Justice 〜Vol.2〜
カガリは、愛馬『ルージュ』と共に、一人森を彷徨い続けた。
―――カギは『ザフト王国』の紋章と、『黒いマント』
『アスラン』―――カガリはその顔を知らない。
姫しかいない『オーブ王国』にとって、後継ぎが必要となる。
そのため、近隣の国と同盟を結ぶ上で、より強固な国を作るため、『ザフト王国』から、第2王子である『アスラン』を、カガリと結ばせる事を、カガリは幼い頃より聞かされていた。
―――「いずれにせよ、お父様の敵は、この私が撃つ!」
カガリはその信念を抱きながら、『ルージュ』と共に、国境近くに流れる川にたどりついた。
(…賊も人間…生きる為には『水』は欠かせないはず…必ず『水』の近くに来るはずだ…)
そう思いながら、カガリは静かに川の傍を、『ルージュ』と共に歩き続けた、その時
「――――!!」
川岸に程近いところで、一人の人物が、馬に水をやりながら、自分も喉を潤していた。
その衣服は―――『黒いマント』
(―――間違いない!)
カガリは『ルージュ』から降り、そっと足を忍ばせながら、黒いマントの人物に近づいた。
(―――今なら…殺れる!)
カガリはそっと剣を抜き、黒マントの人物めがけて走りだした。
「やぁぁぁぁぁ―――っ!!」
黒マントの人物は、まるで襲撃されるのを初めから判っていたように、サッとカガリの剣を避ける。
更にカガリは剣を打ち込んで行くと、黒マントの人物も自ら剣を抜き、カガリの剣をいとも簡単に受け止める。
激しくカガリの打ち込みが続くが、黒マントはただ避けてまわるだけ―――
(どうしてだ…?…どうして私の剣が効かない…!!)
息が切れてきたカガリに対し、黒マントの人物からは、息が乱れる気配もない程、落ち着き払っている。
焦ったカガリは大きく剣を振りかざすと、そのまま黒マントの人物に向かって振り下ろした。
その刹那―――
黒マントの人物は、カガリの振りかぶった両腕をつかみ、カガリを投げ飛ばす。
(―――――っ!!)
カガリは仰向けに倒れると、黒マントの人物はカガリの身体にのしかかり、剣を振り下ろそうとした。
(殺られる―――!)
カガリは両目をギュッと閉じ、思わず叫んだ。
「キャァァ―――――ッ!!」
黒マントの人物の剣が、カガリの喉元で止まる。
「…女…?」
その声の様子から黒マントは男のようだった。その涼やかな声に、カガリが涙の滲んだ目を薄っすらと開きながら言った。
「…殺すなら、さっさと殺せ!」
カガリはそう吐き捨てると、男は身体をカガリからどけると、少し笑うように言った。
「…殺して欲しいなら、あんな声あげないほうがいいぞ。…おれは戦場であんな声は聞いたことがないぞ。」
そういいながら、男は黒いマントを外し始めた。
「――――。」
カガリは男の姿をジッと眺めた。
歳は…自分と同じくらいだろうか…
端正な顔立ちに、何でも見通すような澄んだ翡翠の瞳。
そして…風に靡く、肩口の辺りまで伸びた濃紺の髪。
「お、お前、何物だ!?」
起き上がったカガリが、男に尋ねる。
「…名前聞くときは、自分から名乗るのが『騎士道』じゃないのか?」
男にからかうように言われ、カガリは頬を膨らませながら、不機嫌極まりなく言った。
「わ、わたしは…『カガリ』だ…『カガリ・ユラ』だ…」
「…『カガリ』…?」
男はカガリの言葉に、少し目を見開くと、先ほどと同じ、涼やかな声で言った。
「俺は…『アレックス』だ…『アレックス・ディノ』…」
―――『アレックス』…そう名乗った名前は『偽りの物』…
襲ってきた少女の理由がどうであれ、今は本当の名―――『アスラン』は封印したほうが賢明だと、咄嗟に判断した―――
「…そうか…悪かったな…突然…切りかかったりして…」
カガリは剣を収め、俯きながら言った。
「…いや…別に…もう慣れてるから…」
アスランは剣をしまいながら、穏やかに言った。
「…『慣れてる』って…お前、命狙われるような事してるのか?…『自由騎士』(※何処の国にも属さず、戦争が起きると、自分の意思で『雇われ兵』となって、あげた首の数だけ賃金が国から渡される)なのかと思った…」
カガリがふと尋ねると、アスランは視線を逸らしながら言った。
「…そういうわけじゃないんだが…只…今は…ちょっと、な。」
「ふ〜ん…。」
カガリは不思議そうに男の顔を見つめた。
とても穏やかそうで、剣術など縁がないような表情
しかし、オーブの兵を相手に戦術に長けた『オーブの戦女神』といわれた自分を、
いとも簡単にねじ伏せられてしまうなんて…
カガリがふと、涙をこぼしかけたのを見て、アスランが聞いた。
「なんだ?…俺に負けたのが、そんなに悔しいか?」
アスランの言葉に慌てて否定するカガリ。
「ち、違う!」
「顔に書いてあるぞ。」
アスランが微笑むと、カガリは視線を逸らし、呟いた。
「…お前に負けたのは、確かに悔しい…私は今まで負けたことないのに、その私を、簡単にねじ伏せられるなんて…自分がはがゆいさ……只…」
「『只』?」
アスランが復唱すると、カガリは呟いた
「…私はうぬぼれていた…自分が一番強いと…負けることなどないと…『井の中の蛙、大海を知らず』ってヤツだな…。こんなことじゃ、私の成し遂げようとしている事は出来ないかもって…少し、不安になって…」
「『成し遂げようとしている事』?」
アスランがまた復唱すると、カガリは金の瞳を真っ直ぐにアスランに向けて言った。
「お父様の…『復讐』だ…」
「お父君の…『復讐』?」
カガリは視線を空に向けると、仰ぎ見ながら話し始めた。
「私のお父様は、先日、賊に襲われ亡くなった…現場に残されていたものは『ザフト王国』の紋章がついた短剣と『黒マント』が逃げていくところを見た者の証言だけ…『ザフト王国』は「自分の国で始末をつける」と言ってきているが、私はこの『自分の手』で、敵をとりたいんだ…。」
果てしない空を見上げる、凛とした姿―――
―――女の細腕で、男に負けない程の意思と覚悟を感じさせる…
アスランには、その意志の強い金の瞳と、靡く金の髪がまぶしく見えた。
その時―――
「いたぞ! あそこだ!!」
複数の兵士がこちらを目指してやってくる。
「くっ! …流石は兄上…手回しがいい…」
「え? 何か言ったか? アレックス。」
「いや…ともかく、あいつらの狙いは『俺』だけだ。君は早く馬でここから逃げろ!」
だが、カガリは剣を抜くと、アスランに並んだ。
「君―――何を―――」
「お前と一緒にいるトコ見られたんじゃ、私だってヤツラの的にされるさ…だったら私も戦って、この場を切り抜ける!」
カガリはそう言うと、金の眼差しを真っ直ぐ敵に向け、剣を振るい始めた。
向かってくる兵士たちは、次々とアスランとカガリに倒されていく―――
「な、なんなんだ!? アイツらの強さは!?」
「バケモノか!?」
「ひ、退け! ここは一旦退くんだ!」
そう吐き捨てる暇も与えず、アスランとカガリは、ホンの10分足らずで、十数人の敵兵を退けた。
「カガリ…大丈夫か?…怪我は…」
「大丈夫! まだまだやれるぞ! 私は!」
アスランの心配げな声とは裏腹に、カガリは笑顔をアスランに向けた。
「…それにしても…この兵士たちのつけてる甲冑の紋章―――」
倒れた兵士の甲冑を調べ、何処からきた敵か、調べるカガリ。
「これって…」
「あぁ…『ザフト王国』の者だ…。」
アスランは既に判っているように、つぶやいた。
「お前…『ザフト王国』に狙われてるのか?」
カガリの言葉に、アスランはただコクリと頷いた。
「じゃぁ、私も、お前と一緒に行くぞ!」
カガリからでた言葉に、アスランは目を大きく見開いて驚いた。
「な、何いってるんだ! 君にもしもの事があったら―――」
「大丈夫だって! さっきの戦いで、少しは私が強いこと、わかっただろう?」
「まぁ…でも、しかし―――」
「それに、私の探している仇も、『ザフト王国』の者だ。もしかしたらなんらかの情報がヤツラから手に入るかも知れないし。」
「……。」
不安そうなアスランを尻目に、カガリは『ルージュ』にまたがると、「ほら、行くぞ!」と先にたって馬を歩かせた。
・・・to be Continued.
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>ちょっと『SEED(無印)24話』を彷彿させんとする(笑)出会い―――
アスランの方は、『カガリ』と知ったようですが、カガリは知らないまま。
さ〜〜〜て、この2人の未来に待ち受けるモノは何か!?
・・・まぁ、それは次回のお楽しみ♪(・・・ホンとに楽しいんだろうか・・・?)