに動くこともないんだが、何しろみんな出払っちまっていてね。本日午後発生した『集団暴動事件』の捜査にかかりっきりでさ。それで、だ…」
ディアッカは、最後に視線を意識のないミーアに向けた。
「ここに来た理由のもう一つは、その『集団暴動事件』の重要参考人として、『ミーア・キャンベル』に出頭を促すためだ。」
「何だって!?」
バルドフェルドが慌てて立ち上がって叫ぶ。いや、その場にいた一同が驚きを隠せない。無論、アスランも。
「『集団暴動事件』って一体何だ!?…彼女が暴動を起こしたとでもいうのか!?何時!?」
アスランの驚きに、むしろディアッカの方が驚きを隠せなかった。
「お前、今日のニュース見ていないのか?てか、最近の報道も。いっつも人の知らない情報まで把握しているお前にしちゃ珍しいけど…。ま、簡単に説明すれば、最近巷じゃあちこちで単発の暴行事件が起きていて、その都度傷害として検挙していたんだが、肝心の犯人は暴行していた時の記憶が全く無し。最初はみんな揃って酔った勢いの末の喧嘩かと思っていたんだが、今日の午後13時、今度は一斉に多数の暴動が発生。その鎮圧で今、俺たちはてんてこ舞い、てゆー訳。」
そんな事件が席巻していたとは…
ずっとアズラエルに囚われていたアスランにとっては、初耳だった。だがそれを聞くと同時に疑問が沸きあがる。
「それとキャンベルに一体何の関係が…」
一同を代表してバルドフェルドが動揺を抑えながら問う。
アスランも同意見だ。今日夕方までミーアはずっとアスランの傍を離れていなかった。無論今日の13時頃も。彼女が一瞬の隙に何かしたようには見えなかった。
するとディアッカはバルドフェルドをちらりと見返しながら言った。
「無論、姫さんが直接暴力をふるったわけじゃない。ただな、その暴動が起きた時間と場所が、丁度そこの眠り姫さんの『新曲のPV』が流れた時間と場所と一致したんだよ。」
「「「―――っ!?!?」」」
衝撃のあまり、沈黙が流れる室内。
(…「新曲」…)
アスランが反芻する。レセップスレコードの新譜の情報では近くミーアの新曲が出る記事はなかった。とすると、ディアッカの言う「新曲」というのは―――
暫くして、ダコスタが驚きのあまり、回らない口調で必死の弁明を図る。
「だ、だ、だけど、今日はたまたまミーアちゃんのPVと重なっただけじゃないんですか!? たったそれだけの偶然で、何でミーアちゃんが犯人だと疑われ―――」
「今日の『一回』だったら、な。」
ディアッカが小さく漏らした。だがその一言だけで、既に立件できるほどの証拠がいくつも上がっている、と誰もが理解した。
言いにくそうに、ディアッカは頭を掻きながら話をつづけた。
「今日の結果を受けて、以前から、音楽番組でそこのお姫さんが歌った時間帯と、単発の暴動が起きていた時間の整合性を比較してみたら、これが見事に一致。そのことで、今日、俺はお姫さんに任意同行できないか、自宅に向かう予定だったんだが、その直前に傷害事件の通報が入ってきて、しかも蓋を開けてみりゃ、被害者がその渦中の『ミーア・キャンベル』だったから、こっちも驚くのなんのって。病院の搬送先は聞いたから、とりあえず現場検証だけやってきたところだ。」
「ミーアをケガさせた犯人は、見つかったの?」
アイシャが身を挺して守るようにミーアを庇いながら尋ねる。と、ディアッカは「捜査情報は明かせないんだがな…」と言いつつこっそりと語った。
「一応聞き取りでは、アレックスとコンシェルジュが部屋に入ったときには、もう彼女は意識なかったということは確認済みだ。もし外部犯だとしたら、唯一の出入り口であるドアには誰も向ってこなかったし、一番奥の部屋の窓が開いていたらしいけど、12階だろ? 外に出ようとしても逃げ場はないし。ベランダ伝いに逃げるにしては豪雨だったしな。足を滑らせる危険が高すぎる。空でも飛べるならともかく、あの豪雨じゃ鳥だってご遠慮賜るぜ。つまり「普通の人間に脱出は無理」てこと。そうそう、さっき「カガリちゃん」の名前が挙がっていたようだが―――」
瞬間、アスランが緊張でゴクリと喉を鳴らす。
ディアッカはチラとその姿を見やると、話をつづけた。
「マンションの出入り口には監視カメラが付いていた。チェックしたところ、今日の夕方に、そこのお姫さんが入っていくのを確認。その後は夕方だから人の出入りが結構あってね。しかも、このマンションって、芸能人やら業界人の訳アリが暮らすマンションだろ? みんな身バレしないように変装つーか、顔隠したりしているの多くてね。それでもコンシェルジュに確認したところ、住人じゃないと思われる人物は数人。お姫さんが戻ってきてから、警察通報があるまでの間で住民以外の人間が出ていった映像はなかった。…要は「お姫さんに暴行を加え、どこかに隠れてこっそり出ていったヤツはいなかった」ってことな。まぁ、マンション住民が犯人を自宅に匿っているってことならありえるけど、それは現在聞き込み中。そして、もしカガリちゃんと何かトラブっていたとしてもだが―――」
ディアッカはポケットの中から折り畳まれた紙面を取り出し広げた。
「さっき病院の救急外来で、お姫さんの傷害の事件性について聞いてきた。…部屋に出血痕があったが、医師の確認したところだと「外傷は一切なし」。CT及びMRIでも「内出血もなし」だ。争った形跡もなければ、いきなり襲い掛かったにしても、外傷がないのはおかしい。だからカガリちゃんを始め、外部犯の可能性はめっちゃ低いってこと。」
「じゃぁ、なんでミーアは目が覚めないの?」
アイシャが必死に問うと、ディアッカは続けた。
「あちこち検査して、唯一分かった結果は「失血」。結構な量の血が抜けてるって話だ。意識がないのはそのせいだろうな。だけどどこからも出血の痕が無いっていうんで、医者も頭、捻ってたぜ。」
「……」
アスランは俯きながらも安堵する。
失血は明らかにカガリの吸血によるものだ。だが、カガリの唾液中にある自己蘇生力であっという間に相手の皮膚や血管は修復されるため、証拠として残らない。
それが『Vamp』に警察の手が届かない理由の一つなのだが。
それに12階から飛び降りても、カガリの身体能力は人間のそれとは大違いだ。ビルの屋上を人間以上の速度で走り飛ぶことができる瞬発力もある。警察の推理はとても及ぶまい。
くまなく部屋を探し、足跡から汗などのたんぱく質などが発見されれば、部屋に立ち入った人間の特定までこの国の科捜研はやってのけるだろうが、大元のDNAが人間とは違うであろうカガリに足がつくことはない。
彼女のために安堵し、しかし、一瞬でそれは儚く心に更なる重しとなって襲い掛かる。
(―――「…サヨ…ナラ…」)
悲しそうに涙を一滴流し、消えてしまった彼女。
人の手ではとても追いつくことができない。ということは、もう二度とこの手に掴むことができないのでは、と絶望が押し寄せる。
またも辛く俯くアスランの様子を見てか、ディアッカが「参ったな…」と一つため息をついてから、気持ちを立て直した。
「ともかく、今の段階で言えることは、今回の傷害事件は外部犯ではない、「=自傷」で片付けられるだろうな。最も「事故」か「自傷行為」かは、後で本人にも聴取する予定だが、それ以上にウチは『集団暴動事件』の方に、お姫さんの供述が欲しいところだ。―――んで、ここでもう一つ、そっち方面で大事な物証が出た。」
全員が顔を上げる、と、そのディアッカの手にはビニール袋に入ったピンクのラメでデコレイトされている携帯電話が一台。
ミーアの部屋に入ったとき、テーブルの上に置かれていたアスランの携帯は直ぐに取り戻した。
見かけからして、ミーアの携帯に違いない。
それをビニールの上からディアッカが電源を入れて見せた。
「アレックス・ディノ。…これお前だよな?」
その場の全員が画面を一瞥し、同時にアスランを見返す。
「…それは―――」
アスランの目に映ったそれは間違いない、アズラエルのスタジオでのレコーディング風景の写真だ。
アスランが打ち込みやデータの修正を無心で行っている姿を、ミーアが隠し撮りしていたらしい。
「…んでだな…」
ディアッカはアスランに歩み寄り、アスランの肩に手を回しながら、周囲の視線をはばかりつつこっそりとアスランにだけ、その画像を見せた。
それを見たアスランが目を見張る。
「…何だ…これは…」
ミーアが抱き着く裸身の男の写真…まさにそれは自分だった。
「…お前らの報道見たけど、本当にこういう関係だったわけ?」
「違うっ!」
アスランの大声にバルドフェルド、アイシャ、ダコスタが訝し気な視線を一斉に向ける。
「これは合成じゃないのか? 俺には全く身に覚えがない。それに報道というのは何だ!?」
アスランの剣幕に、ディアッカの方が呆れながら囁いた。
「…お前、自分がニュースになってんの、全然見なかったのか?」
「『ニュース』?俺が?」
ディアッカは深いため息をついた。
「はぁ〜〜…ま、お前はそんなやつじゃないことは、よ〜〜〜〜〜〜く知ってるけどよ。でもな、これが今、俺がお前を「しょっ引かなきゃならない理由」の一つなんだわ。」
「「しょっ引く」って…一体…」
ディアッカはアスランの肩を叩いて、腕を引っ張り立ち上がらせる。そして、一同をぐるりと見まわして言った。
「ここでのんびりできる話でもないしな。 アレックスさん、いや、ここに居る全員なんだが、ちょいと俺と一緒に署まで来てくれないか?…もちろん『任意』で、だけどな。」
ディアッカがこの場に似つかわしくなく、不敵な笑顔で白い歯をのぞかせた。
・・・to be
Continued.