My Reliance(後編)
海面から数十メートル上で滞空する、アスラン機上の『ムラサメ』―――
そこに前後から挟み込むように、『アストレイ』2号機と5号機がライフルを撃ちながら、『ムラサメ』に接近する。
(どうだ! これで逃げられやしない!)
ところが、『ムラサメ』は、まるで弾の起動が読めるかの様に、前後から撃たれる弾を、いとも簡単に避けていく。
(機体の性能か!?…いや、しかし―――!)
ロック照準の警告音が『ムラサメ』のコクピット内に響く。
アスランはその音を聞きながら、どちらの『アストレイ』が先に撃ってくるかを、冷静に読み取っていた。
(バケモノか―――!? アイツは!)
弾切れをおこした5号機が『ムラサメ』の背後からサーベルで。 2号機がライフルを撃ちながら、前面で挟み込むようにして、アスランを追い詰める。
<どうだ! これで逃げられはしない!>
<これで最後だっ!>
前後から『ムラサメ』を挟みこんだ、と思った瞬間―――
『ムラサメ』は忽然と姿を消した。
<何ぃ!?>
気がついたときには既に遅く、2号機と5号機は、お互い相手の機体にペイント弾とサーベルを撃ちつけていた。
何が起こったか判らず呆然とする2人に、上から1号機が通信を送る。
<『下』だーーーっ!>
そう―――2機に挟まれそうになったギリギリのところで、アスランは滞空エンジンを切り、重力にまかせて、機体を自然落下させて、攻撃をかわしていた。
『ムラサメ』は重力に飲まれるまま、落下していく。
(…今度こそ…逃げられまい!)
その後を追うように、上空から1号機がフルスロットで接近し、狙いを定め、ライフルを撃つ。
<これで、終りだ!>
ライフルの弾が、『ムラサメ』に当たると思った瞬間―――
『ムラサメ』はMS形態から海面ギリギリのところでMAに変形し、波しぶきをたてながら飛行し、その波を防御盾のように使い、弾を避けた。
<うわっ! うわぁぁぁっ!>
『ムラサメ』の後を追って勢いよく高度を下げていった1号機は、海面ギリギリのところで姿勢を立て直そうとしたが、『ムラサメ』が飛行開始時にワザと波立たせた海面の波に飲まれてしまった。
そして『ムラサメ』は直ぐに上空に舞い上がるとMSに変形し、潮をかぶり、身動きがとれなくなった1号機にライフルで狙いを定める。
(俺たちが…こんなに…アッサリと…。ヤツはたった1発しか弾を撃っていないというのに…)
1号機のコクピットに響くロックオンの警告音―――
それがこの戦闘の終りを告げたことを、雄弁に物語っていた。
「はい。2号機と5号機は、相打ちで終り。1号機は海面に落ちてロックオンで決まりね。…どう?アレックス君。」
エリカが覗くモニターに映る青年の瞳は、いつもと変わらない冷静な表情のまま。…回線を通じて届く声は何処までも涼やかだった。
<スラスターバックはもう少し、早いほうがいいでしょう。ナチュラル仕様なら1.5秒ほど早めに設定しなおした方がいいですね。…あとMA変形にも時間が僅かですが、負荷がかかるようですので、ソフトを改善した方がいいかと思います…。>
「ありがとう。…やっぱりあなたに頼んでよかったわ。」
<いえ…>
エリカの労いの声に、穏やかに答えると、アスランはモルゲンレーテの発着台へ戻ろうとした。
が、その時―――
一機の『アストレイ』が、エリカの横のハンガーから飛び立った。
「誰!? 私が出した指示は5機のはずよ!?」
エリカが通信やモニターを開こうとするが、『アストレイ』からは、何の応答もない。
『アストレイ』はそのまま『ムラサメ』に向かって飛ぶと、ライフルで『ムラサメ』めがけて攻撃する。
(チッ! 相手は5機のはずだったのに…何故だ!?)
アスランは『ムラサメ』の機体をMAに切り替えると、銃弾をかわしながら、エリカに通信をとる。
「どういうことですか!? 主任!?」
<私も分からないのよ! こちらの以来は『アストレイ』5機とそのパイロット達だったはずなのに!>
「通信は?」
<モニターも通信も、全て遮断されているわ!>
(…となると…もしや、この機体の情報を狙った連中か!?)
アスランは瞬時に考えると、迫り来る『アストレイ』のアイカメラに向かって、ペイント弾を撃ち込む。
(…視界が塞がれれば…攻撃できない!)
だが、先ほどの5機と比べ、この『アストレイ』は動きも反応も想像以上に早く、掠りはするものの、アイカメラには直撃させることはできなかった。
(…これは…本気で行くしかないな…)
アスランはスラスターを全開にすると、『アストレイ』めがけて突っ込んでいく。
『ムラサメ』のライフルに、その『アストレイ』は急所にかすりながらも、ギリギリのところでかわす。
ろくな装備もない『ムラサメ』に対して、『アストレイ』は次々とライフルを撃ち込んでくる。
それは先ほどの『アストレイ』5機とは比べ物にならないほど正確な撃ち込みで、アスランは寸でのところでかわす。
だが、そのライフルから発射されるのは―――『ビームライフル』ではなく、自分と同様の『ペイント弾』―――
(…?…おかしい…)
アスランは『アストレイ』の動きを読む。
正確な照準…クセのある構え…攻撃スタイル…パターン…
―――全てが、どこかで見たことがある。
(!?…まさか…!)
アスランは『ムラサメ』をMAに変形させ、一旦『アストレイ』から離れると、モルゲンレーテの上空を旋回した。
(…やっぱり…)
アスランの求める姿は、やはりそこにはなかった。
「シモンズ主任。」
アスランは通信を入れる。
<何!? 何か判ったの!?>
焦るエリカと反対に、アスランは落ち着いた声で言った。
「…これから、この正体不明の『アストレイ』を捕獲します。」
<だって! あなたは充分な装備も―――>
エリカの悲痛な表情に、アスランは安心した穏やかな笑みを浮かべると、頷いた。
「それから、捕獲後、主任が先ほどおっしゃったこと…実行させていただきますので…」
そういうとアスランは、よめたように『アストレイ』の攻撃をかわしながら、オノゴロの山肌に『アストレイ』を誘い込むと、MS変形し、『アストレイ』の両腕を掴んだ。
<――――っ!>
『アストレイ』の操縦者から聴こえる声。
アスランは『アストレイ』の両腕を封じると、まるで『ムラサメ』で『アストレイ』をかき抱くようにして、山肌に機体のぶつかる衝撃を極力押さえるように、滑らせるようにして押し倒した。
――――『アストレイ』の動きが止まった。
アスランは『ムラサメ』で『アストレイ』に覆い被さるようにしながら起動を静止させる。そしてヘルメットを外し、コクピットから飛び降りると、『アストレイ』のコクピットに向かって話しかけた。
「…もう、気は済んだろ?…『カガリ』…」
「……。」
コクピットの中からは、何の返事もなかった。
「…何時までもそうやっていたって仕方ないだろ?…開けるぞ。」
アスランは『アストレイ』の外部手動でハッチを開けた。
そこには―――コクピットでシートベルトを外し、膝を抱えるようにして、うずくまるカガリ…
「カガリ…どうしてこんなことを…?」
「…悔しかったから…」
「えっ?」
アスランが尋ねると、カガリは涙を溜めた金の瞳で真っ直ぐにアスランに向かって言った。
「何度も言わせるな! 悔しかったからだ!!」
何が『悔しい』のか…
皆目見当のつかないアスランは、『アストレイ』のコクピットに滑り込むと、コクピットに座ったままのカガリの顔を穏やかに見つめる。
「…俺に勝てなかったのが、悔しいのか?」
「…違う…」
「じゃぁ、何で…?」
カガリはポツリポツリと呟いた。
「…最初はお前が馬鹿にされているのが、悔しかった…『『アレックス』は…『アスラン』は強いんだぞ!』って言ってやりたかった…」
「カガリ…」
アスランは、自分の為に悔しがってくれるカガリに、愛しさがこみ上げてくるのを押さえられず、カガリを優しく抱きしめると、その華奢な背中を摩りながら言った。
「…ありがとう…カガリ…」
「…でも…」
アスランの肩越しに、カガリが呟く。
「お前が強すぎて…いとも簡単に、オーブの誇る『アストレイ』と、そのパイロット達が撃ち落されるのを見ていたら…この前の戦争でオノゴロが焼かれたのを思い出しちゃって…あの時、何も出来なかった自分が…悔しくて…」
カガリがしゃくりあげる。
「そうか…思いださせちゃったな…。」
アスランはカガリに頬擦りすると、金の瞳から零れ落ちる涙を拭ってやった。
「…私も強くあらねばって思って…お前と戦う事で、どれだけの力が自分にあるのか…試してみたかったんだ…。」
そう呟くカガリに、アスランはその耳元に唇を寄せると、そっと囁いた。
「カガリ……カガリは俺より、ずっと強いよ。」
カガリは顔をあげると、アスランを見つめた。
「私、負けたぞ。今…」
「俺が言っているのは、そういうことじゃない…逃げたり諦めたりせずに、真っ直ぐ進んでいく『強さ』…俺はいつも君にそれを教えてもらった。…そういう意味でカガリは俺よりずっと『強い』よ…。」
―――そう、何時だって
道に迷った俺を
真っ直ぐに、何度も導いてくれた
その強さと笑顔と優しさが
俺には眩しくて、憧れて、
愛しかった…
「代表がMSで…実戦で強くならなければいけないこともあるだろうが、そういうことは、俺に任せて欲しい…その為に俺は…俺や、オーブ軍はいるんだから…。」
「アスラン…」
アスランは穏やかにカガリを見つめると、静かに言った。
「約束したろう?…『君は俺が護る』って…」
大きく見開く金の瞳を、穏やかに翡翠の瞳は受け止めた。
―――その華奢な身体に、国家の全てを背負い込もうとするカガリ
少しでも軽くしてやりたい
もっと甘えさせてやりたい
そして…護ってやりたい
「君の為なら…どんな事があっても…たとえMSに乗ることになっても、俺は君を護る。
…君を護る『強さ』が俺にあることを、今の戦いで1つ証明した事にはならないか?…それとも俺じゃ頼りにならないか?」
ブンブンと首を大きく横に振るカガリ―――僅かだが、笑顔が覗かせた。
「…じゃぁ、もっと頼って…もっと甘えてくれないか?…俺に…」
そういってアスランは微笑み、カガリの頬の涙を拭うと、カガリの背に手をまわし、そのまま抱きすくめるようにして唇を重ねた。
「――――!?」
カガリの頭の中が真っ白になる。
一旦唇を離すと、今度は真っ赤になりながら、カガリは慌ててアスランの胸を押し返しながら離れて言った。
「お、お前、いきなり何すんだよ!」
アスランはカガリに微笑むと、手を伸ばし、その柔らかな金の髪を梳りながら言った。
「シモンズ主任が言ったんだ。『このテスト演習で一番勝ち残った人に、代表がプレゼントを用意してくれる』って…」
「い、いつ、私がそんな約束―――」
言いかけて、カガリはハッとする。
―――あの時だ…
エリカの声がMSの発射音で聴こえなかった時に、そうみんなに言ってたんだ!
「わ、私はそんなの聞いてないぞ!?」
「そうか? …でも、『約束』は『約束』だから…」
真っ赤になるカガリの頬を撫で、その身を引き寄せると、アスランは耳元で穏やかに告げた。
「…俺は…『カガリ』が…欲しい…」
カガリは頬を染め上げながら、じっとアスランの顔を見つめる。
どこまでも澄んだ優しげな翡翠の瞳―――その奥には、何か―――強い意志を秘めているように感じられた。
その瞳に吸い込まれるように、カガリは自然と目を閉じ、身を任せる。
アスランは、そのままカガリを強く抱き寄せ、そっと唇を重ねた。
―――カガリ…君に誓うよ
君がいつも俺を導いてくれたように
今度は俺自身が……君の喜びも、悲しみも、苦しみも
君の全てを包み込めるような…頼れる強さを持てるようになってみせるから…
そして―――きっと護ってみせる…
君と…君の愛するこの国を
俺の『想い』の強さを・・・『力』に変えて――――
「シモンズ主任。…『ムラサメ』と『アストレイ』から、何の連絡もないんですが、どうしたら―――」
「…放っておきなさい。」
「は?」
怪訝そうなパイロットたち―――
エリカは試作機の演習に協力してくれたパイロットたちに、労いの言葉をかけると、『ムラサメ』と『アストレイ』が落ちていった山肌を、そっと見つめ、口ずさんだ。
「…今、勝者は最高の『プレゼント』を手に入れているところだから…」
(私も先の戦争で『彼』の戦いを見てきたんですもの…。そう…誰が勝つか、も…その『彼』の望みも…私には初めから判っていたわ。…だから『オーブ』の為、協力してくれたご褒美に、『彼』にあんな『約束』させていただいても…少しは許していただけるでしょう?…… ね? カガリ様。)
そう言って、エリカは微笑むと、『ムラサメ』のモニターと通信をそっと切った。
・・・Fin.
>そんな訳で、(どんな?)6月2日の15時さん(何て呼び方(汗・・・すいません)から
戴きましたリクエストで、「『出来る男』アスラン希望。護衛時代、試作MSのテストパイロットに選ばれる様なアクションが読みたいです。」と言う詳しい内容付き(笑)で、頂いたものを書いてみました・・・が、消化できてたでしょうか?(汗
結構アクションものは、書く人だと思うんですが、設定のMSでのアクションは、やったことがないので…ボロボロでしたね^^; 難しかったです…『MSアクション』って…
と、とりあえず、未消化な部分は妄想で補って下さい。
リクエストありがとうございました!