〜Present〜 side:B ――10月29日、 AM7:00―― ―――目覚めを促す、時計のアラーム音が聴こえる…。 アスランはまだ、はっきりしない意識からゆっくりと目覚めると、時計のアラームを止めた。 …が、何か小うるさい音が玄関から聴こえてくる。 (…チャイム? 誰だ? 朝っぱらから…) さっきから続く“ピンポンリレー”の応酬に、ぼんやりしながらアスランがドアを開けると、そこに――― 「おっはよー! アスラン! …って、まだ寝てたのかよ…遅いぞ!!」 「…か、カガリ!?」 玄関先には自分と対照的に、朝から元気なカガリの姿が飛び込んでくる。 「何? こんな朝早くから…?」 「お前こそ、何言ってるんだ!? 昨日ちゃんとメール入れただろ! 見なかったのか?」 不満げなカガリの声に、昨夜の記憶を辿る… (…『メール』? …そんなの、入ってたっけ…?) 念のため…確認してみるが、モニターには何も映っていない…。 「…何にも入っていないぞ…。」 「え〜っ!? 嘘だろ〜!!」 アスランに並んで、カガリも画面を覗きこむが…そこには『着信履歴なし』のメッセージ――― 「なんだよ〜! 折角一番に祝って、『プレゼント』も贈ってやったのに…。」 「『プレゼント』?」 何のことだかさっぱり状況の読めないアスランに、カガリは再度、といった様子で話す。 「何いってるんだよ! 今日お前の『誕生日』だろ!?」 (…そういえば…) 元々そういったことに興味を持つような性格ではなかった為、すっかり忘れていた…。 それにしてもカガリの言う『プレゼント』とは、一体――― 「じゃあ、改めて言ってやる。『これから24時間、お前の“手伝い”をしてやる!』」 「…『手伝い』?」 「そう!お前、色々忙しいだろ? だからお前のこと、『手伝って』やろうと思ってさ!!」 ――10月28日、 PM3:20―― 「なぁ、キラ。…アスランって、何か欲しいものないのかな?」 カガリにはアスランのことで、知らないことはたくさんある。 相談するのは、やはり、彼を一番よく知っている人物――― 『う〜ん、好きなのはMC機器とか、よくいじってるけど…何か最新のがあれば喜ぶんじゃない?』 キラからのアドバイスは確かだが…正直これでは無理がある…。 彼が今いるところは、その『最新機器』が溢れる『モルゲンレーテ』なのだから…。 「他には?…何かもっと簡単そうなヤツ…」 『そう言われても…最近忙しそうだから、あんまり話聴いてないし…』 (…『忙しい』…?) 何かがカガリの中で閃いた――― 「サンキュー、キラ! なんかいい事思いついた!」 『ちょ、ちょっと、カガリ―――』 あっさりと電話を切ると、カガリは自分のアイディアに一人微笑む…。 ――10月29日、 PM8:00―― 仕事から自宅に戻ろうとしたアスランが、いつもと様子が違っている雰囲気に気が付く。 (まさか…!) 慌ててドアを開けると… 普段は“真っ暗”なはずの部屋に“明かり”…“肌寒い”はずの部屋が“暖かい”… すると、奥から 「おかえりー!」 今朝会った時と、変わらず元気なカガリの声――― 思わず黙って立ちすくむ…。 「…何やってるんだよ。家に帰ったら、ちゃんと挨拶くらいするもんだろ!?」 「…あ…『ただいま』…。」 呆然としているアスランに、カガリが再度、笑顔で声を掛ける。 「うん。『お帰り』! アスラン!」 『誰かが待っていてくれる―――』 こんな感覚…忘れていた… 何時も家には『誰も』いない… 忙しい『父』と『母』… それで、よくキラの家に行ったっけ… いつも優しかったキラの母… 自分の面倒までよく見てくれたっけ… 「〜〜何時まで、ボーっとしてるんだよ…。自分の家だろ!? 早く上がれよ!」 カガリの声に我に帰る。 「早くこっち来いよ! 夕飯食べてないだろ? 作ってあるんだ!」 ふと、何故か懐かしい匂いがする…目に入ったものは… 「ほら、『ロールキャベツ』! お前、好きだったんだろ? 『ヤマトのお母さん』に教えてもらって作ったんだ!」 キラから聞いた事がある…カガリが自分の『育ての親』―――『ヤマト夫妻』をプラントにいるキラに代わって、時々様子を見に行ってくれている、という事を―――大方キラか、母親から自分の好物を聞いて―――作ってくれたのか―――『俺の為』に―――? 多少形は崩れているが…家事などやったことのないはずであろう『姫君』が本当に一人で作れたのか… 恐る恐る、口に運んでみる… 「…美味しい…」 「そっか!? よかった〜!!」 流石に『あの味』と同じ、とまではいかないが、目の前の笑顔でそれは十分、帳消しになる。 喜ぶカガリに目をとられていたが、やがて『ある事』にアスランは気づく… 「なぁ、カガリ…」 「ん? 何だ?」 「妙に、部屋が狭い気がするんだが…」 何時も開け放したままの部屋が、パーテンションでしっかりと仕切られている…。 「なっ、何でもないよ。気のせいだろ…。」 笑ってごまかしているようだが…どうにも顔がひきつっている。 (…嘘のつけない顔だ…まぁ、大方の予想はつくが…) そう思いつつ、アスランはカガリの横を通ろうとする。 「ちょ、ちょっと待ってって!」 慌ててカガリがアスランの腕を引っ張り、静止しようとするが――― ――10月29日、 PM8:30―― 「…で、端から説明してくれないか…。」 あきれ果てた表情で、アスランが笑顔の固まったままのカガリを促す… 「う〜んと、まず、『掃除』しようと思ったら…机の上にあった…その『MCユニット』…落っことして…それ片付けようと思ったら…花瓶に引っかかっちゃって…それから…『洗濯』してたんだけど…雨降ってきちゃったから…部屋に放り込んで…あっ、ちゃんと畳もうとは思ってたんだぞ!…って…片付けなきゃ…とは思ってたんだが…『夕飯』作らなきゃ…って思って…使い慣れないから…その…キッチンで…お皿探してたら…落っことしちゃって…」 「…もういい…。」 部屋の惨状を見ながら、今日残りの時間、この片付けに追われることになるのかと思うと、アスランはウンザリとした表情で、深いため息をついた…。 ――10月29日、 PM11:55―― 「はぁ〜ようやくおわった〜!」 「…誰の所為だと、思ってるんだよ…。」 満足顔のカガリを尻目に、アスランが呟くと… 「その…悪かったな…。」 憮然としながらも、落ち込んだ表情をしながらカガリが謝る。 「…折角の『誕生日』だったのに…こんな…ことに…なっちゃって…。」 その横顔をアスランはじっと眺めていたが…やがて、 「クックックッ…」 「何が可笑しいんだよ!」 急に笑い出したアスランに、今度はカガリが怒り出す。 「いや、まさか自分の『誕生日』に『大掃除』するなんて…誰も体験しないだろう? 普通。」 「…悪かったな。普通じゃなくて…」 不満げなカガリとは逆に、アスランはカガリの今日してくれたことには、腹が立つことはなかった。 自分の見えないところで、自分のために、慣れないことで悪戦苦闘しているカガリ――― むしろ、こうして自分を思ってくれるカガリに、改めて愛情を感じる。 「…プレゼントの『手伝い』は、『24時間以内』なら『有効』なんだな?」 急にアスランから『プレゼント』の話を切り出され、カガリが驚く。 「うん…。そうだけど…?」 「なら、『カガリにしか』出来ない『手伝って』欲しいことがあるんだが…。」 「何だ!? 私に出来ることなら、何でもするぞ!…って…」 急なアスランからの『手伝い』の申し出に、ようやく役に立てると思って、嬉しさを隠せなかったカガリだが、 ―――時間は―――PM11:59――― 「おい、この時間で何ができ―――」 振り向いたかがりの目の前には、直ぐにアスランの顔―――そして――― (――――!!) …何が起きたかわからず、大きな目を見開いたままのカガリの唇は、アスランのそれに重ねられていた…。 ―― 一瞬だったのか…それとも長かったのか… 閉じられていた翠色の目をゆっくりと開きながら、アスランは静かに唇を離す…。 「なっ、何するんだよ! て、『手伝い』って…」 耳まで真っ赤にしながら問い詰めるカガリに、余裕の笑顔でアスランは答える。 「だって、ひとりじゃ『キス』は出来ないだろう? …だから『手伝って』もらったんだろ?」 「〜〜〜っっ!!」 何も言い返せないカガリの横で、時計が――AM0:00-――を指した。 「…そういえば―――」 まだ頬を紅潮させたカガリの横で、ふと思い出したように、アスランが言う。 「…お前今朝、『プレゼント』くれるって言ったとき、なんていってたっけ?」 我に帰って、カガリが答える。 「だから…言ったじゃないか!…『これから24時間お前の“手伝い”してやる』って…何度も言わせるな!」 (…大体、時間過ぎちゃったじゃないか…!) そう呟くカガリの顔を、いたずらっぽい目でアスランが覗き込む。 「じゃあ聞くが、…お前今日俺にそれを始めて言ったのは何時だ?」 「それは、朝着てからだから――“7時頃”じゃなかったか?」 それを聞いたアスランの顔が急に、小悪魔のような笑みを浮かべる――― 「…じゃぁ、『その時』から、『24時間』という事なら…まだ『期限』は『有効』な訳だ…。」 「はぁ??」 アスランの言っている意味が理解できないでいるカガリに、アスランが近づくと、軽々とカガリを抱き上げる――― まだ頭の中が“?”なカガリが、抵抗する理由も見つからずに、連れて行かれた先は――― 「ま…まさか…アスラン…?」 「ご名答。」 そのままベッドに投げ出されたカガリに覆い被さるように、再度アスランが唇を重ねる…。 「ちょっ…待てって!…アスラ…んっ!」 暴れ、抵抗するカガリに、アスランが囁く。 「さっきと同じ『カガリにしか』できない、『手伝い』の続き…。」 「〜〜〜っっ!!」 「『愛すること』は一人でも出来るけど、『愛し合うこと』は一人じゃできないよ…。」 「そんな、言い訳…」 簡単に押さえつけられるカガリ…じきにその抵抗もささやかなものとなっていく――― 「…なんで、こうなるんだよ…。」 まだ、息遣いが荒い… 涙を溜め、頬を紅潮させたままのカガリが、顔を見せたくないとでもいうように、アスランに白い背中を向ける。 普段は(自分では自覚はなさそうだが)甘え上手なのに…『女』として自分から甘えてくることはカガリは殆どない。 (…まったく…こういうところは『意地っ張り』なんだよな…) 苦笑混じりに、アスランはカガリを「こっち」とばかりに抱き寄せる…。 殆ど抵抗なく、アスランに引き寄せられると、顔を胸にうずめながら「…馬鹿…」と苦し紛れの言い訳…。 (まぁ、そこが『可愛い』ところでもあるんだけど…) 促してやれば、こうして甘える仕草も出来るのに… そんなカガリを知っているのは、『自分』だけ――― (やっぱり、お前自身がいてくれることが、俺にとってなによりの『プレゼント』なんだから…) そう思いながら覗き込むと、カガリは先程とはうって変わって、甘えるようにアスランに身体を預け、静かな眠りに落ちていた…。 (…『最高のプレゼント』をありがとう…) 心の中でそう呟くと、アスランは眠るカガリの頬に、小さなキスを落とした――― ・・・fin. ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― >…まお様はじめ、全国のアスカガスキーさんを敵に回してしまった…(汗 『side:A』とえらい違いだ…アスラン… 言い訳:カガリって本編や、『ASTRAY』(←読んでなかったらごめんなさいm(__)m)見る限り、 絶対自分が『女の子』であることを認めようとしてない、ように見えるんです…。 多分、ロンド(『ASTRAY』に出て来る、カガリと並んでアスハ首長家の2人きりの跡取) のことや、オーブを将来背負って立たなければならない…だから男に負けないよう、 女であることを忘れて、戦っている(それが男言葉だったり、前戦に出たがったり…)。 でも、そこここでやっぱり、何気に『女の子』らしさ(本人は自覚なし!)を見せちゃったり…。 (異性としてそんなところに気が付いてたのは、アスランだったりするもんだからこうなった。) ああ見えて気ぃ使い屋さんだったりするんで、私的に密かな“願い”として、『甘え』させて あげたっかったんです…。ただ、それだけです…はい。 (品のないオチになったことは深く反省中…落ち込み…(T_T) >Nami
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