Vamp! 〜第一楽章〜
「みんなぁーーーっ!盛り上がってるか!?」
「「「キャァァァーーーーッ!!」」」
ホールの天井に向けて突き上げられた手に、観客が黄色い悲鳴を上げる。
中央に面した大きなステージ。そこに黒を基調とした革の衣装に身を包んだ一人の少女が声援に答える。
シルクのような輝きを持つ柔らかな金の髪。意志の強そうな金の瞳。
一瞬見れば、無邪気な少年のようで、しかし時折見せる金の流し目はハスキーな声と相まって、ユニセックスな倒錯的な色気を醸しだし、ファンの心を掴んで離さない。
「カガリーーーっ!」
「カガリ様ぁぁ〜〜〜〜!!」
少女たちの声援を受け、印象的な金の少女が笑顔で手を振る。そしてその傍らに立つ赤のベースを携えたもうひとりに向かって、更に黄色い歓声が華咲く。
「アレックスーーーーッ!」
「アレックス、こっち向いて!!」
翡翠の瞳がすっと俯く。華やかなステージとは不釣合いな影を帯びた瞳と大人びた表情。決して愛想であっても笑顔を見せない。口数も少なく、クールな性格は決して芸能関係向きではないが、かえってそのアンバランスが絶妙の色気となって、ファンを、特に女性の心を掴んで離さない。
答えがわりにサラッと左手で、その艶めいた髪をかきあげれば、それだけで卒倒するファンまでいる。
右手に持ったベース用のピックを、軽く指の間でクルクルと回してみせる姿は、ラストソングの合図だ。
「今夜はこれで最後の曲だ!みんな―――」
ステージ全面に並べられたマーシャルアンプに軽く片足をかけた金の少女が、観客に向かいウインクしてみせる。
「忘れられない夜にしてやるよ。」
囁くようなハスキーボイスに酔いしれる観客。
やがてはホールの天井を貫かんばかりの声援と拍手が沸き起こった。
「お疲れ様。いいライブだったわよ。」
所属事務所の社長であるマリュー・ラミアスが、戻った二人の肩を叩きながら出迎える。
「うん!今日は・・・いや、今日『も』すごい最高だった!まだまだ歌ってもいいくらいだ!」
今チャートを騒がせている、人気バンド『IF(Infinite Justice)』。大きなタイアップもないまま、ライブハウスからクチコミでその音楽性とビジュアルで人気に火がつき、発表したシングル・ファーストアルバムともオリコンチャートの1位を獲得している。
その人気の立役者。圧倒的な表現力と声量を持つボーカルの『カガリ・ユラ』が楽屋の椅子に座りながら満悦の表情で答える。
「だったら、明日もオフなしで働けるな。明日は16時から雑誌のインタビューが入っているぞ。」
マリューと違って、妥協という言葉を知らない敏腕マネージャーのナタル・バジルールがカガリを鋭い視線で射抜く。
「え〜〜それとライブとは別だろ〜〜〜」
「我が儘言うな、カガリ。ライブに来られなくって、DVD出るまでインタビューだけでも待っているファンがいるんだから。いつもお前も「ファンの気持ちが第一」って言っているだろう。」
二人分持ってきたドリンク持って現れたのは、『IF』のベーシスト。クールで端正なビジュアルと、カガリのボーカルの魅力を最大限引き出す曲を生み出し続けるメイン作曲家である『アレックス・ディノ』―――本名『アスラン』
ドリンクの一つを手渡しながら優しくも諭すように言うと、流石のカガリも黙るしかない。
そんな二人をマリューが苦笑して見守る。
この二人のバンドをスカウトし、メジャーデビューさせた時からの付き合いだが、最初に出会った頃から、元気な妹と物静かで妹思いの兄、のような関係だと思っていた。
確かにマリューの想像通り、二人は幼馴染だという。だが、デビューにあたって過去のことを話そうとすると、二人は口を噤む。
―――「どうか、それだけは勘弁してください。特に、カガリのことは。」
困惑し、悩むカガリ以上にアスランはきっぱりと言い放った。
普段物静かなアスランとはまるで別人のようで、流石のマリューも一瞬足がすくむような威圧感を受けた。
―――「でもね、一応そういう決まりなの。何かあったとき、ご家族にご連絡とか、保証のこととか知らせなければならないし・・・。カガリさん、わかってくれるわよね?」
マリューが宥めるように言った。だが次の瞬間、アスランから放たれた鋭い敵意ともとれるような視線に表情が凍りつく。まるでカガリに近づくものは容赦しないと言わんばかりのアスランの様子に、それまでの印象が一気に変わった。
兄妹ではなく・・・「姫と彼女を守ろうとする騎士」のそれだと。
―――「アスランは「このままでいい」って言ったけど・・・私たちの曲を待っていてくれる人がいるんだったら、私はやっぱりデビューしたい。そのために必要なら、我慢しなきゃならないことだってあるさ!」
―――「しかし―――」
―――「大丈夫だ!「ファンの気持ちが第一」だ!そのためなら私は大丈夫だ!」
カガリの笑顔に後押しされて、渋々頷くアスラン。
ただし、いくつかの条件を必要とすることをアスランは提示した。
・『仕事は基本午後。なるべく午前中には入れない。もし入れるとしても屋内であること。』
・『アスランの本名は絶対明かさず、『アレックス・ディノ』として通すこと。』
本名を隠すことは芸能界であれば不思議なことではない。だが重すぎる彼らの素性と過去を知ったマリューは自ずと条件を飲まざるを得なかった。
こうした過程の元、『IF』はメジャーデビューを飾り、マリューの予想を遥かに超えた実力を見せつけ、一躍ミュージックシーンのTOPへと躍り出だした。
「出待ちのファンがまだ通用口塞いでます。非常口の方に車回しますんで、そちらへお願いしていいですか?」
スタッフ証をつけた青年、サイ・アーガイルが楽屋のドアを開け、すまなそうにマリューに伝える。
「こう毎度まいど困ったものだ。」
ナタルが額に手を当ててため息をつく。
「でも仕方ないじゃない。私たちの看板スターを守るのは私たちの仕事でしょ。」
マリューに慰められるも、ナタルはもうひとつ深いため息をついた。
「今日のライブは良かったな♪ すごい盛り上がって!」
迎えのハイヤーの後部座席でカガリが「う〜〜ん」と背を伸ばしながら言う。
「あぁ・・・ところでカガリ、体の方は大丈夫なのか?「昨日の今日」で。」
隣に座るアスランがそっと耳元へ囁く。
「あ、うん・・・とりあえず「飲めた」から昨日よりは「全然いい」ぞ。あとは帰ったらいつもの『アスラン特製ジュース』があれば完璧だ!」
「そうか、それならいいが、調子がいいからといって暴走したらまた辛くなるぞ。とにかく今夜は打ち上げも早めに切り上げてウチへ・・・」
そう言いかけたアスランの肩に、コトリとカガリの頭が落ちる。
元気いっぱいからコトっと眠りに落ちるあたり、まるで幼児のようだ。
(だからこそ、俺が付いていてやらないと・・・)
肩にかかる小さな寝息が心地よい。
眠りに落ちる姫君を守る騎士のごとく、アスランは苦笑しながらカガリの肩を抱いた。
・・・to
be Continued.
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>さて、始まりました。久々PCサイトでのオリジナルSSでございます!
『バンドもの』というあたり、実はザラさんは音楽関係苦手、という公式設定がありますが、華麗にスルーさせていただきました(笑)
バンド名も本当は『Justice』にしたかったんですが、本当にこういう名前のバンドがあるのでちょっと変更。あとタイトルの『Vamp!』については、あの超人気ロックバンドとは全くもって関係ありません。
ただ、カガリたんのセリフはあの有名な女性漫画から引用させていただきましたv
カガリたんが言ったらかっこいいだろうな〜v
とりあえず地味に話進めていこうと思いますので、よろしくお願いします<(_
_)>