Dragon Queen 〜第9話〜
「もう少しだ!皆、頑張って北に向かえ!」
篝は民や兵士達に檄を飛ばす。
だが、内心不安でたまらなかった。
さっきから聞こえる地鳴りと、振動。そして―――「『蒼竜』の苦しむ声」
(―――私は・・・『巫女』なのに・・・何もできないなんて・・・)
崩れ落ちる街・・・逃げ惑う人々の悲鳴―――
篝は悔しさに打ち震えながら、涙を金の瞳に溜める。
―――所詮『物語』としてしか聞いていなかった『暗黒の竜』の存在…
それが『事実』だなんて!
「・・・政蘭親子を止められなかった、私の罪だ・・・そして『巫女』のクセに、『蒼竜』に何もしてやれないなんて・・・」
―――懸命に命を救ってくれた・・・
優しい笑みで話を聞いてくれた
気がつけば・・・何時も私を見守ってくれていた
「・・・なのに・・・私は・・・」
大きな涙の粒を零しながら、篝は自分の無力さにうちひしがれる。
荒廃していく『小野頃』を前に、篝は幼い頃、輝いて見えたこの国を思い出す。
そう―――「幼い頃」―――
―――『物語』・・・?
(――――しかし、一人の巫女が懸命に『神』に祈りました。
『どうか、この地をお救いください―――私の命と引き換えに…』)
――――もし、事実なら―――!!
「篝様っ!? どちらへ!!」
「私なら大丈夫だ! それより、皆のことを頼むぞ!」
声を掛けた護衛を後ろに、篝は『暗黒の竜』と、『蒼竜』達が戦っている様子が見える一番近くまで近づいた。
その金の瞳に映った竜達―――
圧倒的な強さの『暗黒の竜』に、叩きつけられ、苦しげな鳴き声をあげる姿
傷つき、それでも尚立ち上がり、この国を護ろうとする姿。
(―――もし、それが『伝説』であっても―――私は―――信じる!)
篝は膝まずき、両手を組むようにして、心の中から真に願った。
――――『神よ・・・本当にあなたがいるのでしたら。・・・この国を救ってください。
私の命を引き換えにしてでも!』
その時、篝の額から、蒼い勾玉が浮き出て、身体の周りに蒼い光が集まってきた。
『・・・か・・・篝・・・ダメだ・・・君は・・・逃げて・・・生きてくれ・・・』
微かに聞こえる『蒼竜』の苦しそうでありながらも、懸命に自分を想ってくれる声・・・
だが篝は止めない。
必死に祈りつづけた。
その蒼い光に、『黒い竜』がふと気づく。
『ふん・・・。面白い者がいるな・・・。あれは一体幾百年・・・いや、幾千年前だったかな?・・・ああして一人の巫女が、天に祈りをささげていたのは・・・』
『や・・・めろ・・・篝に・・・手を・・・だすのは・・・』
地面に叩きつけられたまま、身体をろくに動かせない程の痛みに耐え、それでも尚、篝の身を案じる『蒼竜』。
だが、『黒い竜』はそんな様子を楽しむかの様に、篝に向かった。
『・・・君達、『巫女』の力は、正直私にとって邪魔なのだよ・・・だから・・・消えてもらおうか・・・。』
『黒い竜』は、牙を剥き出し篝に向かって飛び立つ。
『やめろぉぉぉぉーーーーっ!!』
『蒼竜』の絶叫が響く。
だが、その翡翠の瞳に映った篝の姿―――
『黒い竜』の尾で身体を跳ね飛ばされ、そのまま硬い地面に叩き落される・・・。
そのまま壊れた人形のように、ピクリとも動かなくなった篝の額から
―――<パリン…>
蒼い勾玉が砕け散った。
と―――蒼竜の身体から、抜け落ちていく『熱い源』―――代わりに氷水を浴びせかけられたように冷たいものが走る
――――幼い身体で必死に自分の名を呼んでくれた少女
必死に作ってくれた、『お弁当』を重さに負けず運んでくれた少女
大切な『友達』といってくれた少女
「いいコだな。お前」と、恐れずに触れてくれた少女
そして―――『蒼竜』を受け入れてくれ、愛し合った少女
――――「アスラン・・・。」
あの向日葵の様に眩しい笑顔が・・・…『消えた』
『グォォォォォォォー――ッ!!(篝ィィィィーーーーーッ!!)』
『蒼竜』は身体の傷も感じないほどの怒りに震え、再び『黒い竜』を目指し飛び掛ると、その僅かに捕まえた、黒い霧の隙間の鱗に噛り付き、『黒い竜』の身を裂いた。
『グォォォッ!』
一瞬『黒い竜』の声があがる。
『蒼竜!』
『蒼竜っ!』
『蒼竜さん!』
まるで逆鱗を触れられたとき・・・いや、それ以上の怒りに満ちた瞳で、『蒼竜』は『黒い竜』に鋭い爪をたて、食らいつき、離そうとしない。
『無茶だよ!『蒼竜』!冷静になって!!』
もはや『紫竜』の声も届かないほど、『蒼竜』の激高は止まらなかった。
『まったく・・・君の見上げた精神力には感心させてもらったよ・・・だがな!』
『黒い竜』は『蒼竜』の身体を鋭い爪でつかみ、引き剥がすと、篝と幾分も離れていないところへ叩きつけた。
『蒼竜』はそれでも尚、篝の身体を護るように、篝の身体を自分の身体で包むようにしてうずくまる。
『グルルルルル・・・(・・・篝・・・俺も・・・傍にいるから・・・怖くないからな・・・)』
『・・・ほぉ〜・・・久しぶりにいいものをみせてもらった気がするよ・・・美しい『友情』・・・いや、『愛情』と言ったほうがいいかな?』
『黒い竜』は物珍しそうに二人の様子を見ると、穏やかな笑みを浮かべ、言い放った。
『だが、これで終わりにしよう!』
『黒い竜』が黒い球体の炎を吐き出そうとした。
『蒼竜ァァァァ―――ン!!』
『紫竜』の叫びと視線を苦しげに逸らす『白竜』、そして目を見開く『紅竜』。
黒い炎が2人に迫る。
―――その時
<カッ!>
闇に包まれた結界の上の空から、眩しい光が射し込み、『蒼竜』と『篝』に真っ直ぐに降り、『黒い竜』の放った炎を、一瞬にして消し去った。
『何!?』
『黒い竜』が、何かを思い出したように、光からその身を離す。
そして『蒼竜』の傷を癒しながら、まぶしい光は『篝』をふわりと上空に舞い上げ、その身体に天から眩しいほどの光の珠が、『篝』の胸に吸い込まれていく。
『―――っ!?』
それは『蒼竜』を始め、四神竜も何が起きているのかわからない、驚愕の表情で見つめる。
『篝』の身体に光の珠が吸い込まれると、『篝』の身体がまぶしい光を放ち、変化していく・・・
――――金の鬣
金の鱗
そして・・・見開いた目は―――『金の瞳』
『グォォォォォォーーーン!!』
それは紛れもない・・・全身が黄金色に輝いた『黄金の竜』―――
「・・・『金竜』様じゃ・・・」
「『金竜』様?」
街の北側で羅玖簾の結界の中で、護られていた幼い子が、呟いた老婆に聞いた。
「あぁ・・・この土地に伝わる、古い古い伝説でな・・・この大地が危機に晒された時、天から我らを助けてくださる『金の守護竜』様が現れる・・・というのだよ。」
老婆をはじめ、子供も大人も・・・民は一斉に手を合わせ、『金竜』に祈った。
『黄金の・・・竜・・・…『篝』・・・『君』は・・・』
―――『蒼竜』は過去を振り返る
この土地で見たことのない、金の瞳と髪を持つ少女
そして、湖近くの結界を、いとも簡単に越え、やって来たこと
『・・・『金竜』・・・』
―――『金竜』が・・・・・・本当の―――『篝』
『蒼竜』は―――いや、他の四神竜達でさえ、その神々しいまでの姿に、ただただ圧倒され、その場に佇んだ。
・・・to be Continued.
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>さて、『真打ち登場』―――なんと、『伝説の金竜』は、『篝』だった!?
衝撃の事実に、『蒼竜』は何を思うのか
…他の四神竜達は…そして『黒竜』との決着は!?
そして、『かずりん様』の眩いばかりの挿絵に、目がギンギンに!(美しさ&眩しさに、皆!目を焼かれるなよ!)
物語は『クライマックス』に!
―――次回、いよいよ『最終回』です!