Dragon Queen 〜第6話〜
「今日の公務は、これで終わりか?」
篝が官吏に尋ねると、官吏も笑顔で答えた。
「はい。終わりでございます。…篝様はお仕事がお早くて…。」
「そうか? でもそれは皆の支えがあってこそだ。ありがとな。」
そういって、篝がねぎらうと、官吏は嬉しそうに続けた。
「先日の西国の飢饉に対するご処置も、大変素晴らしいものだったと、西国の民達より感謝の言葉が届いております。」
「そうか…よかった。」
西日の差し込む窓に、篝は身体を乗り出し、美しく沈む夕焼けを見ながら微笑んだ。
「さて、部屋に戻るか。」
“よいしょ”と掛け声を掛けながら、部屋を出ると、一人の男が恭しげに頭を下げていた。
「…お前は?」
「…私は宇奈都様にお使えしている者でありますが、宇奈都様より、「篝様を、今宵、是非屋敷にお招きしたい。」とご伝言を承りまして…」
男の言葉に、篝は眉をひそめ、男に言った。
「いいたい事があるなら、王宮に出向いて話せばいいだろう?」
そう伝え、去ろうとする篝に、尚も男は縋った。
「…何でも『先代の王』から受け継がれていた物があり、篝様が成長したあかつきには、それをお渡しする――との事で…」
「『お父様』が!?」
篝は男が用意した牛車に乗り、宇奈都親子らの住まう、『政蘭』家の屋敷へと向かった。
* * *
『政蘭』家では、入り口に女中達が並んで、礼をとっていた。
「あぁ…そんな構わないでいい。それよりも宇奈都は―――」
「こちらでございます。」
篝の言葉に、一人の女中が案内し、篝を先導した。
一つの大きな両手開きの扉の前に立つと、女中は扉に向かって、「篝様がお見えになりました。」と伝えた。
すると、奥から男の声が聞こえる。
「…どうぞ…」
女中が礼を取りながら、扉を開けると、篝は部屋に足を踏み入れた。
すると扉は<バタン!>と強い音と共に閉じられ、外から<カチャッ>という鍵の閉まるような音が聞こえた。
篝の目の前には…大きな作り置きの棚に並んだ酒…毛皮張りの長椅子…そして…『天蓋つき』の大きな『寝台』
正直、『父から受け継ぐ物』を渡されるには、あまりに場違いだ。
「宇奈都…こんなところに私を呼び出して…『お父様から託されたもの』とは、何だ?」
「…それは『僕』だよ…篝♪」
篝は思いがけない声に驚く。
そこにいたのは―――由宇奈
「何をふざけているんだ! 由宇奈! 私は宇奈都に託されたという、お父様の―――」
「ふざけてなんていないさ。…篝。…君の父君が亡くなる際、「君は僕と婚約させ、将来は僕の『花嫁』になって、僕と一緒にこの『大府』を治める」――ということになっているんだよ。」
篝は愕然とする。
「…そんな…私は…そんなこと、聞いていない―――」
「君はまだ小さかったから、意味が解らなかったんだよ。」
篝を遮り、由宇奈は続ける。
「この『大府』の王家の中でも、君と年齢も近いのは僕だけだし…みんなに聞いてごらん? 皆『そうだ』というから…」
篝は頭の中が真っ白になる。
(私は…騙されたのか!?)
立ち尽くす篝の腕を、由宇奈は勢いよく引っ張り、寝台の上に篝を無理やり仰向けに押さえつける。
「おいっ!! 何するんだ!? 由宇奈!!」
篝の叫び声に、由宇奈は余裕の表情で答える。
「決まっているだろう? 婚約している者同士なら、誰も止めることはない。さっき念のため、鍵は掛けさせたけど…君はそこまで解らないほど『お子様』じゃないだろう?」
そう言って、由宇奈は篝の腕を押さえつけると、篝の首筋に唇を寄せる。
「何をするっ!! 離せっ!! 誰かぁぁぁーーーっ!!」
「…ふん…君も結構強情っぱりだね。…でも、どんなにわめいても、誰も助けになんか来ないよ。…それとも…」
由宇奈は篝の耳元に唇を寄せ、囁くように言う。
「…この前みたいに、君を守ってくれたって言う噂の『蒼い竜』君でも、助けに来てくれると思った?」
篝の瞳が一瞬大きく見開く。
だが由宇奈は余裕たっぷりの声で、篝に尚も囁く。
「でも残念だね〜。…この屋敷中に、一流の呪術師の作った『結界の札』が貼られているから、幾ら神竜でも助けになんか、入って来られないよ…。」
そう言って由宇奈は篝の涙が零れる金の瞳に唇を当て、その涙を舐める。
その嫌悪感に、篝は必死でもがき、首を伸ばして由宇奈の手をかじる。
「―――っ!! この小娘がぁ! 人が下手に出てりゃ、いい気になって!!」
篝の頬を<パシッ>と叩くと、篝の着ている服に手を掛け、帯を解き、衣の中の襦袢を引き裂くように脱がしていく。
次第に露になる白い首筋…外からは解らないほどに豊な胸元の膨らみ―――
そこに雄の本能のまま、むしゃぶりつこうとする由宇奈―――
篝は涙をこぼし、足掻きながら、只々叫んだ。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
その時、篝の額から『蒼い勾玉』が浮かび上がると、青白い光が篝を包み、由宇奈を弾き飛ばした。
「うわぁっ!」
思い切り背中を壁に打ち付けられたが、由宇奈は自分に何が起きたか解らない。
目の前の寝台には、豊かな胸を破れた服で隠すようにして、篝が震えている。
「篝ぃぃぃぃっ! お前! 僕に何をしたぁ!?」
由宇奈は、またも猛然と篝に襲い掛かる。
そこに―――
<ガシャン!>
部屋の窓ガラスが割れる音。
「な、何だ!?」
寝台に迫っていた由宇奈の目に映ったのは―――
全身の青玉のような鱗を逆立て、怒りに牙を剥く―――『蒼竜』
『蒼竜』は、横目で寝台の上の篝を見る。
そこには―――はだけた衣で必死に身体を隠し、脹れた頬につたう、金の瞳から涙を零す篝の姿――
『グワァァァァァーーーッ(お前っ!! 篝に何をしたぁーーーっ!?)』
『逆鱗』にでも触れたような勢いで、由宇奈に迫る『蒼竜』
由宇奈は腰を抜かしながら、ヒィヒィと後ずさり、壁にぶつかると、その場で情けない声をあげた。
「そ、そんなはずっ!?…だ、だって…や、屋敷中に、結界を―――」
『グゥォォォォー―――ッ(あの程度の結界で、俺の力を封じれると思ったか!?)』
由宇奈は、全身を震え上がらせながら、懸命に弁明を試みる。
「ぼ…僕は…そのっ…か…篝の許婚として…彼女を…」
それだけ聞くと、『蒼竜』は怒りに満ちた翡翠の瞳で、由宇奈を見据え、
『グォォォォォーーーッ!(お前は…篝の身も心も傷つけようとした、お前だけは許さないっ!!)』
と地が響くほどの雄叫びを上げ、水の玉を身体に集めると、それを『氷の刃』に変化させ、一気に由宇奈めがけて撃ち出した。
「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」
氷の刃は由宇奈の身体ギリギリを通り、時折由宇奈の皮膚を切り裂きながらも急所をはずし、壁に突き刺さっていった。
既に由宇奈は気を失いかけている。
「止めてくれ!『蒼竜』! もう十分だ! 私は大丈夫だから!!」
寝台の上から、篝が叫ぶ。
「…お前の『気持ち』…『声』が聞こえたから…私は…それだけで嬉しかったから…」
涙を零しながらも訴える篝に、『蒼竜』は視線を篝に向けると、
『グルルルル…(俺の背に乗って。篝…)』
『蒼竜』の『声』に頷くと、篝は『蒼竜』の背に、解けた帯を軽く結び直し、肌蹴た胸元を隠しながら乗った。
「由宇奈様!? どうされました!?」
荒れた部屋に、『政蘭』家の家臣が集まる頃、篝と『蒼竜』は天高く飛び去っていった。
* * *
『蒼竜』の背に乗る篝。
何かふと懐かしさを感じる。
(…何だろう…以前にもこんな風に、夜空を飛んだ気がする…それにこの『声』も『匂い』も…)
やがて、ハッと気付いたように、篝は『蒼竜』の背から、その顔を見つめた。
(―――『蒼竜』・・・お前・・・)
・・・to be Continued.
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>いよいよ『ユウナの魔の手』が、カガリたんに迫りました!!
かずりん様に挿絵を戴いた時、「きゃぁぁぁ!! (私の)姫がぁぁっ!!」と、自分が書いたにも拘らず、『本気』で焦りました(笑:それだけ、かずりん様
の絵は素敵なのです。)
でも、おいしい所は当然、『アスラン』が持っていきました^^;(…でなきゃ話にならんから…)
かずりん様ともお話したのですが、とりあえず、書いていて『ユウナ』は動かすのが楽しかったです(笑)。
「やたらと強気」と思えば、実はえらい『ヘタレっぷり』と、「お決まりキャラ」なので、もっと苛めてやりたくなりました(笑)
さて…無事(!?)姫を救出したアスラン…
この先、カガリとアスランはどうなるのか――!?
それはまた次回でv(伸ばす伸ばす(笑)♪)