Justice 〜Vol.3〜
「このぉーーーーーっ」
男が大太刀を振るう。
「遅いんだよ♪」
カガリはヒラリと男の大太刀をかわし、剣で急所を突く。
一方、複数の敵に囲まれているアスラン――――
「うわっ!」
「ぎゃぁ!」
「くっ!!」
目にも見せない早業で、剣を振い、あっというまに複数の敵をなぎ倒す。
最近、追っ手の数が少しずつ増えている。
だが、アスランもカガリもその兵士の数に及ばないほどの力で、『ザフト王国』の兵士を寄せ付けなかった。
そして今日もまた、森で十数名の手だれの兵士に囲まれている。
「なんでこう、ウジャウジャ生えて来るんだよ…」
ウンザリした声をあげるカガリ。
「…油断するな。カガリ。」
「わかってるって! …一人当たり7〜8人ってトコかな?」
背中合せで囁きあう2人―――
そして再び始まる戦い。
カガリは素早いスピードで、兵士たちを翻弄し、軽々と倒していく。
一方、アスランは、人とは思えないほどの跳躍で、木の枝にぶら下がると、ヒラリと別の枝に飛び移る。
「くそぉぉ!待て!この―――」
「隙あり!」
上にばかり気をとられていた兵士たちは、木立にその細い身を隠して潜んでいたカガリに不意を付かれる。
「わぁぁぁぁっ!」
そして、また今日も築かれる、倒された『兵士の山』―――
「やったな! アレックス! 作戦通り!」
カガリが喜んで歓声をあげる。
その無邪気な表情に、アスランも肩の荷を降ろしたように、ホッとした笑顔を見せる。
そして、ふと、アスランは考える。
―――不思議とカガリと共に戦っていると、何も言わなくても、コンビネーションが組める…
それも…こんなに安心して自分の背中を任せられるなんて…
「お〜〜い。どうしたんだ? アレックス。」
カガリが顔を覗き込み、そのまっすぐな金の瞳を向けられ、思わず顔が赤らむ。
「い、いや…何でもないから…」
「ふ〜ん…そうか…ならいいけど…。今日はあそこの湖まで出られそうだぞ!」
カガリが指差した先に、夕日に染まる紅色の水面を湛えた湖が広がっていた。
「さっき通った村で、パン買ってきておいたから。今日はこれと、湖の魚だな!夕飯は!」
「じゃぁ、日が暮れないうちに、魚でも捕まえなきゃな。」
カガリの言葉に、アスランが愛馬の『セイバー』の背に乗り、穏やかに答えると、カガリは満面の笑みで『ルージュ』を走らせた。
湖畔の夜は月明かりに照らされ、静かだった。
「なぁ…お前と出会ってから、どのくらい経つかな…?」
焚き火に薪をくべながら、カガリが呟いた。
「そうだな…もう2〜3週間経ってるだろうな…」
アスランの答えに、カガリが答える。
「えぇ!? まだそんなだったかよ!? もう何年も一緒にいるみたいな気がしてた。」
「…俺も…」
2人は同時に見つめあうと、可笑しそうに笑いあった。
「…私は、お父様を殺されて、もう家族はいないけど…お前は大丈夫なのか? 心配してくれる人、いないのか?」
カガリの問いに、アスランは首を横に振った。
「そうか…悪いこと聞いちゃったな…ごめん。」
「別に謝らなくてもいいよ。…只…」
「ん?」
偽りのない、真っ直ぐな金の瞳を向けられ、翡翠の瞳は戸惑ったように小さく呟いた。
「今は…心配してくれる人が、傍にいるから…」
「え?なんだって!?」
カガリの問いに、アスランは急に話を変えた。
「カガリこそ…別に家族じゃなくても、大事な人―――いるんじゃないのか?」
そう言われ、カガリはふと思い出す。
(…ホムラ叔父…キサカ…マーナ…城のみんな…)
ふと、目に熱いものが込み上げてくるのを必死に押さえながら、カガリは首を振った。
「いない。私も一人だから…」
「じゃぁ…その…」
アスランは軽く頬を染めながら、思い切って言った。
「…『恋人』…とか…」
カガリはその言葉に急に顔を曇らせると、低い声で淡々と言った。
「……婚約者がいた。」
アスランはドキッとしてカガリの顔を見た。
だが、カガリは低い声で、呟くように言った。
「だが、今は違う…その婚約者が…「アスラン」という男が…私のお父様を殺した仇だ。だから…私はその男を探して、仇をとるまでは、国には帰らない…。…それに…私の身体には…」
呟きかけたカガリは首を振ると、元の明るい笑顔で言った。
「さぁ、飯も食ったし、もう寝よう!」
「…その言葉づかいじゃ、姫様じゃなくても「恋人」も出来ないだろうな…」
「何だよ!アレックス! 今、余計なこと言わなかったか!?」
「いや、別に…」
可笑しそうにクスクスと笑うアスランに、「もう、先に寝るぞ!」と背を向けるカガリ。
その姿を見ながら、アスランは自分の中のカガリに対する不思議な気持ちが、段々鮮やかになっていくのが解かった。
―――今まで、こんな自然に誰かと話せるなんてことはなかった…
それなのに『カガリ』と一緒だと、こんなに素直な自分が出せるなんて…
アスランの中に、淡い何かが芽生え始めていた。
アスランはカガリの小さな肩に、マントをかけてやると、自分もうっすらと眠りに落ちていった。
どのくらいの時間が経っただろう―――
アスランは、ふと目を覚ますと、自分がカガリに掛けてやったはずのマントが、自分に掛けられている事に気付き、辺りを見回した。
カガリの姿が――――ない。
「カガリ…?」
岸辺を見回すと、カガリの甲冑や着物が無造作に置かれている。
そこに<パシャッ>と響く水音―――
アスランは、その姿に吸い込まれるように、たちまち見入った。
――――やわらかな曲線を描く身体
月明かりに照らされ、透き通るような肌
鎧の上からでは想像もつかない豊かな胸
ほっそりとした腕を水面につけ、両手で汲んだ水を肩から流すと、真珠のような水滴が
素肌を転がり落ちていく。
風に柔らかく靡く、金の髪――――
(―――妖精が生まれるときも、こんな感じなのだろうか…)
昼間の凛とした顔とはまるで違う、気持ち良さそうな、華やかで、やわらかな微笑み―――
どの美術品さえも、この姿の前ではくすんで見える…
(――――『戦女神』じゃない…『美の女神』…)
――――『自分だけのものにしたい』
ハッキリと自覚した、カガリへの想い…
だが言えない…
彼女を幾ら想っても、彼女が父の仇と信じ、狙っているのは、誰をかくそう、『自分』なのだから…
* * *
早朝―――まだ眠りから冷め切らないうちに、アスランは周りの気配に気付き、隣で眠るカガリを起した。
「カガリ、カガリ…」
「…ぅ…ん…何だ?…アレックス…」
「囲まれている。」
その言葉にカガリはハッと目を覚ます。
気配からして、昨日の倍はいるだろう…
「背後が湖だと厄介だ…今のうちに、場所を変えるぞ。」
アスランの声に、カガリは頷くと、ソロソロと動き出す。
それを待ち構えていたように、一斉に兵士たちが踊り出た。
「朝っぱらから、何でこんなに来るんだよ!」
カガリの不満に
「泣き言を言うな! とにかく走れ!」
アスランはカガリの腕を引き、走り出す。
だが、反対側にも兵士たちが現れ、アスランとカガリは湖の高い岸辺を背に、取り囲まれてしまった。
「もう逃げ場はないぞ!」
ジリジリと押し寄せてくる兵士たち―――
その時、
「キャァッ!!」
カガリが足を滑らせ、岸壁から湖に落ちていく。
「―――!? カガリ―――っ!」
アスランは抜いていた剣を収めると、カガリが落ちた湖へ飛び込んだ。
「――――っ!」
兵士たちが覗きこんだ水面には、2人の影はなかった。
「…あの高さで、それも甲冑を着けたままでは、泳ぐ事さえ出来まい…。」
「早速、クルーゼ様にご報告だ。」
そういって、兵士たちは、湖を後にした。
・・・to be Continued.
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>つかの間の安らぎ(!?←アスランだけ(笑))もそこそこに、いきなり展開は大ピンチに!!
さて、2人はこの危機をどう乗り切るのか!?
それはまた次回のお楽しみ♪――と、いうことで。
(オマケ→)この3話のイラストを、かずりん様にお願いしましたときに、「サブタイトルは、『アスラン、覗き見大作戦』でお願いします(笑)」とお願いしたところ、見事に描いてくださいました!(笑)
…もし、こんなシーンがあったら、アスランの上からアスランの頭地面に押し付けて、私が見ます!(笑)えぇ! もちろん!!