Dragon Queen 〜第3話〜
「篝!!篝っ!!」
アスランが篝の上半身を抱え、背を摩りながら声を掛けるが、篝の顔からみるみる血の気が失せ、喘ぎも早く苦しげで、意識が薄れていくようだった。
(―――仕方ない!)
アスランは篝カガリを背負うと、篝に声を掛ける。
「篝、解るか?…しっかり捕まっているんだぞ!」
苦しげな篝からの返答はない。・・・只、アスランにはその背に、小さな頷きを感じた。
アスランは『蒼竜』に変化した。
正直、こうした変化も『人間の前では、巫女以外、してはならない』という掟があったが、普段冷静なアスランでさえも、それを忘れるほど、篝を救うことにのみ、意識が集中していた。
『蒼竜』は、そのまま飛び立ち、懸命に篝の家を探した。
(何か・・・きっかけになるようなものがあれば・・・)
そうして篝との会話を反芻する。
―――「・・・私も『りきゅう』から出ちゃダメだって・・・」
(『りきゅう』?・・・『離宮』か・・・?)
篝の着ている着物、今さっき運んできてくれた『重箱』―――それから考えると、かなり高貴な家柄と思うが、『離宮』といえば、『大府』の宮殿のはずれにある王家の一族が住まう『離宮』しか考えられない―――。
『蒼竜』は『大府』の離宮のある『小野頃』近くに向かうと、案の定、松明を持った兵士や女官があちこちで篝の名を叫んでいる。
「篝様――!」
「どちらにおわしますかぁー!!篝様ぁー――!」
『蒼竜』は人気の少ない町外れに、うっすらと霧を吐き出すと、その中に『竜』の身を隠し、人の姿の『アスラン』へと変わった。そして背中のカガリを抱きながら、離宮に近づく。
「・・・あっ!? あれはーーー!」
「!! 篝様!!」
アスランを見た兵士や女官が集まると、兵士の一人が、アスランに剣先を向け、詰問する。
「貴様! 何処の何者だ!! 篝様をいかにした!?」
アスランは翡翠の瞳を真っ直ぐ向け、兵士らを見つめると、冷静な声で話した。
「彼女はこの先の『町外れ』で、苦しそうに倒れていた。・・・名を尋ねたら「篝。」と答えた為、こちらの離宮にお連れした。」
アスランがそういって、女官の一人に、篝を渡す。
「それはそれは・・・申し訳ありません。・・・私は姫様の乳母で『マーナ』と申します。・・・この度はとんだご迷惑を―――」
そういって、離宮に戻ろうとする一団に、アスランは声を掛けた。
「彼女は―――!」
兵士や女官たちが振り向く。
「彼女は・・・どこか身体が悪いのですか・・・?」
アスランの言葉に、『乳母』は静かに答えた。
「・・・それは、あなた様には関係のないことでございます。」
そういって、アスランの目の前で、離宮の重い扉が<バタン!>と勢いよく閉められた。
* * *
その後・・・湖の『神宮』に、あの小さく愛らしい『金の髪と瞳』を持つ少女は現れなかった。
だが、アスランは自分でも気がつかないうちに、あの少女の声が聞こえないか、『神宮』の窓や扉を開け放つ・・・
―――あの幼い身体全身で、懸命に声を出して『俺の名』を呼び、無垢な笑顔を見せる少女
(・・・何やってるんだ・・・俺は・・・今まで通り、この結界の中で『大府』を守護すればいい・・・それだけのはず・・・)
一瞬、あの時の『紅竜』を思い出す。
『人間界』と繋がれば、親しい者や愛しい者に触れる可能性がある―――
そうなってしまうと、己が役目を忘れ、感情に走ってしまう危険もあるというのに・・・。
窓辺で一人静かに、心を抑えようとするアスラン。
だがその耳に、忘れがたい声が聞こえてきた。
「お〜〜い! アスラァーーーーーン!」
(―――まさか!?)
慌てて外に飛び出すと、湖畔にはまごうことなき、金の瞳の少女の姿。
「篝っ!」
アスランは息を切らせて湖畔に向かった。
「篝!大丈夫なのか!? 身体は!?」
アスランの不安げな表情に、一瞬キョトンとすると、篝はいつもの笑顔で答えた。
「大丈夫だ! それより、お前のほうが、顔色悪いぞ!」
篝は、安堵に力が抜け、その場にしゃがんだアスランの頭を、ニコニコしながら「よしよし。」と撫ぜる。
アスランは一息つくと、篝の小さい身体を抱きしめた。
「何だ?お前。私がいなくて淋しかったのか?」
抱き寄せられた篝は耳元で囁くと、アスランは顔を上げ、「あぁ・・・」と答えた。
「篝が急に倒れて・・・そのままいなくなるんじゃないかと思って・・・」
(・・・何でこんなこと言うんだ!? 俺は―――)
アスラン自身でさえ信じられない程、自然と発したその声に、篝は無垢な笑顔でアスランの顔を見つめ、答える。
「それじゃあ、私が『遠いお国』へ行っちゃったら、お前、泣いちゃうんじゃないか?ダメだぞ!男の子がそんなに簡単に泣いちゃ!」
「遠い・・・国・・・?」
アスランは篝の言葉に躓く。
だが篝は、何でもないように、金の大きな瞳を見開いて、嬉しそうに話し出した。
「うん! 『もうすぐ篝は、お父様とお母様がいらっしゃる、遠い遠いお国に行くんだよ』って宇奈都叔父様が言ってたんだ! 私、もうすぐお迎えが来てくれるっていうから、何時来るか判らないから、アスランに『お友達になってくれてありがとう』って言おうと思って―――後、今まで遊んでくれたお礼に、『これ』あげようと思って・・・」
篝はそう言って、アスランの瞳と同じ色の『翡翠』の指輪を差し出す。
アスランは指輪を受け取りながらも、カガリの言葉を反芻する。
―――『遠い』・・・『国』・・・
(確か旧国王も妃も篝が生まれてまもなく亡くなったはず・・・ということは・・・彼女は・・・!?)
アスランは篝の額の髪をかきあげると、
「篝・・・ちょっとだけ、目を瞑っていてくれるか?」
篝はキョトンとしながらも、「うん。」と答え、目を瞑る。
―――『竜眼』!―――
アスランは篝の運命を先読みする。
だが・・・その先に見えるものは、彼女の寝台の天蓋が一瞬映ると、直ぐに消えた。
―――『篝』!!
アスランの目には、篝の『未来』が見えなかった・・・。
(彼女は・・・このままだと・・・『死ぬ!?』)
昨夜の女官たちの慌てぶりと、篝の倒れた時の様子から、アスランはそう判断した。
その瞬間、アスランの中に、重く圧し掛かる雲間に、一点の光が差し込んだ。
―――彼女は・・・「死なせてはならない!!」・・・「死なせたくない!!」
何故か判らないまま、不思議と湧き上がる想い―――
「・・・もういいか? アスラン。」
目を閉じたままの篝が声を掛ける。
アスランは自分の中の迷いのない気持ちに従った。
「篝・・・もうちょっと待っていて。」
「・・・うん・・・」
そういうカガリの額にアスランは唇を寄せると、小さな呪文を唱えた。
―――『神竜』が、『たった一度』しか使えない、『禁断』でもあり『必要』でもある呪文
「―――その娘・・・『我が『蒼竜』の名に掛けて、共に在ることを必須とする『巫女』の誓いに従わんことを』・・・」
アスランが篝の額に口付けると、篝の額に青玉の光を放つ勾玉ができ、そのまま篝の額の中に吸い込まれるようにして、消え入った。
「・・・もういいよ・・・篝。」
金の大きな瞳を開き、篝は額のあたりを不思議そうに触る。
「もう、篝、『遠くの国』のお迎え、きっと来なくなっちゃったから、これ返すよ。」
「何で? 『お父様とお母様のいるお国』にいけなくなっちゃったの?」
涙ぐむ篝に、アスランは笑顔で答える。
「大丈夫。会えるのはもっとずっとずっと後になるかもしれないけど、それまでは篝には俺がついていてあげるから・・・それとも俺じゃダメか?」
優しく覗き込む翡翠の瞳に、篝は僅かに笑顔を見せ、首を振りながら「ううん。」と答える。
「だからこれ・・・篝の『大事なもの』なんだろ? 篝が持っていなきゃ・・・。」
そう言ってアスランは翡翠の指輪を差し出すが、篝は首を振ってアスランに押し付ける。
「じゃあ、『友達』の『印』だ!ちゃんと持ってろよ!」
今度は笑顔を見せて言う篝に、アスランは笑顔を向け頷いた。
「じゃぁ、また来るな! アスラン!!」
笑顔で走り去る篝に笑顔で手を振ると、踵を返したアスランは、自分が今『行なった行為』に急に不安と焦りを覚えた。
・・・to be Continued.
=======================================================
>カガリたんの命を救うため、ついに『蒼竜の巫女』にしてしまったアスラン―――
普段冷静で、四神竜の中でもリーダー的存在……な『設定』のはずだったのに…
…『暴走』しちゃったよ…「ホンとにリーダーなのか!?お前!?」(←と、書いた自分に突っ込んでみる(-_-;)
この後、二人に待ち受ける運命は―――!?
・・・過剰期待しないでお待ちくださいm(__)m
(オマケ→この第3話の挿絵を「かずりん様」とお話したとき、かずりん様「『乙女フィルター全開』で行かせていただきます!」に、Nami「もう、『胸キュンキュンv』にしちゃってください! ザラがカガリたんに『メロメロキュンキュン♪』で!
…かくして第3話のテーマは『乙女フィルターvメロメロキュンキュンvv』となりました(笑)
「・・・笑ってくれていいのだよ(by議長)」
…の前に、ウチラは『乙女』という歳じゃないだろう…(詐欺だ詐欺^^;))