Vamp! V 〜第6楽章〜
カガリから遅れること数分、同じ経路を後を追いかけるようにして、赤い回転灯の車が数台走っている。
<本庁304号応答。こちら本庁情報部。通報があった現場はオーブ区カグヤ1-2-3 株式会社『モルゲンレーテ』前。急行されたし>
「了解、直ちに向かいます。」
スピーカーから伝わる指示に、ルナマリアが無線マイクできびきびと返答する。
「さーて、今夜こそ例の『薬物中毒』の主犯、ばっちり捕まえたいけどな、っと!」
スピードを落とさないままハンドルを切るシンに、助手席のルナマリアの体がその遠心力で大きく揺さぶられる。
「痛っ!ちょっと、いくらなんでも警官がスピード違反しちゃダメでしょ!?」
左頭をゴツっとドアガラスにぶつけ、頭をさすりながら怒るルナの剣幕に、シンがちらりと横目で睨み返す。
「だってさー、ルナだっていい加減4課の付き合いにも飽きただろ?それでなくたって、1課に大事件が舞い込めば、2足のわらじ履かされて、いい加減疲れたぜ。」
ほとほと呆れた声のシンに、ルナもそこは同意する。
「そうね…今のところ犯人につながるような確実な情報はないし、こうして「それっぽい通報」があったら、その度に現場に駆けつけるしか犯人確保の手段がない―――なんてね…」
イザークは何のためにシンと私を4課のバックアップにしたのだろう。最初は犯人を追う嗅覚に優れているから…なーんて、ちょっと自画自賛していたんだけれど…
「やっぱり、ただの「若い=体力有り」だけで選ばれたのかな…」
ため息をつくルナマリアに、シンが同調する。
「若しくは、俺たちは「なーんも考えずに追いかけるから、いつ解決するかわからないこの事件でも、ストレス溜まらない」とでも思われてるんじゃないか?」
「まったくよねー!」
二人が同時にこの冷遇について頷いた時、シンの顔が引き締まる。
「ちょっとまて!…今、無線が開いていて、課長に聞かれた、なんてことは…」
「大丈夫。ちゃんと切ってるから。」
…そうはいっても、あの人の地獄耳は、無線よりツーカーで届くからなぁ…
また二人が同じことを考え、同時にため息をつきながら、一路現場へ向かって車を走らせた。
現場にはすでに2台の救急車が到着していた。
一台は意識のない男をストレッチャーに乗せ、行き先の病院へ状況説明する無線の会話が続いている。
もう一台には、額に応急処置のガーゼを貼られた男性が、後部ハッチを開けたままのところに座り込み、救急隊員から問診を受けていた。
どうやらこの男性被害者が自身で警察と救急に連絡を入れたらしい。
「あの…もしできましたら、ちょっとでもいいのでお話を伺わせていただけるとありがたいのですが…」
ルナマリアが警察手帳を被害者と救急隊員に見せると、救急隊員の方からは「受け入れ先が決まれば直ちに発進しますので。」とだけ告げられた。つまりそれまでの間は聴取OKということだろう。
被害者もまるで水戸黄門の印籠を見せられた代官の様に、警察手帳を見るや、身をきちっとただした。
ルナマリアは必死に両手を振って、相手の緊張を取ろうとする。
「あ、簡単な質問だけですので、そんな固くならないでください。あなたが通報してきた方で間違いないですか?」
「は、はい…自分でも何時通報したのか気が動転していて細かいことは覚えていないのですが、あの男に襲われたとき、助けに入ってくれた方がおりまして、「早く逃げろ!」と声をかけてくれまして、必死に大通りまで走ったところ、また道すがらの人に「何があった?」「警察は?」「その前に救急車じゃ…」など口々に叫ばれて、それで言われるがままに連絡をしたような…」
まだ血のにじむ額を押さえながら、男性はしどろもどろに答えた。
「で、その襲ってきた男は、先に救急車で運ばれたあの男で間違いないですか?」
「はい。間違いありません。」
「それで、あなたは犯人と面識が?」
ルナマリアの隣からシンが問いだすと、男性は急に辛そうに俯いた。
「…はい。仲がいいとか、そういう関係ではありませんが…」
「『モルゲンレーテ』はあなたがお勤めの会社ですね?」
「はい。」
「会社の同僚とか?」
「いえ…会社関係ではありますが、取引先のご重役というか…」
重役…そんな地位のある人物が、人を襲ったりするだろうか…
シンとルナマリアが顔を見合わせると、被害者男性はぼそぼそと話を続けた。
「我が社はご存じのとおり、機械工業系のシェア国内ベスト3に入る会社です。中には国の事業と関連した仕事もございまして、そういう大事業の時は、我が社以外の会社もいくつか候補に挙がりますので、その時は公正取引の元、入札が行われます。もちろん闇カルテル防止など、いく通りも厳重に介して入札が行われるわけです。」
入札、カルテル…民事で扱われる事件で使われる用語のオンパレードだ。警察学校で法律については習得させられたが、現在担当する課とはやや縁遠いこともあって、シンは欠伸を噛みしめて聞いている。
男性はさらに続けた。
「今から4、5日前にも入札がありまして、その時、我が社は担当会社として請け負わせていただくことになったのですが、残念ながらあの方の会社は選外となりまして。普通ならばそこで終わるのでしょうが、それから2,3日後、彼が我が社にやってきたのです。『権利を委譲してくれ』と。」
「でも、それってできない相談なんですよね。」
詳しい仕組みはわからないが、ルナマリアは直感で投げかけた。
「はい。受付でかなり迫ってこられたので、営業部の私が窓口となりまして、説得を続けたのです。最初は説得に応じてくれた手ごたえがあり、直ぐに帰られたのですが、また次の日やってきまして、「どうしても私には金が必要なんです!だから今回の受注を受けないと!」と迫ってきまして。今日の昼にも「私は金が欲しいんです、金が」と執着されて、「これ以上騒ぐようでしたら警察に連絡します」と言ったら、ようやく引き下がってくれたので、これで終わったと思っていたら、まさか待ち伏せて、このようなことをするなんて…」
怨恨か…それにしては弱い動機だ。たまたま窓口になっただけの彼に、凶行に出るほどの恨みを持つだろうか。
ルナマリアもシンも眉間に皺を寄せていると、救急隊員がやってきた。どうやら受け入れ先の病院が決まったらしい。
「それではご協力ありがとうございました。またあらためて貴社にお伺いするかもしれませんが、その際にもご協力お願いいたします。」
男性は「はい」と深々と一礼すると、救急車の赤い回転灯と独特のサイレン音とともに病院へと向かった。
「なんか、おかしくない?」
ルナマリアがシンに尋ねると、シンも同意したのか頷いた。
「まぁな。受注権を取れなかっただけで、あの受付対応したおっさん一人を逆恨みっていうのは、いやに短絡すぎるな。」
「それだけじゃないわ。」
ルナマリアが言う。
「急に金銭面に執着してきたことも、よ。そんなに業績不振の会社なのかしら、犯人の勤め先って。でもそれだったら言葉としては「仕事を回してください」になるでしょ。でも犯人は「私は金が欲しい」って個人的な欲を言っているのよ。もし本当に個人的に金銭面で困っているんだったら、昨日今日初めて顔合わせた他人に金銭要求するかしら?」
「それもそうだよな…」
シンが背伸びついでに空を見上げる。つられてルナマリアも上空を見上げる。
ふと見上げた先のビルの屋上に黒い影が動いたように見え、ルナマリアが慌てて目を擦ってもう一度目を凝らす。
「どうしたんだよ、ルナ。」
「ううん…なんかビルの屋上に人影みたいなのが見えたような気がして…」
「まさか、今真夜中だぜ。こんな時間に屋内ならともかく、屋上に人がいるわけないだろう。」
シンが呆れるように言うが、ルナマリアの真剣な横顔をチラリと見て取って、今度はからかうように言った。
「もしかして…『Vamp』だったりして♪」
「え!?まさか!」
「だってさー、さっき、被害者のおっさん、「「早く逃げろ!」って言って助けに入ってくれた人がいた」って言ってたじゃんか。もしあの犯人も例の薬物中毒関係のホシだとしたら、この前の事件の時も、男が5人がかりでやっと抑えつけられたんだぜ。それを今回は、多分あの口調からして、たった一人で助けに入ったんだろ?それって『Vamp』並みのスゴ技持っている奴くらいしか思い浮かばないぜ。」
「そうかもしれないけれど…」
ルナはシンの推理に半分だけ同意する。確かにあの薬物で凶暴化したのなら男性刑事5人でやっと抑えつけられるほどの相手を、一人で相手するなんて神業だ。今現実世界で、それが可能と思える人物は、確かにVampしかいない。でも―――
いつものVampだったら、犯人の上にメモを残していく。それがなかったのだ。だとしたら、Vampの仕業とは思えない。
しかも、犯人は意識がなかった。Vampが取り押さえた犯人も気を失っているときもあるが、声をかければすぐに覚醒する。だが、ルナマリアが救急隊員から聞き入れた情報では、あの犯人は意識不明。自発呼吸と心音が確認されているが、痛覚対する反応も全くないレベルだという。
ルナマリアは深呼吸とともに、もう一度夜空を見上げる。
先ほど見つけたと思った黒い影。ルナマリアには一瞬それがアレックス・ディノに見えた気がしたのだ。
(まさか、あの『IF』のアレックスが、こんな会社のビルの屋上に真夜中にいるわけないじゃない…)
これを言ったらシンに「『IF』中毒」とからかわれそうな気がして口にしなかったが、つい気になってしまう。
シンに初めて連れて行かれた『IF』のカウントダウンライブで、ものの見事にアレックスに一目ぼれしてしまった。実家の私室には、確かに『IF』のポスターやらクッズが所狭しと並んでいたが、何故自分がそれを持っていたのか覚えていない。多分妹のメイリンの私物だろうと思っていたが、今はしっかり自分の所有権を主張している。
きっと疲れているのだ。疲れているから、つい憧れの男性の幻覚を見てしまったのだ。
「まったく、この事件片付いたら、ジュール警視正にはきっちり休暇の申請許可貰わなくっちゃ!」
「だな!」
そこにはシンも大いに同意した。
警察車両のテールランプはまだ立ち去る気配がない。
ビルの屋上から警察の動きを確認したアスランは、屋上に警察が立ち入りそうにないことを確認し、もう一度フラフラと力ない足取りで、あてどもなく屋上を歩き回った。
乱れた衣服にうつろな目に光はなく、これがあの『IF』の『アレックス・ディノ』だと誰が信じることができるだろう。
―――<嫌ぁぁっ!アスラン!アスラァァァーーーーン!>
あの悲しい叫び声が耳から離れない。
思い起こされる度、ぎゅっと目を閉じ、唇を血が滲むほど噛みしめる。
カガリの悲鳴を聞き、急いでモニターを点けた瞬間、カガリの居場所を示す点滅灯が消えた。
その一瞬の記憶を頼りに、この場まで走り続け、カガリの残した形跡を探し回っていた。屋上に張り巡らされている給水管、ネオン灯の電源、多数の室外機、風雨にさらされ埃にまみれているそれらの下を掻い潜り、汚れようとも、擦り傷を作ろうとも、打撲しようとも、アスランは気づきもしなかった。
少しでもいい、ほんの少し、カガリの手掛かりをつかめたら―――
その一念だけが、アスランを突き動かしていた。
既に時間は夜明けを告げようとしている。東の空がぼんやりと明るくなってきたその時
<チカッ>
一瞬アスランの目に映った、金属片の光の反射。
眩しいそれが、カガリの金の瞳に見えて、導かれるようにしてアスランは必死に這いつくばって給水塔の下にある、それに必死に手を伸ばす。
手に触れたのは―――カガリのインカム
落ちてこの下に転がり込んだのだろう。GBSを埋め込んだ部分が折れ、バッテリーとの配線が切れている。
どんな思いでカガリはこのインカムを付けて行ったのだろう。俺の支えがないことを知りながら、それでも彼女はこれを離さず持って行ってくれたのだ。
俺と彼女がどんなに離れていても繋がっている、その証―――
朝日がアスランの疲れ切った横顔を照らしはじめる。
もっとこのまま捜索を続けたい。だが、通勤が始まればこの場所に留まっていては不審者とみなされるだろう。
ぼんやりとインカムを手にアスランは立ち上がると、重い足取りで自宅へと戻った。
扉が重い。
このドアを開けると、いつもなら太陽のように眩しい笑顔が「おかえり!」と迎えてくれる
―――だが、今…それはない
薄暗いキッチンで、アスランはグラスに水を注いで一気にあおる。
ふと、テーブルの上に、ラップされた皿とメモ用紙に気づく。
いつも見慣れた、あのくせのある文字。
『アスラン、地図ありがとう。今から行ってきます。お腹減っていたら、これよかったら食べてくれ。形は…綺麗じゃないけれど…。もし食べたら、帰ってきたとき、感想聞かせてくれよな!――カガリ――』
ラップを取ってみれば、そこには少々中身がはみ出た『ロールキャベツ』。
人間の食事をほとんど摂らないカガリは、料理は苦手だ。
その彼女が必死に作ってくれたのだろう。
アスランの好物ということを知って。
慣れない包丁で、指を切ったのではないだろうか。
煮る時に火傷をしなかっただろうか。
それでも一生懸命最後まで作ったのだろう。
アスランが喜ぶことだけを願って。
<ポッ…>
ロールキャベツのスープが揺れる。
ポタポタと水たまりに落ちる雨粒が如く、波紋が広がる。
「カガリ…カガリィィーーーっ!!」
インカムを抱きしめてアスランが嗚咽する。
涙を見せたのは一体いつが最後だったろう。
カガリと初めて出会った幼い日、彼女の危ない行動を注意したとき、逆に彼女は喜んでくれた。
「自分のために怒ってくれて、ありがとう」―――と
その時初めて自分の存在を認めてくれた人が現れた嬉しさに、泣いた。
自分が涙を見せる理由は、いつも君が作ってくれた。
そして、俺が躓くと、君がいつも俺を導いてくれた。
―――「お前、ハツカネズミになっていないか!?」
グルグル同じ場所を迷走し、一人苦悶に陥っていても、君はいつも見えない扉を開いてくれた。
今回も俺のために料理を作ってくれて、俺の迷った心を開くきかっけを作ろうとしてくれたんだな。
「だったら、やるしかないじゃないか。」
「ハツカネズミ」はもう卒業だ
涙をぬぐってアスランが立ち上がる。
PCの電源を入れ、いくつものモニターに照らされた表情は、理知的で冷静ないつもの彼。
その電光に負けないほどの翡翠に宿る鋭い眼光が、難解な数式の羅列をとてつもないスピードで追いかけて行った。
いつも君は俺を助けてくれた
ならば今度は―――俺が守る!
***
その頃、警視庁捜査一課でイザークはスタンドで購入した苦いコーヒーをあおっていた。
ニコルの言った「ホルモンの異常分泌を促す何か」の線で捜査を進めているが、明確な進展が進まないまま今度は昨夜の事件だ。詳しい情報は入ってこないが、もうしばらくすれば、あの二人が現場から戻って詳細が聞けるだろう。
だが常に実践一途なイザークとしては、『待ち』の姿勢は一番苦手だ。体力バカのあの二人も、そろそろぼやいているに違いない。
空になった紙コップを、ここぞとばかり握り潰し、ゴミ箱めがけて投げつける。お茶くみ係のメイリンが購入してきたあの『自分そっくりの顔&名前入りキャラクターグラス』は、なんだかぞんざいに扱うと、自分がそう扱われているような気がして当たれない。そのストレスを一手に引き受けてくれる紙コップがゴミ箱に見事にフラれてしまう。
この俺がゴミ箱ごときにまで舐められるとは!
「くそっ!」
苦虫を噛み潰したような表情のイザークの眼前に、音もなくレポート用紙がスルリと現れた。
ヒラヒラさせているレポートの上には、ディアッカの呆れ顔。
「あ〜あ、朝っぱらから鬱陶しい顔していると、今日一日の幸せが逃げていくぜ〜♪」
同じ一課に居ながら、どうしてこいつはこうも軽いノリなんだ!?
ディアッカをひと睨みしてレポートをふんだくると、イザークは苛立ちを抑えきれない声で言った。
「一体なんだ!報告ならきっちり口でもしろ!『ほうれんそう』は社会人の必須事項―――」
「はいはい、わかったから一晩中それを書き上げた俺にも、コーヒーの一口を飲ませるくらいは時間はくれよ。」
イザークの説教のあしらいは、当代きって幼少時から付き合いのあるディアッカぐらいしかできないだろう。
イザークにも追加のコーヒーを手渡しながら、一口飲んで、ディアッカは真剣口調に戻って話し出した。
「例の先週の薬中(※薬物中毒)犯のアレな、犯人はあんな状況だから聴取できないんで、被害者の方に聞き込みにいったんだわ。つまりあのオートロックのマンションのガラス戸ぶち破って、警備員吹っ飛ばして犯人が向かった先の『部屋の持ち主』に。最初は犯人の顔見ても「見覚えない」「会ったことも話したこともない」ってずっと言い張っていたんで、こりゃ万事休すかな〜と思った矢先に「拾い物」が出たんだ。」
「『拾い物』?」
イザークが興味をそそられる。ディアッカは頷くと、話を続けた。
「そう。犯人が男だったから、狙った相手も男だとばっかり思っていたんだけど、そうじゃなくて、本当の狙いはマンションの『部屋の持ち主の奥方』の方だったんだよ。」
「何だと!?」
イザークが思わず椅子から立ち上がる。「旦那に写真見せていたら、横から奥方が「あれ、この人…」って言い出したんで、よくよく聞いたら、奥方が働いているレストランの常連客だったらしいんだ。」
「だとすると、不倫か…?」
だがディアッカは首を横に振った。
「そっち方面の関係はなし。ヤツはふつーに毎週決まった曜日に食事をしに来ていた、かなりの食通らしい。仕事はグルメ雑誌の編集やっているらしくってな。かなりの健啖家で通っていたらしいんだが、食事量はいたって普通。一コース食べて、その後帰っていくのが毎度だったらしいんだが…」
ディアッカの声が慎重になる。
「あの事件の数日前あたりから、毎日のように店に通い詰めては、とんでもない量を注文していたらしい。流石におかしいと思って奥方が「ほどほどに」と止めたらしいんだけれど、全く意にも返さず「食わせろ!」ばかり言うようになって…しまいにゃ無銭飲食になって、とりあえずオーナーが「ツケ」にしてそこは収まったらしいんだが、その日の夜に…」
「あの事件、か…」
イザークは思考に耽る。
(もしかしたら…今までの奴らも暴走するきっかけになった何かが…?)
その時
「ただいま戻りました〜」「疲れた〜」
足を引きずって帰ってきたシンとルナマリアに、イザークはいてもたってもいられず、自ら二人を出迎えた。
「お前ら!!」
「「はいっ!すいませんっ!!」」
思わず条件反射で敬礼してしまったが、どうやらイザークの関心は二人が恐れていた、愚痴の地獄耳ではないらしい。
「犯人か被害者に聴取はできたか!?」
シンの両肩を掴んで激しくガクガクと揺らすイザークに、目を回しそうなシンに変わってルナマリアが答える。
「はい。犯人は意識不明でそのまま警察病院に搬送されましたが、被害者からはわずかですが聴取できました。」
「それで!?どんな話だった!?」
勢いに飲まれつつも、ルナマリアが自分たちが感じた疑問も含め、経緯を話す。
「ふ〜ん…そっちは『金』への執着か…」
机に寄り掛かってディアッカ呟く。
「そしてその前は『食い物』…そしてホルモン異常上昇…」
バラバラだったピースが、導かれるように合わさり始める。
すると、イザークの目にみるみる希望の光が宿った。
敢然と顔を上げ、颯爽と部下に指示を出す。
「今までの事件、もう一度洗い直すぞ!ニコルを呼べ!」
***
それから数時間が経過し、夜も深夜に迫ったころ、アスランは車を走らせていた。
警察から集めた情報と、カガリの落としたインカムの場所。特に事件があった付近から念入りに乱数線を結び付けていった。
一見不規則に見える点も、全て結んでみると、ある程度重なる場所が出てくる。一点に集中するか、もしくは空間になることもあるが、その空間がいわゆる一番犯人の生活圏に値することが多い。
カガリの『食事の場所』として残した地図も、そのある一点から規則性をもって導き出した場所だった。
アスランの向かっている場所がその一点―――『犯人の拠点』だ
アスランはある程度確信を持っていた。
この不可思議な事件が起き始めた時期、それとほぼ同時に目の前に現れた―――『彼ら』
車を止め、その目的地の前に立つ。
『エターナル・プロダクション』
大手芸能プロダクションとは思えないほどひっそりとしている。中は既に電気も消され、人気を感じない。
だが
(奴は来る。もし俺の動きを気にしているなら、必ず何か布石は打ってくるはずだ)
電子ロックはアスランの技術でいとも簡単に破れた。
もし、狙い通りにいかなくとも、電子データ化されていない、彼らの情報が手に入れば…
そう思って、非常口の緑のランプだけが灯る廊下を奥に進むと、そこにうっすらと人影があった。
まるで何かを守るように立ちふさがっている。
スリットの入った黒いドレスから見える、青味を帯びた白い肌
腰まで届く長い髪
あの優しげだった空色の瞳に、今はあの柔らかな色はない
ただ真っ直ぐ…明らかに敵意をもってアスランを映している。
「そうか…君の方が出てきたか。」
アスランは淡々とした口調で言った。
「…『ラクス・クライン』…」
・・・to be
Continued.