Inexcusablre Love 〜Vol.4〜

 

 

 

その夜、アスハ邸では盛大なパーティーがもようされていた。

カガリとイザークの『婚約パーティー』

 

「これで互いの国は、ますます結びつきの強いものとなりますわね。」

イザークの母で、隣国の女王エザリアが嬉しそうに話す。

「全くですな。」

ウズミも心なしか、顔がほころんでいる。

 

 

 

 

しかし、肝心の今日の主役の一人はいつものような快活な笑顔がなかった。

 

(…指輪…返すの忘れちゃったな…)

 

右手のリングをボンヤリと見つめたまま、純白のドレスを纏ったカガリが座っていた。

「どうした? 具合でも悪いか?」

虚ろ気なカガリをイザークが気遣う。

「い、いや、何でもない! 私は元気だぞ!!」

笑顔で答えるカガリ。

だが、イザークはカガリの様子に一呼吸置くと、呟いた。

「嘘だな。」

「え?」

「お前が嘘をつくときは、無理に笑顔を作る。本当の笑顔を見せるときは、そんな澱んだ目をしていない…何があった?」

カガリは戸惑った。

 

(…今更、愛した者が居るなんて…言えない。それも、人間じゃない…魔族だなんて…)

 

「本当に、何でもないから!! お前こそ心配しすぎで頭禿げるぞ!」

「言ったな! コイツ!!」

イザークも笑顔を取り戻し、カガリの冗談に乗る。

 

―――そう、これでいいんだ…これで…

 

 

 

そう思った瞬間―――

 

 

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

屋外のパーティー会場の方から、悲鳴が聴こえる。

「どうした!? 何があった!?」

飛び出したイザークに、客人の一人が、指をさして言った。

 

「あ、あ、あそこに…『魔族』がっ!!」

「何だと!?」

 

イザークが剣を抜き、構えると、大きな二本の角を覗かせた男が、こちらに向かって来る。

「何物だ!貴様!!」

イザークの声に耳を貸さず、魔族は一言うめくように言った。

 

「カガリは何処だ!?…俺のカガリ…」

 

「何を言うか! 貴様ぁ!!」

 

イザークは魔族に剣を振り下ろした。

だが、魔法壁をいとも簡単に作り出し、その剣を跳ね返す。

 

「何!? 魔族だと!?」

 

慌てて屋外に飛び出てきたウズミとエザリア

 

そして――――カガリ

 

「…アス…ラン? アスラン!!」

「カガリ…」

 

「カガリよせ! そいつに近づくな!!」

イザークが止めるのも聞かず、カガリはアスランに駆け寄った。

「アスラン…なんで…こんな…」

見れば、アスランはあちこち傷ついている。

「まさか、お前、あの『封印の森』の結界を無理やり―――」

カガリの言葉に、アスランは微笑みを浮かべた。

「君が、居なくなるくらいなら…死んだほうがマシだ…」

「アスラン…」

翡翠の瞳は穏やかに優しくカガリを映し出している。

 

はじめてあったときから…

そう、もうこの翡翠の瞳に、私は取り付かれていたのかもしれない…

 

 

「カガリ! そこをどけ!! そいつは俺が倒す!!」

イザークがカガリを牽制する。

だが、カガリはイザークの前に、両腕を広げ、立ちふさがった。

「な、何をしているカガリ!」

「こいつ、怪我してるんだ!放って置けない!!」

「魔族に情けなどかける必要ないだろう!?」

だが、カガリは首を振った。

「ゴメン…イザーク…私…アスランのこと…」

溢れる涙で訴えるカガリ。

そして、アスランはカガリを抱きかかえ、空へ飛ぼうとする。

「いいな…カガリ…俺と一緒に…」

「…うん…」

カガリはアスランに身を任せた。

 

だが、

「ぐぁっ!!」

「アスラン!!」

イザークの剣が飛び立つ前のアスランの足に突き刺さる。

アスランは、カガリを庇うようにして地に落ちた。

「アスラン! アスラン!!」

カガリがドレスをちぎり、出血したアスランの足を縛り、止血しようとする。

 

「カガリ! お前は騙されているんだ! その魔族に!! 目を覚まして、俺のところに来い!!」

イザークが叫ぶ。だがカガリは、どこうとはしない。

寧ろますますアスランの傍で、身を寄せている。

 

「くそぉぉぉぉ!」

イザークの剣がアスランめがけて突き進む。

「カガリ、どいていろ!」

アスランはカガリを突き飛ばし、防御魔法を張ると剣をかわし、魔法で剣を作り出した。

「…一対一だ…これで決着をつける。」

「望むところだ!」

 

「「うぉぉぉぉっ!」」

 

2人の男が剣を交える。

魔法を持つアスランの方が、断然有利だと思えたが、アスランは殆ど魔法が使えなかった。

アスランの普段の力なら、怪我など直ぐに治せるし、急所を狙わない限り、命まで奪うことが出来ない。

だが、あの―――『封印の森』の結界を破る為、大半の力を使いきってしまったのだ。

 

「ふんっ! 力をもたぬ魔族など、相手にならん!」

イザークの剣がアスランの心臓をめがけて振り下ろされる。

「これで、最後だぁぁぁっ!」

 

そこに割って入った白い影―――

イザークが気付いた時は、もう遅かった。

 

アスランを庇って、その剣を身体で受け止めた―――カガリ

腹部からおびただしい出血が、純白のドレスに染入るように広がり、イザークの剣を伝って落ちる。

愕然としてイザークは剣を取り落とし、その場に崩れ落ちた。

 

「カガリ!!」

アスランは剣を投げ捨て、カガリを抱きしめた。

「よかった…アスラン…無事で…」

「もういい! しゃべるな!」

「私…お前の…こと…」

「判っている。俺もお前のこと、愛しているから。だから―――」

カガリは優しい眼差しをむけ、涙を零すアスランの頬を拭うと

 




その腕が、力なく落ちた。

 





「カガリ!」

ウズミがカガリに駆け寄ろうとしたその時---

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

断末魔のような咆哮を天に向かってアスランは叫んだ。

「聞いているか!? 天よ! 神よ!! カガリが、嘗て俺の愛した女神のカガリなら、今の悲劇を見ているだろう!? 答えてみろ!!」

 

暫くして、雲海が空を覆い、雷鳴が響き渡る。

アスランは、天にめがけて睨みつけた。

その激しい怒りの衝動に、天が答え始める。

 

<…確かに…その娘は嘗て天上界の女神であったカガリだ…だが、その愚かさを、身をもって知るため、地上に落とした…それはお前も知っているはずだ>

 

「確かに知っている! だが、彼女が転生者なら…その魂の『代価』を用意すれば、彼女を蘇らせる事が出来るだろう!?」

 

<いかにも…ただし、何をもって『代価』とする?>

 

「俺の…俺の『命』だ。」

アスランは迷わなかった。真っ直ぐに天を仰ぎ、神に答えた。

 

<覚悟はいいのだな?…例えそれでお前が命を落としたとしても…>

 

アスランは頷き、天に向かって尋ねた。

「どうすればいい!?」

 

<その唇で、お前が命を吹き込んでやればよい…>

 

「判った…」

アスランは、カガリの頬を、優しく撫でると、一言呟いた。

「君にもう会えなくなるくらいなら…俺は君の命の糧になってもいい…以前も、今日も俺が命を落とすところを、君が2度も救ってくれた…だから、今度は俺が君を救う…いいね…」

 

アスランはカガリの冷たくなりかけた身体を抱きかかえ、その唇に自分の唇を重ねた。

 

その瞬間―――

 

天から凄まじい光が落ちると、アスランはその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…う…ん…ここは…?」

出血がみるみる治まり、カガリが金の瞳を開ける。

「カガリ!!」

ウズミがカガリに駆け寄り、抱きしめた。

「お、お父様!?」

「よかった…何よりだ…お前が生きてくれて…」

 

カガリは思考を巡らせた

(…そういえば…私…アスランを庇って…)

「――――っ!? アスラン!? アスランは!?」

 

父の腕の中から抜け出すと、カガリはその場に倒れているアスランに駆け寄った。

アスランは先ほど眠った時の、あの時と同じように、あどけなくも、安らかな顔で息絶えていた。

「アスラン!! どうして…こんな…」

「お前の命を救うため…命を代償としたんだ…」

ウズミが痛ましげな顔で呟く。

 

カガリはアスランの身体をかき抱くと、大声をあげて泣いた。

「アスランっ!! アスラァァ―――ンっ!!」

 

その時―――

 

<コトン、コトン、>

 

アスランの頭から、2本の角が零れ落ちた。

 

そして―――

 

「…ぅ…ぁ…」

 

ゆっくり覗かせる、翡翠の瞳―――

 

「アスラン!? お前―――」

「俺は…死んだはずじゃ…」

 

カガリはアスランに飛びついた。

「カガリ…君も無事で…」

アスランはカガリを抱きしめた。

「でも、どうして…」

 

再び天からの声が耳元に届いた。

<アスラン…お前の『魔族としての力』そして『永遠の命』を糧に、それをカガリに命を吹き込んだ…。カガリよ…お前には『魔族』からその『永遠の命』の一部を分け与えられた。>

 

黙って天を見上げる二人。

 

<しかしアスラン…お前に『魔力』と『永遠の命』がなくなったとはいえ、その身体は『魔界のもの』…よって、再び『封印の森』で限りある時間を生きることになる。>

 

「…はい…」

アスランは厳粛に受け止めた。

 

<そしてカガリよ…お前はそこにいる『魔族』に命の一部を吹き込まれた…。そして、そこの魔族同様、限りある命として魂は転生した。身体は『人間』のものであっても、お前の魂は『魔族』のものである。…よって、お前も同様『封印の森』の中で生きることになる…よいな。>

 

「そ…それじゃあ…私たち…」

 

<あぁ…限り有る命を、共に生きるがよい…>

 

そして、天は何時の間にか晴れ渡り、星空が降ってくるように瞬いていた。

 

 

*        *        *

 

 

『封印の森』の古ぼけた大きな洋館に、久しぶりの笑い声が響いた。

 

「…でも、お父様やイザークには悪いことしちゃったな…。」

カガリがふと呟く。

「大丈夫。イザークもウズミ様も、君が生きていてくれるだけでもいいって言ってくれていた。それに、ウズミ様は今後、隣国と協定を結んで、暫くの後は養子を迎えられるそうだ。」

アスランがカガリに伝える。

「…ふ〜ん…私以外の誰かが…お父様のモノになっちゃうんだ…」

「悔しい?」

からかう様に、アスランが言う。

「べ、別に悔しくなんかないさ!! お前こそ何だよ。お父様の話し出すと直ぐ不機嫌な顔するくせに!!…嫉妬はみっともないぞ。」

「嫉妬なんかしないさ…。どんなにしたくても、もうする必要なくなったから…」

「…なんだよ?それ…」

「何でもないよ。」

「なんだよ。教えろ〜っ!!」

 

むくれ顔で追いかけるカガリを、笑顔でかわすアスラン。

 

洋館に柔らかな風と、暖かい日差しが舞い込む

 

アスランは立ち止まると、追いついたカガリを抱きとめると、右手の紅の『指輪』を外した。

「…アスラン?」

「もう、こうしてもいいだろう?」

その『指輪』を左手の薬指にゆっくりとはめて行く。

そのままアスランはカガリを…その温もりを…香りを…その存在を確かめるように、愛しむように抱きしめる。

 

カガリも顔を赤らめながら、その温かい胸の中でそっと目を閉じる。

 

 

 

数百年の時を経て、やっとめぐり合えた恋人―――

 

 

――――もう、魔族の力なんていらない。

 

永遠の時なんていらない。

 

      限りある時を共に刻める

 

        




  

     


            君が俺のいる世界―――

 

 

 

 

 

 

 

・・・Fin.

 

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>そんな訳で終りです。

 2人を幸せな終わり方にするために、どんなENDにするか、色々テストパターン作ったんですが、これに落ち着きました。

 …それにしても…つくづく『ファンタジー』に向かないね(笑)…私。ようやく気付きました。

 

   ともかく、今回は素晴らしい絵をつけてくださったかずりん様のお陰で、普段書いたことのない、このようなパラレル   小説の分野を開拓することが出来ました。

   かずりん様、本当にありがとうございました!!心より感謝します!!