Priceless(後篇)

 

 

 

「あ〜v やっぱり久しぶりだと美味しいな!」

そこはデパートの屋上。

様々な子供用の遊具がある傍にあるファーストフードの店で、アスランとカガリはケータリングの食事を摂っていた。

「やっぱり『チリドッグ』は美味いよな〜v…って…アスラン、食べないのか?」

先程から元気よくチリドックをぱくついているカガリの前で、アスランはまだ手をつけずにジュースだけを飲んでいた。

 

無理もない…想いを寄せる女性に、いきなりあんな過激なジーパン姿やショーツを見せられたのでは、女性との買い物経験が殆ど皆無に等しいアスランには、動揺する以外の反応を求めるのは無理だろう。

 

気持ちを落ち着けようと、飲み物だけは口にしているが、今食事にまで手を伸ばしたら、チリドックを取り落としそうだ。

 

「お前、こういうところ来たことないのか? まぁ、お前だって子供の頃はある程度裕福な家にいただろうから、こういうところで食事って摂りにくいのかもしれんが…」

カガリがフライドポテトをつまみながら、控えめに言い訳をする。

「だって…レストランに入ったら、帽子取らなきゃなんないだろう?そうしたら…私のこと…幾ら変装してても、バレちゃうだろうし…。それにだな、「こんな食事は食べられない」って言ってたら、お前何かあった時、生きていけないぞ!?」

真剣にアスランに訴えるカガリ。心がようやく落ち着いたアスランも、サラリとそれを受け止める。

「大丈夫だ。非常事態になっても、どこかの誰かさんみたいに、非常食のパック、海に流したりしないから。」

すまし顔のアスランがカガリを見ると、カガリは記憶を反芻している。やがて思い出したのか、真っ赤になって声をあげる。

「わ、わ、悪かったな!!///あ、あの時はちょっとうっかりしていてだな!!///」

慌てるカガリの様子に、アスランは微笑む。そして今の自分を不思議に思う。

 

 

 

   4年前――初めて出合った時は『敵』だったはず。

   なのに、4年経った今は、こうして想いを分かち合い、共に戦い、誰よりも『大事な人』になった。

   あの時――何故、彼女を殺さなかったのだろう?

   殺して然るべきはずだったにも関わらず、それに何時救助が来るかも判らない状況の中、非常時の食事まで与えて…

   

   だが…彼女と出会わなければ、俺はもうきっとこの世界には…

 

 

 

過去の自分に想いを馳せたアスランが、ふとカガリを見ると、先程まで真っ赤になって恥かしがっていた表情は既になく、別の何かをジッと見つめていた。

「…カガリ…?」

アスランが声をかけると、カガリはそっと指をさす。

その先には―――遊具の中にある『メリーゴーランド』。そこに一組の『家族連れ』

「ほら、しっかり掴まっているんだぞ。」

「パパとママの方にきたら、手を振ってね。」

両親の言葉に「うん!」と元気よく頷いた少年が、メリーに跨り、楽しそうに歓声をあげる。

 



「…いいよな。」

「え?」

アスランがカガリを見ると、視線の先を動かさないまま、カガリは優しい笑みでそれを見つめ続ける。

「お父様は私を大事にしてくれて…あんなに仕事があったのに、それでも…いっぱい…いっぱい遊んでくれたんだ。…でも流石にあんな風にして、アレに乗せてもらった事は無いけど…」

 

苦笑しながら呟くカガリの言葉。だが視線の先のあの家族を見守り、慈しむような表情に、アスランもふと考える。

 

 

 

   あのカガリの部屋で見た『フォトスタンド』―――

   どんなに忙しくても、ウズミはカガリに惜しみない愛情を注いでいた事は、充分想像できる。

   偉大な代表首長であり、国民からの信頼も厚い人格者であり、尚且つ今ですら、あんなにカガリの心を支え、幸せを与えている。

 

   

 

自分は…どうだっただろうか…?

   

 

小さい頃から父は忙しかった。

   殆ど構ってもらった記憶などない。しかしプラントの為に身骨を粉砕する父を誇りに思っていたことはある。

   でも、記憶の中の父は―――背中しか覚えていない

   もし、カガリと同じ頃に、ああして写真をとったら…

 

   

俺もあんな風に笑っていただろうか…?

 

 

 

 

「…なぁ…アスラン…」

慈愛に満ちた母のような、穏やかな微笑み。カガリは愛しげに話し出した。

「…あんな家族の笑顔を…『オーブ』の人達が、みんなああして幸せな笑顔を絶やさないように、護っていきたいな…。」

 

穏やかな中に秘めたる強く、揺ぎ無い『想い』―――

 

その願いを護ろうとしたカガリの父に、尊敬と何処だか嫉妬にも似た感情を抱く。

 

―――でも…貴方が出来なかったことを、俺はやります。

 

アスランが<ガタン>と勢いよく、椅子から立ち上がる。

「? アスラン?…え!?」

アスランはカガリの腕を強く掴むと、振り返ることもなく、真っ直ぐカガリを連れて行く。その先には――

「!?…『メリーゴーランド』?」

 

キョトンとしたまま固まるカガリ。だがその目の前に、大きく優しい手が差し伸べられる。

その手を差し伸べながら、何処までも穏やかで優しい声と微笑みがカガリを導く

 

「…さぁ、どうぞ…『お姫様』…」

 

少女は淡く頬を染めながら、そっと手を差し出す。

優しい笑みの青年は、少女の手をつかみ抱き寄せると、そっとメリーに座らせる。

<♪〜〜>

音楽と共に動き出す『メリーゴーランド』

何処となく恥かしがっていた少女は、やがて無邪気な笑顔ではしゃぎだす。

 

何度も自分を振り返りながら、歓声をあげる少女の姿を、青年は只一人心に刻んだ。

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

「ありがとうな。アスラン。今日はいっぱい付き合ってくれて。」

そう言いながら運転するアスランの肩に、そっとカガリは頬を寄せる。

「カガリが満足したなら、俺はそれで充分だ。」

そうカガリに答えるアスラン。だが、カガリが一瞬考え込むと、思い出したように頬を上げ、アスランに向かって言った。

「確か…お前も今日、買い物あるって言ってなかったか?」

だが、アスランはカガリの慌てた表情を落ち着かせるような、柔らかな声で言った。

「あぁ。俺の『大事な買い物』はこれから行くところだ。『アスハ邸』の門限までには必ず帰すから、ちょっと付き合ってもらっていいか?」

「うん!ちゃんと今日のお礼に何処でも付き合ってやるから!」

カガリがホッとしたように、明るい笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

アスランがひとしきり車を走らせて30分程…そこは既に傾きかけた夕日が輝く、一面の海原が眼下に見下ろせる岬。

「あれ?ここって…なんか来たことあるような…」

車から降りたカガリが岬の端に向って歩みを進めたその時

「カガリ、こっちを見て。」

アスランの声に、カガリが振り向くと―――

<パシャッ>

「…?『カメラ』? お前、これって…」

その途端、カガリが<ハッ>と思い出す。

 

 

―――そう、ここは…幼かったあの日、父と一緒にファインダーに収まった、今は机に仕舞ったガラスのフォトスタンドの中に収めた
       『夕焼けの中の笑顔』―――

 

 

「…アスラン…これ…」

「これが、『俺が欲しかったもの』。」

アスランは夕焼けに煌く波を見ながら話し始めた。

「あの日と同じ夕焼けは二度とない。同じように、ウズミ様と全く同じ代表首長になることは出来ない。…でも、それでもいいんじゃないか?」

「アスラン…」

「カガリらしく、カガリのやり方で、『オーブ』を愛してやればいい…。 いきなりウズミ様ほどの人格者になるのは誰だって不可能だ。年を重ね、経験を積めば見えてくることもある。だから一歩ずつ進んでいかないか?」

カガリに向かって穏やかに言葉を紡ぐアスラン。

「俺は必死に『オーブ』を以前の姿に取り戻したいという、君の願いの助けになりたい。だから…あの写真じゃなくって。」

一息呼吸をつくと、翡翠の真摯な瞳は、真っ直ぐに金の瞳を捕らえた。

 

「…君の傍にいる、俺に…頼ってくれないか…? これからも…ずっと、ずっと一緒にいるから…」

 

「…うん…」

 

そのままアスランの胸の中に収まるカガリ。

そしてその華奢な身体を強く、強く抱きしめるアスラン。

 

 

オレンジの夕焼けに、抱き合う2人の姿が溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

よく晴れた青い空からの眩しい光は、長い廊下の先までをも明るくさせる。

その光に導かれるように、書類の束を抱えたアスランは、光の示す先の部屋に向っていた。

 

内閣府――カガリの執務室へ

 

だが、その扉をノックしようとしたその時――

「だぁーーーっ!!だから何で人の部屋の物物色するんだよ!!全く懲りもせずに何時も何時も――」

荒がるいつものハスキーボイス。

<何を仰います!懲りないのは姫様のほうではありませんか!このマーナの目の黒いうちは、姫様に絶対このような下賎の格好はさせませんので!これは没収させて戴きます!!――<ブツン!>>

「こ、こら待て!マーナ!! あ〜〜〜もう!!折角買ってきたばっかりなのにーーーーっ!!」

暗くなったモニターを掴みながらカガリが声をあげると、直ぐに上着を掴んで、猛然と外に向って走り出した。

「…またなのか…?カガリ…」

そう呟くアスランを背に、カガリは

「書類だったらそこに置いておいてくれ!こっちはそれどころじゃないんだ!!」

一声あげると、そのまま走り去った。

 

「やれやれ…」

 

苦笑しながら溜息を零し、アスランが執務室に入ると、書類がディスクの上に山積している。

苦笑を漏らしながら、アスランがそっと書類を置くと

 

<カタン>

 

「?」

 

書類の隙間から、キラキラと光を反射する2つの『ガラスのフォトスタンド』

それを取り上げると、思わずちょっと頬を赤らめながら笑みが溢れる。

 

『フォトスタンド』の中は―――1つは以前見かけた『ウズミとカガリの笑顔』、そしてもう1つは…『あの日、夕焼けの中撮ったカガリとアスランの写真』

まだ、ウズミのときと比べたら遠く及ばないが、それでも隣のカガリは自分に寄り添い、無邪気な笑みを溢れさせている。

 

 

―――カガリ…あの一日を一緒に過ごせて、本当に嬉しかった。   

   代表首長である君の一日を独占できるなんて…

   そして、君の無邪気な笑顔を独り占めして…

   俺の買い物は値段のつけられない、高すぎる『買い物』だったな。

 

   いや、この一日だけじゃなくって

 

   これから、ずっと君と一緒に…

君の人生を俺にくれる日が来たら

値段なんて、付けられないよ。

 

だから、この写真は傍に置いていてくれたなんて、嬉しいけど…

できたら…いつか写真じゃなくって、本物の俺に甘えてくれ…な?

 

 

 

そっとフォトスタンドをディスクに置くと、嬉しそうな笑みを残して、アスランは静かにその部屋のドアを閉じた。

 

 

 

 

 

・・・Fin.

 

 

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>『かがりび NamiSide』にて『90万HIT』のキリ番を取られましたnyaomi様からのリクエストで「アスカガがイチャつきながら
   ショッピングしているのが読みたいです。」とのことで、チャレンジしてみましたv

 このリク…きっと他の作家さんでしたら、素晴らしい作品が出来たと思うのですが、Namiは今回プロット切るのに、かなり時間がかかってしま
   いました!(汗っ!!

 …というのも、この2Namiの中じゃ「絶対『ウィンドウショッピング』なんてしないだろう!ランキング」やったら、ばっちり『TOP3!』
   なんですもの
(-_-;)

 Namiの感覚で、『ウィンドウショッピングしそう』ランキング――

 <女の子編>

 フレイ>メイリン・ミーア>ルナマリア>ラクス>ミリアリア>ステラ>カガリ…

 <男の子編>

 ハイネ>ラスティ>アウル>ディアッカ・トール>シン>ニコル>スティング>サイ>キラ>イザーク>アスラン・カズイ>レイ…

 ※ちなみにどうしてこのランキング順になったか、語るとページ2ページ以上かかると思うので、今は略。

 

 確かに2人の『買い物シーン』はありましたよ。

 まずはカガリ…無印でキラとバナディーヤで買い物していました。そして小説版SEED2巻じゃキラの感想(女の子の買い物に付き合うもんじゃ
 ない…)と言っていましたが、あれは「買い物」というより、殆ど
『補給物資確保!』 キラに至っては「荷物もち」より『補給物資
 乗せる 軽トラック状態!』
(←酷えっ!)

 …唯一デートっぽいと言えば、『ケバブ』食べてるところ…^^;

 一方アスランですが、種Dで『コペルニクス』で買い物してるラクスとメイリンの護衛…(-_-;) 緊張感まるで無し!(苦笑)なメンバーの中で、
 唯一護衛らしかったですが、これが普通の買い物だとどうなるんだか…。デートらしいデートって、ラクスの家に行った時は「庭で散歩」くらいしか  
 してない…

 アスランの『ウィンドウショッピング』ってあるんだろうか!?寧ろ『コンビニ袋』下げてたシンのほうが、よっぽど買い物しそうだ(笑:D1話
 でもしてたしな)。

 なんとか「買い物する2人」をイメージできたら…と、懐かしの『別冊メディア』引っ張り出して、「クレープ食べながら街を歩いてるアスカガ」の
 ピンナップ見て、ジィ〜〜…と考えていたんですが…

 すいません!!「こんな話しか書けませんでしたぁぁーーーーーーーっ!!(涙)――逃っ!!

 

 リク下さいましたnyaomi店長様、ありがとうございました!!これで許してやって下さいませ!!(願っ!!)