Justice 〜Vol.5〜
カガリは、近衛兵のトダカとアマギに連れられ、城に戻った。
(…何週間ぶりだろう。ここに戻ったのは…)
初めてここを発ったとき、『お父様の仇』を取る事を誓って一人、旅立った。
そして数奇な巡り合わせ―――
共に戦っていく中で、気持ちを通わせるようになり、初めて自分を受け入れてくれ、そのままの『私』を愛してくれた『大切な人』が…『その憎き仇』だったなんて…。
うなだれながら城門をくぐってきたカガリに、出迎えたキサカが、厳しい表情でカガリに告げた。
「お帰りなさいませ。カガリ様…早速ですが、王室の間までおいでください。」
「…王室の間へ…?」
(もう、お父様もいないこの城で、何故王室に行け、など…)
カガリは階段を昇り、王室にたどりついた。
ドアをノックすると、ドアが開き、カガリはその部屋を見て、驚きの表情を隠せなかった。
王室の中央―――王の玉座に『仮面』をつけた、金髪の男が、片肘をついて座っている。
「誰だ!?お前は! そこは亡きお父様の玉座だぞ! そこをのけ!」
声を荒げるカガリに、仮面の男は笑うように言った。
「…そう…ここは『オーブ王国』国王の玉座…つまりこれから私が座ることになるのだから!」
男の笑いに、カガリは怒鳴った。
「どういうことだ! お前は何物だ!?」
男は笑いを止めると、カガリに近づき、うやうやしく礼を取った。
「ご尊顔つかまつるのは、初めてですな…カガリ姫…」
そして、表情の読めない仮面の中の視線が、鋭くカガリを見つめるような気配に、カガリは恐怖を感じた。
「それでは改めて…『初めまして…私が『ザフト王国』の第一王子にして、国王の『クルーゼ』』です。」
カガリは驚きと共に、その場に崩れ落ちた。
「な…何故『ザフト王国』の王が…『オーブ王国』の王に…?」
クルーゼは、高笑いすると、カガリの顎を掴み、囁くように言った。
「もちろん…貴女の為ですよ…カガリ姫。 貴女が私の妻になる事で、『ザフト』と『オーブ』が一緒になるのですから…」
そして、カガリに背を向けると、クルーゼはまた高笑いした。
カガリの中で沸々と沸いてくる疑問―――
「お父様を殺した『黒マント』の人物」
「現場に、まるで『証拠だ』と言わんばかりに落ちていた、『ザフト王国』の紋章の入った短剣」
「そして…執拗にアスランの命を狙った『ザフト王国』の兵士」
「…ま…まさか…お前…お前がお父様を―――!」
クルーゼは可笑しそうに笑うと、カガリに向かって言った。
「全てはそう…私の手中に収めんが為―――」
「じゃぁ、アスランも―――アスランもお前が濡れ衣を着せて―――!!」
「…あの男は腹違いの弟だが……武勇も知力にも秀で、そのうち我らが祖国『ザフト王国』を凌ぐ国を作りあげるかもしれない…そのためには消えてもらった方が身の為だと思わんかね?」
声色一つ変えずに告げるクルーゼに、カガリは剣を抜いて向かって行った。
「お前が、お父様を―――アスランを―――っ!」
だが、クルーゼはカガリの剣を、アッサリとかわし、カガリはクルーゼの近衛兵に押さえつけられた。
「姫には結婚式まで、北の塔にてお休み願おう…そして、我妻となった暁に、この『オーブ王国』を我らが『ザフト王国』のものにするのだ!」
クルーゼの笑いに、カガリは近衛兵に両腕を掴まれ、北の塔に幽閉された。
* * *
『北の塔』―――日当たりも悪く、何処となく黴臭い。
(まるで…牢獄にいるみたいだ…)
ここから解放されるのは、―――クルーゼとの『結婚』の時。
(何とかして…ここからでて…真実を皆に伝えたい。 …でなければ『婚礼』のときに、クルーゼを倒し、私も一緒に…)
窓の外をボンヤリ眺めては、アスランと駆け回った野山や湖…そして愛を確かめ合った小屋…
それを思い出しては、金の瞳に涙が溢れる。
―――『この傷跡は、カガリが国を護った『証』だ―――誇りを持って―――』
思い出す、あの優しい翡翠の瞳。
(――――泣いちゃいけない! この国を護るのは私だ!)
カガリは部屋にあった机の上の紙とペンを取り出すと、手早く何かを書き綴った。
「カガリ様―――お夕食をお持ちしました。」
マーナが食事を運んでやってくる。
(チャンスは…今!)
「ありがとう。マーナ。」
「…こんな…こんなことになるなんて…姫様にはお幸せな結婚をしていただきたかったのに…。」
涙を零すマーナに、カガリはそっとメモを渡した。
「これを…キサカに…」
* * *
北の塔に、白いヴェールが幾つも運ばれる。
「…姫はどのウェディングドレスがお好みかな…?」
クルーゼのことなど、眼中に入らないように、カガリは窓辺に座って、外をボンヤリと眺めていた。
その姿にクルーゼは笑いを零すと、一言だけ告げた。
「…よしんば…誰かが助けにきてくれるとは、思ってないでしょうな? もし、そのようなものがいれば…どうなるか…賢い姫ならお分かりですな?」
クルーゼはそう言うと、北の塔を後にした。
* * *
近隣の諸国の重臣達が、城の教会に集まり始めている。
北の塔では、カガリが化粧を施され、真っ白なウェディングドレスを身に纏っている。
「…姫様…お時間です…」
従者の言葉に無言で立ち上がると、カガリは無表情のまま、部屋を後にした。
祭壇の前には、既に神父とクルーゼがカガリの到着を待ち構えていた。
神父が、神の詔を話し始める。
「汝、ラウ・ル・クルーゼよ…そなた健やかなる時も、病めるときも、この女性を愛し、一生を共にすると誓うか?」
「はい。」
クルーゼは淡々と答える。
「汝、カガリ・ユラ・アスハよ…そなた健やかなる時も、病めるときも、この男性を愛し、一生を共にすると誓うか?」
「……。」
カガリは答えない。
「どうしました? 誓いの返答は?」
神父の声が掛かった、その瞬間―――
<バタン!>―――教会のドアが開く音
振り返ったカガリの瞳には―――濃紺の髪を揺らし、透き通るような翡翠の瞳の青年が映った。
「―――っ!? アスラン!? まさか―――!」
驚くクルーゼに、アスランは言う。
「誓いの返答は―――『NO』だ!」
真っ直ぐな視線をクルーゼに向け、アスランはその場の人間全員に語り始めた。
「その男は『オーブ王国』国王、ウズミ・ナラ・アスハ様を亡き者とし、この国を継ぐ役目の俺を亡き者にし、この国を手中に収めんが為の暴挙にでた男だ!…そんな男にカガリはやらない!」
ざわめく城内。
クルーゼは狼狽し、叫んだ。
「近衛兵! ヤツは反逆者だ! 早く捕らえろ!」
だが、『オーブ王国』の兵は動かない。
「どうした!? 早くヤツを倒せ!」
「倒されるのは、あなたの方です…クルーゼ様」
キサカが前に出る。
「この一連の惨劇―――全てはあなたの仕組んだ事…もう既に兵士たちもわかっております。そのようなあなたに付き従うものなど、誰も降りません!」
「――――っ!」
……そう。それはカガリがマーナに手渡した、一通のメモから始まった。
―――「アスランを救ってくれ。そして『オーブ王国』兵、『ザフト王国』兵、皆に伝えてくれ。この事件の真相を――――」
「兄上! もう悪あがきはおやめください!」
厳しい視線を投げつけるアスランに、クルーゼは剣を抜き取ると、カガリを盾に逃げようとした。
だが、カガリはドレスをたくし上げ、密かに父の傍に落ちていたという『ザフト王国』の紋様が入った短剣を隠し持ち、それを取り出し、クルーゼの手を突き刺した。
「グゥッ!」
「どうだ!?…お前がお父様を刺した、この短剣で味わう痛みは!」
「こしゃくな!」
カガリに向かって振り下ろすクルーゼの剣。
カガリは思わず、ギュッと目をつぶる―――
だが、そこに割って入ったのは―――アスラン!
「貴様と勝負する事になるとはな!…いい機会だ。この手でお前の命を奪ってやる!」
クルーゼが言い放つ。
「「うぉぉぉぉっ!」」
クルーゼとアスランが剣を交える。
アスランも剣の手だれだが、それ以上にクルーゼも太刀さばきも見事だった。
次第に押されていくアスラン。
「――――っ!!」
アスランの剣は、今までの戦いで傷つき、痛みが酷くなっていた。
そして遂に
<パキン―――>
金属音と共に、アスランの剣は折れた。
「くそっ!!」
アスランの顔に苦渋の色が浮ぶ。
そして、勝利を確信し、笑いながらクルーゼは言う。
「短い命だったな。アスラン。」
追い詰められるアスラン。
その時―――
「アスラン! 後ろだ! 祭壇の後ろ!!」
カガリの声。
祭壇の後ろを見ると、石塊に突き刺さったままの剣―――『宝剣』―――『正義』
アスランは咄嗟にその剣を掴んだ。
だが、クルーゼは笑いながら言い放った。
「最後の足掻きか?アスラン。…その剣は幾ら私が抜き取ろうとしても抜く事が出来なかった剣だ。…お前に抜けるわけなかろう…」
だが、アスランは『正義』の柄を握った。
その時瞬時に思い出す、あの神託―――
<汝は『暁』の名を持つもの…暮れ行く闇に、光を灯さんとする者に、その『暁』の光を与えれば…この世は汝らの力で目覚める『物』とともに、闇を滅ぼす『破』とならんことを…>
(暁の名を持つ『俺』に…闇に光を灯す『カガリ』―――ならば!)
「俺に力を…力を貸してくれ!!」
満身の力を込めて、剣を引き抜くアスラン―――そこにそっと手を添える―――『カガリ』
カガリの…その微笑みにアスランが答える。
「うぉぉぉぉっ!」
アスランの声に、石塊にヒビが入る。
「ま、まさか!?」
クルーゼが驚く。
アスランはその石塊から、光輝くような、『宝剣』――『正義』を抜き取った。
そして、その剣をクルーゼに向ける。
「兄上ぇぇ!」
アスランが『正義』を一振りすると、大きな風と共に、竜巻が巻き起こり、クルーゼの身体を切り裂き、吹き飛ばした。
「…こんな…ことになるとは…」
クルーゼは剣を取り落とし、やがてゆっくりと身体が崩れるように倒れ、息絶えた。
「…兄上…」
傍で痛ましげにその亡骸を見つめるアスラン。
…そこに、そっとやわらかな手が触れる。
「…カガリ…」
カガリは金の瞳から涙を零すと、アスランに抱きつき、アスランもカガリを優しく抱きしめた。
* * *
それから数ヶ月の時が過ぎた―――
「まぁまぁ、姫様! そのようにお背中が開いておられるドレスをお召しになるのは―――」
「いいんだ…これがアスランが『一番いい』っていってくれたドレスだから。」
マーナの言葉にカガリが明るい笑顔で答えると、待ちわびていた侍女たちが、一斉に準備をする。
教会の祭壇の前に、正装した濃紺の髪をした青年が、翡翠の色の優しい眼差しを向け、待っていた。
カガリは純白のウェディングドレスを踏まないよう、祭壇に向かって静かに歩み寄ると、ヴェールの奥から、嬉しそうな涙で潤んだ金の瞳でアスランを見つめる。
そして、神父の啓示が厳かに始まった―――
国民が総出で花弁を巻き、2人を乗せた城下を巡る馬車に歓声が上がる。
「…そういえば…」
「ん?」
カガリの言葉にアスランが尋ねる。
「…結局『ザフト王国』も、『オーブ王国』も、私達2人が護っていかなきゃならないんだよな…」
アスランは、カガリの手を優しく握ると、微笑みながら言った。
「両国を合併し、新たな国作りになるだろうな……確かに大変な事だけど…」
翡翠の瞳が穏やかに答える。
「俺たちは、もう『1人』じゃないんだ…」
「…うん…」
「新しい国の名前…何にしようか?」
カガリの問いにアスランが答える。
「―――『正義』―――」
そして2人は見つめ合うと、笑顔で溢れんばかりの幸せを確かめ合った。
馬車から下りると、カガリはアスランがそっと差し出した腕をとり、ゆっくりと宮殿の入り口への階段を昇っていく。
そして、宮殿の階段の上に着くと、カガリは携えていたブーケを笑顔と共に、大空高く投げ上げた。
高々と青空に舞うブーケを、翡翠の瞳と金の瞳が、晴れやかな笑顔で見送る。
―――この何処までも広がる青空に比べたら、まだまだ小さい国だけど…
この先に待ち受けるかもしれない……どんな困難も……苦悩も…
きっと、乗り越えられる……やれる気がするんだ…
―――私達…『2人』なら……
・・・Fin.
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>…そんな訳で終りです。
『ファンタジー』はつくづく『苦手』と知っていながら、また手に染めてしまいました(笑)
途中で『種24話』だったり、『ベル○ルク』ぽかったり、『カリ○ストロの城』だったり…最後は『キング・○―サー』だったり…(笑)
今回は一度、ストーリーを全部書ききってから、分散して載っけたのですが、これの第1話UPした時点で、何人もの方から、「真の敵はクルーゼです
よね?」とか「アスカガ結婚してハッピーエンドですよね?」とか、3・4話辺りの『お約束』な展開まで、先読みして感想下さった方もいて、いか
に「NamiのSSは単純構造か」ということが暴露されました(笑)
とりあえず、『お約束』でも、少しでも楽しんでいただけたならば幸いです。
―――そして、最後に、お忙しいにも関わらず、このようなヘタレSSに、素晴らしいイラストを描いてくださったかずりん様に、厚く御礼申し上げ
ます。(いや〜かずりん様がいらっしゃらなかったら、このSSボロボロです。80%以上はかずりん様の御陰ですv)
そして、最後までお目を通してくださった皆さん、本当にありがとうございました!