〜Present〜 

 

 

――10月29日、 AM0:00――

 

アスランの部屋に一本の着信メール――

 

『アスラン。誕生日、おめでとう!

 お前のことだから、まさか『自分の誕生日』忘れてないよな!?

 プレゼントにこれから一日24時間、私がお前の『手伝い』してやるから!』

                       >カガリ

 

(…何なんだ、この内容は…?)

 

大方、一番に祝ってやろうとでも思って、こんな内容のメールを慌てて送ってよこしたのだろう。

正直、自分の誕生日など、殆ど興味がなかったし、あながち忘れていたともいえない。

それに、幼い頃から、父も母も忙しく、一緒に祝ってもらった、という記憶もあまりない。

まして、そんな状況下になかった…あの『戦争』の中では…

 

(ありがとう…。)

 

いつもながらの彼女の心遣いに感謝すると、アスランは静かに画面を閉じた。

 

 

 

――10月29日、 AM7:00――

 

―――目覚めを促す、時計のアラーム音が聴こえる…。

 

アスランはまだ、はっきりしない意識からゆっくりと目覚めると、時計のアラームを止めた。

…が、何か小うるさい音が玄関から聴こえてくる。

 

(…チャイム? 誰だ? 朝っぱらから…)

 

さっきから続く“ピンポンリレー”の応酬に、ぼんやりしながらアスランがドアを開けると、そこに―――

 

「おっはよー! アスラン! …って、まだ寝てたのかよ…遅いぞ!!」

「…か、カガリ!?」

 

玄関先には自分と対照的に、朝から元気なカガリの姿が飛び込んでくる。

 

「何? こんな朝早くから…?」

「お前こそ、何言ってるんだ!? 昨日ちゃんとメール入れただろ! 見なかったのか?」

(…そういえば…『誕生日』の…『手伝う』とか…何とか…)

昨日の記憶を、何とか反芻しようと、まだ完全に目覚めない頭を覚醒させようとしていると…

「しょうがないヤツだなぁ〜。…入るぞ。」

「あっ、ちょ、ちょっと、カガリ―――」

 

勝手知ったるとばかりに、部屋に上がりこむと、カガリはアスランに満面の笑みで向き直って言った。

「そんな訳だから、今日一日、お前のこと色々『手伝って』やるから!」

 

呆然としているアスランが、何とかカガリの勢いに飲まれまいと尋ねる。

「お前、今日、仕事は?」

「休んだ!」

即答のカガリを唖然と見つめていると、カガリが逆に切り返す。

「お前こそ、ボーっとしていていいのかよ。今日仕事はないのか?」

 

時刻をみると…とうに、いつもの時間は過ぎている―――。

 

「まずいっ!」

慌てるアスランに笑いを堪えながら、カガリが大声で見送る。

「とりあえず、家のことやっといてやるから。気をつけて行って来いよー!」

 

 

 

――10月28日、 PM3:20――

 

「なぁ、キラ。…アスランって、何か欲しいものないのかな?」

カガリにはアスランのことで、知らないことはたくさんある。

相談するのは、やはり、彼を一番よく知っている人物―――

『う〜ん、好きなのはMC機器とかよくいじってるけど…何か最新のがあれば喜ぶんじゃない?』

キラからのアドバイスは確かだが…正直これでは無理がある…。

彼が今いるところは、その『最新機器』が溢れる『モルゲンレーテ』なのだから…。

「他には?…何かもっと簡単そうなヤツ…」

『そう言われても…最近忙しそうだから、あんまり話聴いてないし…』

 

(…『忙しい』…?)

 

何かがカガリの中で閃いた―――

 

「サンキュー、キラ! なんかいい事思いついた!」

『ちょ、ちょっと、カガリ―――』

 

あっさりと電話を切ると、カガリは自分のアイディアに一人微笑む…。

 

 

 

――10月29日、 PM8:00――

 

自宅に戻ろうとしたアスランが、いつもと様子が違っている雰囲気に気が付く。

 

(…まさか!)

 

慌ててドアを開けると…

普段は“真っ暗”なはずの部屋に“明かり”…“肌寒い”はずの部屋が“暖かい”…

すると、奥から

「おかえりー!」

今朝会った時と、変わらず元気なカガリの声―――

思わず黙ったまま立ちすくむ…。

「…何やってるんだよ。家に帰ったら、ちゃんと挨拶くらいするもんだろ!?」

「…あ…『ただいま』…。」

呆然としているアスランに、カガリが再度、笑顔で声を掛ける。

「うん。『お帰り』! アスラン!」

 

 

『誰かが待っていてくれる―――』

 

こんな感覚…一体何時からなかっただろう…

何時も家には『誰も』いない…

忙しい『父』と『母』…

それで、よくキラの家に行ったっけ…

いつも優しかったキラの母…

自分の面倒までよく見てくれたっけ…

 

こんなに暖かい気持ちになれるのは…久しぶりだ。

 

「〜〜何時まで、ボーっとしてるんだよ…。自分の家だろ!? 早く上がれよ!」

(…これじゃぁ、どっちがこの家の“主人”だか判らないな…)

ふと、気になったアスランがカガリに尋ねる。

「お前、まさか、今日一日ずっと、ここに居たのか?」

「そうだけど?」

何の疑いもなく、キョトンとした顔でカガリが答える。

 

(いくらなんでも…元『オーブ』の姫が、こんなところに一人で居たら…まずいだろ…。)

 

そんなアスランの心配を露ともせず、カガリが声を掛ける。

「早くこっち来いよ! 夕飯食べてないだろ? 作ってあるんだ!」

 

ふと、何故か懐かしい匂いがする…目に入ったものは…

「ほら、『ロールキャベツ』! お前、好きだったんだろ? 『ヤマトのお母さん』に教えてもらって作ったんだ!」

 

キラから聞いた事がある…カガリが自分の『育ての親』―――『ヤマト夫妻』をプラントにいるキラに代わって、時々様子を見に行ってくれている、という事を―――大方キラか、母親から自分の好物を聞いて―――作ってくれたのか―――『俺の為』に―――?

 

多少形は崩れているが…家事などやったことのないはずであろう『姫君』が本当に一人で作れたのか…

恐る恐る、口に運んでみる…

 

「…美味しい…」

「そっか!? よかった〜!!」

流石に『あの味』と同じ、とまではいかないが、目の前の笑顔でそれは十分、帳消しになる。

 

喜ぶカガリに目をとられていたが、やがて『ある事』にアスランは気づく…

 

「なぁ、カガリ…」

「ん? 何だ?」

「妙に、部屋が狭い気がするんだが…」

 

何時も開け放したままの部屋が、パーテンションでしっかりと仕切られている…。

 

「なっ、何でもないよ。気のせいだろ…。」

笑ってごまかしているようだが…どうにも顔がひきつっている。

 

(…嘘のつけない顔だ…まぁ、大方の予想はつくが…)

そう思いつつ、アスランはカガリの横を通ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってって!」

 

慌ててカガリがアスランの腕を引っ張り、静止しようとするが―――

 

 

 

――10月29日、 PM8:30――

 

「…で、端から説明してくれないか…。」

 

あきれ果てた表情で、アスランが笑顔の固まったままのカガリを促す…

 

「う〜んと、まず、『掃除』しようと思ったら…机の上にあった…その『MCユニット』…落っことして…それ片付けようと思ったら…花瓶に引っかかっちゃって…それから…『洗濯』してたんだけど…雨降ってきちゃったから…部屋に放り込んで…あっ、ちゃんと畳もうとは思ってたんだぞ!…って…片付けなきゃ…とは思ってたんだが…『夕飯』作らなきゃ…って思って…使い慣れないから…その…キッチンで…お皿探してたら…落っことしちゃって…」

 

「…もういい…。」

 

部屋の惨状を見ながら、今日残りの時間、この片付けに追われることになるのかと思うと、アスランはウンザリとした表情で、深いため息をついた…。

 

 

 

――10月29日、 PM11:55――

 

「はぁ〜ようやくおわった〜!」

「…誰の所為だと、思ってるんだよ…。」

 

満足顔のカガリを尻目に、アスランが呟くと…

 

「その…悪かったな…。」

憮然としながらも、落ち込んだ表情をしながらカガリが謝る。

「…折角の『誕生日』だったのに…こんな…ことに…なっちゃって…。」

その横顔をアスランはじっと眺めていたが…やがて、

 

「クックックッ…」

「何が可笑しいんだよ!」

急に笑い出したアスランに、今度はカガリが怒り出す。

 

「いや、まさか自分の『誕生日』に『大掃除』するなんて…誰も体験しないだろう? 普通。」

「…悪かったな。普通じゃなくて…」

不満げなカガリとは逆に、アスランはカガリの今日してくれたことには、腹が立つことはなかった。

自分の見えないところで、自分のために、慣れないことで悪戦苦闘しているカガリ―――

むしろ、こうして自分を思ってくれるカガリに、改めて愛情を感じる。

 

 

「…プレゼントの『手伝い』は、『今日』なら『有効』なんだな?」

急にアスランから『プレゼント』の話を切り出され、カガリが驚く。

「うん…。そうだけど…?」

「なら、『カガリにしか』出来ない『手伝って』欲しいことがあるんだが…。」

「何だ!? 私に出来ることなら、何でもするぞ!…って…」

急なアスランからの『手伝い』の申し出に、ようやく役に立てると思って、嬉しさを隠せなかったカガリだが、

 

―――時間は―――PM11:59―――

 

「おい、この時間で何ができ―――」

 

振り向いたかがりの目の前には、直ぐにアスランの顔―――そして―――

 

(――――!!)

 

…何が起きたかわからず、大きな目を見開いたままのカガリの唇は、アスランのそれに重ねられていた…。

 

―― 一瞬だったのか…それとも長かったのか…

 

閉じられていた翠色の目をゆっくりと開きながら、アスランは静かに唇を離す…。

 

「なっ、何するんだよ! て、『手伝い』って…」

 

耳まで真っ赤にしながら問い詰めるカガリに、余裕の笑顔でアスランは答える。

 

「だって、ひとりじゃ『キス』は出来ないだろう? …だから『手伝って』もらったんだろ?」

 

「〜〜〜っっ!!」

 

 

何も言い返せないカガリの横で、時計が――AM0:00-――を指した。

 

 

 

・・・fin.

 

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>…ここまで書いといて言うのも何ですが…

 『本当に、可愛くない!!』Namiの書く甘々って…(哀)

 ところで、「アスランって誕生日に何欲しいと思う?」と聞いて回ったところ、

 アスカガファンは殆どが「カガリ」でしたが、アスキラファンは100%「キラ」でした(笑)

 さもありなん…。

まお様:いつもこんな小説読んでくださって(性懲りもなく贈り付けて)すいません!!

 こんなヘタレSSはやめて、ご覧の皆様はお早く「まお様の素敵SS(70000HIT作品)v」で、目と頭の

 保養をしましょう!!                           >Nami