Dragon  Queen 〜第1話〜

 

 

 

―――それは、昔々の『お話』です。

 

   この地は花が咲き乱れ、人も動物も、それはそれは仲良く幸せに暮しておりました。

 

   ところがです…

 

   ある時、『災い』をもたらすという、『暗黒の竜』が現れ、幸せだったこの国を、メチャメチャに 壊そうとしていました。

   人々は笑顔を失い、美しかった花も枯れはて、悲しみと苦しみの地となってしまったのです。

   

         
   しかし、一人の巫女が懸命に『神』に祈りました。

   
   

    

   『どうか、この地をお救いください―――私の命と引き換えに…』

 

   
    

   巫女の祈りは天へと通じ、『暗黒の竜』を倒すべく、眩しく輝くような『黄金色の竜』を、『神』は『巫女の魂』と引き変えに
   お使いにくださりました。

   

それから何百年という長い長い時間、『黄金色の竜』と、『暗黒の竜』は戦い続け、そして『暗黒の竜』は、『黄金色の竜』の力
   によってこの地に封印されたのです。

   

しかし、『黄金色の竜』も力を使い果たし、この地でお倒れになってしまったのです。

  

   『黄金色の竜』は、最後に人々にこう告げたのです。

 

   ―――『封印』は消して破るべからず…

そして、もしもに備え、我が魂を四方に砕き、この国を守るべく、『四神竜』を守護に使わす…

 

   そうして『黄金色の竜』の身体が消え入ると、四つの珠が四方に散り、今でもこの国を『守護』してくださる『神』として、
   奉られているのです。

   

   そして、この王宮には、二度と『暗黒の竜』が、目覚めないように、王宮の『誰も入ることの出来ない地下』に封印されているのです―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで『おしまい』なのか?」

天蓋つきの寝台で、上掛けの布団をかけながら、横になっていた少女が、金の瞳をパチクリさせて、隣で語っていた乳母(マーナ)に尋ねた。

乳母(マーナ)は困ったように苦笑しながらも、その寝台に寝ている少女に話し掛けた。

「…申し訳ありません。でも姫様、これ以上お時間が過ぎますと、姫様のお身体に障りますから、どうぞお休みになられてくださいな。」

 

「つまんなーい!」

少女が不満を言うと、乳母(マーナ)は少し困りながらも、少女の胸を優しく『ポンポン』と叩きながら、子守り歌を歌い始めた。

 

それに導かれるように、安心して目を閉じると、やがて少女はスースーと、小さな寝息をたて始めた。

 

乳母(マーナ)が静かにその場を離れると、夜も更け始めた王宮に人が集まり、何やら騒がしく落ち着かない様子に、乳母(マーナ)は声をかけた。

「一体どうなさったのです!? このように騒がしいと、折角お休みになられた姫様のお身体に障りますよ!」

 

しかし、その中の一人の官吏が声を荒げて答えた。

「それどころじゃない! 今、国の南方の街で、火の手が上がり、それを収めるのに必死なのだ!」

「まぁまぁ!」

流石の乳母(マーナ)も口に手を当て、驚く。

「一体、何故その様な事が――」

言葉を遮るように、官吏の一人が苦しそうに答えた。

「わからん!…だが街人の話ではこう言っていた―――誰かが『紅竜』様の『逆鱗(げきりん)』に触れたと…」

苦渋に満ちた表情で、官吏が答える。

「摂政の宇奈都(うなと)様より、早く怒りを静めるよう、「『生贄』を差し出せ。」とのおふれだが、簡単に出せるはずも無い…。」

「こんな時に『巫女』様がいてくださったら…」

別の官吏が呟く。

「『竜』との誓いを果たし、その『逆鱗』をおさえることが出来るのは、『巫女』以外に我らには手だてが無い…。だが、『紅竜』様は『巫女』をお選びしていない…。後は他の『四神竜』様方が、抑えて下されるのなら…それに縋るしか…。」

 

王宮の中は、只、成り行きを見守ることと、少しでも街から人々を救い出す手立てにのみ、奔走していた…。

 

 

 

*        *        *

 

 

 

人々が慌てて逃げ惑う―――『大府(オーブ)』の首都『小野(オノ)(ゴロ)』から、南に下った街は、炎に包まれていた。

そして、その炎の中に揺らめくようにして見え隠れする、大きな影――

 

『グォォォォォォ―――っ!!』

 

まるで地の底から響き渡るような鳴き声と共に、容赦なくあちこちに炎を放つ、真っ赤な鱗と紅蓮の瞳を持つ―――『竜』

 

真っ赤な竜は『雄叫び』と共に、天に地に向かって炎を吐き出す。

 

そこに強い風と共に、同じような姿の『竜』が、西の空から舞い降りる。

その姿は真っ赤な鱗を持つ竜と似ているが、その身体を取り巻く鱗は『真珠』のように『真っ白』に輝いている。

その――『白竜』は『赤い竜』に立ち向かうと、赤い竜の身体を押さえつけるように、その巨大な身体を巻きつける。

 

『グォォォォ―――っ(いい加減にしろ!『紅竜(シン)』!)』

 

だが『紅竜(シン)』は身体を捩りながら、『白竜』の締め付けを解こうと、余計に暴れる。

 

『紅竜』が更に大きな炎で、『白竜』の身体に向かって、炎を吐きだそうとした、その時――

 

『グァォォォォォォー――ッ!』

同じように唸り声が東の空から響いたかと思うと、瞬間『紅竜』に、焼ける街に『水』を吐き出し、炎を諌める―――まるで青玉(サファイヤ)の如く、美しい蒼い鱗をもつ――蒼い竜が現れる。

 

『―――貴様ぁっ! 遅いぞ!『蒼竜(アスラン)』!』

 

『白竜』が懸命に『紅竜』の身体を抑えながら叫ぶと、『蒼竜』もそれに答える。

 

『すまない! 『白竜(イザーク)』――』

『いいから、コイツに少しでもお前の力――『水を操る力』で、頭を冷やしてやれ! 俺の『風の力』じゃ、かえって炎を巻き上げて、逆効果だ!』

 

白竜(イザーク)』の言葉に頷くと、『蒼竜(アスラン)』は『紅竜(シン)』に向かって、うねる様な水流を吐き出しながら、その身体を諌める。

 

『もうやめろ!『紅竜(シン)』! この国を守護するはずのお前が、この国を襲ってどうする!?

 それでもお前は、この『南方』を預かる『四神竜』の一人か!?』

 

 

蒼竜(アスラン)』の言葉が僅かに耳に入ったのか、『紅竜(シン)』は僅かに落ち着きを取り戻す。

 

白竜(イザーク)』が僅かに身体の締め付けを緩める。

 

 

と、その瞬間

 

 

『グアァァァァァ!!(何言ってるんだ! アンタ達は!!)』

 

紅竜(シン)』は『白竜(イザーク)』を振りほどくと、猛烈に『蒼竜(アスラン)』に向かい、その身体に牙を立てた。

 

『グゥッ!!』

噛み付かれた後から鮮血が、流れ落ちる。

 

だが『蒼竜(アスラン)』は怯むことなく、『紅竜(シン)』に水流を吐き出すと、その圧力で、『紅竜(シン)』の身体が地面に叩き付けられる。

 

それから数時間――この3頭の争いが続き、『紅竜(シン)』が力尽きる頃には、朝日が昇り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力尽きた『紅竜(シン)』は、『竜』の身体から、『人間と同様の身体』にその身体を変化させて、眠りに落ちていた。

 

上空から、『紅竜』――『シン』を見下ろした2頭の竜は、シンと同じようにその身を変化させ、その傍らに下り立った。

 

真っ直ぐ伸びた、白くサラリとした髪に、冷たい氷のような、青みがかった瞳の青年が話し始める。

「全く…コイツは…一体何があって、あんなに暴れ出したんだ!?」

そう吐き捨てるのは――『白竜』――『イザーク』

「…『シン』は確かに聞き分けのないところもあるが…理由もなしに、あんな暴れ方をするようなヤツじゃない…。」

『イザーク』の言葉に答えるのは――肩口まで濃紺の髪をした、翡翠の瞳の青年――『蒼竜』―――『アスラン』

 

2人は黙って、黒髪の少年――『シン』を、彼の『神宮』まで運ぶ。

『神宮』――『神』たる者の住まう場所―――

此処には同格の『神竜』か、同じ力に匹敵する『力を持つもの』か…あるいは『神竜』が認めた『巫女』――のみしか入れない、『結界』がはってあり、人間はおいそれと近づけない。

 

イザークは呆れ果てたように、『シン』の寝顔を見ながら言った。

「コイツ…人間界に下りて、何を暴れ出したんだ!? 」

 

「…もしかしたら…『巫女』を探していたのかも知れない…」

アスランが答える。

 

「何だと!? この若造がそんな事を―――」

「…いや…『シン』は、こう見えて『寂しがりや』だからな…『国』という大きな広さの漠然とした物でなく、たった一人――『大事な人』を守りたいのかも知れない…。」

イザークの言葉を遮り、アスランはポツリと話す。

 

「フンッ! その為にわざわざ『結界』を破り、他竜(たにん)の『納める領海』を侵してまで、毎回止めに走らなければならんのなら、俺は降りるぞ!」

イザークはそっぽを向く。

 

その横顔は確かに呆れていそうだが、こう見えて仲間思いの強いイザークだ。確かにシンの持つ『炎を操る力』では、イザークの『風を操る力』は逆に人間界の被害を大きくするだろうが…そう言いながらも、真っ先に止めるに違いない。

 

アスランは僅かに苦笑すると、直ぐに真剣な顔で疑問を投げかける。

「シン…もしかしたら、誰かに『逆鱗』を触れられたんじゃないか…?」

 

 

『逆鱗』――『竜』達の背中に、人の姿になっても残ってしまう、唯一の『鱗』―――

それに触れると、竜達は我を忘れ、その力を暴走させてしまう。

それに触れる事が出来るのは――同じ『竜』の力を持つものか、あるいは…『巫女』…

 

 

「だからそれがどうした!? 簡単に『逆鱗』を触れさせるような隙をみせる若造に、『巫女』探しなど、百年以上早いわ!」

イザークの言葉に、アスランはまた苦笑する。

 

その時

 

「…っ!」

 

アスランは胸を押さえる。

 

「どうした?」

イザークが尋ねると、アスランは首を振り、「何でもない…。」とだけ答えた。

 

 

*       *       *

 

 

アスランは国の東へ。イザークは西へ、と、それぞれの『守護』する結界内に戻った。

 

アスランは竜の姿から、人の姿に身を変えると、湖のほとりに建てられた、『神宮』に向かおうとした。

 

だが――

 

「…クッ!!」

 

また胸に鋭い痛みが走り、そこを押さえるようにしながら、その場に倒れこむ。

 

押さえた手には――おびただしい鮮血がついていた。

 

(…そうか…昨日…シンに噛み付かれて…)

 

身体をそっとまさぐると、胸だけではなく、首筋や背中にも、出血が続いていた。

 

(治癒の力も持てないほど…力を消費している…何とか…神宮に戻って…休めれば…)

 

そう思いながら、ヨタヨタと歩き始めるアスラン。

 

だが目の前が暗くなり、アスランはその場にパタリと倒れた。

 

 

 

 

 

 

・・・意識が戻らないアスランには、小さな影が近づいてきた事を、察知する力さえ残っていなかった。

 

 

 

 

 

  ・・to be Continued.

 

=======================================================

>さぁ!なんだか始まってしまいました! 恒例(!?)『Harf Moon』の『かずりん様』との、『エセ・ファンタジー』コラボ――『第4弾!』(←うそぉ〜    『第3弾』の間違いじゃないの?という方へ…『第3弾』はオフでしたのさv フッフッフッ(二マリv)

 今回はいつもの『西洋風』なファンタジ―でなく、『東洋風』に仕上げてみました。

 さて、この先、アスランに何が起きるか―――!?・・・は期待しないで(笑)

 いつもの如く(笑)、『かずりん様』の挿絵で心を癒してください_(._.)_