『オーブ軍は、直ちに戦闘を停止しろ! オーブの理念を忘れたか!?』

戦場に木霊する女の声―――

幾たび目かの『地球軍』と『オーブ』の『連合軍』対『ZAFT』の戦闘。
そこに再び、あの『紅の機体』は現れた。

<何を奇麗事をっ>
直ぐ近くで地球軍のMSと交戦中だった、シンの声が通信を通して聞えてくる。


―――カガリ、アレだけオーブに帰れ、と言ったのに!


戦闘の最中、アスランのセイバーも『連合軍』のMSと戦いながら、やるせない思いで、『紅の機体―――ストライク・ルージュ』を見つめた。

それを援護するかのように、キラの『フリーダム』が大空を駆け巡っている。

『オーブ軍!私の声は聞えているだろう!? もう止めて、国に戻るんだ!』
 
全チャンネルを通して戦場に響くカガリの声――

だが、それを『敵』と見なした『連合軍』『ZAFT』は容赦なくルージュに襲い掛かる。

<カガリは下がって!>
キラの声がカガリの耳に届いた時は、カガリは既に、オーブのアストレイ・ムラサメに包囲され、集中攻撃を受けていた。


―――カガリでは、オーブ軍に手を出せない!!

アスランは慌ててセイバーでルージュを援護しようとした。
が、連合のMSに阻まれ、ルージュまで手が届かない。

「カガリ!早く引き返せ!」
アスランは通信チャンネルを開き、ルージュに向かって叫んだ。

だが、時既に遅く―――

『キャァァァ―――ッ!』

絶叫とともに、ルージュは黒煙を吐きながら、まっさかさまに、海中に落ちていった。

―――カガリ!

アスランは懸命にルージュへ向かおうとした。
だが敵に阻まれ、身動きが取れない。
「カガリっ! カガリィィィ―――っ!」
アスランは臓腑がえぐられるような感覚に陥った。
母を亡くした『ユニウス・セブン』への核攻撃を見たときのように。
いや、それ以上の激情が沸き起こる。

「うぉぉぉぉっ!」
アスランは周りの敵に当たり構わず、鬼神のように襲い掛かった。

<カガリっ!>
キラもカガリを救おうと急激に高度を下げたが、やはり多くのZAFT軍・連合軍に阻まれ、カガリのもとに辿りつけていないようだった。



どれくらいの時間だっただろう・・・
やがて、信号弾が放たれ、両軍は撤退した。


        *       *      *


「応答願います! 隊長!応答願います!」
ミネルバのブリッジに、メイリンの声が響く。
「どうしたの?」
艦長のタリアがメイリンに尋ねた。
「セイバーが…ザラ隊長が、帰艦しないんです!」
泣き出しそうな、メイリンの声―――
「シグナルはロストしていないでしょうね?」
タリアの声に、メイリンは頷く。
「…だったら、落とされた訳ではなさそうね…」
「でも、単独で行動するのは危険すぎます!…敵にでも遭遇したら」
メイリンの泣き出しそうな声に
「大丈夫よ…仮にもFAITHよ。彼に限ってそんなミスはしないでしょう…」
タリアは小さな溜息をついた。


       *        *        *


(カガリ…どこにいる? カガリ…)

アスランのセイバーは、カガリのルージュが落ちた辺りの海面を旋回していた。
黒煙は吹き上げていたが、爆散したわけでは無い様子だった。
海に投げ出されたとしても、機密性の高いパイロットスーツなら、暫くの間、空気の欠乏の心配は無い。

アスランは入り組んだ入り江の辺りに、今日の戦闘で爆散した機体の破片が、潮の流れで集まっている場所を見つけた。

(まさか、この中にカガリは―――)

遠目の効く翡翠の瞳を凝らしながら、アスランは海面スレスレを滞空した時、

―――!?

オレンジのパイロットスーツらしき人影が、浜で打ち上げられているのを見つけた。
(アレは―――オーブのパイロットスーツ!)

アスランは高鳴る胸を抑え、入り江近くの浜にセイバーを着陸させると、そのパイロットスーツへ駆け寄った。

ヘルメットのバイザーを波が洗っている。
アスランが浜へ引き上げ、ヘルメットを外すと、そこには―――
見間違う事ない、金髪の少女
「カガリっ! カガリっ!!」
カガリの身体を抱きかかえ、耳をカガリの口元に寄せる。
幸い、微弱ながら、息が聞えた。
「カガリ! 目を覚ませ! カガリ!!」
そういってアスランは、カガリの頬をピシャピシャと叩く。と―――
瞼の奥から、金の瞳が覗かせた。



「ア…ス…ラン?」
「カガリ…無事でよかった…カガリ。」
アスランはカガリを抱きしめた。
もうこれ以上、大切なものを奪われまいとする子供のように、きつくカガリを抱きしめる。
「痛いよ…アスラン…」
カガリのか細い声に、アスランは、自分でも頬を涙がつたってくるのが判った。
その頬を、カガリの頬にこすりつけるようにして、生きている温もりと、懐かしい匂いを確かめる。
「こんなことになるくらいなら…何故、あの時『オーブ』へ戻れ、といったのに、聞かなかった!?」
「でも、私はオーブ軍に引いて欲しくて―――」
「お前が戦場に出るのを見るのは嫌なんだ!」

抱すくめられたままの、カガリの瞳が大きく見開く。
「お前が…海に落ちていくのを見たとき…怖かった…」

『怖い』―――一度戦場に出れば、あれだけの強さを誇る、この男の口から、そんな言葉が出るなんて…。
カガリの頬に唇を軽く触れ、アスランは抱きしめたまま、カガリに告げた。
「怖くて…俺の大事なものが、目の前で失ったと思ったとき…怖くて、胸が張り裂けそうだった…」
「アスラン…」
「だからもう、戦場には出るな! オーブに戻れ!オーブでの君の役割は判っているだろう!?」

「…判っているさ…だから…」
カガリはアスランの腕を解くように身を離すと、真っ直ぐな金の瞳を向けていった。
「確かに無駄な事かもしれない…でも、私は『連合』でもなく『ZAFT』でもない、第3者として、オーブから、一歩離れたところで、戦争の根を見つけたいんだ。」
「戦争の…根…?」

―――戦争の根源―――ロゴス―――

「お父様が昔言ってたんだ…『戦争の根を学べ』って…だから、私は私の考えで、この道を選んだんだ。…危険は承知だ。」
「カガリ…」
意志の真っ直ぐな金の瞳―――この瞳が何度も俺を導き、救い出してくれた。
「お前はZAFTに戻るんだろ?」
「…あぁ…」
視線を逸らしたアスランに、カガリは力強く言った。
「確かに、今は立とうとする道は違うと思う…お前と私は…でも、お前も私も戦争を止めたい、という思いは同じだ。だから…いつかきっと、同じ道にたどり着けると思うから…。」
「カガリ…」

「迎えがきてくれたみたいだ。」
カガリの声にアスランは上空を見上げると、遠くに『フリーダム』の姿が見えた。

アスランの傍を発とうとするカガリ―――だが、
「―――!?アスラン!?」
不意に腕を掴まれ、カガリは再びアスランの腕の中に収められた。
「俺は、お前を思う気持ちは…変わりないから…どんな道に立っても。」
「…アスラン…」
「だから、今だけはこうしていさせてくれないか…?」

腕の中のカガリがコクリと頷く。

視線を重ねたあと、自然と唇が重なる―――


『フリーダム』の着陸音が聞えなくなるまで、アスランはその腕の中の愛しい宝物を放そうとはしなかった。


                                                                   …Fin.

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>元々は『お題場スペシャル』の問題8に投稿させて戴いたものですが、この度、かずりん様から、素敵な絵の掲載のお許しを戴き、サイトに掲載させて戴きました。
かずりん様、どうもありがとうございます!!

かずりんさまの素敵サイトは     



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