fortune


「アスラン!」

後ろから自分を呼ぶ声に、アスランはゆっくりと振り返った。
そして、はあとため息をつく。

「またお前か」
「またとは何だ、またとは!お前どこに行ってたんだよ!」

カガリはアスランに詰め寄ると、腕を強く握った。
ドッグに帰ってくるなり、カガリにそう怒鳴られて、アスランは再びためいきをつ く。

「手を洗いに行ってたんだよ」
仕方ないなあといった感じでアスランが告げた。
「あ、なんだ。そうなのか」
ほっとした表情をして、カガリは手を離した。

「それだったらそうだと一言言え、ばか」
照れたようにそっぽを向いて、悪態をつくカガリ。

「もしかして心配してくれてたのか?」
アスランはその様子を見て、思わず微笑んだ。
「ちっ、ちがう!私はっ、お前がザフトの服を着ているから回りの奴からいじめられ てるのじゃないか・と・・・。い、いや・・そうでなく。私はお前を見張る義務が あってだな・・。」
しゃべっているうちに何を言っているんだか分からなくなってきて、顔を赤くしなが らカガリはあたふたと慌てた。

「ぷっ」
カガリの様子があまりにおかしくて、アスランの顔が思わずゆがむ。
「?アスラン?」
「あはははは、お前ほんとに面白いなあ」
本当におかしそうに笑うアスランを前にカガリは目を白黒させたが、しだいに自分の 立場を理解しはじめて、顔を真っ赤にした。
「笑うなっ!」
「ごめんごめん」
まだ笑いがおさまらない様子のアスランを見ながら、カガリは嬉しそうに顔をほころ ばせた。





「でも、お前がそういう風に笑うのを見たのは初めてだな」
一度目は敵同士。二度目はアスランがぼろぼろの時。
今はかろうじて敵同士ではないが、こんなに落ち着いてアスランと話をするのは初め てだった。
「そう・・・・・かもな」
アスランも今までの出会いのことを反芻しながら、そうつぶやいた。

「・・・・あのさ、アスラン」
ふいに表情を暗くしてカガリは再びアスランの腕をつかむ。
しばらく尋ねるのをためらっていたが、意を決したように言葉を続けた。

「私たちは・・・また戦うことになるのか・・?」
「・・カガリ・・・」
今にも泣き出しそうなカガリを前に、アスランは言葉を飲み込んだ。

「だって、お前がザフトに帰ったら、そうなるだろう?またお前、キラと戦うのか? オーブとも・・私とも戦うのか・・・?」
琥珀色の瞳から涙がにじむ。
アスランはぼんやりと、綺麗な瞳だなと思った。
でもこの綺麗な瞳を悲しませているのは、この自分なんだなと思うと、胸がきりきり 痛んだ。
そんなこと望んでいないのに。
アスランは、唇をかみしめてうつむく。

「俺は・・・お前たちと戦いたくない。もう二度と大切な友達を失いたくもない」
カガリは目を開き、アスランを見据えた。
「だが、俺はまだザフトの一兵だ・・。父上からも命令を受けている・・。俺は一体 どうするべきなのか・・・まだ分からないんだ・・・・」
アスランはカガリから目をそらし、うつむいた。
本当に、カガリの前だとなぜこんなに本音を言えるのだろう。不思議な気分だった。

「お前は・・・・。なんのために戦うんだ?ザフトのためか?父上の命令だからか ?」
カガリは一歩もひるまずに、アスランをまっこうから見つめて問いた。
アスランは驚いて顔を上げる。琥珀色の瞳とぶつかった。
「・・・・ラクスと同じことを言うんだな・・」
心底驚いたように言うアスランにカガリは目をしばたかせた。
「?ラクス?」
「ああ、俺の婚約者・・・」
「婚約者!?お前、そんなものがいたのか!?」
カガリは怒ったようにアスランに詰め寄った。先ほどの涙はどこへいったのか、すっ かり表情はもとにもどっている。
「い、いや・・・婚約は親が決めたものなんだ。それに婚約は破談したしな・・」
突然表情が豹変したカガリに慌ててアスランはそう言いつける。
「え?」
キョトンとするカガリに、ふっとアスランが微笑んだ。
「もういいんだ。仕方なかったから。・・・それに・・友人のような感じだったから な・・」
「そ、そうか・・・」
ほっと安堵のため息をついてカガリはアスランから身をひいた。
(なに焦ってるんだ、私は・・・)
自分の行動に赤面して、カガリははあとため息をついた。

「なんのため・・・・・か・・」
アスランはそうつぶやくと上を見上げた。
「俺はなんのために戦ってきたんだろうな・・」
自分を嘲るように笑うアスランを見つめて、カガリは息を飲んだ。
「アスラン・・・」
「友を失い、友を殺そうとし、俺は一体何をしてきたんだ・・」
苦しそうにつぶやくアスランに、カガリは顔をゆがめた。
そして、まっすぐにアスランを見つめる。
「アスラン・・・・・・でも・・・・。でも、今までのお前があるから今のお前があるんじゃないか!?」
アスランは目を大きく見開いた。
「私は今のお前はもう本当の敵がなんだか分かってるんだと思う。
お前がこれから何をするべきか、もう気づいているんだと思う。だから!」
カガリは大きく息を吸い込むと、ゆっくりとこう告げた。
「お前は自分の思うようにやればいい」
ふわっと笑うカガリにアスランは胸をつかれた。
アスランは目を細める。
まるで女神みだいだな・・そう思った。
「カガリ・・・ありがとう・・・」
なんだか胸のつかえが取れたように感じたアスランは、小声でそうささやいた。
カガリは驚いてアスランを見返す。そしてふっと笑った。
「なんだ?」
「いや、お前にちゃんと感謝されるのは初めてだな」
口に手をあてておかしそうに笑うカガリに、アスランは
「・・・・そうか。」
カガリの言わんとしていることを理解すると、穏やかに微笑んだ。
「ハウメアのご加護がアスランにありますように」
カガリは両手を組むと、目を瞑って祈りを捧げた。
「カガリにも」
首にかかっているハウメアの御守に手を当ててアスランも祈る。



アスランの心はもう決まっていた。