秘めごと
「キラ?キラなら今シャワー浴びてるぞ」
目の前で固まっているアスランを気にもせず、眠い目をこすりながらカガリがそう言い放った。
午前7時。早朝である。
ちなみに場所はキラの部屋だ。
カガリはいかにも寝起きという感じで服がよれよれになっている。
「おーい、キラあ〜!アスランがお前に用あるんだってさ」
水の音がする方に叫ぶと、バスルームの中からガタガタガタッとけたたましい音がした。
カガリは首をかしげながらベッドに向かって歩き出す。
「ふああああ、私はまだ眠いからまた寝るな。またな、アスラン」
大きなあくびをすると、ふらふらとベッドに戻っていきぱふっと横になる。
しばらくすると、すーすーと規則正しい寝息が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・・」
呆然と立ちつくすアスランのもとへ、シャワーを浴び終わったキラがやってくる。
「ア、アスラン・・・。待たせてごめんね、何かな?」
髪の毛をタオルで拭きながら、キラは微妙な笑顔でそう尋ねた。
「・・・・・・・キラ・・」
アスランの声がわずかにうわずっている。
彼の目はキラを通り越して、部屋の中のある一点をじっと見つめていた。
アスランの視線の先を見てキラが笑顔を凍らせた。
「ああああははは・・・・カガリってばひどい格好で寝てるんだから。か、風邪ひいちゃうよ」
「・・・・・・・」
「あああああアスラン、用って、何かな?」
顔をひきつらせながら、キラはあさっての方向を見つつ言った。
ややあって
「キラ」
アスランの口から地響きに近い声が発せられた。
「な、何!?」
「なんでお前のベッドにカガリが寝てるんだ・・・」
「いや、あの、その、これには訳があって」
「いくら、姉弟とはいえ一緒に寝るのはどうかと思うんだが!?」
「ち、違うんだ、アスラン!」
「何が違うんだ!?」
「だ、だから・・・海よりも深く山よりも高い訳があって・・」
しどろもどろになるキラにアスランは目を細めた。
「へぇ、どんな訳だか聞かせてもらいたいな」
「う、それは言えない・・。」
「なんで」
「カガリに・・口止めされてるから・・」
「だから、なんで!?」
アスランは更に眉を上げて問い詰めた。
すると、
「あーもう、うるさいーーー!話すなら外でやってくれ。眠れないじゃないか」
突然ベッドからカガリの怒声が響いた。
がばっと上半身だけ起こし、眠た気な目でキラたちを睨みつけている。
「カガリ・・そこ僕のベッドなんだけど・・」
しかし、キラのつぶやきはカガリには聞こえておらず、
「昨日遅くまでずっと・・起きてて・・寝られなかったんだから・・頼むから寝させて・・くれ・・」
そう言うとベッドに倒れこみ再び寝始める。
問題はそのカガリの発言で。
案の定アスランはキラを睨みつけた。
「キラああああ」
「わわわわわ、アスラン、落ち着いて!」
「落ち着いていられるかっ!」
「ぼ、僕たち姉弟だよ?やましいことなんてあるわけないじゃないか」
「・・・・・・・じゃあ、なぜ立ちはだかるんだ」
「ぐっ」
「ほらみろ。答えられないってことは、やましいことがあるってことだろ」
「確かに、アスランに言えないことはあるけど、やましいことじゃないよ!」
あたふたと言い訳をするキラだったが、
「うーるーさーーーーい!!二人とも出てけーーーーーーー!」
二人のせいで再度眠りを妨げられたカガリは二人に向かって枕を投げつけた。
キラは顔面に枕を受け、呆然と立ち尽くす。
「なんで、僕まで・・・」
キラは異議あり、といった表情をした。
しかし、カガリをこれ以上怒らせられない。
アスランは渋々扉に向かう。
そして、去り際に
「キラ。また後で問い詰めるからな。」
「だから・・なんで僕がぁぁぁぁ・・」
キラの叫びを聞きながらアスランは部屋を後にしたのだった。
「あら。カガリ様がキラの所に度々行っているのご存知じゃなかったのですか?」
ラクスの一言にアスランは眉を上げた。
「・・・た、度々!?」
「ええ、夜になるとコソコソとカガリ様が部屋を出ていくのをよく見かけますよ」
「・・コソコソ・・・」
「でも、ご姉弟なのですし、いいではないですか」
ショックを受けているアスランを尻目にさらりと受け流すラクス。
アスランは声を荒げた。
「そういう問題じゃないでしょう!?」
憤るアスランを前にラクスはため息をもらした。
「そんなに気になるのなら、ご本人に聞いてみたらどうですか?アスラン」
「う・・・」
「キラにあたるのは、ただのやつあたりでしょう。ご自分でカガリ様のところに行くべきです」
「・・・・・・」
正論を言われ、ぐうの音もでないアスラン。
「それでは、失礼しますわ」
ラクスはクスっと笑うとその場を去っていった。
ラクスの姿が見えなくなると、アスランは壁によりかかって
「・・・まったくだな」
小さくつぶやいて肩を落とした。
「俺はいつのまにか臆病になっていたんだな・・」
深呼吸をして意を決する。
(カガリのところに行ってみよう)
今すぐにでも。
アスランは両手にぐっと力を入れると、カガリの部屋へと歩き出したのだった。
「わあああああああ、あ、あ、アスラン!?なんで、アスランが入ってくるんだ!」
「・・・・・今ノックしたら入っていいって言わなかったか?」
「た、確かに言ったが・・・・・キラだと思ったんだよ・・」
「・・・・・・・なんでそこにキラがでてくるんだ」
アスランは不愉快そうに顔をしかめた。
「う、いや・・その」
「そのことに関して聞きにきたんだ。とりあえず入るぞ」
「わわわ、だから待てって」
カガリはベッドの上に散らばっているものを慌てて隠そうとした。
「?なんだ?」
アスランは眉をひそめてそれを覗き込む。
「うわあああ〜〜〜!こらっ、見るなーー!」
カガリはアスランの前にたちはだかった。
が、一足遅く
「・・・?編み物・・・?」
アスランは毛糸の束と、編みかけの物を見て目を見開いた。
毛糸の糸があちらこちらに散らばっている。一度編んだものをほどいたようなものが沢山あった。
カガリは諦めたようにため息をついて
「・・・なんだよ。私が編み物やっちゃ悪いか」
上目遣いにアスランを睨んだ。
「いや、悪いということはないが・・。ちょっと意外だっただけだ」
「ふん、どうせ私にはこんなもの似合わないよ。」
口をふくらませて、カガリはそう言い放った。
「そんなこと言ってない」
「うるさいなあ。もういいだろ。出てってくれよ」
カガリは拗ねたようにそっぽを向く。
「カガリ」
「・・・・・・」
「カガリ、こっち向けって」
アスランはなだめるように言った。
「うるさい」
「聞きたいことがあるんだよ」
「キラのところになんで行っていたか、だろ?」
すぐに返って来た答えにアスランは驚く。
「・・・そうだ」
「そんなことお前に聞かれる筋合いないけどな、もうバレたから教えてやるよっ」
カガリは手元にある網掛けのセーターをアスランにずいっと差し出した。
「・・・?」
「編み方、教えてもらってたんだ、キラに」
「ええ!?」
「お前のサイズもキラなら知っているだろうし、私は編み物のしかたなんか知らなかったからな」
「キラ・・編み物なんてできたのか・・・・。いや、それはともかく」
アスランはカガリをまじまじと見つめて
「俺のサイズって・・・まさか」
「そうだよ!アスランに作ろうと思って頑張ってたんだってば。バレないように夜キラの部屋に行ってさ。なのに・・まだ完成しないうちにお前にばれちゃうとはな・・・」
ははっと失笑し、情けなさそうに顔をそらした。
「・・・・・」
アスランはほとんど言葉を失って呆けている。 そんなアスランを見て、カガリは肩を落とした。
「それに、私下手だし、こんなものもらっても嬉しくないよな・・・。ゴメン・・」
泣きそうな顔のカガリをみて、はっと我に返ったアスランは
「そんなことないっ!」
声を荒立てて、カガリに詰め寄った。
「アスラン?」
カガリは驚いて顔をあげる。
「そんなことない・・。嬉しいんだよ。とっても。」
アスランはふんわりと微笑んで編みかけのセーターを手に取った。
「これ、完成させてくれるよな?」
「アスラン・・・。いいのか?こんな下手くそなセーターだぞ。」
するとアスランは首を横に振った。
「カガリが編んでくれたセーターだから、欲しいんだ。それに下手だとは思ってない。」
きっぱりと言い切るアスランにカガリはたじろく。
「お、お前・・・目が悪いんじゃないのか?」
悪態をつくカガリだが、顔が赤くほてっていた。
「でも、うん。そうだな。私もお前にあげたいんだ。着てくれなくてもいいから、渡したいんだ。」
「じゃあ」
「うん、完成させるよ。せっかくキラにも教えてもらったし」
その言葉にアスランはふとキラのことを思い出して、
「あー・・そうだ。キラに謝っておかないとな」
ばつが悪そうにつぶやいた。
「どうかしたのか?」
「いや・・ちょっとね・・」
今頃はふてくされて自分の部屋にいるにちがいない。
どうやって謝ろうか。
あれだけ八つ当たりをしてしまったからには、すぐには許してくれないかもしれない。
(まあいいか、言い訳は後で考えよう。)
とりあえず・・・
折角カガリと話ができたんだし。
もう少しこのまま--------
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後書き
またもキラがやられキャラになってしまいました・・。ははは・・。でも実はキラカガも好きなんですよね。キラカガ←アスランもいいかも・・。
(2003/9/8)