「たっだいま〜!」
この2日、たっぷりと幸せを味わったカガリは満面の笑みで勢いよくアスハ邸の玄関をくぐった。
「おかえりなさいませ、姫様。ご旅行は楽しかったですか?」
荷物を受け取るマーナが恭しく出迎える。
「うん!色々遊べたし、ごはんも美味しかったぞ!あ、もちろんアスハ家の料理長のご飯も天下一品だがな!」
「『一品』であれば両雄は並び立ちませんよ、姫様。」
「いや、うちは洋食メインだろ。でも向こうは和食専門。それぞれ美味しいからどっちも天下一品でOKだ。」
「まぁまぁ。」
マーナが苦笑する。だがすぐに彼女は神妙な面持ちになった。
「マーナ?何かあったのか?」
「それが・・・どうぞこちらにおいでくださいまし。」
何か表情が曇りがちだ。まさか、私がいない間にオーブに何か重大なことでもあったのだろうか?
「マーナ、教えてくれ!一体留守中に何があったんだ!?」
「こちらに来ていただけましたらお分かりになるかと・・・さぁ姫様」
そう言って頭を下げたマーナが促すのは―――応接室。
「?」
さっぱり訳が分からない。恐る恐るカガリがドアを開けたその時だった。
「「「カガリ様、お誕生日おめでとうございます!」」」
<パンパン!>とクラッカーのはじける音に続いて目の前がパッと明るくなれば、
そこには大量の青と黄色の花々。
「うわ・・・これって・・・」
「アスハ家使用人、一同とヤマト家ご夫妻より、姫様とキラ様へのささやかなお祝いです。」
執事の言葉に続き、皆皆が拍手を贈ってくれる。
(やっぱり、待っていてくれる人がいるって最高の贅沢だ。)
何だか目の奥が熱くなってくる。今日はこんな嬉しい涙ばかりが溢れる日だ。
「みんな、ありがとう・・・」
悲しい涙は見せたくない。
けど、
嬉しい涙は、みんなも嬉しくなるはずだ。
カガリは目いっぱい泣いて、笑った。
そして
(そうそう、アイツにもちゃんと伝えないと・・・)
***
<カガリ!久しぶりだね。元気にしてた?>
「無論だ。代表たるもの、いちいちケガや病気なんてしていられるか。」
<それを聞いて安心したよ。だってカガリって昔から無茶ばっかりするんだもん。>
「いいや、むしろ頑固なのはお前の方だぞ、キラ。」
性別と髪や瞳の色を除けば、やっぱり自分を見ているみたいにモニターの向こうはそっくりな笑顔で返す双子の弟がいる。
<それはともかく、メールじゃなく直接通信って珍しいね。>
「うん、実はお前に届けたいものがあってさ。」
<届けるって・・・うわぁ・・・凄いね。>
カガリが身を引いてモニターの向こうを見せてみれば、部屋中に青と黄色の花々が溢れている。
「これな。アスハ家のみんなや、ヤマトのご両親から、キラと私へってさ。ちゃんとバースデーカードまでついてるんだぞ。お前のは直接見てもらったほうがいいと思って、あとで送るからな。あ、でもヤマトのご両親にはちゃんと直接お礼言えよ。」
<父さんと母さんと、それに・・・アスハ家のみんなが、『僕』にも?>
「そりゃそうさ。だって私たちは同じ誕生日、この世でたった二人の双子の姉弟なんだから。」
<うん・・・そうだね・・・みんな、ありがとう・・・沢山ありがとうって伝えておいて。>
キラも何だか瞳が潤んでいる。やっぱり双子。感性も似ているとつくづく思う。
<ところで僕って『青』のイメージなのかな?>
「う〜ん・・・『ストライクフリーダム』とかお前のMSって白と青が基調だろ。でもアスランはお前は『白』だって言ってたぞ。」
<アスラン?なんでアスランの話が出るのさ。>
「う・・・」
しまった。キラとアスランは仲がいい。なのに、カガリ絡みになると、とたんにアスランに厳しくなる。
カガリが言いよどんでいると、キラがここぞとばかりに詮索してくる。
<そういえば、実は今日一度僕から政務室に直接コール入れてみたんだけど、「カガリは休み」って言われて。何処かに行っていたの?>
「ちょっと旅行にな。アスランに誘われて。」
<へ〜アスランに。>
あ、いつものどこか挑戦的な視線だ。
でも
「何だお前?いつもみたいに食って掛かってこないな。そっちの方が珍しいぞ。」
<だって攻められないよ。カガリがいつもよりすごく楽しそうで・・・綺麗に見えるから。>
「はぁ!?な、なんだよ、綺麗って!?///」
今までキラに容姿を褒められたことなんてない。そりゃそうだ。カガリの容姿をとやかく言えば「=自分も同様です」と言っているようなものだから。
だが、そんなセリフをあのキラが吐くなんて。さては・・・
「お前、何かいいことあっただろ?」
<え!?そ、そりゃ今日は僕の誕生日だし///>
顔が赤くなった、こいつも感情が誤魔化せないやつだ。何しろ双子―――はもういいとして、自分と同様の反応ということは
「ラクスから誕生日のプレゼント貰っただろ?それも「超特別」の!」
<うっ//////そ、そういうならカガリも旅行だけじゃなくって、アスランになんかもらったでしょ?それこそ「超!特別」なのを!例えば・・・『プロポーズ』されたとか?>
「ゴホッ!」
<やっぱり…何となくわかるんだよね。こんなに離れていても、時々ふっと嬉しくなったり悲しくなったりする時があって。その時って大抵カガリがそういう体験している時なんだよね。なんていうか、目に見えない、テレパシーみたいなの。>
「『シンパシー』か。」
確かに。なんだかキラは思い悩んでいるとか、心の奥がなんとなくわかるときがある。初めて出会ったときからそうだったっけ。
でも、あえてアスランへの苦言をしないあたり、そしてシンパシーということは、今はキラもおなじホカホカな幸せを感じているはず。ということは・・・
「お前も『プロポーズ』されただろう?ラクスに。」
<ゴホッ!って…やっぱりカガリにはわかっちゃうか。あ、でも‼名誉のために言わせてもらうけど。僕から言ったんだからね。「君の残りの人生が欲しい」って。>
「凄いセリフ吐くな、お前・・・」
<でもラクスは凄く笑って、泣いてくれた。>
ラクスは辛い時もずっと泣かないで耐える強い女性だけど、お父さんとミーアさんを殺された時だけ凄く泣いていていた。悲しいだけじゃない、特にミーアの時は自分の不甲斐なさに涙する、そういう女性だ。でもそれができるのは・・・
「ラクスが泣けるのはキラの前だけだ。ちゃんと幸せにしてやらなきゃだめだぞ!」
<カガリも絶対幸せにね。もうあんな結婚しちゃだめだよ!>
「・・・それはアスランに言ってくれ・・・」
<いや、どっちかというと、アスランが幸せにするんじゃなくって、カガリが幸せにしてくれそうな気がするんだもん>
私はどれだけ逞しく見えるんだ。
<ねね。アスランのプロポーズってどんなだったの!?>
「それは、本人に聞いてくれ。」
これは流石に当人同士だけの秘密事項だ。
<じゃぁ、カガリはどんな風に応えたの?>
「食いつくな、お前・・・私からは「毎日「行ってらっしゃい」と言わせて欲しい。」って。送り出して、帰りを待ってくれる人がいるって嬉しいことだから。」
<うん、そうだね・・・>
この世でたった一人の血族。そういう意味では例え宇宙に居ても地球に居ても思いは同じだ。
「アスランはアスランで大事な家族になるが、お前はお前で私の大事な弟だ。この世にたった一人の大事な弟だ。離れていても、お前のこともちゃんと待っているからな。」
<僕もカガリがラクスと別に大事な人だから。いつでも会いに来て。>
離れていても、心はちゃんと繋がっている。双子ならではのシンパシー。だったら同じ日に生まれてくれたことが本当に嬉しい。
「そうだ!今日が終わるまで、あと1時間しかないじゃないか!一番大事なことをお前に言うの忘れるところだった!」
<僕も言わなきゃと思ってたんだ。じゃぁカガリ>
「キラ、せーの
「<『ハッピーバースデー』、それから―――
画面におでこをくっつけ合って、笑い合う
『ハッピーウディング』!!>」
・・・(今度こそ本当に)終わり。