My Only Secret 〜後編〜
カガリ様が帰ってくるまで、お部屋の準備と、入浴の準備、お着替えの準備を整えている間に、あっという間に時間は過ぎてしまいます。
夕方になり、カガリ様とアレックス様が、お屋敷に戻られました。
「「「お帰りなさいませ。カガリ様。」」」
メイドに執事―――皆が玄関でカガリ様をお迎えします。
カガリ様は皆に笑顔を振り撒き、お返事を下さいます。
「ただいま!みんな! さ〜、ご飯食べよ! アレックス!」
「全く…カガリは色気より、食い気か…」
「何だよ! 悪いかよ!」
むくれるカガリ様に、可笑しそうに笑うアレックス様。
「いや、失礼…只、カガリはいつも元気でいいなと思って…。」
「もう!…先にいってるぞ!」
そうして、玄関ホールに先に入っていくカガリ様を、私は急いで追いかけました。
ダイニングルームには既にお夕食の準備が整えられ、朝と同様、テーブルを挟んでカガリ様とアレックス様が、お夕食を摂られます。
お2人の会話は今日の閣議であった事など、私たちメイドには分からないこともありますが、懸命にお話するカガリ様を見るアレックス様の瞳は、穏やかで優しく、表情もこの上なく柔らかい感じがするのです。
そんな時、カガリ様から私にお声がかかりました。
「アニー。アレックスが今日も泊まりで仕事だから…部屋の準備頼むな。」
「かしこまりました。」
早々に、私はお部屋の準備にかかりました。
お夕食のあと、カガリ様は御入浴なされます。
そのお手伝いをしに、私も浴室に入ります。
「あ〜ぁ…一人でゆっくりお風呂につかりたいんだけどな〜…なんで身体洗うのに、人手が要るんだよ…」
「…申し訳ありません。」
「あ、別にアニーのこと、いってるんじゃないからな! ただ、良家のしきたりって、こんなにめんどくさいことしなきゃなんないって―――アニー達だって、嫌じゃないか?」
「とんでもございません! お世話させていただくだけで、もう充分幸せです。」
「そうか…いつも悪いな。」
「恐れ入ります。」
お気遣いいただくカガリ様にそういいながら、私はシャワーでそのお身体に、湯をかけます。
そういえば…最近ふと思うのです。
カガリ様のお身体が、最近急に丸みを帯び、肌も柔らかく滑らかで、透き通るようになって…肌を流れる水滴は真珠のように滑り落ち…胸のふくらみも、服の上からでは想像できないほど、豊かになってらっしゃること―――
カガリ様ご自身は、お気づきなのでしょうか・・・?
湯浴みのお手伝い後、その美しいお身体を拭き、バスローブを着せ、髪を乾かします。
そして、カガリ様の汗がひいた頃を見計らって、私は夜着へのお着替えを手伝います。
「さてっ! これから資料の片づけしなきゃ…」
カガリ様は背伸びをされると、私室の机に向かわれました。
「それでは、あまり御無理をなさりませんように…。失礼いたします。」
「あぁ。お休み。アニー。」
私は静かにカガリ様のお部屋のドアを閉めました。
* * *
<ボーン、ボーン・・・>
広間の時計が夜10時を打ちました。
今夜の夜の見回りは、私です。
広いお屋敷をくまなく見て回る為、何人かで一緒に行いますが、私の担当は、アレックス様やカガリ様のお部屋のある階です。
ライトを片手に、廊下を回っていたところ、アレックス様のお部屋の明かりがまだついていることに気付きました。
失礼と思いながらも、私は部屋をノックしました。
「はい…。」
ドアを開けたアレックス様は、いつもと変わらぬ冷静な表情で、私を見つめました。
「何か、御用ですか?」
その端正な顔立ちと透き通った翡翠の瞳に、一瞬ドキッとしながらも、私は言いました。
「あ、あの…まだお部屋に明かりがついていたものですから…」
そういうと、アレックス様は後ろを振り返りながら、私に言いました。
「まだ、資料が片付いていないんだ。」
振り返った視線の先は、机に載せられた資料の山―――
「で、では、コーヒーでもお持ちします。」
アレックス様は穏やかに「ありがとう。」とお返事くださいました。
一度キッチンに戻り、コーヒーを2人分入れると、私はアレックス様のお部屋と、カガリ様のお部屋を訪ねました。
案の上、カガリ様も夜着に軽くガウンを羽織り、机に向かって、難しい顔をされておりました。
「カガリ様…コーヒーをお持ちしました。」
カガリ様は振り返ると、嬉しそうにおっしゃいました。
「わぁ! サンキュー、アニー。丁度、喉渇いてたんだ!」
コーヒーを受け取ると、カガリ様は尚も、私にお言葉をかけてくださいました。
「アニーは気が利くな!…絶対いいお嫁さんになれるぞ!」
気取りなく、それでいて自然に広いお心使いを下さるカガリ様―――
私はカガリ様のお言葉が嬉しくて、思わず顔を赤らめ、一礼すると、廊下に出ました。
* * *
私はそのまま、住み込みのメイド達の部屋に戻ると、疲れのためか、直ぐにベッドに入ると、重くなった目を閉じました。
他のメイド達同様、明日もまたカガリ様のために、せめて私が出来る事をさせていただこう、と、心に誓いながら―――。
* * *
ふと、目が覚めると、12時をまわっていました。
私は「ある事」に気がつき、慌てて明かりを片手に部屋を飛び出しました。
―――先ほどの『夜の見回り』―――お2人にコーヒーをお持ちしたことで、お2人のお部屋の後の見回りをすっかり忘れていた事に!―――
私は急いで夜着に羽織るものを引っかけ、アレックス様のお部屋の続きから、夜の見回りを始めました。
今夜は満月―――
廊下にも明かりがいらないほど、月明かりが降り注いでいました。
アレックス様のお部屋は既に、明かりが消され、お休みになったようです。
その後、カガリ様のお部屋のほうへ向かった、丁度その時―――
「…っ…ぁ…」
カガリ様のお部屋のドアからは、微かに光が零れ、そこからからすすり泣くような声が聴こえたのです。
(…また、ウズミ様のことで、お嘆きになっているのかしら…?)
私は昼間のレベッカの話を思い出し、せめてお慰めが出来れば、と、カガリ様のお部屋のドアをノックしようかと思った、その時でした。
「――――。」
聴こえたのは、カガリ様のものではない…男性の声。
私はこのドアの向こうで、何が起きているのか…気になって、ドアに耳を当て、そっと聴いてしまったのです。
そこからは<ギシ、ギシ>という規則的な、ベッドのスプリングの軋む音―――
その音と重なるように、泣きそうな……いえ、鼻ががったような甘い吐息―――
私はいけないと思いつつも、鍵穴から、そっと中を窺いました。
「――――!!」
私は持っていたライトを危うく落としそうになるほど、驚き、自分の目を疑いました。
そこには、月明かりに照らされ、普段お召しになる服の上から見ただけでは判らない、たくましい身体を浮き彫りにした男性と、いつも見慣れた柔らかで、美しい曲線を描く肢体をベッドに横たえた、女性の姿―――
ベッドの下にはバスローブと夜着が無造作に脱ぎ捨てられ、一糸纏わぬ2人がベッドの上で肌を重ねあっておりました。
女性に覆い被さるようにしている男性の濃紺の髪が、ベッドの軋む音に合わせて揺れ、両腕を肩の辺りで押さえられている女性は、身体を時折仰け反らせ、豊かな胸を揺らし、小さな甘い声を発していました。
絡み合う2人―――
男性は普段、私たちに見せることのない、雄雄しい表情と、燃えるように熱い情熱を込めた翡翠の瞳で女性を見つめ、その女性はやはり私たちが見たことのない、涙を湛えた、潤んだ金の瞳と切なげな『女』の表情で男性を見つめていました。
「・・・んぁ・・・ぁ・・・」
普段……いいえ、誰も聞いたことがないでしょう…女性の甘い声―――
必死に押さえようとする女性の声に、男性は声を掛けました。
「カガリ…我慢しなくていいから…声…聴かせて…」
その声も、女性を見つめるその翡翠の瞳も、これ以上ないほど優しく、愛しさが溢れているように見受けられました。
「だって…誰かに聴かれたら…」
女性は切なげな声で答えました。
男性はこの世にたった一つの大切なものに触れるように、ゆっくりと、その頬を撫ぜながら、じっと女性の顔を見つめて言います。
「俺は…聴かれても…見られても…構わない…」
女性の金の髪を…頬を…優しく撫でながら言うその言葉に、女性は目を閉じると、真珠のように輝く涙を、ポロリとこぼしながら、甘えるような表情で男性を見つめています。
「…それとも…こうした方がいい?」
男性は女性の唇に自分のそれを重ねると、狂おしい程の深いキスで、女性の声を遮ります。
「……ん……」
女性も解放された両腕を、濃紺の髪をかき上げるようにしながら男性の首に腕を回し、それに答えます。
男性の唇が離れ、女性の豊かな双丘に顔を埋めると、
「あんっ!…っあ!…」
唇から零れる甘い声と共に、月明かりに、白いきめこまやかな肌が浮かび上がり、激しく仰け反ります。
私はふと気付きました……
―――その身体が急に女性らしくなってきたのも…豊かになってきた胸も…全てはこの男性から受けられる「愛される」行為によって出来た…という事
を…
そして、女性が、かたくなに朝のシャワーのお付きを断られた訳を…
やがてベッドのスプリングの軋む音が早まってくると、遂に、女性は耐え切れずに甘い声をあげ始めました。
「あんっ! あぁっ! ふぁぁっ!」
柔らかな金の髪を揺らし、シーツの端を握りながら、女性は涙で潤んだ切なげな金の瞳を男性に向け、言いました。
「…好きだ…」
女性は、男性からご自分に溢れんばかりに注がれる愛に、懸命に答えようとしておりました。
「…アスランが…好き…」
女性は男性の頬に手を伸ばすと、男性はそれを優しく握り返しながら、狂おしい程の愛しげな眼差しを向け、優しく言いました。
「…俺も…愛してる……カガリ……だから…」
男性は、女性の顔に唇を寄せると、囁くように言いました。
「もっと名前呼んで…俺の名前を…」
やわらかな金の髪を撫ぜ、その瞳に滲む涙を拭いてやりながら、男性は続けて言います。
「…カガリの声……もっと聴きたい…」
そうして、再び何度もキスをかわしながら、身体を重ねあわせ、喘ぐ吐息が大きくなり、ベッドの軋む音が、次第に速く、激しさを増していきます。
「アスラン! アスランッ!! 私…もう…っ!」
「カガリ…俺も…一緒に―――っ!」
もうそれ以上立ち入ってはいけない気がして、私はドアからそっと離れ、2歩、3歩、と下がり、ドアを背にしました。
そのすぐ後の事でした。
―――ドアの向こうから、甘く切ない響きをもった、嬌声が聴こえたのは…
* * *
翌朝―――
まるで昨夜の出来事が夢だったように、いつもの通り、アレックス様がダイニングルームでキーボードを叩く音が響いておりました。
「アレックス様。紅茶をお持ちしました。」
「あぁ。ありがとう。」
いつもと変わらぬ、穏やかで冷静な翡翠の瞳―――
やがて、金の髪を揺らし、ダイニングルームに届く元気な声。
「おはよう! 皆!」
そして、いつも通りに私は頭を下げて、他のメイド達と共にこう言います。
「「「おはようございます。カガリ様。」」」
そして、いつもと同じ、ダイニングルームで向かい合ったお2人が微笑み、話し、笑いあう、光に満ち溢れた朝食―――
* * *
カガリ様をお見送りし、朝食を済ませると、私たちはいつも通り、お掃除に向かいます。
「あら?」
レベッカが呟きます。
「どうしたの?」
カガリ様のベッドのシーツを替えていたニナが聞きます。
「また、くずかごに、ティッシュペーパーが丸まっているのよ…。」
不思議そうな2人に、私は少しだけ声を掛けます。
「…大丈夫よ。それはカガリ様が、悲しんで泣いた物ではないから…。」
「まぁ、どうしてそんなこと言えるの? アニー。」
レベッカの言葉に、「さぁ?」と微笑むと、私はレベッカが持ったままのくずかごを受け取ると、『私だけが知っている秘密』と共に、ダストボックスに空けたのでした。
・・・Fin.
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>あぁ〜すいませんっ!! そこの人、石投げないで下さい!!
と、いっても、弁解の余地などございません…(T_T)
多分、コレ読んで、「あれっ!?」って思った方もいるかと思います。
…実はちょっと前に某サイト様のお茶会に参加させていただいた時、「アスハ家のメイドになったら何したい?」と言う質問に、(確か)ほぼ全員が、『アレックスの『夜這い』がないか、盗聴器&隠しカメラを姫の部屋につける!』と答えたのが、笑えたので(笑)
そして、中にはユニークなお答えをした方がおりまして、「まず、掃除の時にゴミ箱チェックする。」と言うので、「何で?」と聞いたら「アレックスの『事後○理』があるか、わかるから。」という素晴らしい(笑)お答えをしていらしたので、そこからパクリました(笑)
ついでに突っ込みどころで、『あんな鍵穴からそこまで見える訳ないじゃん!』と言う方もおられるかと思いますが、『アールデコ式』の家って、結構鍵穴、でかいんですよ。(某異人館に行ったとき、実際覗き見してみた経験上(笑))
更に、SEEDの世界では、『ベッドがドアのすぐ前にある』という、『非常識極まりない(笑)設定』があったので、(ついでにこのメイドさんはコーディで、目と耳がよい、という無茶苦茶な設定だと思ってください。(←便利だね〜コーディネーターって…何でも設定可能に出来る(笑))それも利用しました(笑)
SSの仮タイトルも、最初『ク○ネックス』だったり、『ティッシュ』だったりして…Namiの頭の中は『バカの』一声に尽きます…(-_-;)
…ちなみに『ティッシュ』の意味が分からない方――――
『そのまま純粋な大人になってください。』
ともかく、リク下さった方、ありがとうございました! こんなヘンなものですいません!!