それはアスランにとって、まさに「青天の霹靂」だった。

 

2度の大戦を乗り越え、自分の人生をオーブの平和、そして「彼女」に捧げると決め、もう数年が過ぎていた。

オーブ軍でそれなりの働きと地位を得て、遠目に彼女を見守ることに心満たされて、日々は穏やかな青空のように平穏に過ぎて行っていた。

 

―――はずだった…

 

 

 

 

「プロポーズしようと思うんだ。」

それは10月のある日、久しぶりにオーブにやってきた無二の親友からこう告げられ、アスラン自身(いよいよその時が来たか…)と妙に感慨深いものがこみ上げてきた。

脳裏には走馬灯のように、まがいなりにも「婚約者」として過ごした時のラクスの姿が浮かぶ。そしてラクスが幸せそうに親友の隣に立つシーンが瞼の裏に浮かんで、こちらの口元もほころびかけた、まさにその瞬間だった。

 

「―――『カガリ』に。」

 

(・・・・・・・・・・・?)

 

一瞬「そうか」と思いかけて、次にはオーブ軍きっての戦略家としても名を馳せる、アスランの灰色の脳細胞が真っ白になった。

親友の口から、当たり前のようによく知る女性の名前が出て、条件反射的に頷きかけたところで、今度は体中に冷水が浴びせかけられたような悪寒に慄く。

「…キラ…」

「何?」

「…今、なんて言った?」

「恥ずかしいな…いくら親友とはいえ、二度も言うのは恥ずかしいよ///

照れ臭そうに頭を掻きながら頬を赤らめている親友がじれったくて、もう一度怒鳴るように言い返す。

「そうじゃない!その後!」

「え?…あぁ、「『カガリ』に」、のところ?」

キョトンと大きな菫色の瞳を広げてアスランを見返す彼。こういう仕草や表情が、やたらと彼女と似ているのは、やはり双子だからだろうか。

 

―――と、そんなところに突っ込みを入れている場合ではない!

 

「なんでそこで『カガリ』が出てくるんだ!?」

信じられない!と鬼の形相で襟首をつかんでグイグイ締め上げてくるアスランに、キラは苦しそうに「ギブギブ!」とアスランの手首を叩きながら、離すように示唆する。

「ゲホっ、もう苦しいじゃない。いきなり何するのさ。」

「何もかにもない!言い間違えにもほどがあるだろう!そこは『カガリ』じゃなくて、『ラクス』だろう!寄りにもよって大事な人の名を言い間違いをするなんて―――」

後半、半ば吐き捨てるように言うアスランに、キラは不思議そうに否定した。

「間違ってないよ?僕はカガリと一緒にいたいんだから。」

「・・・は?」

「うわ〜、アスランがここまで呆けた顔って生まれて初めて見たよ。」

真剣さを意に返さないように笑うキラに、アスランは視線を泳がせながらもう一度尋ねる。

「な、一体何を言っているんだ?…なんでお前がカガリを―――」

「だって、カガリは僕の大事な人だもん。一人でオーブで頑張っている姿見ていたら、もう堪らなくなって…そう思った時、気づいたんだ。「カガリは辛いとき、いつも僕を支えてくれてた。連合軍たった一人のコーディネーターだった孤独な僕の心を救ってくれた。だから今度は僕が一生かけて支えてあげなきゃ!」って。」

「―――……」

口は開いてみるが、続く言葉が浮かばない。

いや、落ち着いて考えろ、アスラン・ザラ。キラの相手がラクスでないということも信じられないが、それ以上にこの結婚には無理がある。

「ちょっと待て。お前たち「双子」なんだろ?「姉弟」なんだろ?だったら結婚できるわけが―――」

「だって僕、遺伝子の殆どいじられているから、共有遺伝子少ないんだよ? それに戸籍上、僕はヤマト家、カガリはアスハ家の実子で届け出されているから、なんの問題もないし♪」

「大ありだろ!? お前たち、婚姻を前提として付き合っていないじゃないか!その前にラクスはどうなる!?」

どこまでも深刻さがないキラに必死で詰め寄る。しかしキラはこれまたケロリと反駁した。

「あ、ラクス?大丈夫。だって彼女のお墨付きだもん。「私とキラでは子供が生まれる確率は2世代目コーディネーターの中でも更に厳しい状況ですから。でも、ナチュラルのカガリさんでしたらご懐妊に至る可能性は高いですし。何より――」」

「…「何より」?」

「「キラとカガリさんのお子さんでしたら、とっても可愛いに決まってますわ〜〜v」って、もうノリノリ♪」

「ふざけるなっ!」

またもキラの襟首をつかみ、アスランは腹の底から大声で怒鳴り散らした。

「子供ができる確率が高いから、というだけで、お前は愛するラクスじゃなく、カガリを娶ろうとするのか!?そんなことでカガリを幸せにできると思っているのか!?」

「思ってるよ。ていうかさ―――」

今度は手頸を叩くことはしない。アスランの手首をつかみ返すキラ。そして握るその力と急に冴えた視線に、アスランのほうが一瞬ひるんで手を放す。

「君に僕らのこと、どうこう言える権利あるの?」

「―――っ!」

「言えないよね?カガリと別れてから、君、カガリのこんな目と鼻の先にいて居ながら、「ただ見ているだけ」なんて。それとも何?「僕はただ彼女を見守っているだけで満足です。」っていう口? 呆れてものも言えないよ。」

やれやれ、と肩を落とすキラ。だが図星をとらえ、適格に射抜いてくるその言葉に、アスランは視線を逸らさざるを得ない。

そんなアスランに対し、冷ややかにキラは言い放つ。

「…君がカガリをどう思っているかわからないけど、もし復縁を望んでいたとしてもだよ? 今の君にとてもカガリを任せるなんてできないよ。…さっき言ったよね?「一人でオーブを支えている」って。前の大戦でディオキアで再会した時も言っていたけど、君はカガリに「こんなことをしているべきじゃない」なんて指摘してたけど、今は君はこんな近くにいながら、一人で苦難を抱えっぱなしのカガリを精神的に全然支えられてないじゃない。煮え切らない態度のままでさ。それって無視してることと変わりないよ?」

「違うっ!俺はただ―――」

「『ただ』?」

「……」

(言えない。彼女が、オーブが俺を認めてくれるまで待っているなんて…)

 

ZAFT脱走後、アークエンジェルに救われた俺にカガリは謝ってくれた。でも俺はそれに対し、まだ何も答えを返していない。

認めてくれる日、なんて、キラに言わせたら「カガリのリアクション待っているなんて女々しすぎる」の一言だろう。

 

アスランが黙っているのを一瞥し、キラは言葉を重ねた。

「僕はね、本当にカガリに救われたんだ。君にわかる?連合にいた僕のことを、ただひたすらZAFTに越させようとしていただけの君がさ。カガリは辛いとき、いつも寄り添ってくれた人だったんだ。正直、戦争に巻き込まれて、ストライクで戦うことになってから、僕は一度も心から怒ったり笑ったりできなくなっていたんだ。でも、カガリと砂漠で再会して、カガリが本気で僕に怒ったり笑ったりしてくれて、その時僕は初めて心から笑えたり怒ったり、泣いたりできたんだ。ラクスと初めて会った時でさえ、悲しい顔を隠すのに精一杯だったのに。…確かに血の繋がりかもしれないけど、それだけじゃない居心地の良さがあるんだ。ラクスとはまた違う感覚。だから傍にいて欲しいって言うよ。そのためにオーブに来たんだから。」

絶対にアスランには乗り越えられない壁を、キラが突き付けてくる。

「姉弟」、「双子」、これだけなら「血の繋がり」、「家族」だ。だがどんなに仲の良い姉弟であっても恋愛と結婚はできない。しかしキラとカガリには姉弟でありながらそれができる。つまり「最強の繋がり」といえるだろう。

「返事はどうあれ、君がもう老獪に達したような感じでカガリを見ているなら、君は僕の敵にすらなれない。カガリを僕はちゃんと守って見せるから。―――って、今日言いたかったのはこれだけ。じゃあまたね!」

 

くるりと向けた背中が妙に大きく見える。

アスランは黙ってその背を見送るしかできなかった。

 

 

***

 

 

あれから数日が経った。

 

アスランは宣戦布告されて以降、全くと言っていいほど仕事が手につかなかった。

軍令部の、今まで称賛の目で見つめていた部下たちが、アスランから溢れ出る戦慄のオーラに、今度は恐れをもって遠巻きに彼を見つめている。

しかし、そんな空気さえ今のアスランには、全く読み取ることさえできずにいた。

 

 

キラは一体いつカガリに結婚のことを告げるのだろう。

というか、自分が見ている限り、キラとカガリにそんな恋愛的な繋がりの機会は全く無いし、見つけられない。

安全確認のため(と偽って)に、カガリの元に届くメールや仕事の案件の発信者をリストにしたが、キラの名前は一つもない。

むしろ堂々と回線を使ってくるときは、ラクスとともに公的なものが殆どだ。

一体いつどうやって、結婚を意識する関係になったのか…

 

(もしかしたら、キラが俺をからかって…?)

 

ありえなくはない。ある意味距離を縮めようとしない俺への発破かけなのだろう。下手な嘘をついて…

 

(そうに違いない…アイツなりの励まし方だろう)

 

 

そう思って人心地ついたある日、とんでもないものがアスランの元に届いた。

 

 

 

 

それはUSBに入った一つのデータだった。

差出人は「L.Y.」のイニシャルだけ。このイニシャルに値する人物に心当たりはない。不審者からのものであれば、軍事データを流出させるウイルスが入っているかもしれないので、鑑識にかけてさっさと廃棄すればいい。場合によっては機密漏洩を画策したスパイ容疑で逮捕さえできる。

 

…だが、妙に疑惑をかけがたい。

 

何しろ入ってきた封筒は、愛らしい薄ピンク色。封止めには白いレースのついた蜜蝋を模したシール。

しかも、USBのほかにはもう一つ、これもフリル付きの便せんに綴じこまれた淡い黄色のカードが一枚。

どう見ても「夢みる乙女」の少女が使いそうなレターセットだ。

(まさか、ラブレター、じゃないよな…)

カガリという心に決めた人がいる中で、こんなことをされても断る以外選択の余地はない。

だが、もし子供から、何かメッセージでも入っているのであれば、無視するのも可哀そうと情け心を感じる。

とりあえず便せんに可愛い丸文字で「USBを先に見てねv」と書かれていたため、私用のPCでデータを見てみることにした。

中のファイルは動画だった。

「…いやに暗いな…」

どこかの建物の中だろうか。妙に薄暗い。これはファンレターでもラブレターでもないな。そんな雰囲気じゃない。

そう思って動画を止めようとした瞬間、アスランの目に驚愕の映像が映りこんだ。

 

一組の男女がいる。

男の背後からカメラの視点が合わせられていて、男の顔はよく見えない。だが向き合っている女性の姿と表情はわずかだがわかった。

 

いや、見間違えるはずがない―――

 

金髪の柔らかそうな髪。そして向かい合った男と顔を重ねあって…そう、まるで口づけているように…

その彼女の綴じた目から、一すじ、涙が零れ落ちていった。

 

―――「すなまない…辛かったんだ…」

 

この声は間違いなく―――『カガリ』

 

―――「ううん、大丈夫。…こんなことでしか、僕にはできなくて、ごめんね。」

 

相手の男の声は―――『キラ』だ。

 

―――「ほんと、いつもすまないな。キラ、いつも心配かけて…」

カガリが涙を拭いながら微笑んで見せる。

―――「大丈夫だよ。むしろこんな近くにいるのに、何もしてあげられなくて…歯がゆくなるばかりだよ。」

キラの声が重なる。

―――「いや、本当は私から言わなきゃいけないのかもしれないけど…」

―――「そんなことないよ!本当にごめんね。でも、それでも…好きでいてくれるんだね。」

―――「重荷になるのはわかっている。そばに居てくれるだけでいいんだ。」

―――「駄目だよ、そんなの! ちゃんとしなきゃ!僕が何とかするから。」

―――「ありがとう、キラ…」

 

「何だ、これは…」

アスランはいつの間にか椅子から立ち上がって、恐ろしいものでも見たかのように、ゆるゆると首を横に振りながら、画面から後ずさる。

先日のキラの告白どおり、まさかカガリとキラがこうしてアスランの与り知らぬところで密かに逢瀬を交わしていたとは!!

画面の中ではまだ会話が続いているが、もう鼓膜が拒絶反応を示している。何も頭に入ってこない。

そこに

 

<カサ>

 

立ち上がった拍子に落としたらしい、便せんの中に包まれていたカード。

めくってみるとそこには

 

1029日、1800 下記の場所で待ち合わせ』

 

の一文と、指定場所らしいアドレスが書かれていいた。

キラとカガリがこの場所で密会、あるいは本当にカガリがキラからプロポーズされるのではないか!?

 

<クシャ>と無意識にカードを握りつぶす手に、アスランの答えが詰まっていた。

 

 

***

 

 

1029日―――

指定のアドレスは、旧マルキオ邸だった。

大戦前、キラとラクスが孤児たちの面倒を見ていたところだ。

二人がプラントに向かい、孤児たちも津波が収まって一段落ついた島に戻ったため、今は誰も住んでいないはず。

ある意味キラには住み慣れたよく知る場所だ。人目を忍ぶにはうってつけの場所ともいえる。

<カチャ>

アスランはホルダーから銃を構える。万が一、不審者が相手だった時の護身のためだ。

無論、キラとカガリなら二人を傷つけるつもりはない。

二人…?

いや、今の自分なら、キラを撃つことさえ躊躇わないだろう。

(カガリは―――絶対に渡さない!)

 

<キィ…>

そっとノブを回せば、錆びついて鈍い音を立てたドアが開く。

そこは講堂として使われていた場所だった。

天窓から月明かりが差し込み床の一角を照らしている。

そこに、ふわりと揺れる人影が見えた。

「っ!」

両手で銃を構えて様子をうかがう。人影がゆっくりと立ち上がり、サラリとした衣擦れの音を立てた。そして

「…アスラン!?」

その声に驚き見開く。

銃を下ろして近づけば、そこにいたのは、薄い純白のドレスに身を包んだ―――『カガリ』、その人だった。

金眼を見開き、驚いてポカンと口を開けている。

「なんで、お前がこんなところに…」

「君こそ、一人なのか!?キラは!?」

目のいいコーディネータでもってしてもキラどころか、人影すらない。

「え…「キラ」? 私はその―――」

何かを言いかけたカガリの両肩をつかんで、アスランが怒鳴った。

「何で一人でこんなところにいるんだ!不用心だろう!!」

一瞬で沸騰した後、今度は自然と目頭が熱くなってくる。

無事でいてくれてよかった、という安堵と

そして、こんなに近くにいて、以前と何一つ変わらず自分の名を呼んでくれたことがうれしくて。

気付けば全身でカガリを抱きしめていた。

「ちょ、アスラン!?///

「よかった…無事でいてくれて…」

頬を寄せられ、唇が熱い吐息を交えて囁く。

「う…ごめん…」

少し項垂れるも、カガリは顔を上げてきっぱりと答えた。

「でも、ついこの前、私宛に荷物と手紙が届いて、それには「29日にこれを着て、1750までに旧マルキオ邸にいらしてくださいな♪」って呼び出されたから、来たんだ。まさか、お前が来るとは思っていなかったけど。」

「呼び出されたって、誰から?」

「ラクス。」

「その、これを着て来い、と言ったのは。」

「ラクス。」

「……」

何の疑いもせず、カガリはやってきたらしい。

曇り一つない金眼は、まっすぐにアスランを見つめている。

 

アスランはようやく、今回のからくりが理解できた。

 

そう、これは―――

 

<パッ!>

その途端、ドアの開く音と人の気配とともに、真っ暗だった室内に明かりが付く。

そして

「おめでとう!アスラン!」

「おめでとうございます♪」

言葉とともに<パンパン!>とクラッカーのはじける音。

無論そこには、キラとラクス、AAの皆になぜかイザークやディアッカ、シンやルナマリア、メイリンまでいる…

 

「どういうことだ…?」

一応言い訳は聞いておこう。額に手を当てつつ、アスランがため息とともに問えば、キラは澱みなく答えた。

「いやだな〜、アスランはもう気付いているんでしょ?サプライズの誕生パーティだよ♪」

「ふん!時間を空けろと言われるから仕方なく着てやってみれば、こんな茶番につき合わされるなんて…」

「ホント、これでも忙しかったんすよ、俺たち。」

「まーまー、いいじゃん♪こういうのも悪くないっしょ。」

「そうそう、おめでたい日に不機嫌な顔は似合わないわよ。ね!」

不満タラタラ(でも口元は笑ってる)のイザークとシンにディアッカとルナマリアがそれぞれご機嫌を取る。

アスランは改めてカガリに尋ねた。

「で、カガリ、君は知っていて―――」

「いや、29日はお前の誕生日だから、なにかプレゼントを…って思って、キラ達に相談はしていたんだけど、そうしたらさっきのラクスから呼び出しのカードが届いて。なんでも「プレゼントも用意できましたわv」って書いてあったから。」

「で、その誕生日プレゼントというは…」

「「これ」ですわv」

ラクスがカガリの背を押す。

「は?」

よく見ればレースであしらわれた純白のドレスに、胸元には大きなリボン。

まさにヴェールを被ればウエディングドレスそのもの。

「リボンでプレゼント感を出してみたんですが…お気に召しまして?」

「???」←わかっていないカガリ。

アスランの頬がたちまち赤らむ。

「ぷ、プレゼントって、お前たち、まさか「カガリ」がプレゼント―――」

「あ!いっそのこと、このまま婚約パーティーにしちゃおうか!」

「へ?誰の??」

「アスランとカガリのだよ。」

「ちょっと待て!キラ、お前、カガリに告白して…そ、それにキスまで///

「『キス』???」

カガリとキラが顔を見合わせる。二人とも全く身に覚えがないといった表情で。

「この前、俺の元に届いた動画、あれに…」

アスランの動揺をよそに、二人はしばし考え込んだ後、思い出したように同時に顔を見合わせて両手をポンと叩いた。

「あーあれ?あれは―――」

「あ。私の目に逆さまつげが入って、キラに取ってもらっていたことか?」

「『さかさ…まつげ』…?」

アスランが目をぱちくりする。

「うん、結構チクチクして痒いんだぞ!」

カガリが語彙を強める。

そうか…それで顔を近づけていたわけか。あの涙も、痒くて出ていたという…

だが、まだアスランは納得できない。

「でも、あの動画の会話は一体…」

「うん、それはね、」

 

<キラの解説付き会話の真実>

 

―――「ほんと、いつもすまないな。キラ。いつも(アスランのことで)心配かけて…」

―――「大丈夫だよ。むしろ(アスランの奴)こんな近くにいるのに、何もしてあげられなくて…(二人を見ているだけで)歯がゆくなるばかりだよ。」

―――「いや、本当は私から(アスランにもう一度「お前とやり直したい」って)言わなきゃいけないのかもしれないけど…」

―――「そんなことないよ!(アスランが鈍感で)本当にごめんね。でも、それでも…(アスランのこと)好きでいてくれるんだね。」

―――「重荷になるのはわかっている。(アスランには)そばに居てくれるだけでいいんだ。」

―――「駄目だよ、そんなの! (アスランが)ちゃんと(カガリを幸せに)しなきゃ!僕が何とかするから。」

―――「ありがとう、キラ…」

 


「良く撮れておりますでしょ? 私の自信作ですの♪ もちろん、保存もばっちりですわv」

「…

この時、アスランは初めて気づいた。

会話の省略されていた主語がすべて「自分」だった、ということに。

そして「L.Y.」なる人物―――「ラクス・ヤマト」

しっかり名前は「キラの妻は私v カガリさんは「なんちゃってです♪」を知らせていたのか。

 


「君、絶対自分の誕生日、忘れていたでしょ。」

キラに図星を付かれ、アスランがひるむ。

「…確かに。」

「だからこうしてみんなでお祝いしたいって。最初に言い出したのはカガリなんだから。」

「え?」

彼女に振り向けば、カガリは視線を逸らしながら、モジモジと告白した。

「その…私と二人きりじゃ、気まずいかな、って思って…」

「ですからこうして、私とキラが「折角なので、ドッキリにしましょう☆」って言って、皆様もお誘いしたのですv あ、カガリさんには申し訳ありませんが、詳しい内容は内緒にさせていただきました♪」

「ラクス・クラインに誘われたとあっては、無碍に断れんからな。」

なぜか上からものをいうイザーク。

 

いや、二人きりのほうが全然ありがたいのだが。

でも…

 

何だろう、一杯食わされた身だというのに、混み上げてくるのが怒りではなく、温かい感情ばかりだ。

 

「あれ?アスラン、そんなに嬉しかったの?」

キラがからかい交じりに見上げてくる。

「あぁ。本当に嬉しいよ。ありがとう…」

素直に答えたのが予想に反していたのか、キラが逆に怯んだ。けど

「だったら、改めて―――「誕生日おめでとう、アスラン!」」

「「「おめでとう!!!」」」

 

皆が挙げてくれる祝杯。これに応じることができ日が来るなんて。

プラントを離れ、オーブで生きる決意をして。

 

でも―――距離はたとえ離れても、ちゃんと今も繋がっている。心はこうして。

 

 

 

 

 

ひと時、パーティを楽しんだ後、酔い覚ましにカガリを連れて、砂浜を歩く。

 

二人きりになれたのは、どのくらいぶりだろうか。

近くにいながら、彼女の心に気付いてやれなかった俺は、本当に変わらず馬鹿なままだ。

 

カガリはあの時、AAの医務室で俺に頭を垂れた。

自分の非を認め謝罪する、ということは、どれだけ重い事か。カガリはそれでも俺に正直でいてくれた。

 

今度は―――自分の番だ。

 

「ごめんな、アスラン。あそこまで驚かせるつもりはなかったんだが…」

カガリが申し訳なさそうに話し出した。アスランは微笑み首を横に振る。

「カガリだって巻き込まれたようなものじゃないか。でも久しぶりに皆の顔が見られて嬉しかったよ。」

「ホントか? よかった!アスランが喜んでくれて。」

 

満面の笑みで喜ぶ彼女。

俺に大事なものをもう一度、教えてくれる大事な仲間がいることを

いつもこうして君が気づかせてくれる。俺の見失っていたものも、すべて。

 

だから―――

「カガリ…」

「うん?」

「もう一度、俺と一緒に歩いてくれないか?」

「…んと…それって…///

「もう、離れたりしない。君を一人にしない。だから―――」

歩みを止めて、彼女に向き合う。

「君のこれからの人生を、俺に下さい。」

 

夜の波間に降るように星が囁く夜。

その星に負けないほど瞬く金の瞳が潤んで微笑む。

無垢なままの―――初めて出会った時と、何一つ変わらぬ笑顔の彼女がそこにいてくれた。

 

だが

「待て。私自身がプレゼントの品、というのは、なんか釈然としないのだが…」

急に気難しい顔をしてカガリが考え混む。

「いや、キラもラクスも他のみんなも、一番俺が欲しがっていたものをわかってくれていたんだ。彼らのためにもちゃんと頂戴しないと。」

「いや、それだけじゃない!」

カガリがむくれる。

「肝心の私自身からのプレゼント、まだ渡していないんだが…」

「もうこれで十分だけど、もしくれるというなら…さっきの問いに、「俺が喜ぶ答え」が欲しいな。」

笑顔満載でプレゼントを強請れば、カガリが夜でもわかるほど頬を赤らめ言った。

「わ、わかった!///じゃぁ、ちょっとこっち向け!」

 

そうして背伸びをした彼女の細い腕が彼の首に回されて、

 

温かい唇が耳元で小さく囁いた後、そっとアスランのそれに重ねられた。

 

 

 

・・・Fin.