蟻という昆虫は全て同じように見えて、自分の所属する集団が判別できるという。

同じような大きさ、同じ色。なのに同じ餌にありつけた時、違う集団と分かればそれが餌の奪い合い―――戦争になるという。

この戦争を止める手段は、どちらかが敗北するまで続くか、あるいは戦の最中に餌がその場から無くなれば片が付く。

いや…もしそこにその様子を見つめ、自由にその戦いを操作できるものがいるとしたら、

例えば、「人間」のように。

人間は蟻たちから簡単に餌を奪うこともできる。意図的にどちらかの集団を潰すこともできる。あるいはどちらの集団をも…まさしく蟻の運命をいとも簡単に自由に扱える人間は、蟻たちにとって神にも等しい力を持っていると言えるだろう。

高い塔のてっぺんから、13時の時報と共にパニックに陥った街の様子を見つめていたアズラエルは、まさに自分が神なったごとき心境だった。

自分の指先一つで、あれだけの暴動を起こしたのだ。国内…いや、世界中だってこの指先一つ、自分の気まぐれで操れるかもしれない。

すると彼のズボンのポケットに収まっていた携帯が鳴った。

「はい、私ですよ。…えぇ、結果は大成功です。無論、貴方方が開発した『アレ』による力が大きいですが、それを操作できる『アンテナ』を発見したのは私ですから。…でもまだ私の求める完ぺきとは違います。それを完ぺきに仕上げるのは、貴方たちの仕事でしょう? …いいや、これではまだ『商品』にはなりません。…はい…わかりました。でもよろしいですか?私がスポンサーであるということをくれぐれもお忘れなきように。では…」

切電してもう一度全面アクリルの壁から下をチラリと見やると、塔の下では黒い小さな粒が、不規則に大慌てで蠢いている。普段は規則正しく隊列を組むように歩いているのに、今はまさに巣に水をかけられパニックになった時の蟻の集団のようだ。

「…やはり蟻そのものですね…」

クスリと笑って100インチのモニターの方に振り向けば、長い髪を柔らかな風にゆだねた少女の歌声が続いている。

 

♪水の証をこの手に

 全ての炎を 飲み込んで尚

 広く優しく流れる

 その静けさにたどり着くの

 いつも、いつか、きっと

 

下界の様子とまるで真逆の美しい旋律と歌詞。

少女の為に渾身の力を込めて書き上げた曲だ。いや、これを歌っている少女の為か、それとも、彼の帰りを焦がれているあちらの少女を想ってか。

いずれにせよ、この曲を書いた彼はこの情景を見たら、一体どんな顔をするのだろう。

 

♪貴方の手を取り…

 

少女の歌が終わった。

それと同時にアズラエルは満足気な顔で画面に拍手を送った。

「いや〜完璧です!最高の一曲が仕上がりました。…さて、アチラはどうなりましたかね〜?」

そういってアズラエルはサイドボードの上の固定電話を取り、慣れた手つきで内線番号を押す。

「私です。今すぐ車を用意してください。例の場所に行きますので。では。」

そうとだけ告げると、ロッキングチェアに無造作に放り出していたスーツのジャケットを素早く着込んだ。

 

 

黒塗りのリムジンが向かった先は、都会の外れ―――人影のない一見すると廃工場のような跡地で静かに止まった。

アズラエルは車から降りると、ともすれば見分けもつかないそっくりの、いくつか廃屋の立ち並ぶその内の一件に迷うことなく進み出でる。そして<ギギギ…>と錆びた音を立てる鉄製のドアを開く。

と―――寂れた外見とは一転して、その中には磨かれた鋼鉄の厚い壁と、分厚い耐熱ガラスによる窓、入り口にはいくつもの照合と暗証番号の揃ったセキュリティー。

まさに「最新技術を駆使した」という一言が具現化したような施設が現れた。

アズラエルはセキュリティーの一つの画面に手を当て、更に目を見開く。指紋と網膜による本人照合で、分厚いドアが<カチリ>とロックを解いた。

「いかがでしたか?彼らの調子は。」

中にいた白衣の人物にいつも通りの紳士口調で声をかける。と、白衣の人物は声に気が付いて慌てて深々と一礼する。そして視線でアズラエルをPC画面の前に誘った。

「ご覧ください。先日までとのパワーの違いは明らかです。瞬発力、持久力、破壊力、すべて振り切れました。外見の変化は見られませんでしたが、血液採取の結果、ドーパミン、アドレナリンが200%超、更にカリウムの―――」

「あー、僕に科学的なことを言われても、さっぱりわかりませんのでそこは省略して結構です。ただ、「力は増した」ということが判ればOK。回復は?」

「はい。以前は破壊力の調整がつかずに骨折と筋肉の断裂がありましたが、今日はかなりの変化でしたが筋骨、内臓ともに異常はなさそうです。神経系は、これからMRIに入る予定でして…」

「結構。じゃ、手早くお願いしますよ。終わったらいつも通り、車で待っていると伝えてください。では。」

アズラエルは無遠慮に言い放ってチラリと監視モニターを見やる。

そこにはまるで力尽きたようにぐったりと床に崩れ落ちている、3人の男の姿。

それを一瞥して口角を上げると、満足気にアズラエルは施設を後にした。

 

 

暫くして、ヨロヨロとした足取りの男たち―――先ほどまで床に倒れていた『Bursted Men』の3人が、無遠慮に車の後部座席のドアを開けて入ってきた。

「…なんで俺らだけ、こんなことしなきゃいけないのかよ。」

3人とも座りしなに不平をブツクサとバラまく。向かいの席のアズラエルは言った。

「無論、曲をお聞かせしたら、貴方たちがあの場で大暴走しかねませんからね。社内で暴動を起こされでもしたら、破壊される以上にそれこそ警察の介入騒ぎとなりますので。それは今はまだ避けたいところですから、いつも通り隔離させていただきました。でも結果は上々でした。…さて、成功を伝えに今度はアレックス君とミーアさんのところに行きますよ。貴方たちも一緒にいらしてください。」

「俺ら必要ねーだろ。」

「いや、僕は喧嘩は生まれてこの方一度もしたことがないので、もし殴り掛かられでもしましたら怪我するといけませんのでね。ボディーガードとしてですよ。来てもらわないと困ります。」

オルガ、シャニ、クロトは不満を口にしながらアズラエルを鋭い眼光でにらみつける。が、アズラエルは全く動じない。

彼は知っているのだ。自分がいなければ、この3人の男たちに明日はないということを。

そして3人もそれを悟っているが故に、不平を口にしても行動に起こすことはできない。

くすんだ夕暮れの空の下、リムジンはすっかり混乱の消え去った都会を滑るように走り、静かにビルの前に停車した。

アズラエルは「フフンv」と鼻歌を漏らすと、足取りも軽くエレベーターに向かった。

「さ、行きますよ♪」

 

 

『ドミニオン・レコード』本社の上位階に備え付けられているレコーディングスタジオ。

確かに最新機器が整えられ、ここで生活が可能なほど設備も充実しているそこに二人はいた。

二人の内の一人―――男の方はいつもきちんと整えられている濃紺の髪はここ数日で乱れ、水分以外ほぼ何も口にしていない所為か、身体がやや痩せ、肌の血色もよくない。薄っすらと無精ひげが生え、落ちくぼんだ頬。椅子にも座らず力なく壁を背に座り込んでいる。

たったこの一曲を早く仕上げるのに、休養を取ることもしていないことは、一瞬見ただけで理解できる。それだけ早く彼女の下に戻りたいのだろう。

哀れな姿が同情をそそる。

そんな彼をあの曲の歌い手の少女が、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

何度も食事や飲み物を勧めるも、彼は全く反応しない。表情の無さがかえって彼女には恐ろしく見えるようで、今は心配そうにただ彼の様子をチラチラと覗いている。

<ガチャ…>

スタジオの重い扉が開くと、あれだけ微動だにしなかった男が素早く反応した。

「どうだ、満足したか?」

疲れ切っているはずなのに、鋭い翡翠の眼光は力を失っていない。アズラエルは言った。

「えぇ、流石はアレックス・ディノ君です!上々の滑り出しですよ!」

「『滑り出し』…? 俺は『一曲だけ』という約束のはずだ。」

アスランは立ち上がりアズラエルに詰め寄る。すかさずアズラエルの背後にいたオルガ、シャニ、クロトがその間に入り込む。

「大丈夫ですよ君たち。今は後ろへ。…確かに「とにかく一曲」と言いましたが、それは今回のお試しが成功しなければ、まぁ一曲で終わりにしましょう、というつもりでした。が、外は大反響です!これを一曲で終わらせるなんて、惜しい惜しい。」

「ふざけるなっ!」

アスランが怒鳴る。あまりの彼の勢いに、背後でミーアが恐怖に身を竦ませる。

「いい加減、ここから出せ!もうここにきて1週間以上過ぎている。彼女のレコーディングにも付き合った。が、これ以上はごめんだ!このままだと貴方がいくら契約会社の社長であっても、監禁として訴える!」

「まぁまぁ落ち着いて。とりあえず食事でもとりませんか?気分も変わりますから。」

なだめすかすようにアズラエルは微笑み、初めてアスランをスタジオの外へといざなった。

それを聞いて落ち着いたのか、アスランは黙ってスタジオの外に足を踏み出した

瞬間―――

<ドン!>

「っ!」

アスランがアズラエルを突き飛ばす。そして全力でエレベーターへと向かった。

「無駄ですよ!私のパス以外、それはロックされていて―――」

余裕のアズラエルがアスランの背後から声をかけるが、アズラエルの予想に反して<チン>というエレベーターの開く音が聞こえる。

「何!?」

アズラエルは慌てて胸ポケットをまさぐる―――キーカードがなくなっていることに気づいたとき、アスランは既にエレベーターに飛び乗っていた。

「しまった!」

オルガとクロトが慌てて追いかけ、エレベーターのボタンをガチャガチャと押すが、既に降下を始めたエレベーターは止まらない。

「くそっ!」

クロトが悪態をついてエレベーターのドアを蹴る。これが数階であれば階段を駆け下りて追いつくことも可能だが、数十階では完全に無理だ。

「どうすんの?おっさん。逃げちゃったよ?」

「事務所とかに通報されたらヤバいんじゃねーの?」

面倒くさそうに動かなかったシャニと、ドアをまだ睨み続けるクロトが問えば、アズラエルが珍しく爪を噛んで顔をしかめている。

「…アレックスを逃がしたのは痛いですね…事務所の方は何とでもできますが、『彼女』の捕獲のために、まだ餌になってもらう予定でしたから。…まぁ、多分食事が手に入らない『彼女』は今は力が弱っているでしょうから、アレックスがいなくても、貴方たち3人とこの曲があれば、簡単に捕獲できるでしょう。」

スーツをピン!と伸ばして、アズラエルは姿勢を正す。

そして振り返ると、そこにはミーアが心細げに立ちすくんでいた。

アズラエルは振り返り様、笑顔でミーアに語る。

「大丈夫ですよ。アレックス君ならすぐ戻ってきます。それよりミーアさん、皆さんの反響を肴に一緒に一杯いかがでしょう?」

「は、はい…それで、あの…」

消え入りそうな声でミーアが言った。

「ん?どうされました?」

「あの…私も…ちょっと着替えとか欲しいので、部屋に取りに行きたいんですが…」

アズラエルの背後の3人の視線がミーアを刺す。「ここから出られると思うな」と言わんばかりに。

思わず「ひっ!」と身を竦ませるミーア。アズラエルは3人を制す。

「着替えなら、先日貴女が来てくれた時に、こちらでご用意させていただきましたが、お気に召しませんでしたか?全て一流のブランド品でしたが。」

言いにくそうに、ミーアはモジモジしながら小声で話した。

「いえ…そうじゃなく…その…「女の子の日」の…」

それを聞いたアズラエルが頭を抱えた。

この現状を知っている者は、アズラエル本人と『Bursted Men』の3人のみ。女性はいない。

故にそこまで気が回らなかった。

(計算外でした…)

だが、これだけのスキャンダルとPVで顔出ししたことで、ミーアの居場所はもはやここ以外にない。

(外に出しても、勝手に檻の中に戻ってくるでしょう。彼女の安住の地はもはやここしかない。)

アズラエルは頷いた。

「それはそれは、レディーに大変な失礼を。私もまだまだでしたね。ではキャッシュカードをお渡ししておきますので、好きなだけ好きなものを購入して来てください。お帰りをお待ちしておりますよ。」

にこやかにアズラエルが渡したブラックカードをひったくるようにして、ミーアもそそくさとエレベーターに乗り込んだ。

 

「…誰か見張りに付けたほうがいいんじゃねーの?」

その小さな背を見送って、オルガが呟く。

「大丈夫でしょう。むしろ貴方たちは既にデビューしている身ですし、変装しても目立ちます。後を付けたらかえってミーアさんが動きづらくなるかもしれませんから、ここは静観していきましょう。」

アズラエルがさばさばと切り返す。

 

だが、ここで彼の計算に、ほんの少し、小さなほころびが生じたことを、後になって気づくことになるのだが…

 

 

***

 

 

エレベーターの中でミーアは震えながら、胸に抱きしめていた「あるもの」をそっと見つめた。

一台のスマートフォン―――アレックス・ディノのものだ。

レコーディングスタジオの中は電波が届かない。何度も外に連絡を試みたらしいアレックスが、あきらめたのか、コンソール(スタジオの外、音響操作の部屋)の机に置きっぱなしにしていたのを、ミーアが見つけていた。

そして先ほど慌ててアレックスは外に出てしまったため、彼が携帯を忘れていったことに気づいた。

アズラエルに願い出た「着替えを取りに行きたい」は無論方便だ。本当はアレックスの後を追いかけ、この携帯を届けてあげようと思ったのだ。

正直にアズラエルに言えば、多分「アレックスくんが帰ってきたら渡しますよ」と携帯を取り上げられて終わりだろう。今の状況が尋常でないことくらい、流石のミーアにもわかる。

だが、自分はもう行き場はない。外がどうなっているかは分からないが、あのスキャンダルの後、事務所の命令を無視して、勝手に出てきてしまったのだ。もう後には引けない。

でも彼なら―――聡明なアレックスなら、窮地を救ってくれるかもしれない。

だから、携帯を届けながら、アレックスに縋ろうとしているのだ。

(彼ならきっと私を助けてくれるはず!あれだけ心配してくれていたんだもの!)

早く追いつきたいと焦るほど、エレベーターの動きが遅く感じられる。無意識にカツカツとヒールの踵で床を何度も蹴っている。

そんな苛立つミーアの視線は、自然とアレックスの携帯へと移った。心臓がドキンと小さく跳ねる。

(…勝手に見ちゃ、いけない…よね…?)

でも気になって仕方がない。特に大好きな人のものであれば、殊更に。

かつて何度かアレックスに接触の機会があったとき、さりげなく自分の電話番号を渡したりもしたのだが、登録してくれただろうか…?

(ダメよ、ミーア。見ちゃダメったら!)

そう思いながらも、指先は既にスクロールを始めている。

ぎゅっと目をつぶってそれすらも見ないように―――と思ったミーアの理性は、そこで途切れた。

電話、そしてメールの送信画面。そこには溢れるほどの名前があった。

 

―――『カガリ・ユラ』―――

 

1週間以上、彼がここに閉じ込められてから、メールや直接電話を何度も試みていた。事務所ではない、ただひたすらカガリの身を案じて。

彼がどんな気持ちで毎日この電話をかけていたのだろう。

ミーアのために作られた曲は、ミーアでさえほれぼれするほどのいい曲で、自分のためにアレックスが渾身の力で作ってくれた、と思ったときは、涙が止まらなかった。

そして歌詞…I.F.の歌詞は殆どカガリが作詞し、アレックスの作詞は今回初めて見た。その歌詞は癒してくれる存在への想いを載せている。それはミーアがアレックスの心を静めてくれる、癒しの存在…そう思わせてくれる歌詞だった。

だからこそ、アレックスが不眠不休で仕事に打ち込んでいた時、懸命に彼のために、食事や水分、就寝できるように環境を整えたりと、女性らしい気遣いを怠らなかった。

でも彼はミーアに応えることはなかった。それでもこの曲で彼はミーアの気持ちに応えてくれたと思った。

だから何度リテイクをアズラエルから出されても、ミーアは必死に食らいついた。ミーアの想いを曲で答えてくれたアレックスに、今度は歌で応えようと。

 

だが―――この数日、ミーアがつきっきりで傍にいたのに、彼の心の中にミーアはいなかった。

この歌詞を捧げた相手は―――カガリだったのだ!

 

「いや…絶対イヤッ!!」

認めたくない!

こんなに一生懸命想っているのに、なんで彼は私を見てくれないの!?

何で私が歌う歌詞に、あの女への想いを綴っているの!?

それでも憎めない、忘れられない、あの翡翠の瞳の優しい面影を。

どうしたら、自分だけのものになってくれるの!?

携帯を地面に叩きつけてやりたい衝動にかられながら、その一方で彼のものを愛し続けたい二律背反の激しい波がミーアを襲う。

「どうすれば、ミーアを好きになってくれるの!?ねぇ、アレックス!?」

携帯を抱きしめたまま、ミーアは路上に座り込む。

その時、ミーアの耳に、先ほどまでいた高い塔の頂上の方から囁きが聞こえてきた。

 

(―――「このままでは、貴女は『カガリ・ユラ』に一生勝てませんよ。歌でも…無論、「恋」でもね。」)

 

「…カガリ・ユラ…」

 

ミーアがその名を呟いて立ち上がる。

無邪気だったあの空色の瞳は、いつの間にか今の空のように、くすんだ暗い色へと変わっていた。

 

 

***

 

 

「…まだ帰っていない、か…」

PVを見て居ても立ってもいられず、アスランの姿を求めて外へと飛び出したカガリだったが、闇雲に探すだけでは体力の消費でしかなかった。

アスランとよく通う店、歩いた道、お気に入りのカフェ、楽器店…まだ沈み切らない日の光を避けながら彷徨ってみたが、彼の姿を見つけることはできなかった。

「きっとアスランが見てたら「効率よく!」ってまた叱られちゃうな。」

そう思い彼の呆れた後、はにかんで笑ってくれる表情が蘇って、カガリの頬に幾筋も涙がこぼれて落ちていく。

力ない足取りで自宅に戻り、アスランの部屋にソロソロと入る。そこに彼の姿がないことを確認して、涙が止まらなくなった。

「私の事、嫌いになってもいいから…別れたいならお前の思う通りにするから…声を聴かせてくれよ…なぁ、アスラン…アスラン!」

いつも彼が寝ているベッドに顔を伏してむせび泣いた。

アスランの匂いがして、こんなに自分はアスランに焦がれていたと自覚する。

彼に甘えてばかりで、どれだけ自分は彼に愛を返せていただろうか。

後悔が波のように押し寄せてくる。

その時<ピリリリリ…>とカガリの携帯が鳴った。

涙を乱暴に拭い、泣きじゃくりながら画面を見た瞬間

「――――っ!!アスラン!」

着信画面に『アスラン・ザラ』の名があった。

(アスラン!アスランだ!!)

ずっと焦がれていた人の名を見て、鉛のように重かった心が急に軽くなり、慌てて着信ボタンを押す。

「アスラン!どこに行ってたんだよ!?ずっと探して―――」

<…カガリ・ユラさん…ですよね…>

「え…?」

カガリは一瞬耳を疑う。その声はアスランとは似ても似つかない、女性の声。

そして抑揚のない女の声は続けてこう言った。

<私…『ミーア・キャンベル』です…>

 

 

・・・to be Continued.