「……σ( ̄∇ ̄o) ?」

無言で自分を指させば、アスランが

「( ̄ー ̄)_ _) ̄ー ̄)_ _)ソウソウ♪」

とばかりに頷く。

「君の魔力が強くなってきているんだ。魔獣たちが集団で一斉に君を狙えばわからないが、ラクスの説明の通り、彼らに破壊の力はあっても知力はない。守りの要である君と、完全な形のこの賢者の石があったら、魔物が愚者の石の欠片程度の力を与えられて単体で襲い掛かっても君には勝てない、と考えてもおかしくはない。」

「なるほどね。だから少しでもクルーゼの手元に欠片が戻らないよう、君も回収して回ろうと思って飛び出していっちゃったわけか。」

キラがようやくアスランの行動に納得がいったのか、「あ〜ぁ」と椅子の背もたれに寄りかかりながら背伸びをした。

今までの話を繋げると、要はクルーゼは多勢で人間に復讐を試みたけれど、一極集中の守りの力が大きくなってきたから、数撃ちゃ当たる作戦を止めて、自分も一極集中のデカイ力で対抗する作戦に切り替えたのでは、ってことか。

復讐のために計算高く人心掌握したくらいの半妖だし、私らみたいな弱小人間たちに石を集めさせて、集まったところでその上前を撥ねる、くらい計算していてもおかしくはないな。

でも―――納得いかないことがある。

「お前たちの事情と理由は分かった。でも分からないのは私が『守り手』?そんな魔力なんて、持っているとは思えないし、私、今まで一度も使えたことなんて無いぞ?」

「では、カガリさんは、どのように愚者の石を見つけられたのでしょうか?」

ラクスが寧ろ不思議そうな顔をしてくるので、私は懐から羅針盤を差し出した。

「これだ。我が国に伝わる、ハウメアの護り石を探知できる羅針盤だ。」

自慢気に目の前の二人、キラとラクスに見せるが、二人はじっとそれを見た後、

「何の魔力もないよね?これ。」

「えぇ。さっぱり。」

そろって首を横に振った。

「……は?魔力がない?」

「「はい。」」

また二人、真顔のままユニゾンで頷く。

「え?でも、今までこの針が指した方に行けば、愚者の石を持った魔族に遭遇できたぞ!?」

「つまり、それがカガリさんの持つ、無意識に使われている魔力の正体ですわ。」

またしてもニッコリ笑うラクス。開きっぱなしの口を閉じるのも忘れ、呆気に取られている私に、ラクスは手を伸ばすと私の手を取って意識を集中させた。

「カガリさんの魔力は『盾』。つまりは『賢者の石』による守りの力です。元来貴女の傍にあるべき賢者の石に引かれる形で、その羅針盤が指し示していたのです。賢者の石の場所、つまり―――それを身に着けていたアスランの居場所ですわね。」

「え〜〜っと、要するに―――

 

   アスランは賢者の石を呪いで身に着けたままだった

アスランはずっと愚者の石を追いかけていた

   そのアスラン…つまりは賢者の石のありかを、私の魔力が通った羅針盤が指していた

 

   イコール

 

   「私たちは、アスランの傍にいた愚者の石の欠片を持った魔獣に遭遇し、それを倒していた」

   ∴(証明)

   「私は羅針盤が示した愚者の石を探し出して、ゲットできていた!…と思い込んでいただけ」

 

―――ってことか?」

「ピンポーン♪ 正解!凄い背理法ができたねv」

「よかったですわ〜♪ お判りいただけたようでv」

「「ねー♪」」と仲良く顔を合わせて喜んでいるキラとラクスだが、

 

よくない!

全然解決してない!

 

「だから、その前に私が一体、何時、どのようにしてアスランに呪いをかけたりしたのか、さっぱりわからないんだが!?」

思わず立ち上がった勢いで、重い椅子が倒れそうになったが気にしてなどいられない。

食い入るようにラクスを見詰めるが、冷静なラクスは私の詰問など想定済みだったようで、眉一つ動かさない。ゆっくりと紅茶を一口飲み下し、今度は私ではなく、視線をアスランに向けた。

「ここから先は、貴方がお話してくださいな。アスラン。」

「…わかった。」

幾分か迷いながらも、アスランは記憶の糸を手繰り寄せるようにして、語り始めた。

 

「あの日、父上が殺され、俺自身も子狼に姿を変えられてしまい、その後、首輪をつけられ幽閉されていた。だが、クルーゼの隙をついて、何とかこの城から逃げ出したんだ―――

 

   必死に逃走を続ける中で、俺はプラントを元に戻すために、過去に聞いた話を思い出した。

   (―――「東に『オーブ』という国があり、そこには『賢者の石』という、愚者の石と対を成す石がある。それを使えばきっと皆を、国を元に戻すことができる。」)

   だから俺は単身オーブに向かった。賢者の石を手に入れるために。

   だが見てくれだけじゃなく、力も子狼。

   オーブに渡るには長い道のりだった。たどり着いたはいいが、ロクに食べるものもなく、衰弱していった。

   最後にたどり着いたのは、どこかの大きな屋敷の庭先。そこでついに俺は歩けず、倒れ込んだ。

   (もうダメか…)

そう諦めていた時

   ―――「お前、大丈夫か!?死んじゃダメだ!」

   そう言ってボロボロの俺を抱き上げたのは、上品な身なりの金髪に金の瞳の女の子

   意識が朦朧としていた俺を連れ帰り、暖炉の前で温め、こんな汚らしい俺をずっと摩って抱きしめてくれて、こういってくれた。

―――「生きることから逃げようとするな!お前のことを悲しむ人がいるはずだ。もしいないというのなら、たった今から私が仲間になってやる!」

耳が傍立ち、毛が逆巻く。

―――「お前は私の大事な友達だ!だから、私を悲しませるな!!」

   それからというものの、俺が元気になるまで、彼女は親身に世話をしてくれた。

   ―――「今日からお前はずっと私と一緒だ。だから早く元気になるんだぞ、アレックス!」

   

「…『アレックス』…?」

(あれ?何かどこかで聞き覚えのあるような…)

アスランは思い出そうと必死な私の横顔を見てクスリと微笑むと、先に話を進めた。

 

無論、彼女の周囲の大人たちは、俺が狼と気づき彼女から引き離そうとした。

でも君は決して諦めなかった。俺との約束を違えることなど一つもしなかった。

頑として譲らず、大人たちを説得して、ずっとそばにいてくれた。

―――「おはよう!アレックス。今日は何して遊ぼうか?」

   ―――「アレックス、お菓子持ってきたぞ。一緒に食べような!」

   ―――「アレックス…お化けが怖くって…その…一緒に寝てくれるか…?」

食事を隠し持ってきてくれたり、風呂に入れてくれて綺麗にしてくれて

一緒のベッドで寝て…その温かさに、いつまでも甘えていたくなると同時にこう思ったんだ。

   (俺がオーブの賢者の石を奪ったら、この子はどうなってしまうだろう…?)

   プラントを救うためには賢者の石が必要だ。これを持って帰れば、プラントに溢れる魔獣や瘴気から人々を守ることができるはず。

   だけど、生きる力をくれた、この子の笑顔を見ているうちに、持ち帰ることに躊躇いを覚えたんだ。

   そうやってつかの間の幸せの中、悩み続ける日々―――

   

   でも火種はもうすぐそこまで来ていたんだ。

   魔物が…あの愚者の石を埋め込まれた魔物がオーブを襲い始めた。

   必死の抵抗空しく、オーブの王はその身を犠牲に魔物を倒した…

 

「…それって…まさか…」

アスランが静かに頷く。

「君の父上だよ。そして、俺を拾ってくれたのは―――君だ。カガリ。」

「…」

キサカが言っていた「以前犬を拾ってきた」って言っていた、アレが…アスラン。

「そして、君が何時も身に着けていたのが、この『ハウメアの護り石』だ。」

アスランが爪先で、自分の胸の上で輝くそれを指し示す。

「燃え盛る炎の中、君を連れて脱出を図る家臣たちにとって、俺は余計な荷物でしかない。俺を置いて行こうと言った家臣に、君は泣き叫んで抵抗したが説き伏せられた。その別れの時

 

   ―――「これをお前にやる。これをかけられたヤツはな、「絶対に幸せになる呪い」がかかるんだ!だからお前が幸せにならないと、これは外せない!いいな!」

 

「…それが、私のかけた『呪い』…?」

「君はこの賢者の石の正統な後継者だったんだ。そしてまだ幼かった君は力も弱かったが、王が亡くなったことで力に目覚めた。その最初の力が、俺への呪いだったんだよ。」

「……」

とりあえず、アスランにハウメアの護り石が渡った経緯は理解できたが…他は何も考えられん。だって私は普通の人間だと思っていたし、そんな特別な力なんて微塵も考えたことなかった。

「そして成長とともに、君は力も大きくなって、遠方でも徐々に力の届く範囲が増えていったんだ。そのせいで俺は狼の姿から徐々に、この人間の姿を取り戻してきたんだ。」

(―――「ようやくここまでになれたんだ」)

(―――「君がその姿まで『戻れた』のって…」)

(―――「貴方もこの姿まで戻れたのですね。」)

3人が言っていた、それがこのからくりか。

「魔力を使うと人は金眼に変わるのですが、カガリさんは元々金眼でいらっしゃるから、誰も気づかなかったのですね。魔力を使いっぱなしだったとしても。」

つまりラクス曰く、私が魔力を駄々洩れさせていても、誰も気づかなかったってことか。私自身も含めて。

(え?まてよ、それじゃあ―――)

「もしかして、瘴気を潜り抜けられたのも…」

「元々魔力を持っていたので、耐性があったのでしょうね。」

ハウメアの護り石が護ってくれたのもあるけれど、どうやら私自身が耐性を持っていたのなら…

(うわ///

頬っぺたが赤くなる/// アスランに必要以上にくっつく必要はなかったじゃないか!

アスランは私に魔力があることも、ずっと知っていながら黙っていた、ということに他ならない。

(コイツ、確信犯じゃないか!!)

ギロッと睨めば、アスランが慌てて向こうを向いてしまった。見れば、あ〜…しっぽが内側向いちゃっているし…怖がっているよ、コイツ…

ともかく10年ぶりに再会した私は犬だと思っていたから分からなくて当然だが、アスランは私のことを覚えてくれていたのか。

そういや、アスランが私と初めて出会った時、何処に行こうとしていたのか尋ねたら

(―――「それは、ある意味もう着いた、というか…」)

って言ってたのは、私が呪いをかけた相手だと知っていたからか。だったら―――

「お前、何でさっさと私に本当のことを話さなかったんだよ?」

「それは…///

先ほどまで散々雄弁だったのに、急に口ごもってしまった。何故か頬が赤くなっているし、視線は泳いでいるし…

「アスラン、まさか、君―――」

何故かそこで、私よりキラが不機嫌を露にして身を乗り出し、乱暴に立ち上がった。ついさっきバトルしていた時と同じくらい、いや、なんかそれ以上の怒りのオーラが溢れて見えるんだが。…何をそんなに怒っているんだ?

すると1人冷静なラクスがキラの服を指で引っ張りながら、無言の圧で強制的に座らせた後、私に向かって問いただした。

「もし、アスランが真実をお話になったとして、カガリさんはそれを受け入れられましたでしょうか?」

「あ…」

確かに。初めて出会った時にそんなこと言われていたとしたら、世迷言と思って受け入れてなかったよな。

「まぁ、でも『本当の気持ち』はアスラン自身の口でお話しいただきませんと。ね♪」

そう意味深にアスランに微笑んで見せるラクス。するとアスランが何故か更に身を竦ませた。

この優しい微笑みが、実は物凄い威圧感。これが誰もが平伏す彼岸の魔女。流石に私も逆らえない。

とりあえず、皆が平伏す彼岸の魔女、ラクスほどではないにしろ、私には呪いをかけるだけの魔力を持っていたことは分かった。だったら、術者なら呪いを解くことができるんじゃないだろうか?

「なぁ、ラクス。呪いってどうやって解くことができるんだ?」

「と、いいますと?」

「例えば、『外せる呪文』があるとか、気合入れて魔力を注ぐと外れる、とか…」

するとあまり浮かない顔をして、ラクスが指を三本立てた。

「呪いを解く方法は3つあります。お聞きになりますか?」

「うんうん!」

「一つは、呪術者の死、二つ目は呪いをかけられたものの死、です。そして最後は呪いが完遂された時、でしょうか。」

「なんで全部そんな物騒なんだよ!」

「そう言われましても…カガリさんの呪いは強力です。私とは魔力の質が違いますので、カガリさんがどうにかして、ご自身で呪いを解く魔術を身につけなければなりませんわね。」

「そんなぁ…」

どうしたらいいんだろう。

何とかこの場で外して、アスランを仲間の元に返してあげたいのに…

 

(ここに…残して…?)

 

キュン

 

胸の片隅が痛む。まだ完治していなかったのかな?

でも、この痛みは違う。

傷を負ったそれではない

 

(アスランと…離れ離れに…)

 

「離れる」―――その言葉を心の中で復唱すると、まるで刃にでも変わったかのようにチクリと心を突き刺してくる。

 

(何だ?どうしたんだ私…?)

 

理解が及ばない。私が一人混乱していると、代わりにキラが口を開いた。

「ラクス、カガリにここで魔力の修行を付けてあげることってできないの?」

ナイス考えだ!キラ。いいこと言うじゃないか!修行なら暫くここにいるべきだし、そう思ったら途端に胸が軽くなった。

「そうですわね…」

ラクスが考え込む。だが何故かキラの方がノリノリで提案を始めた。

「ラクスには魔力の修行を付けてもらってさ。あと、魔族との戦いのコツみたいなのを僕が教えてあげる!カガリは結構筋がいいから、もっと強くなれると思うよ。」

「ほんとか!?」

「うんうん♪」

願ったり叶ったりだ!―――と思ったら

「俺は反対だ。」

何故か憮然としてアスランがキラを睨みつける。

「何で!?」

「こんな瘴気の中で修行を付けなくていい。危険すぎる。戦い方は俺がクサナギに戻ってから教えてもいいだろう?」

「さっき、カガリも耐性があること認めたばかりじゃん。…ていうかさ、君それを知っていてカガリに言わなかったんでしょ?なんでかな〜〜〜???」

「―――っ!」

仲良きことは美しきかな。喧嘩するのも仲がいい証拠なんだろうけど、何で私がその原因になるんだ?σ( ̄^ ̄)

「決まりっ!アスランのことは放っておいて、僕とラクスで少しでも君がクルーゼに負けないような力を付けてあげるから。ね!」

満面の笑みを湛えたキラが、私の両手を取って嬉しそうに振る。

私が状況把握できる間もなく、普段舌戦で負けたことないアスランが渋い表情のまま珍しく口を噤んで、キラの勝利となった。

 

 

 

・・・to be Continued.