Justice 〜Vol.1〜
大きな城の前に、見渡す限りの遥かな草原が広がる―――
そこでは、兵士達が取り囲む輪の中で、2人の兵士が剣を交えていた。
一回り小柄な騎士が、剣を上に振るうと、もう一人の兵士は剣を突き飛ばされ、尻餅をついた。
「ま、参りました!」
その腰を抜かした兵士に剣先を突きつけながら、小柄な騎士は威勢よく、男にしては甲高い、ハスキーな声で言い放った。
「何だ! それでもお前はこの『オーブ』を護る、誇り高き兵士か!?」
そして、小柄な騎士は辺りを見回しながら言う。
「次の者、出て来い!」
だが、取り囲む兵士たちは、オドオドとし、なかなか前に進み出ようとはしない。
そこに―――
「まぁまぁ何でしょう! 仮にも一国の姫君が、そのような荒ら事など…」
「なんだ? マーナ。何か用か?」
マーナと呼ばれた女性は、その騎士に言った。
「もう直ぐ、ウズミ様がお出かけになるお時間ですよ。」
「…そうか…では、お前達、後はキサカの指示に従って訓練を続けろ。」
「「はっ!!」」
その場の兵士達が、一斉に頭を下げる。
城に向かいながら、騎士は防具と甲冑を外していく。
次第に露にされる、細腕と白くやわらかな肌
そして、風に靡く柔らかな金色の髪
意思の強そうな、真っ直ぐ先を見据える金の瞳
この『オーブ王国』の唯一の王位継承者であり、ウズミ王の一人娘。
―――『カガリ・ユラ・アスハ』
「全く…カガリ様も、婚礼前には少しおしとやかになっていただきたいものですな。」
窓から外を眺めていた摂政のホムラが苦笑する。
「確かに…アレが王子だったら…と、いつも思ってしまうよ。」
この『オーブ王国』の偉大なる王にて、カガリの父―――『ウズミ・ナラ・アスハ』が微笑みながら呟く。
ウズミには子供はカガリしかいない。
カガリを生んで、妃は直ぐに他界してしまったが、ウズミは後妻をとらなかった。
その為か―――カガリは自ら『幼い頃より王家を継ぐ者』と心に誓い、帝王学や、剣術、戦術を学んできた。
周囲の心配を他所に、自ら戦場に出向き、その強さをいかんなく発揮し、諸国からは『オーブの戦女神』とまで呼ばれている。
「お父様! お出かけですか?」
カガリが王の間に入ってきた。
「あぁ…そろそろ離宮に出かけないと…何しろ、お前の夫になる人物だからな…お前と我が国に伝わる『宝剣―――正義』を護るにたらんとする人物か…しかとこの目で確かめたい。」
『宝剣―――正義』―――ここ『オーブ王国』に代々伝わる秘宝で、一太刀振れば風を巻き起こし、二太刀振るえば地が割れる―――とまでいわれる剣である。
だが、その剣は『心清く、真に強い力を持つ者』でないと抜けない、といわれ、今でも祭壇の下の石塊に食い込んだままになっている。
「…それにしたって…わざわざお父様を、国境近くの離宮に呼び出すなんて…」
不満気なカガリの頭を優しく撫ぜながら、微笑んだ。
「仕方あるまい…それなら先方も同じ事だ。」
カガリは姫である以上、婿をとらなければ『オーブ王国』を引き継ぐ世継ぎを作ること出来ない。その為、幼き頃より、隣国『ザフト王国』より、第二王子である『アスラン王子』を婿に迎える約束があった。
「私は結婚などしたくありません! …それに…私の身体には…」
俯き呟くカガリに、ウズミはそっと言葉をかけた。
「それも含めて、お前の全てを受け入れられるような、いかに器の大きな人物であるか、見定めてまいるよ。」
そういって、ウズミは微笑みながら部屋を後にし、カガリは馬車が見えなくなるまで、その後姿を見送った。
* * *
その夜―――
『ザフト王国』の王城から、黒いマントを羽織り、静かに馬で抜け出す者が一人―――
「そっちに逃げたぞ!」
「まだ見つけられんのか!?」
「我らの目を欺き、国境を目指すはずだ!そちらを重点的に探せ!」
城内の警備兵が騒いでいる間に、その黒マントの人物は馬を走らせ、森の中の漆黒の闇に姿をくらませた。
* * *
一方、『オーブ王国』の城では、真夜中近く、慌てて城門を叩く音が聴こえた。
「た、大変です! う、ウズミ様が―――!」
「お父様に何か!?」
使者は息を切らしながら、やってきたカガリとキサカにおそるおそる告げた。
「お、お亡くなりになりました…」
カガリはみるみる顔面を蒼白し、使者の胸倉を掴んだ。
「貴様! 冗談にしても言っていい事と、悪いことがあるぞ!!」
「う、嘘ではございません! カガリ様!」
そういっているうちに、馬車のひずめの音が聴こえた。
カガリは慌てて馬車に駆け込み覗き込むと、そこには胸から血の染みが広がり、既に息絶えた父の姿があった。
「お父様っ! お父様ぁぁぁぁぁっ!!」
冷たくなりかけた父の身体に縋りながら、カガリは泣き叫んだ。
「―――誰だ! 一体誰がこんなことを!!」
馬車から降りた御者が、沈痛な面持ちで伝えた。
「私もよくわからないのです。…黒いマントの者が離宮から飛び出してきて…様子がおかしい事に気付き、恐れ多くも離宮に入りましたところ、ウズミ様をはじめ、護衛の者達も既に息絶え…そしてウズミさまの傍に『これ』が…」
そういって御者が差し出した物は、紋章入りの『短剣』―――
キサカがそれを受け取ると、検分した。
「…これは…『ザフト王国』の紋章…それも王家の者にしか与えられない物だ…。」
カガリはキッと顔をあげ、涙を湛えた金の瞳を城の皆に向け、言い放った。
「これは、明らかに『ザフト王国』からの挑発だ! 直ぐに軍の準備をさせろ!」
「落ち着きなさい! カガリ。」
「でもっ!」
涙を湛えて、父の遺体に縋るカガリに、キサカが冷静に言う。
「まずは、本当に『ザフト王国』のものか…真意を確かめる為、使いを出します。」
そうしてキサカは使者を『ザフト王国』に送ると、使者は一通の手紙を持って帰城した。
――――『今回の悲劇、誠に心から哀悼の意を送らせていただく。
今回の事件の首謀者は、我が弟『アスラン』であること明白。
『アスラン』は早く『オーブ王国』を我が物にせんと、
『オーブ王国』の王に刃を向けたもよう。
今、『アスラン』は逃走しており、この件に関しては、こちらが後始末をつけますゆえ、
『カガリ姫』様におきましては、そのお嘆きに、どうぞお心とお身体を
御自愛くださいますよう、心よりお祈りいたします。
クルーゼ―――
『ザフト王国』の第一王子であり、現国王のクルーゼからの返信だった。
「・・・『アスラン』・・・」
カガリは手紙を握り締めると、真っ直ぐな金の瞳の中に、強く燃えるような意思を湛えた。
* * *
ウズミの国葬はしめやかに行われた。
多くの国民が嘆き、悲しみの涙を流した。
その一方で―――
「次はいよいよ『女王陛下』の誕生か…」
「しかしまだ18歳の小娘に、この国が納められようか…」
「暫くは摂政が収めることになるだろうが…姫君一人では、他国から我が国を狙って、多くの求婚者が現れるのではないか…?」
そんな小声を耳にしながらも、カガリは黒いドレスを纏い、父の墓前に進み出ると、何かを誓うように、凛とした姿勢と、強い意思を秘めた瞳で、父の墓を見つめた。
* * *
それから数日後―――
「大変です! 大変でございます!!」
「どうされた?」
マーナの声に、キサカが声をかける。
「あ、朝、ひ、姫様の部屋にお伺いしましたところ、これが―――!」
キサカは慌ててマーナの持つ手紙を広げた。
――――『すまん…皆…
私はやっぱり、私の手で、お父様の仇を取りたい…
私自身の手で決着をつけること―――
それが、『オーブ王国』の後継ぎたる、私の役目だと思う。
私がいない間、ホムラ叔父…キサカ…すまないが、留守を頼む。』
カガリ―――――
キサカは慌てて、武具庫や馬屋を覗いて回ったが、やはりカガリのものだけなくなっていた。
「カガリ…」
キサカはカガリの手紙を握り、一抹の不安を抱きながら空を見上げた。
城が望める小高い丘の上
そこには腰に剣をさした甲冑姿で、金の髪を風に靡かせた少女が一人―――
「…いくぞ…『ルージュ』…」
カガリは城を一望すると、城を背に、愛馬で走りだした。
・・・to be continued.
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>さて、いよいよ始まりました! かずりん様とのコラボSS『第2弾』!
これからカガリにどんな運命が待ち受けているか…
宜しければ、最後まで、是非お付き合いください!!