Scheherazade 〜vol.4〜
(…何処だ…?…此処…なんか…『冷たい』…)
「あ、目が覚めたみたいよ。」
「大丈夫ですの?」
シェラザードが気が付くと、そこは殆どロクに日も差さないような、剥き出しの石の床の―――『牢獄』
「…此処は何処だ?…それに、お前たちは―――」
シェラザードの問いに、栗色の髪の少女が答える。
「私は『ミリアリア』――『ミリアリア・ハウ』よ。」
「わたくしは『ラクス・クライン』ですわ。」
長いピンクの髪の少女も答える。
そして、もう一人、膝を抱えるようにして座りながら石壁を見つめたままの金髪の少女。
「お前は?」
シェラザードの問いに、焦点の合わない目で、その少女は呟きだした。
「…ステラ…「ネオと一緒がいい」って言った…でも…「行きたくない」って言ったら…ネオ…もっと悲しそうな顔した…だから…ステラ…ここにきた…」
「私も、『王の夜伽』ってお達しがあった時、逃げ出したかった…でも…行かなければ…家族が殺されるって言うから…。」
ミリアリアが悲しそうな表情で、呟いた。
「わたくしもですわ…お父様は必死に抵抗してくださったんですけれど…無理やり、馬車で…」
ラクスも視線を落とす。
シェラザードは不信に思った。
(あのアスランが、そんな無理やり…なんて…)
「で、皆、国王の『夜伽』したのか?」
シェラザードの言葉に、全員が首を振る。
「此処に付いた早々よ…『王は今不在につき、此処でお待ちを』って言われて、案内されたら、無理やり鎖につながれて、直ぐ此処に―――。」
ミリアリアが顔を伏せる。
ラクスもステラも何も言わない。
多分、同じ様につれてこられたのだろう。
「それにしても何で、こんな女の子ばかり―――」
言いかけてシェラザードは、ハッとする。
―――『夜伽』を勤めた生娘を『殺す』
(…いや、『殺された』んじゃない! 此処に閉じ込めていたんだ! ……でも何故……)
シェラザードは必死に考えた。
* * *
―――その頃
「何をするんだ! デュランダル! 此処の鍵を外せ!!」
王室のドアを叩くアスラン。だが、廊下の向こうから、答えはなかった。
(くそっ! こうしている間にもシェラザードは――!!)
眉間に皺を寄せ、悔しげに窓際の壁を叩くアスラン。
―――と、そこへ
<コツン、コツン>
アスランが窓を開くと、1羽の鳥が舞い降りていた。
(…あれは…『ルージュ』?)
シェラザードの言葉を思い出す。
―――「…まぁ…定期連絡便…ってトコかな?」
案の定、足に手紙がついている。
アスランはその手紙を急いで外し、中を読む。
――『カガリ、こっちはいつでも準備万端だぜ! 遠い異国からだと、時間がかかるって言うんで、お前の『弟』が、もう来ていやがる。いつでも声かけてくれ!―――サイーブ』
(!―――『サイーブ』!?)
そう、シェラザードを砂漠で救った時、寄り道した『タッシル』で、出会った男―――
だが、それ以上に驚いたのが―――
(―――『カガリ』!?)
―――「良く間違えられるんだ、似てるって言うから」
いや、あの時、サイーブは確かに『シェラザード』と呼んでいた。
手紙にわざわざ「あだ名」なぞ、使わないだろう…。
(―――シェラザード…『君』は―――)
アスランはハッと気が付くと、急いで手紙を書き、鳥の足にくくりつける。
「『ルージュ』…頼んだぞ。」
鳥は一声「ピィ」と鳴くと、大空へ羽ばたいた。
* * *
地下牢の中では4人の少女が、語りあっていた。
「…じゃぁ、みんな『城』から直接呼ばれる前に、一度『ジブリール』に声掛けられてるんだ…」
シェラザードの言葉に、全員が頷く。
「でも不思議なのは、食事も3食出るし、シャワーも浴びれるし…何かただ『牢屋にいる』って感じじゃないのよね…」
ミリアリアの言葉に、ラクスやステラも頷く。
「でも『城』から呼ばれ始めたのって、お前たちが最初なのか?」
ラクスが静かに首を振る。
「いいえ…もっと以前から、城に呼ばれた方々がおりますわ…」
(…一通り『男性経験』のない女の子を集めて、そして突然それが全員いなくなる…殺すなら、一度に、っていう訳にも行かないだろう…)
シェラザードは考える。
―――まさか!?『人身売買』!?
シェラザードは怒りに打ち震えた。
* * *
その頃、アスランは、窓から外に出ると、マントを着込み、砂漠に向かって馬を走らせた。
(…間に合ってくれ!)
『バナディーヤ』の街を抜けると、アスランの翡翠の瞳に、砂塵の向こうに、蜃気楼のように揺らめく、大きな一団が飛び込んできだ。
* * *
「さぁ、お前たち、来るんだ。」
牢から出されたシェラザード達は、手をロープで結ばれ、ひんやりとした廊下を歩く。
と、そこへ―――
<ドーン>
音と共に、地下の廊下にも振動が響く。
「何事だ!?」
慌てる衛兵たちの目を盗み、シェラザードはアスランからもらっていた、隠しておいた短剣を取り出すと、少女たちの手のロープを切った。
「みんな! 早く逃げろ!」
少女たちはその声に、一斉に走り出す。
「ま、まてっ!」
追いかける衛兵を、シェラザードは足蹴りし、衛兵の足を止める。
そして、そのまま自分も駆け出した。
* * *
「何事だ!?」
城の執務室に駆け込んだ兵士に、デュランダルは声を荒げる。
「そ、それが何時の間にか、ゲリラの連中が―――!」
「何だと!?」
慌てて窓から外を見るデュランダル。
そこには、街に一切の危害を加えることなく、強面の男を中心に、一斉に城にだけ、攻撃を加えていた。
「えぇい! 早く城からも兵士を出し、鎮圧しろ!」
冷静なデュランダルの声に、更に兵士が慌てて駆け込んでくる。
「た、大変です!!」
「えぇい! 今度は何だ!?」
「そ、それがその…とてつもなく大きな軍が―――」
慌ててデュランダルは外を、もう一度見る。
「―――!!」
デュランダルは 一瞬言葉を失い、狼狽した。
砂塵の向こうから、大群が押し寄せてくる。
その風にたなびく旗には『獅子の紋様』―――
「―――『オーブ王国軍』…」
デュランダルの頬を、冷汗が流れた。
* * *
「よーし! 俺たちは領主の『ジブリール』を押さえるぞ!」
サイーブの声に、ゲリラの男たちが、一斉に声をあげる。
「な、何だ!君たちは!?」
慌てて逃げ出そうとしたジブリールを取り囲み、サイーブが声を荒げた。
「何ってのは、こっちの台詞だ! てめぇの悪事を洗いざらい吐いてもらうぜ!」
ジブリールは、力なく床に崩れ落ちた。
* * *
「狙うのは摂政だけだ! 中の民間人には手を出すな!」
大声で、指揮するのは『レドニル・キサカ』――『オーブ軍』随一の手だれ。
「皆、早くこっちへ!」
地下の廊下から、走り出してきた少女たちを、援護しながら誘導するのは、『オーブ王国王子』にして、指揮官『キラ』――
「こしゃくな!」
デュランダルは自らも剣をとり、指揮に向かう。
(…しかし、一体誰がこのようなことを―――)
デュランダルの答えは、直ぐに判明した。
『オーブ』軍の中で、共に剣を振るう、濃紺の髪の青年―――
「―――『アスラン・ザラ』―――!」
デュランダルは憎憎しげに、その姿を見ると、城の外へと歩みだした。
・・・to be Continued.