My Reliance(前編)

 

 

 

「カガリ様。アレックス君。わざわざ御足労頂きまして、ありがとうございます。」

「そんな改まった言い方しなくてもいいだろう? エリカ。」

 

オーブの中枢産業施設――『モルゲンレーテ』に、今日、カガリは代表首長として、アスランと共に視察の予定が組まれていた。

 

「…それにしても、今日は屋外での演習か?…演習だったら屋内の演習場の方が、何処の国からも衛星でも発見できないんだから、そっちの方がいいだろう?」

 

カガリの言う事は、最もだと、随行していたアスランも思った。

 

―――先の大戦では、ZAFTとして、この『モルゲンレーテ』を探りに来た事がある。

   だが厳重な警備によって、詳しいことは何も発見できなかった。

 

…そう、只一つ、厳重な格子の向こうに―――『キラ』さえ現れなければ、AAがここにいるなんて、思いも寄らなかっただろう…

 

 

    そして、今では、その自分がこの厳重な格子の中にいる、ということが現実味を帯びて感じられないほど、不思議だ…。

 

 

 

「確かにそうですが、今回の『試作機』は屋外でないと、充分な力を発揮できないのです。」

エリカ=シモンズは静かに微笑むと、屋外にカガリとアスランを案内する。

 

―――そこには、『アストレイ』5機と…それによく似た1機のMS

 

その機体の前にエリカは2人に説明を始める。

「これが今回の試作機―――『ムラサメ』です。この『ムラサメ』はMS形態の他、MA変形を可能にしています。」

「へぇ…」

カガリが興味深そうに、『ムラサメ』を見上げる。

「だから、演習は屋外でないと、出来ない―――というわけですね。」

アスランが言葉を添えると、エリカが無言で頷く。

 

だが、カガリは怪訝な面持ちで、エリカに呟いた。

「でも、これを見せる位なら、わざわざアレックスまで呼びつけることないだろう? 私一人でも―――」

「…いえ。これのテストに、どうしてもアレックス君のお力添えが必要なんです。」

エリカが静かに答える。

「この『ムラサメ』が、どれほどの機能を発揮できるか…また、不備な点があるか…。操縦してみて正確にお答えできるには、アレックス君が適任かと思いまして…。」

 

「……。」

アスランは黙り込んだ。

(…もう戦争は一応停戦という形ではあるが、終わっている…今更MSの必要なんて…)

 

「これは『オーブの守り』だ。」

顔を曇らせるアスランを横目にチラリと見ると、カガリが『ムラサメ』を見上げて話し出す。

「オーブは他国を侵略せず、他国からの侵略を受けず、他国の争いに介入しない。…でも万が一、他国が予告もなく攻めてくれば、それを守る剣はいる…。」

 

         確かにそうだろう。

     だが、アスランは視線を逸らし、答えあぐねていた。




「…俺は…もう…
MSには…」

 

―――乗る必要のない世界にしたいんだ…MSによる『力』じゃなく…俺自身の『力』で、カガリを助けていきたい…。

 



「アレックス…」

カガリが憂いを帯びた眼差しを向ける。

 

(確かにアスランなら的確に判断し、戦闘能力でもどんなヤツにだって負けるとは思えない。…でも…そう、あの戦争で傷ついたのはキラだけじゃない…アスランも…いろんなものを失ってきた…。…MSに搭乗させるのは…あの頃を思い出して…きっと苦しいんじゃ…)

 

カガリはアスランの気持ちを察したように、エリカに伝える。

「エリカ。悪いがアレックスは軍令部にいるとはいえ、目的は『私の補佐』だ。だからこのMSを使う必要があるというなら、代表の責任として私が乗る!」

 

「カガリ…。」

驚いてカガリを見つめるアスラン。

慌ててエリカが口を挟む。

「カガリ様。確かにカガリ様の実力は分かっております。でも―――」

 

 

そのとき、背後から複数の男たちのざわめきが聞こえてきた。

「何だ? 今日の俺たちの演習相手って、この若造か!?」

後ろから声を掛けてきたのは、5名のオーブ軍人。

「こんな子供に俺たちの相手がつとまる訳ないだろう?主任。」

そういって笑い出す。

 

「何だと!?」

後ろを振り返って、カガリが怒った顔で突っかかると、流石の軍人達も、慌てて礼の姿勢をとった。

「おやめください…代表…」

アスランが静かにカガリを諌める。

「でもっ!!」

カガリの金の瞳に涙が溢れかけている。

 

 

 

心なしか嬉しかった。

    カガリが俺のことで怒ってくれるなんて。

 

    

それに…たった一人で―――その小さな肩に、『オーブ』という一国の責任を背負おうとするカガリがいじらしく、
    それでいて愛おしかった。

    

 



    この小さな肩を、支えてやりたい…

護ってやりたい…

 

    だったら―――これも『カガリ』を―――『オーブ』を『護る』為になるのなら…

 

 

 

アスランはカガリを安心させるかのように微笑み、カガリの肩をポンと叩くと、前に進み出た。

 

「…俺で…お役にたてるのでしたら…」

「アレックス!!」

カガリが止めるのも聞かず、アスランはエリカに申し出た。

 

「この機体のマニュアルを、見せていただいてもいいでしょうか?」

「えぇ…一応軍事機密だけど。あなたをテストパイロットに指名したのは私だし…責任は私が持つわ。」

 

そういって、エリカがマニュアルを渡すと、アスランはパラパラと分厚いマニュアルのページを捲った。

 

…その間…10分程。

 

「それじゃあ、行きます。」

アスランがあっさりとマニュアルに目を通し、パイロットスーツに着替え、『ムラサメ』に近づいていくのを見て、『アストレイ』のパイロット達は<ヒュウ>と口笛を吹き、小馬鹿にしたように毒づく。

「…所詮は子供だ。マニュアルなんて俺たちだって『アストレイ』の操縦の為には、長い期間渡ってやっと解読し、演習に出たんだ。」

「どうせ、開いた時点で訳がわからなくって、適当に誤魔化したんだろ?」

 

男たちは笑いながらそれぞれの『アストレイ』に向かった。

<おい! あっちは新型らしいが、俺たち本職の軍人を相手にしようなんて、可哀想だからな。適当にあしらってやれ。>

<そうだな。>

 

またも通信を通して聴こえる小馬鹿にした笑い声。

だがモニターごしにエリカとカガリが見たアスランの表情は、そんな揶揄にも顔色一つ変えず、冷静な翡翠の瞳を向けていた。

 

「いい? モニターは各機とも回線を開いておいてちょうだい。それから通信も閉じないで。」

インカムを通し、エリカから指示が飛ぶ。

<了解。>

各機から一斉に声があがる。

 

「ビームライフルの代わりに、ペイント弾が6発。ビームサーベルの代わりに短波レーザーを使っているから。どちらも急所にあたったら、そこで戦線離脱よ。」

<了解。>

 

「あ、あとそれと―――――」

 






インカムに何か告げるエリカの言葉は、
MS起動の音にかき消され、カガリは聞き取れなかった。

 

 

 

 

 

 













起動した『アストレイ』
5機が一斉に海上へ飛び立つ。

 


<『アレックス・ディノ』―――『ムラサメ』発進する!>

グリップを握る手に、力を込める。

 

カガリが見守る中、アスランの『ムラサメ』は『アストレイ』5機が滞空する空へと飛び立った。

 

 

 






















「では、始めて。」

エリカの声を合図に、『アストレイ』が動き出す。

 

<まずは俺からだ!>

『アストレイ』3号機が、『ムラサメ』にサーベルを抜いて接近する。

 

<この、このっ、このっ!>

剣道で言うなら『ツキ』のように『ムラサメ』にサーベルを振るうが、アスランは表情一つ変えず、全て右へ、左へ、ヒラヒラと余裕でかわす。

(…何故だ!? 何故当たらない!?)

<この野郎―――!>

焦りの見えた3号機が、振りかぶってサーベルを落とそうとした瞬間―――

『ムラサメ』はその手首を掴むと、そのまま3号機を海面に叩きつけるように投げ飛ばし、直ぐにライフルを取り出し、トリガーを弾く。

 

<わぁぁぁっ!>

 

それは見事に―――たった一発で『アストレイ』のコクピットに命中した。

 

 

 








「はい。
3号機はそれまでね。」

エリカが、通信する。

 

「どう? アレックス君。調子は?」

そこから帰ってくる返事は、動揺も微塵の欠片もない、冷静な声。

<ライフル照準は右上0.5ズレがありますね…被写体が動いている以上、誤差は直した方がいいと思われますが…。>

「そう。…こちらでも確認したわ。…続きをお願い。」

<はい。>

 

 

 









<えぇい! 今のはマグレだ! 今度は俺が行く!>

4号機のパイロットがライフルを撃ちながら、『ムラサメ』に遠隔射撃を行う。

 

 

<…スラスターの動きはいいと思います。ただ重力下では、もう少し機動性があるといいでしょう…>

4号機の放つペイント弾をこともなげに避けながら、アスランの冷静な声がモニター越しに伝わり、エリカは頷く。

 

 

4号機のパイロットに、冷汗が流れる…。

(何故だ!? 『アストレイ』の操縦にたけた俺たちが、あんな若造に軽くあしらわれるなんて…。ヤツがマニュアルに目を通したのは10分足らずだった…それに初めて乗る機体のはず……なのに何故あんな動きが出来るんだ!?)

 

そうしているうちに、4号機の弾が切れる。

(しまった! 撃ち損じた!)

そう考えた直後、遠隔だったはずの『ムラサメ』が、突如目の前に現れた。

(コイツ! まさか主任と通信しながらも、撃った弾数を数えていて、俺にもう遠隔攻撃はないと判断したのか!?)

『ムラサメ』はサーベルを抜くと、滞空する『アストレイ』の喉元に突きつける。

<ヒッ!!>

 

 







「はい。
4号機。…お疲れ様。」

エリカが通信する。

 

 

 









<くそぉ! 何でヤツはあんなに動けるんだ!?>

2号機のパイロットから、声が上がる。

 

1号機も滞空しながら、そのパイロットは戦慄を覚えた。

 

(…ヤツはただの護衛だぞ!? 俺たち職業軍人と違う。…もしもヤツにMS操縦の経験はあったとしても、あの歳だ…経験が浅いはず…。なのに、ヤツは余裕で主任と通信しながら戦っているなんて…)

 

 

 

<おい! 1号機、5号機! 聴こえるか!?>

2号機から通信が入る。

<こうなったら、フォーメーションを作って攻撃する! あんな若造に俺たちがなめられてたまるか!>

 

<おう!>

<了解!>

 

即座に通信が入ると、3機は同時に『ムラサメ』めがけて攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

…to be Continued

 

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>ちょっと長くなりますので、この後は『後編』に続きます。

 それにしても前半は…甘くないね〜(笑)

 トロトロに甘いアスカガを期待していたら、ゴメンナサイですm(__)m

 後半は―――少しは「甘い」…かな?(←思いっきり疑問系)