副会長の大切な『お仕事』 vol.

 

 

 

今日も青空が広がる早朝。

カガリはいつも通り、『バスケ部』の朝練に間に合うように、定時の『学園行き』のバスに飛び乗った。

『アスハ家』からはバスで一本。20分ほど乗れば、渋滞のない限りに定時に学園の正門前に到着する。

 

「よいしょ。」

学習鞄にユニフォーム、バッシュを入れたスポーツバックを抱えて乗り込むと、後方の座席で手招きをする影が一つ

「…?…アスラン?」

呼ばれるままにアスランの座席の傍に行くと、アスランは未だ空席だった隣の席にカガリを座らせる。

「お前、いつもこんな朝早かったっけ?」

「あぁ…もう直ぐ総会の『決済』と『予算書』の提出期限だからな。早くまとめておいたほうがいいと思って。」

「ふぅ〜ん…」

 



(こんな早くから、もう作業してるんだ…)

 



穏やかに答えるアスランの横顔をふと見つめるカガリ。アスランは何も気付かないように『赤本』を広げ、膝上に置いたノートに何やら懸命に書き込んでいる。

『赤本』は相当使われたのか、ページの箸端が曲がり、付箋だらけになっている。

 

(こんなに勉強してるんだ…生徒会の仕事やって、家に帰ってから勉強して…よく時間作れるよな…)

 

そんな懸命な横顔に、ついついネガティブな思考が浮んでしまう。

 



―――もし、私がちゃんと副会長の仕事できてたら、アスランはもっと勉強時間が取れて、楽になったのかな…?

 



「…? なんだ?」

「あ、あ、いや!別に…その…。あ!私も勉強しなきゃな!もう受験生だしな!」

優しげなアスランの声に我に返ると、カガリは慌てて自作の『単語帳』を鞄から引っ張り出し、ページを捲った。

「“above”は…“〜より上で”。よし!これは覚えた! 次は“unwilling”は…えっと…ん〜〜??」

「“嫌々ながら”。形容詞だな。」

眉間に皺を寄せて悪戦苦闘しているカガリの横から、アッサリとアスランが答える。

「あー!折角今、私が思い出したところだったのに!」

「ごめんごめん。」

そう言いながらクスクスと可笑しそうに笑みをもらすアスラン。カガリは負けじと、次の問題に取り組む。

「えと、次は“respectable”で…んと…」

「“きちんとした”“ちゃんとした”。」

「〜〜〜〜〜っ!!だから横から口出すなっ!!」

真っ赤になって怒るカガリに、笑いながらその頭をポンポンと優しく撫ぜると、アスランは穏やかに話し出した。

「カガリは一個一個単語覚えようとするから大変なんだよ。そう…例えばこの“respectable”は形容詞だけど、動詞にすると“respect”つまり“尊敬する”“敬う”。名詞だとそのままで“尊敬”。副詞なら“respectable”で“立派に”。つまり基本となる形に、名詞なら“−tion”とか。形容詞なら“−able”や“−ful”。否定形なら接頭語で“an−”とか…。一つの単語に接頭語や接尾語がついて、それぞれ名詞形だったり動詞形、形容詞形になったりするから、大体なら基本の単語一つを覚えさえすれば、それを展開させればいいだけなんだ。」

「へぇ〜…」

感心しながらアスランと単語帳を交互に見つめるカガリ。

教えてもらうということは、見下された感じがする――と嫌がる人もいる。

だが、カガリはいつも素直だ。

たとえそれが後輩だったりしても、素直に提言を認め、真摯にそれを聞こうとする。

 


何時だって真剣なカガリ…

 

そんな彼女の相手をする時は、自分の勉強時間なんてどうでもよくなる。

もっと教えて、もっとカガリを喜ばせたい。

判った時、嬉しそうに自分を見上げるの満面の笑みを、もっともっと見せて欲しい。

 

 


たった20分の一緒の『勉強時間』

 

 




どうか、道路が渋滞して、もっとこの時間が長くなりますように―――

 

 

 

 

 


*        *       *

 

 

 

 

 


「もっと足動かして!ほら!ディフェンス!足が止まってるよ!」

<キュッキュッ>というバッシュの細かなブレ―キングの音と、<ダンダン>というボールのドリブルの音が響く放課後の体育館。

やがて、ゴールに速攻で走りこんできた、赤い髪のショートカットの少女が、大きなシュートを放つ。ボールは弧を描きながらゴールに向うが、見た目でも明らかにハズレそうだ。だが、

「任せろ!」

大きくジャンプした金の髪がゆれると、見事な『アウリープ』でゴールを決める。

その途端、体育館中に黄色い悲鳴が鳴り響く。

「キャァァァ〜〜〜〜〜ッ!!アスハ先輩カッコイイ〜〜〜!!」

「やっぱり素敵だよね!アスハ先輩!!」

「男なんかより、凄くカッコイイよね!」

「あ〜ぁ…アスハ先輩が男だったら彼女にして欲しいんだけどな〜。」

 

そう…アスランが男子生徒に妬まれないのと同様、アスランといる事の多いカガリがアスランファンの他の女子生徒から恨まれない理由の一つが『コレ』である。

 

カガリのサッパリした気さくな性格と、この『バスケット』に見られるような人も羨むほどの運動神経。そのバスケットで昨年の『新人戦』で2位にまで就けたスター性。なのに全く偉ぶったところも無い。華麗にシュートを決めるその姿が、逆に女子生徒のハートを射抜いているのだ。

 


「お疲れ様です、先輩。流石ですね!」

そう言いながらタオルを手渡すのは、2年生で新キャプテンの『ルナマリア・ホーク』。

「いや、私だけじゃない。ルナがちゃんとアシストしてくれるからできるんだ。こちらこそありがとな。」

下級生であっても、こうして労いことを忘れない。このカガリらしい優しさも、後輩からの絶対的支持を受けている要因である。

 

<ピッッピーーーーッ!>

「それでは今日の練習はこれまで。みんな風邪ひかないようにちゃんと汗ふいて帰ってね。」

「「「ありがとうございましたー!」」」

この春マネージャーになったばかりのルナマリアの妹、『メイリン・ホーク』の笛とともに集合したバスケ部メンバーは何時も通りの解散となる。だが…彼女達はなかなかその場を去ろうとしない。

カガリが先立ってルナが差し出してくれたタオルで汗をふきながら、シャワールームに向おうとすると、入り口から声がかかった。

「カガリ。」

帰らない女子生徒達の待ち受けていた人物が現れたようだ。入り口からまた別の意味の黄色い悲鳴が上がる。

「あれ?アスラン…まだお前残ってたのか?」

駆け寄るカガリにアスランは軽く頷く。

「あぁ。生徒会の方は今日は大したことはないんだが、カガリは女の子だし、一人で暗い中帰らせるのは物騒だし。キラ達は用があるそうだから、俺が待っている、って言ったんだ。」

「そうか。ありがとうな。こんな遅くまでつき合わせちゃって…。でも、バスケ部のみんながいるから今度から無理しなくていいんだぞ。お前いつも私が部活終わるの待ってるだろ?勉強時間大丈夫か?」

逆に気を使われ過ぎて、アスランが苦笑する。

「…いいんだ…勉強よりもずっと大事なことだから…」

「へ? なんか言ったか?」

『?』を映した真っ直ぐな金の瞳に見つめられ、アスランの頬が赤く染まっていく。

「い、いや///…それより、早く汗拭いてこないと風邪ひくぞ。ちゃんと汗流しておいで。」

「〜〜〜!!判った判った!いつも『お父さん』みたいに注意ばっかするな!じゃぁ行ってくる。直ぐ戻ってくるからな!」

タオルを持ったままロッカールームに走っていくカガリ。

 

 

「…俺は『お父さん』程度の認識なのか…?」

 

 

 

ガッカリした面持ちで、アスランはすっかり暗くなった星空を見上げた。

 

 

 

 

 


*        *        *

 

 

 

 

 


次の日―――

昨日と同じ時間にカガリがバスに乗ると、やはり同じように後方の席から、見慣れた腕時計をした手が「こっち」とカガリを招きよせる。

「おはよう、アスラン!」

「おはよう、カガリ。」

元気な女子生徒の声と、落ち着いた男子生徒の声が重なる。

 

(…今日は生徒会の方に出る日だから、ちゃんと仕事しなきゃ! 少しでもアスランの負担をとってやって、勉強時間作ってやらなきゃ!)

 

カガリはアスランの横の座席に座りながら、気合いに満ちた真っ直ぐな瞳で言い放った。

「今日は生徒会の方にちゃんと出るからな!」

「?…あ…あぁ。…どうしたんだ、いきなり。わかってることだからいつも言わないのに…。」

「いや、その…頑張りたい!と思って。私なりの『気合入れ』だ!」

突然のカガリの宣言に、ふと面食らったアスランだが、直ぐに「期待してるよ。」と微笑みながらそっとカガリの頭をポンポンと叩く。

「〜〜〜っ!!///だから子ども扱いするなっ!///」

頭を撫ぜると直ぐこれだ。でもこんなカガリを見るのは、カガリの追っかけをしてる女子生徒たちは見ることはできないだろうと、アスランはちょっとした優越感に浸った。

 

そんなアスランの想いも皆目気付かず、姿を見返したカガリの目に入ったのは、アスランの膝上に何やら難しい単語がギッシリと並んだノートが一冊。

「それにしても…今日は『赤本』じゃないんだな。それ何の授業だ?」

アスランの眺めるノートには、カガリも良く知る英語のアルファベット。だが見慣れない形のアルファベットや単語の応酬にふとカガリの疑問が湧いた。

「これは『ドイツ語』のノート。俺は第二語学は『ドイツ語』履修してるから。」

「ふ〜ん…凄いな。私なんか英語だけで手一杯だから、第二言語も英語なのに。よく他の語学やれるよな。」

感心してるのか呆れられてるのか判らないが、アスランはカガリの言葉に答えた。

「そんな難しい事じゃない。キラだって『ドイツ語』選択してるし。ラクスは音大目指しているから、オペラで使う『イタリア語』選択しているし。ミリアリアは『フランス語』取ってる。」

「へぇ〜…みんな凄いよな。」

カガリの瞳に尊敬の眼差しがさしたところで、アスランは笑いながらカガリを促す。

「それより、カガリ。第二言語も英語なら、昨日のような単語帳で躓いてるようじゃ、中間テスト落としかねないぞ。部活も忙しいだろうが、ちゃんと学生の本分も身につけないと。」

「〜〜〜〜っ!!だからお前は『お父さん』みたいに言うなっ!!これからちゃんとやるんだから!」

カガリはプイっと視線を外し、鞄の中から『でる単』を取り出す。

「これ、ちゃんと全部覚えてやるからな!」

そう言って折り目だらけの本を開くと、小さな声で何度も単語を繰り返す。

 


ひたむきなカガリの横顔を、アスランは微笑みながら眩しそうに見守っていた。

 

 

 

 

 


*         *         *

 

 

 

 

 


<キーンコーンカーンコーン…>

6時限目の授業が終わるや否や、カガリは鞄とバッグを持って、勢いよく南校舎の階段を駆け上がった。

「よし!今日はちゃんと仕事見つけて頑張ろう!」

生徒会室のドアの前で気合いを入れると、カガリは元気よくドアをあけた。

「こんにちはー…って…あれ?みんなはまだ着てないのか?」

キョロキョロと生徒会室を見回すと、そこにはラクスが一人、パソコンに向ってキーボードを叩いている姿だけだった。

「こんにちは、カガリさん。皆さんはまだHR終わっていらっしゃらないようですわ。」

「そうか…。」

そう言ってカガリは窓辺の傍の椅子に座って部屋を見回す。

この部屋の何処に何があるか位は判る。…だが、何処を見回しても自分ができる仕事が何処にあるか判らない。

 

(そうだよな…私の作業って、いつもアスランが渡してくれた物しかやってなかったんだよな…)

 

―――部活で活躍する自分と違って、なんて狭い居場所なんだろう・・・

 

ふと、再び湧き上がる焦燥感を振り払って、カガリは自分ができることを探す。

「なぁラクス。何か私に手伝える事ってないか?」

「あらあら…『お手伝い』ですか? 今のところ大丈夫ですから、カガリさんはアスランがお見えになるまで、お勉強でもしていてくださいなv」

柔和な微笑みを向けると、ラクスはまた画面に戻った。

 

「あ…そうか…」

 


―――やはり自分はこの場所にいてもいいのだろうか…?

 


そう思いかけたとき、ドアの開ける音。

「あ、こんにちは。早いわね、カガリ。ラクス。」

入ってきたのはミリアリア。

「如何ですか? もう決済は終わりまして?」

「ううん…毎年の事なんだけど、あの問題の『格闘技研究部』がまだ未提出なのよね…。」

ハァと肩で溜息をするミリアリアに、ラクスも心配げな視線を送る。

「そうですか…でもちゃんと提出する物はして頂かないと。予算も下りませんわよ。」

「でも、そうするとアイツら力押しに走るから、厄介なのよね。先生方も今ひとつ押さえきれてないし。」

憂鬱そうな二人。

つまり、その部から書類の提出がないと、生徒会の皆の作業が滞る――ということになる。

 


(だったら、私が―――!)

 


「よし!私が行って書類とって来てやるよ!」

「―――!?」「―――!」

カガリの声に、二人の少女は驚いてカガリを見つめる。

「ちゃんと提出しないから迷惑してるんだろ?だったら私が行って来るから!」

ようやく自分で自分自身の仕事を見つけられ、明るい声のカガリ。だが、残る二人からは悲鳴にも似た、諌める声が飛び出す。

「ダメダメ!絶対ダメッ!アソコは女の子一人じゃ危険すぎるんだから!」

「そうですわ、カガリさん。もしものことがありましたら大変です。アスランに相談してから――」

「大丈夫だって!ただでさえ忙しいんだ。これ以上アスランに負担かけさせたら大変だろ!?だから行ってくる!」

「ちょっと、待って!カガリ―――!!」

 

ミリアリアやラクスの静止の声も届かず、カガリは外へと飛び出していった。

 

 

 

 

 








『部活動室』―――

校庭の脇に建てられているその2階建ての建物には、殆どの運動部が道具などを収めたり、ミーティングなどを開く場所として利用されている。

その1階の一番奥に『格闘研究部』はあった。

「ここだな。よーし…」

長袖のシャツを腕まくりすると、カガリは気持ちを改めドアをノックした。

「ごめんください。誰かいませんか?」

…しかし、しばらく経っても音沙汰無し。

「?…ここじゃなくって別の場所で練習してるのか?」

そう思いながら再びドアをノックしたとき――

<ガチャッ!>

「うわっ!」

突然目の前のドアが勢いよく開き、カガリは慌てて身を引いたおかげで、寸でのところでドアにぶつからなかった。

「…なんだよ…うぜーな…」

暗い部室の中に数人の男子生徒の影。

ドアを開けた男子が、カガリをジロジロと値踏みするように見まわす。

「…あー、女子バスケの花形のアスハさんじゃん。何しに来たんだよ。ここはバスケじゃないぜ。迷子にでもなったか?」

背の高い、金髪の男がそういうと、中から下卑た笑い声が聞こえてくる。

(…なんだよ…こいつ等…)

余裕の態度の男子達に、カガリは姿勢を正すとハッキリといった。

「今日は生徒会副会長として来た。お前ら生徒総会の決算と予算案の用紙提出して無いだろう?今日が締め切りだから取りに来た。」

凛としたカガリの表情。だがタチの悪いこの男子生徒たちは余計にからかいを止めない。

「おい、わざわざ副会長さま直々にお出でだってよ!」

「おやおや。さてはあの会長様にお褒めいただく為に、一人でここまで? 健気だね〜。」

自分への中傷より、生徒会の皆を、アスランをバカにしきった態度に、カガリの怒りは頂点に経った。

「何を言う!私は自分の意思でここに来たんだ。生徒会…いや、この『ヘリオポリス学園高等部』全ての生徒が迷惑するんだ!それを考えたなら、ちゃんと書類提出しろ!」

カガリの剣幕に、からかっていた男たちの表情が変わる。

大人しく涙を見せながら帰れば、充分それだけでもからかいがいがあったというモノだ。だが目の前にいる少女は自分達を恐れる様子もない。女のくせに堂にいった態度が彼らの癇に障った。

「オメ―さ。やっぱちょいウザイんだよ…」

カガリの頭に手を乗せると、ドアを開けた男子がカガリの顔に自分の顔を近づける。

その嫌悪感にカガリが僅かに顔を逸らし、腕を払うと、

「――っ! テメェ、生意気なんだよ!デカイ態度とりやがって!この―――!」

その男子生徒はついにカガリに手を挙げた。

 

―――殴られる!

 

身構えながら、目をギュッと閉じるカガリ。

だが次の瞬間

<パシッ!>

「!―――…・・・?」

当然痛みが走ると思った。だが薄目を開けると、男子生徒の腕は、カガリの顔のホンの数センチ手前で止まっている。

「あ…あ…お前は…」

男子生徒の声は、明らかに動揺している。カガリがその腕を見ると、誰かの手によってそれは止められていた。止めた手を辿ると…いつも見慣れた濃紺の髪が揺れ、見据えた瞳は翡翠色―――

「あっ、『アスラン・ザラ』!!」

咄嗟に男子生徒は後ろに後ずさると、部室内にいた他の男子生徒が出てくる。

「何してやがる!たかが一人だろ。そんな『頭いい』だの『品行方正』何ていわれてるヤツは喧嘩なんてできやしないんだよ!」

そう言って別の男子生徒がアスランに襲い掛かるが、アスランは微塵も動かない、それどころか

「痛っ!なにする―――ギャァッ!止めてくれぇぇ!!」

襲い掛かってきた一人の拳を顔の横で避けると、アッサリと腕を掴んで、そのまま投げやりながら、片腕を組敷く。少しでもアスランが力を入れれば、その男の腕は肩から見事に脱臼するだろう。

「…正当防衛だ。お前が怪我しようと、先に手を出してきたのは事実だからな…。」

抑揚の無い冷徹な声―――その無表情な冷たい瞳に、男はそれ以上の恐怖心を煽られる。


(これが『アスラン・ザラ』―――!)


みるみる血の気が引いてくる男。だがそれを見たもう一人が「野郎!」とアスランに猛然と襲い掛かる。

(組敷いてるテメェは動けないはずだ! 一発入れりゃまだ俺達の方が人数がいる。あっという間に返り討ちにしてやる!)

「いい気になるなよ!」

そう言って拳をアスランに向ける。

「アスラン!危ないっ!!」

カガリの悲痛な悲鳴。

だがアスランはまたも紙一重のところでアッサリとかわすと、そのままボディブローで容赦なく腹に拳を入れた。

「ゲフッ、ゴホッ!」

あっという間に地面の上に這いつくばった様子を見て、他の男子の顔色が一斉に変わる。

「そ…そうだ…俺見たことがある―――」

一人が青ざめながら告白する。

「た、確か『空手』と『合気道』を最年少で有段者になったどころか師範代まで上り詰めたヤツがいて…そいつの名前が確か『アスラン・ザラ』って…」

「ならばどうする?君達の方が人数は多いが…それでもやるつもりなら、俺は構わないが…」

「いや!いい!悪かった!だから―――」

「君達の部活の処置は検討する必要があるな。処分については職員の方も含めて、俺から報告する。覚悟はいいな?」

アスランの冷静でありながら、怒りの篭った声に震えるようにして、男子生徒は<ウンウン!>と一斉に頷く。

 

アスランがブレザーの埃を払っていると、ようやく我を取り戻したカガリが声をかけた。

「ありがとな、アスラン。」

上目遣いにアスランを見ながら、ここに来た説明をする。

「その…何とか書類貰ってくれば、皆の忙しさが少しでも少なくなるかと―――」

 



「これ以上、俺の仕事を増やすようなことはするな。」

 



カガリの言葉を伽って放たれたのは、怒りに満ちた冷たい声。

カガリにとって、一番不安だった事への『答え』

それ以上の言葉もでず、表情が強張り、凍りつく…。

 

アスランは男子生徒たちを一瞥すると、ブレザーを肩に背負いながら、校舎へと向っていく。

 



(―――「俺の仕事を増やすようなことはしないでくれ。」)

 



(私は…私のやることは、アスランの助けなんかならない…私がアスランを…皆の仕事を増やして、迷惑掛けてるだけなんだ…)

 

 

 


一人先に歩くアスランの背を、カガリは絶望的な気持ちで、ただ見送るしかなかった。

 

 

 


・・・to be Continued.

 

 

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<Namiの用語解説>

単語帳:今も使ってる方多いですよね。Namiも使ったことあります。但し『英単語』じゃなく『日本史』の年号覚えに使ってました。役に立ったかどうかは…orz

 

『赤本』:これは今でもありますね。ご存知、大学の入試の過去問集です。Namiの行ってた高校の図書館には、卒業した先輩から譲り受けた『赤本』が図書館に寄贈され、必要な後輩が借りる―――というシステムがありました。Namiも数冊買いましたが…全然宝の持ち腐れでした(持ってるだけで、勉強してる気にしてくれる麻薬でした:ヲイ)。役に立ったのは夜食のカップラーメンを作る時の蓋になったくらいです。

 

アウリープ:バスケでゴールにシュートに行ったボールを、味方が空中でキャッチし、そのままゴールに入れる…とかいう難易度の高いワザ(だったよね?)。某超有名バスケ漫画に出てくるR南高校の仙○君と福ちゃんがやっていたのを見て、仙○ファンの友人とNamiが福ちゃん役で、体育の時間にふざけてやったことがあります(ヲタクもここまで来ると国宝級:苦笑)。当然ながら一回もできませんでした。男子だとダンクできる人がいるからできるかも。

 

第二言語Namiの高校ではなかったんですが、超お嬢様学校にいった友人の学校では国語と英語の他に、第二言語としてフランス・ドイツ・ロシア・中国から一つ選択でやる語学の授業があったそうです。Namiは大学に行ってから初めてそれがあって、ドイツ語選択しました。今ではすっかり頭からデリートされてます。ちなみに↑の友人はフランス語を取ったそうですが、曰く「鼻つまんで話せばなんでもフランス語っぽく聞こえる」が信条だとか(いいのかそれで…(-_-;)

 

でる単:正式名称は『試験に出る単語500』だったと思う。Namiが学生の頃、一番メジャーだった英語単語集。同じ種類で『よく出る熟語150』なんてのもありました。毎日10ずつ覚えよう!とか気合入れてたのですが、結局10覚えたら、先に覚えた10個を忘れていったというキャパシティの低い自分に涙しました。

 

 

>中盤です。最初書いたときにはこの不良学生は『オルガ・シャニ・クロト』の名前が付いてたんですが、最初のプロットで、あまりにもひどい乱暴なシーンを書いてしまい、「これでキャラの名前使いたくないな。」との結果から、名前は削除しました。

 殴る、という内容も、実はR―15ぐらいの指定がつくんですが、ギリギリ押さえてみたり。

 なんだか要らぬところで苦労してました^^;

 

 さて、次回は最終話。カガリたんにどんな『お仕事』が待っているんでしょうか? それは次回で明らかに!?

 

  PS:あのアスランがカガリに教えてた、英単語の覚え方はNamiがやっていたんですが、まねしない方がいいと思います(苦笑:それでも頭に入ら
   なかった人がここに…)