「ふぅ

軽くため息をついて目の前のワイングラスをくゆらせれば、深い紫の薔薇が咲くようにグラスの中に絵を描いた。

「どうしたの?ため息なんかついちゃって。折角君のためのパーティーでもあるのに。」

そう言って背後から肩を叩いてきたのは、親友のキラ―――今やZAFT軍准将、その人である。

「いや、気を悪くしたならすまなかったな。ちょっと考え事をしていて…」

「考え事、ねぇ…」

意を含んだようにやはり片手に携えた白ワインを軽く含んでキラが笑った。

「しょうがないでしょ?カガリがいないのは。そりゃ折角の君の誕生日だもん。隣にいて欲しいのは僕じゃないってことくらい分かるよ?」

「いや、そういうわけじゃなく―――」

「あー!やっぱり。口早に否定するときは、本当のこと言われた時の君の癖。何年付き合っていると思っているのさ。」

「…」

尋問されているような気がして、気まずい空気をやり過ごすため、こちらも一口ワインを含む。酸味より早く渋みが舌に残って、余計に便が立たない。

「…確かに彼女にいて欲しいと思う。でもそれは俺のエゴだ。いま彼女は国際会議でそれどころじゃない。」

また今年は随分いい時を狙ってくれたものだ。よりによって自分の誕生日に大事な彼女が別の事由に束縛されてしまった。

これが別の人物だったら、何とか理由を付けてこちらで別日を画策指定したところだが、相手は世界国家だ。自分のエゴを通していい相手ではない。

「そうだよ。君だけじゃない、国際会議ってことは、イコール僕だってラクスがいないんだもん。寂しいのは君だけじゃないんだからね。君が本当はカガリの護衛に付きたかったのと同じくらい、僕だってラクスの護衛をしたかったよ?シン君とルナマリアさんに頼まないでさ。」

そう言ってグラスに残っていた白ワインを一気に呷るキラ。ついこの前までジュースを飲んでいる方が似合っていた彼も、すっかりアルコールを持つ手が慣れていた。互いにそれだけ年月を重ねた、ということが、こんな些細なことで改めて思い知らされる。

ラクスが隣にいないと居心地が悪いのか、キラも珍しく多弁になっている。

「おかげでめでたく地球及びプラント間の国家軍事機構会議は、こうして君がオーブ代表としてプラントに来てくれたわけでしょ?凄いよね、アスラン。オーブ軍准将どころか、もう大将だって言っているようなもんじゃない。」

「そんなんじゃないよ。たまたま日程が国際会議と重なって、カガリが双方に出向くことができないから、代役を頼まれただけだ。」

こう言って再びグラスを空ける。喉に渋みがこびりつく。

「でもこれってカガリの配慮でしょ?君、なかなかプラントに戻ってこないんだもの。でもよかったじゃない。友達にだって会えたし。」

確かに。この日程が決まったとき、カガリは言った。

 

(―――「たまにはゆっくりして来いよ。キラやZAFTの友人たちにも会えるし、それに…ご両親や戦友の墓参りだって、暫くしていないだろ?」)

 

そう言って後腐れもなく送り出してくれた彼女…まさか、俺の誕生日を忘れた訳じゃ…

(いや、ありえる…)

この忙しさで、カレンダーは秒刻み。それをタイトにこなしていく彼女に、俺の誕生日なんて私的なものなど忙殺されていてもおかしくない。

そう脳裏に浮かんだ瞬間、愕然としてきた。

「そんな…」

「あれあれ?どうしたの?顔色悪いよ。飲み過ぎた?」

キラが心配げに覗き込んでくれる。慌てて頭を振った。

「いや、大丈夫だ。」

「もう、折角のパーティーなんだから、もっと楽しく―――って、君には難しいよね。」

そう言っておどけてみせるキラ。

無意識に天井まで届くガラス窓にもたれかかりながら背後を見やれば、外はすっかり暗くなっている。設定時間的には夜も更けてきたころだ。

夜は理性を抑え込み、感情を連れてくる、と、どこかの哲学者が言っていた。加えてアルコールの心地よい酔いも手伝ってか、キラが饒舌になった。

「ところでさ、君たちはどこまで進んでいるの?プロポーズとか、もうしたの?」

「な!何を急に言い出すんだ!?お前には関係ないだろう?」

だが焦る俺を尻目に、キラは意味ありげな視線を俺に向ける。

「あるよ。僕の大事な妹だもん。妹の幸せを願うのが兄じゃない。」

「妹じゃなく姉だろう? ともかくそれは分かるが、今この話をしなくたって―――」

「だって君、こうでもしないと口開かないじゃない。…折角のパーティーで皆集まってくれているのにさ。」

だからって何故に恋バナをコイツとしなきゃいけないんだと思っていたら、別口から助っ人が窮地を救ってくれた。

「おい!貴様、折角の貴様の誕生パーティーだというのに、そんな端っこで何しょぼくれた顔をしているんだ。」

シャンパングラス片手に、珍しくそのプラチナアブロンドに負けない白い肌を紅潮させながら、イザークが絡んできた。

「あーあー、イザーク、飲みすぎんなって。幾ら愛しのアスランと久しぶりに対面できたからって♪」

「な、なにを言うかっ!貴様ぁあああ!///

イザークとディアッカのじゃれ合いも久し振りだ。何だかアカデミー時代に戻ったようで、どこかほっとする。

「『俺の』ではなく、会議の後のコンベンションパーティーだろう?」

「ふんっ、俺もそのつもりなのだが、コイツが勝手に

(―――「アスランの誕生日だから、お祝いしてあげようよ!オーブから軍資金も貰っているし♪」)

等というから、仕方なく付き合ってやっているだけだ!」

指先でびしっとキラを捕らえながら、捲し立てるイザーク。キラはキョトンとした顔のまま気にしない。現在のZAFTの相互関係図画よく見てとれた。これならキラも大丈夫だろう。

俺の表情が緩んだのを見計らってか、

「丁度良かった!アスランを慕う友人が来てくれたところで、披露しようと思っていたんだ!」

キラが何やらスタッフに声をかけている。既にわきまえていたようで、一礼したスタッフが、何やらホールに運び入れてきた。照明が抑えられた室内に、揺れるキャンドルの淡い灯りがこちらに近づいてくる。

「これは…」

思わず目を見張る。

一辺が50cmはあろうか、色鮮やかなフルーツに覆われたスクエアのデコレーションケーキが銀器の上に乗って運ばれてきた。キラが得意気に言ってみせる。

「もちろん、君のために用意していたバースデーケーキだよ♪ アスラン、キャンドル吹き消してよ。」

「いいよ、俺は…子供じゃあるまいし…」

こういう気恥ずかしいのは子供のころから苦手だ。誰よりそれを知っているはずなのに、何故か今夜のキラは押しが強い。

「駄目だよ。ラクスにちゃんと証拠写真撮っておくように言われているんだもん。」

そう言って両肩を後ろから押されて、無理矢理大型のケーキの前に立たされた。ラクスがバックについていると強気にもなれるのだろう。

それにしても明るい。大体キャンドルの数が尋常じゃない。生クリームの白い色に反射して、ケーキ全体が間接照明になっているようだ。改めてキャンドルの数を数えてみると…

「キラ…お前、この数いい加減じゃないか。俺はこんなに歳は取っていないぞ。」

「知ってるよ。同い年だもん。アスランがこんなに歳をとってたら僕だってお爺さんだよ。そうじゃなくって―――」

キラは改めて集まった参加者の顔を見まわしてから、俺に向き直った。

「このキャンドルはね、ここにいない人の分。カガリがね「当日行くことのできない人の分も君へのお祝いってことで添えてもらってくれ」って。ちゃんと数を数えてくれていたんだよ? まずは、君のご両親、そして戦友のニコルさんとラスティさんとミゲルさんとハイネさん。あとシン君とルナマリアさんはじめ元ミネルバの乗員たちと、ミーアさんと、バルトフェルドさんやマリューさん達AAのメンバーもいるし…あ、もちろんラクスの分もね♪」

11人の名を伝えてくれるキラ。

猛然と刺されているそれが、俺と彼らの繋がり…今は亡き人も、この場にいない人も。

この明るさが俺の生きてきた証―――

 

(…そうか、俺にはこんなに繋がりがあったんだ…)

 

人見知りもあって、あまり人付き合いがなく、それ故こうして誕生日を祝ってくれる仲間なんて極僅かだと思っていたのに。想像できないほどの明るさが、俺の命そのもの。

それを教えてくれたのは―――

 

(カガリ…また君にこうして大事なことを教えてもらえたな。)

 

隣にいたら、彼女は何と言ってくれるだろうか。きっと早くキャンドルを吹き消せよ、と笑顔でせかすに違いない。

少し照れ臭いが、皆の思いを受け取って、一息大きく吸い込んで「フー」っと勢い付けて吹き消していく。

「おめでとうアスラン!」

全ての炎…思いを受け取ると、キラの歓声にその場の皆が拍手をくれた。

まさかこんな日が来るとは思わなかった。

最初の大戦でジェネシスと共に、いや、キラとの死闘の時に既に尽きていたかもしれない命だったのに。

そんな俺の窮地をいつも救ってくれたのは、彼女―――そうしてふと気づく。

 

「…そういえば、キャンドルの中に、「カガリの分」って言わなかったな…」

 

 

***

 

 

パーティーも余韻を残しつつお開きとなった。

楽しむことはできたが、やはりこういう場は苦手な俺は、挨拶だけ済ませると、まだ居残って談笑する人垣を分けていち早くこの場を抜けようとする。と―――

「アスラン、これ!」

後ろからキラが走ってきて、一枚のカードを手渡された。

「これは?」

「ホテルのキー。君は今日、このホテルの部屋に泊まってね。」

「いや、俺には指定されたホテルが―――」

「だーめ!そこに行かないと絶対後悔するよ。大事なものがそこにあるから。テーブルの上見てね!」

「は?」

「行けばわかるから。じゃ、僕はちょっとイザークさんの様子見てくるから。一番盛り上がっていて悪酔いしちゃったみたいでさ!」

「え、あ、ちょっと―――!」

「ちゃんと行ってねー!また今度会おうねー!」

そう言ってキラはあっという間に走り去っていった。

 

 

***

 

 

タクシーに揺られること数分、指定されたホテルはアププリウス市内の中でも最上級のホテルだ。

フロントでキーを見せれば、心得たようにベルボーイが案内してくれる。無言のままエレベーターに乗せられ、ついた先は最上階。

「スイートじゃないか…」

二部屋分はあろうか、敷き詰められた白い羽のような絨毯に、こげ茶の革のゆったりとしたソファーと白い大理石のローテーブル。壁は一面アクリルの窓。仄暗い間接照明が見える奥の部屋はベッドルームだろう。

キラの奴、誕生日だからってわざわざ奮発したのだろうか。

余計なことを…一人きりでこんな広い部屋にいても仕方ないだろう。

 

(あはは!見ろよ、アスラン!凄い、街が一望できるぞ!)

 

彼女が一緒だったら、飛んで行って一面の窓ガラスに張り付きながら、夜景を見渡し楽しみそうだ。一緒だったら、その声を聴けるだけで誕生日としては十分満足なのに…

「今日はひとしきり、部屋が広く感じるな…」

タイを緩めてソファーに深々と座る。

すると目の前のテーブルに、一通の白い封書が置かれていた。

「そういえば、キラが言っていたのって…」

おもむろに備え付けられたペーパーナイフでカットする。と

「―――!この香りは…」

封から立ち込める鼻腔をくすぐる淡いカサブランカ。慌てて取り出せば、カードが一枚。

 



HAPPY BIRTHDAY アスラン!

 今日お前は沢山の人に祝ってもらっているだろうな。

 今は届かない距離にいるけれど、私からもお祝いだ。

 

                  ―――カガリ 』

 

見慣れた文字に加え、カードから香るのは、彼女がいつも使っている香水の香り。

「そうか、キャンドルの中に君の分がなかったのは・・・」

ちゃんとキラに頼んでプレゼントを用意してくれていたのか。

ソファーのすぐ隣に、カサブランカも似た香りを纏う君が、微笑んで座っているのが見える。

 

(もっとちゃんと、中身を見てくれよ?)

 

そう言われた気がして探ってみれば、封筒の中にはまだ何かが。

カサカサと探し出してみれば、手描きのガードが数枚。

「これは・・・え?『肩たたき券』?」

他にも探れば『マッサージ券』だの『お手伝い券』だの「無期限使用可!」の赤字と共に封入されていた。

「ぷ…あはは!」

思わず笑いがこぼれてしまう。

まるで子供が親の誕生日にあげるプレゼントみたいだ。

 

(だってアスランが欲しいものって何だかわからなかったからさ。すっごく悩んだんだぞ!)

 

隣で懸命に言い訳している彼女の表情が思い浮かぶ。

全て手描きのそれは、忙しい仕事の合間に、懸命に考えて作ってくれたものだろう。

ケーキに飾るキャンドルも、一人一人伝手を頼りながらも数を数えてくれて。

プラントの懐かしい人たちに再会できるきっかけを与えてくれて。

家族がない俺に、彼女はこうして沢山の愛情があることを気づかせてくれて…

 

無意識に立ち上がって、窓辺から空を眺める。

暗い空に星のように見えるのは、砂時計の反対側で暮らす人々の家の灯り。

まるで今日のバースデーケーキのように、一つ一つが生きている証の灯。

その空の、もっと遠くで青く輝く光の中にいる彼女。

 

「カガリ…君に―――」

 

(―――会いたい!)

 

堪らなくなって俺はカードを内ポケットに捻じ込むと、スーツケースをひったくり、そのままホテルを飛び出した。

(今はプラント、アプリリウス時刻で午後10時過ぎ。国際会議は日程的に午前中に終了しているから、地球―――オーブならまだ午後に差し掛かったばかりのはず。なら、今から出れば―――!)

「ザラ准将!?どこへ―――」

宇宙港で停泊中のクサナギに飛び込んだ俺を見て、待機中の下士官が慌てて立ち上がり敬礼する。

俺は構わずパイロットスーツを取り出すと、そのまま格納庫に向かった。

「一足先に戻る。君たちは予定時刻まで待機の上帰還してくれ!」

「は!?准将、待ってくださ―――」

構わずハッチを開けさせ、飛び出す。

「アスラン・ザラ、インフィニット・ジャスティス、出る!」

 

 

***

 

 

アスハ邸では、一足早く国際会議を終えたカガリが既に帰宅していた。

「あ〜ぁ。折角地球に来たんだから、ラクスも寄っていってくれればいいのに…」

 

(―――「折角ですが、取り急ぎの要件がありまして。このままプラントに戻りますわ。…お二人の邪魔にはなりたくありませんしv」)

 

何か意味ありげに微笑んで、さっさと行ってしまった。まぁいつでも私的に回線をつないで話はしているが。

今夜はアスランもいない…誕生日に一緒に過ごせないのは寂しいが、その分キラと散々打ち合わせて設定したパーティーだ。楽しんでくれているだろうか…

そう思って自分に納得させるよう言い聞かせていたら、急にエマージェンシーが鳴り出した。

慌てて携帯を取り出す。

<姫様、エマージェンシーコールが!>

「え?軍令部は!?どこから攻撃してきた!?」

<違います!その、友軍機信号は出ているんですが、それが―――>

瞬間、通信が途切れ、代わりにゴォオオ!という爆音がカガリの耳をつんざくように近づいてくる。

慌てて窓を開けてテラスから身を乗り出せば、上空から真っすぐ落ちて…いや、降下してきたのは見慣れた赤い機体。

「はぁ!?インフィニット・ジャスティス!?」

顎が外れるかと思う程、ポカンと大口開けていたカガリが<ズシン!>と身体に伝わる機体の着陸の振動に我に帰る。そしてコクピッドが開き現れたのは

「カガリ!」

そのままテラスに飛び込んで、抱きしめられる。

「アスラン!?ちょ、お前、どうして!?!?今日はプラントにいるんじゃ―――」

「会いたくなったから…」

「はぁ?」

「我慢できなくて…」

「はぁ。」

顔をしっかり首筋に埋め、時折頬をすり寄らせながら耳元で必死に囁くように答える彼。

よしよし、と落ち着かせるようにすっかり広くなった背中を摩り、彼の呼吸がようやく落ち着いたところで問いただす。

「一体どうしてこうなったんだ? お前は向こうで会議の後、キラ達から祝ってもらってたはずだろう?」

「あぁ、軍資金をカガリから貰ったって聞いていた。」

「そのお前がなんで今ここにいるんだ?」

「どうしても今日中にお願いしたかったから。」

必死な表情と共に、そういって見せたのは、握りしめてもはやグチャグチャになっている―――彼への『プレゼント』。

「あ、あぁ、それか。―――っていうか、使用期限は無期限、って書いておいただろ?今日じゃなくってもいいじゃないか。」

「いや、どうしても今日頼みたいんだ。」

「頼むって…肩たたきか?それともマッサージか?」

「これ…」

差し出されたのは『お手伝い券』

「うん。お手伝いか。で、お前は何を手伝ってほしいんだ?」

「俺の―――」

ワインの酔いが今頃効いてきたのか。跳ね上がる心臓と火照る頬。そして熱を帯びた翡翠が真っすぐ金眼を捕らえた。

「俺の人生を、手伝ってください。」

「…は?」

「俺が生きるのを、君に手伝ってほしいんだ。これからずっと…」

「それって、つまり…」

コクリと頷く彼の真意を悟ったカガリ。たちまち頬が紅潮してくるのを抑えようとするのか、頭を振った彼女が、胸を押さえて一呼吸すると、呆れたように彼を見上げた。

「…お前、それを言いたいがために、わざわざプラントからすっ飛んで帰ってきたのか?」

「今日は、俺の誕生日だから、今日なら君は断れないかな、と思って。」

「…」

一瞬呆気にとられたカガリ。だが直ぐに「アハハ!」と大声で笑いだした。

そんな彼女を見てアスランも表情が緩む。

あの、プラントのホテルのソファーで夢見た彼女がそのまま目の前にいてくれている。

ひとしきり笑った後、カガリが腰に手を当てて言って聞かせた。

「お前が生きるの、今まで何回助けたと思っているんだよ。」

「…あ。」

ジェネシスを止めるための自爆から救い出し、今度はジブラルタルから脱走してきたところを救い出し…

「今更だろ?」

「…ごめん///

決まりが悪そうに視線を外しながら、頬を真っ赤にするアスラン。

そんな彼から改めてカードを受け取り、しげしげとそれを眺めながら、彼女は微笑む。

「しかし、まさかお手伝い券がこんな風に使われるとはな。」

「それで、その…使用許可…は?」

上目遣いにおずおずと尋ねてくる彼。

高鳴る鼓動…こんなの初任務の時だってなかった。

そんな彼女はくるりと振り返って金髪を夜風に揺らす。そしてフワリと香ってくるカサブランカ。

背中で彼女が囁いた。

「券の使用、了解した。だから今度は、その、お前も…///

「カガリ?」

顔だけ彼に向けて言う。その頬はもう蕩けるほど真っ赤になりながら。

「わ、私の人生も、手伝ってくれるか?///

「もちろんだ。」

その答えに満開の笑顔を咲きほこらせ、胸に飛び込んでくるのは夢じゃない本物の彼女で。

「誕生日、おめでとう。アスラン。」

「最高のプレゼントをありがとう、カガリ。」

カサブランカの甘い香りと共に精一杯、彼女の香りと生きている証の温もりを抱きしめながら、思いの丈を全て込めて口づけた。

 

 

 

・・・Fin.