最近気になることがある―――

     

それは俺が尤も愛する「彼女の笑顔」

     

確かに「代表首長」になってから、寝る間も惜しんでの仕事が多い為か、

     その重責の為か

     心から笑う事が、少なくなってきている気がする…

 

 

     そんな俺の今、神に願う望みは只一つ

 

     

 

 

―――彼女に「本物の笑顔を与えて下さい。」

 

 

 

The Reindeer has “Lead−fangs”  

 

 

クリスマスまであと3日に迫った頃―――

その日もカガリは内閣府で閣議だった。

 

閣議が終わる定刻に、アスランは迎えの車を内閣府に向けた。

「あ、アレックス!」

アスランを見つけ、手を振るカガリに、ふと後ろから肩を抱くようにして一人の男が話し掛けた。

 

―――カガリの婚約者―――ユウナ・ロマ・セイラン―――

 

「カガリ〜。クリスマスの夜は我がセイラン家でパーティーを盛大に開くんだけれど、君もきてくれるよね?」

ユウナはさも「当然」といったようにアスランの目の前で、カガリに言った。

「いや…あの…その…」

カガリは困っている。

クリスマス―――そうは言っても「ハウメア」を信仰している彼女には、敬謙にクリスマスを祝う、という習慣は無い。

 

「あんなだだっ広い屋敷で、たった(・・・)一人(・・)でいるのは寂しいだろ? だったら僕と楽しく祝おうじゃないか!」

アスランをチラリと見ながら続けるユウナの言葉に、さらに困惑顔になるカガリに、アスランは静かに申し出た。

「折角ですが、アスハ代表におかれましては、1224日には孤児院の施設に慰問の予定が入っておりますので…」

「なんだって!?」

アスランから出た言葉に、ユウナは慌てたように、カガリとアスランの顔を交互に見やる。

 

一方、カガリも金の瞳をパチクリさせて、驚いている。

 

―――そう、最初からそんな予定は入っていないのだから…

 

「こうした慈善事業も国家の建て直しに必要な一端である、とアスハ代表のたっての申し出でして…」

アスランはそういいながら、カガリにアイコンタクトを送った。

 

「そ、そうなんだ! そういう訳だから、セイラン家のパーティーには残念だが出席できん。

お父上にもよろしく伝えてくれ。」

カガリは“渡りに船”とばかりに、アスランの言葉に縋ると、肩に置かれたユウナの手を振り解くようにして、アスランの車に飛び乗った。

 

唖然とするユウナを残し、アスランは車をフルスピードでアスハ邸に向かわせた。

 

 

 

 

 

「…それにしても、よく咄嗟にあんな『でまかせ』が出たな。…お陰で助かったよ…。

助手席で胸を撫で下ろすカガリに、アスランは告げた。

「ウソじゃないさ。」

「えっ?」

「本当はその日、公休日だろ?…ラクスからメールが来てたんだ。『マルキオ邸』でささやかだがクリスマスパーティーを開くので、よかったら来てくれないか…って。」

その言葉に、カガリは急に笑顔でアスランに向かって言った。

「ラクスが!? じゃあキラや子ども達に会えるんだな!?」

「あぁ。」

「それで『慈善事業』か………流石アスラン! 良く考えたな!」

休みだが、公には慈善事業―――公務となれば、セイラン家のパーティーなどに出る必要はない。

「子ども達にプレゼント用意しなくちゃな! …それから…キラとラクスにも!」

 

アスランが覗いた車のバックミラーには、クリスマスの準備をあれこれ考える、嬉しそうなカガリの顔が映っていた。

 

 

*         *         *

 

 

1224日―――

カガリはアスランと共に街に出た。

 

―――子ども達にあげるプレゼントは、自分で選びたい

 

それがカガリの希望だった。

 

街中は危険だからと、他にも護衛が付こうとしたが、それはアスランが「自分一人で充分だから」と断った。

 

―――そう・・・意図的に。

 

 

 

アスランの車に乗り込むと、ふと、カガリの指のあちこちにバンソウコウが貼ってあるのを見かけ、堪らずアスランは声を掛けた。

「カガリ、どうしたんだ? その指の傷―――」

「あぁ、これか? 夕べ一晩かかって、『あれ』作ったら、ちょっとこんなになっただけだ!」

 

カガリのいう『あれ』―――アスランの車の後部に置かれた、人が一人、入れるくらいの大きな白い袋―――

 

「カガリ…なんだ? 『あれ』は?」

アスランの疑問に、カガリは自信満々に答えた。

「やっぱり、クリスマスにプレゼント贈るのは、サンタさんだろ? だったら、白くて大きな袋がなきゃダメじゃないか! 人目につかないようにコッソリ贈るんだから!」

 

どうやら夜中にコッソリ縫っていたらしい。

 

(…演出まで考えてたのか…)

 

よほど楽しみにしているのだろう。不器用なカガリが懸命に裁縫をしている姿を想像すると、とても一国の代表とは思えない―――「普通の女の子」のように身近に感じる。

アスランもふと笑顔を零すと、車を街の中でも大きなショッピングモールのある場所へと走らせた。

 

 

 

 

「おい、見ろよ! アスラン! このぬいぐるみ、可愛いぞv 女の子なら喜ぶんじゃないかな?」

ショーウィンドウを覗きながら、そういって子どものようにはしゃぐカガリ―――

「そうだな。 子ども達の欲しがっているもののリストは、大体ラクスが作っておいてくれたから、それを参考にしながら選ぶといいだろう。」

カガリと一緒にアスランもショーウィンドウを覗き込みながら、時折カガリの横顔を見つめる。

 

カガリはまるで自分がプレゼントされた子どものように、大きな金の瞳を輝かせている。

嬉しそうに―――楽しそうに―――

 

その眩しい横顔に、何時しかアスランも目を奪われる。

 

「? どうしたんだよ、アスラン? 私の顔に何かついているか?」

「い、いや。…何でもないよ///」

慌てて顔を背ける。

「じゃあ、一つ目はこれにしよう!」

カガリは自ら店の中に入ると、お目当ての商品に飛びついた。

 

 

 

それから2人は揃って、ショッピングを楽しんだ。

「なぁ、やっぱり男の子には、ミニカーとかいいんじゃないか?」

カガリが言う。

「そうだな、飛行機の模型なんかも欲しい子がいた気がするな。」

アスランも並んで相槌をうつ。

「じゃあ、これとこれ!…プレゼント用にラッピングしてください。」

カガリが店員に申し出る。

綺麗なラッピングに包まれたプレゼントを受け取るたび、カガリは嬉しそうにアスランの顔を見上げた。

 

 

 

プレゼントを買っては、カガリお手製の『白い袋』に入れる。

小一時間もすると、袋はいっぱいになった。

 

「キラとラクスにあげるプレゼントも買ったし、と…」

カガリがプレゼントの最後の品を、袋に入れに車に戻ろうとしたその時―――

怪しい二人組みの男たちがアスランの車の周りをうろついていたかと思うと、その次の瞬間、男たちが袋を抱えあげ、持ち出した!

 

「あ――――っ! こらっ! 泥棒―――っ!!」

 

カガリの声にアスランも我に返ると、男たちは自分たちの車に袋を詰め込み、フルスピードで駐車場から抜け出していた。

 

「カガリ! こっちだ!」

アスランが男たちの車を追いかけようとするカガリを、自分の車の助手席に乗せると、ギアをフルにいれ、アクセルを踏みしめた。

街中を逃走する車は、猛然と信号まで無視し逃げようとする。

アスランも、ギリギリのところで追いすがっていた。

「どうするんだよ!? このままじゃ逃げられちゃうぞ!」

カガリの悲鳴にも似た叫びに、アスランは冷静に答える。

「この街中じゃどの道、車を止めさせるのは無理だ。海岸線の道路まで誘導する!」

 

アスランは車を一定の位置につけると、わざと海岸線の比較的車の走行の少ない道路に、男たちの車を引きずり出した。

 

「一体どうするんだ!? アスラン!」

激しいスピードに負けないよう、必死にカガリがシートベルトを握り締めていると、ハンドルを握り締めていたアスランが、ふと片手で胸元から銃を取り出した。

「カガリ、これで車を狙うんだ。」

「これで…?」

カガリはアスランから銃を受け取ると、その考えが読めたように頷き、シートベルトを外し、立ち上がった。

アスランは片手でハンドルを握りながらも、助手席のカガリの身体が車のスピードに流されないよう、しっかりと支え、抱きとめる。

「…オイルタンクは狙うな…引火すると元もこうもないからな。…海と反対側…右側のタイヤを狙え。そうすればバーストして車が回転して上手くいけばスピードを緩めるか、止まるしかなくなる。次のカーブを過ぎた直線がチャンスだ。…一度きりだが…いけるな?」

 

 

下手をしたら銃を撃った衝撃で、カガリの身体が流され危険に晒されるかもしれない。

それでもあえてアスランはカガリに託した。

 

―――信じているから―――

 

アスランからの助言にカガリはコクンと頷くと、身をアスランに預けながら、スピードに負けないように両足に力を入れ、狙いを定める。

 

ゆるいカーブが終り、見通しのよい直線に入ったその瞬間―――

 

「今だ! カガリ!」

 

カガリは迷うことなくトリガーを弾いた。

その瞬間、カガリの身体が衝撃で泳がされそうになる。

だが、次の瞬間アスランは右手でしっかりとカガリの身体を引き寄せると、カガリはアスランの胸に倒れこんだ。

 

男たちの車―――は、右タイヤを見事に打ち抜かれ、スピンするようにして、道路わきの山肌に激突した。

 

カガリとアスランは車から飛び降りると、二人揃って男たちに銃を向けた。

 

「ひぃぃぃぃ!」

男の一人が悲鳴を挙げる。

「ゆ、許してください!…あんたたちが、随分景気良く買い物してたんで、つい…」

 

「それで子ども達のおもちゃを盗んだのか!?」

カガリの荒げる声に、男たちは顔を見合わせる。

「お、おもちゃ!?」

「おもちゃだといってバカにするな! これには大事な宝物が―――何よりも大事な夢が詰まってるんだぞ!」

 

男たちに銃を突きつけながら、怒り心頭のカガリの横で、アスランは冷静に警察に連絡をした。

「…えぇ…窃盗犯はこちらで今、捕らえました。盗まれたものは『おもちゃ』…そうです。クリスマスのね。…大丈夫ですよ。こちらにはプレゼントを届ける『赤鼻のトナカイ』じゃなく、『鉛の牙を持ったトナカイ』が窃盗犯を懲らしめてますから…」

 

 

*        *        *

 

 

「あらあら…それはサンタさん方も、ご災難でしたわね。」

一部始終を聞いたラクスが、可笑しそうに呟いた。

「災難だったさ…こっちは、内緒でプレゼント持って行って、サンタクロースになって、夜、子供たちが寝たら、ヒッソリと枕もとにプレゼント置いて行くつもりだったのに…」

悔しそうにカガリが呟く。

 

それもそのはず。窃盗犯の車がバーストした際、スリップし、カガリお手製の『白い袋』が山肌にぶつかって破れてしまったのだ。

幸いにも、プレゼントが壊れたりしなかったのが、唯一の救いだったのだが……

お陰で、袋に隠しておくはずだったプレゼントは、剥き出しのまま、ヘリに積んでマルキオ邸にまで運ぶ事になってしまったのだ。

 

マルキオ邸にアスランとカガリがつくと、子ども達がこぞってプレゼントに群がった。

「カガリー、この熊さんのぬいぐるみ、欲しかったのー! ありがとう!!」

「こっちのミニカーだって、カッコいいんだぞ!」

「この絵本、ありがとう! アレックス!」

「このお人形、可愛い! よかったー!!」

 

嬉しそうな子ども達の顔に、ラクスがそっとカガリに呟く。

「でも、こうして皆あんなに喜んでくださっているんですもの。素敵なクリスマスになったと思いますわ…。」

ラクスの言葉に、カガリもまんざらでもない気分で「そうだな…そうだよな。」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

「しかし、君も色々と考え付くね。アスラン。」

子ども達の様子を遠巻きに見ながら、キラがそっとアスランに言った。

「…気付いてたのか…?」

「君から此処にメールが届いた時にね…何となくだけど。」

 

 

そう、初めから孤児院からカガリ達への誘いなど無かった。

ラクスが呼んだ、といったが、それはアスランがラクスを通じてマルキオ導師に『慰問』

の願いを申し出たからだった。

 

 

―――『クリスマスの日だけ…カガリを普通の女の子にさせてあげたい』

 

 

それにはマルキオ導師の家で、子どもたちと接している時

その時の彼女は「一国の代表首長の顔」をしない。

 

自然なままのカガリでいられる

子ども達とはしゃぐ、笑い声…溢れる自然なままの笑顔

 

だから―――

 

言葉にはしない、アスランの「願い」

 

 

だが、導師を始め、キラもラクスもその申し出を、喜んで受けた。

子ども達とはしゃぎ、笑いあうカガリを見て、キラとアスランはどちらとも無く微笑んだ。

 

 

*        *        *

 

 

夕食のパーティーも終り、子ども達がそれぞれのベッドに、お気に入りのプレゼントを並べて寝入った頃、カガリはアスランとマルキオ邸の前の砂浜を歩いていた。

 

「今日はとんでも無い事になったけど、ありがとな! アスラン! お陰で楽しかったよ。」

生き生きと、金の瞳をアスランに向けカガリは話す。

「い、いや、俺のほうこそ…」

カガリからの言葉に、一瞬本当の目的を悟られたんじゃないかと思い、アスランは思わず視線を逸らしかけた、その時

 

あーーーーっ!!

 

カガリのいきなりの大声。

「ど、どうしたんだ? カガリ!?」

アスランが慌ててカガリを見ると、急に寂しそうな顔のカガリが、モジモジと言いづらそうに、翡翠の瞳を見つめた。

「…お前のためのプレゼント…買うの忘れてた…。」

 

呆気にとられるアスランに、カガリはシュンとなりながら呟く。

「お前は私のために休日返上で付き合ってくれたのに…。プレゼント選ぶのも凄く楽しくて・・・。お前にはいっつも世話になってるから、ちゃんとプレゼント用意したかったのにな…。」

 

「カガリ…」

アスランの翡翠の瞳が金の瞳を覗きこむ。

「本当に『今日は楽しかった』か?」

「当たり前だろ! だからそういって―――」

 

言いかけたカガリの唇に、アスランはそっと唇を重ねた。

 

一瞬見開いた金の瞳が静かに閉じると、アスランはもう一度唇を重ねる―――

 

 

暫くして唇が離れると、顔を赤らめたカガリにそっとアスランは囁きかけた。

 

「今日一日が楽しかったなら、俺へのプレゼントはこれで充分だよ。…『メリークリスマス』…カガリ。」

「…『メリークリスマス』…アスラン…」

 

そっとアスランがカガリの肩を抱くと、カガリは嬉しそうにアスランに寄り添った。

 

 

    

 

 

 

 

本当はね、カガリ。

    

俺にとっての最高のプレゼントは

    君のその笑顔だけじゃないんだ…

    

    俺の…君に秘密の目的―――

 

今日一日、プレゼントを買いに行くときから始まっているんだ

    

真剣に、でも楽しそうにプレゼントを選ぶ君の顔は

    その時にしか見られないから…

    きっと誰も見たことのない、カガリを見られたこと

    

    他の護衛も…誰にも邪魔されない

カガリとの…二人だけの『デート』

 

それが何よりの、俺自身へのプレゼント―――

 

    ちょっとアクシデントはあったけど、

    君となら乗り越えられると信じていたから

 

 

    でも君は気がつかない

 

    だから、キスしたことは

「最高の笑顔」と「二人だけの時間」に加えて

3つもプレゼントを貰う事になって、ちょっとズルかったけど

 

これは俺だけの秘密にしておいていいだろ?

 

 

なぁ、カガリ・・・

 

 

 

 

                     〜☆ For Happy X’mas ☆〜

 

 

『香港土産クイズ』正解者の「はやてさん」からのリクエストで、「クリスマスなんだけれど

 アクションな2人を書いてください!」と言うことで、こんな話になってしまいました。

 アクション描写とクリスマス―――何となくかみ合っていたでしょうか?

 最後はもっとラブラブを上手く書ければよかったんですけどね…。

 「はやてさん」リクありがとうございます。こんなですけれど宜しかったでしょうか??

 宜しければ、受け取ってやって下さいm(__)m