Dragon Queen 〜第7話〜
『蒼竜』は、神宮のある湖のほとりに下り立った。
すると、篝は『蒼竜』の背中からそっと降り、『蒼竜』の背後から、そっと声をかけた。
「・・・ありがとう・・・『蒼竜』・・・」
『蒼竜』は驚いたように、一瞬身体を<ビクンッ>とさせ、恐る恐る振り向きながら、篝を見かえす。
その金の瞳は柔らかく、優しく微笑むと、『蒼竜』に向かって語り始めた。
「…さっき気が付いたんだ…随分小さかった頃を思い出したんだ…。私が倒れた時、お前は確か『巫女』以外に見せてはいけない、その竜の身体で私を救ってくれた…。ううん、それだけじゃない…いつもいつも…お前は私を助けてくれた…。確か夕餉の膳で、毒を含んだ物を口に入れようとしたとき、助けてくれた『声』も…。夜盗に襲われた時も…。それに、今も…結界を無理やり破って来てくれたんだろう?…背中の鱗が少し、傷ついていたぞ…。」
篝は、『蒼竜』の身体に触れると、優しく撫ぜながら、語り続けた。
「何時もどんな時も助けてくれて…私は、お前に何も返して上げられなくて…」
―――――違うよ・・・篝
『蒼竜』は、『一人で生き続けなければならない』…ずっと…ずっと思っていた。
(―――「『アスラン』…綺麗な名前だな。」)
『一人で生きる』ために、ずっと胸の奥に仕舞いこんで、自分の心に鍵をかけていたんだ。
(―――「なぁ。また来ていいか?」)
触れ合う事は、後で辛くなる…そう思っていたんだ…なのに、『君』は…
(―――「『お前』も『私』も友達だ!」)
なんの屈託もなく、俺の心に飛び込んで…
(―――「おーい! アスラーーーーーン!」)
俺の『名前』を呼んでくれたんだ…。
幾年月が流れて…『名』を呼んでくれる人がいる事が、こんなに嬉しくて、温かい
事だなんて…
―――――「『アスラン』…」
『君』が教えてくれたんだ・・・『篝』――――
『蒼竜』の姿から、『アスラン』に戻ると、衣服を押さえたまま、微笑み、真っ直ぐに金の瞳を向ける篝に近づき、アスランはその華奢な身体を強く抱きしめた。
「――!? あ、アスラン!?」
驚く篝にアスランは、その身体を慈しむように撫ぜながら、話しはじめた。
「…助けてもらっていたのは、俺の方だ…君が俺の名を呼でくれることが、こんなに嬉しいことだったなんて、教えてくれて…。…そして恐れないで、本当の俺を受け入れてくれて…」
そう言うと、篝は何でもないように、微笑みながら答えた。
「どんな姿でも…『アスラン』は『アスラン』だ。私の知っている『アスラン』だ…。小さい頃からずっと、私を見守ってくれていた『アスラン』だ…。ちっとも怖くなんてないぞ。」
溢れてくる『愛しい』想い―――
アスランは篝の身体をゆっくり離すと、涙を湛えた、嬉しそうな翡翠の瞳で篝を見つめる。
篝も微笑み、涙を溢れさせた大きな金の瞳を、アスランの翡翠の視線に重ねる。
「・・・愛してる・・・篝・・・」
そのまま何かに導かれるように、唇が重なる―――
やがて、アスランは篝の身体を抱き上げると、『神宮』に向かった。
そこには―――民達からの供え物以外、殆ど何もなく、今宵の満月だけがさし込む窓に照らされた『寝台』だけが置かれていた。
アスランはそっと篝の身体を寝台に横たわらせると、静かに話しはじめた。
「…篝…俺の『巫女』になってくれないか…?」
横たわったまま、篝は答える。
「…でも…私には『大府』を支えなければならないし…それに、もう私はお前の『巫女』なんだろ?」
アスランは篝の頬を撫ぜながら、穏やかに答えた。
「国を守ろうとする君を…俺も一緒に支えたい…それから…確かに君は『巫女』だけど…『真の契り』を交わして、初めて本当の『巫女』に成れるんだ…。」
「…『真の』…『契り』…?」
篝の声に、アスランは静かに答える。
「…そう…身も心も…全て重ね合わせて…。そうする事で、先程の君を守った勾玉の力の様に、君は俺の力を引き出し、民を助け…そして、俺も『真の力』を出すことが出来るんだ…。」
アスランは、もう一度篝に言った。
「俺は…君しかいない…君しか考えられないんだ…俺の…運命の『巫女』は…。」
真摯な翡翠の瞳に、篝は頬を染め上げる。
色鮮やかに蘇る『記憶』―――
まだ幼く、力がないのに絞った布で、身体を拭かせてくれたアスラン…
見た目も恥ずかしい程の『おにぎり』を…『卵焼き』を…嬉しそうに食べてくれたアスラン…
宮中での勉強や習い事を、一緒に並んで聴いてくれたアスラン…
そして―――どんなに名乗りたかっただろう・・・それでも私が恐れないようにする為に、『人の姿』にならず、『蒼竜』の姿のままで、
一人、想いと孤独に耐え続けて・・・
それでも幼い頃から、ずっと遠くから・・・どんなに自分が傷ついても、苦しくても、何時も私の危機を救ってくれて、優しく見守って
くれたアスラン・・・
篝は手をアスランに伸ばす。
「私も…好きだ…アスラン…」
その答えに、アスランは優しく口づけを落としながら、篝のゆるく結ばれた帯を解き、衣をゆっくりと脱がせる。
やがてキメ細やかな、白く真珠のような肌の、生まれたままの姿の篝が露になる。
恥ずかしさにギュッと目を閉じ、顔を赤らめる篝の身体に、その脱がせた衣をかけてやると、アスランは御簾の向こうで、衣擦れの音をたてる…。
篝の元に戻ってきたアスランは、目を瞑ったままの篝をそっと抱きしめると、篝の身体を仰向けにし、身体を、肌を、重ねながら言う。
「篝…俺の背中に手をまわして…」
「…うん…」
その篝の手に、固いものが触れる。
―――『逆鱗』
触れてはいけない、と嘗てアスランに言われ、気付いた篝は一瞬手を止める。だがアスランは
「…大丈夫だから…篝は俺の『巫女』だから…」
その優しい言葉に、篝はそっと、蒼い『逆鱗』に触れる。
アスランは篝の額に唇を寄せる。
すると―――篝の額から蒼い勾玉が現れ、二人の身体が蒼い光に包まれる。
「―――『蒼竜』の名の元に誓う…この者を我が『巫女』とし、その身も心も一つになりて、真の『契り』を成すことを・・・」
―――フワリ・・・と身体が浮ぶような感覚―――
篝は身体の中に、何か例えようもない、熱いものが流れ込んでくる感覚を覚えた。
「…これで、君と俺は結ばれたんだ…」
そうアスランは告げると、愛しそうに、篝の頬に自分の頬を摺り寄せる。
と、篝が声をかける。
「…お前…」
「何だ? 篝…。」
「『頬擦り』…好きだな。」
そういって笑う篝。
「…仕方ないだろう?…篝の頬…小さい時と変らなくって、柔らかいから…」
「…まるで私が成長してないみたいな言い方だな…。」
ちょっとむくれる篝に、頬を撫ぜながら笑うと、アスランは篝に言った。
「篝…もっと、背中…撫でてくれないか?」
篝はアスランに言われるまま、『逆鱗』を優しく撫ぜる。
僅かだが、アスランの吐息が早くなる。
―――自分でも知らなかった、疼くような『快楽』の波…
アスランは篝の顔を見つめる。
―――柔らかい…篝の笑顔…
(もう…耐え切れない!)
アスランは狂おしく、激しく篝の身体を求め始めた。
「あっ!…アスランッ!」
「もっと…もっと俺の名前呼んで…篝!」
「アス…ラン…んぁ…アスランッ――!!」
月明かりに照らされた静かな湖―――
―――やがてその奥から、甘く切ない、少女の嬌声が響き渡った・・・
* * *
「えぇい! またも竜にやられた上、篝を連れて行かれた、だと!?」
「だって〜〜父上ぇ〜〜…」
『政蘭』家に響く宇奈都の怒鳴り声と、由宇奈の泣き声。
「そんな情けない声を出すな! この馬鹿息子が!! お前があの小娘を『モノ』にしておけば、竜ごときに出し抜かれるなど―――」
ハッと何かを思い立つ宇奈都。
「…そうだ…相手が『竜』ならば、こちらも『竜』を使えばいいことではないか…。」
* * *
宇奈都は由宇奈をつれ、夕闇の王宮に入った。
「宇奈都様、由宇奈様、このような夜更けに、何のご用件が―――」
「いいから、貴様はどけ!」
王宮の門番の兵士をのけると、宇奈都は真っ直ぐ、王宮の『玉座の間』に向かった。
そして、上手の『玉座』に向かうと、そこでも騒ぎを聞きつけた、官吏の一人が詰め寄った。
「宇奈都様! そこは、『先代王』から触れる事を禁じられて―――」
「えぇい! うるさいっ! 今は非常時だ! 兵士ども、コヤツをここから連れ出せ!」
「お待ちくださいっ! 宇奈都様ぁー――!」
邪魔な官吏を連れ出させると、宇奈都は『玉座』をずらした。
そこには―――人一人が入れるほどの大きさの『扉』が、呪札を幾重にも貼られ、施錠がかけられていた。
宇奈都はそこで、本来篝に渡されるべきはずの『王家に伝わる秘蔵の箱』を開けた。
中には――同じように『封印の札』を貼られた『施錠の鍵』
「小娘と竜の言うがままにさせるか! この国は我ら『政蘭』家が引き継ぐのだ。」
そういって、宇奈都は『封印の札』を外し、『扉の施錠』を開ける。
<ギギッ>
錆びた鉄の音を響かせて、第一の『扉』の鍵が外れる。
そうして宇奈都は扉を開ける。
<ギギギギギ・・・>
さび付いた扉の奥は、明かり一つさえない、暗闇だった。
「ち、父上ぇ〜…。」
「情けない声を出すな! 由宇奈! 先に進む。持って来た松明に火をつけろ。」
由宇奈がつけた松明を片手に、宇奈都は地下に降りていく。
地下につくと、そこは思いのほか広く、静かで、そして湿り気の多い洞窟のようだった。
時折<ピチョン>と雫の垂れる音に、由宇奈が「ヒィッ!」と悲鳴をあげる。
そんな由宇奈に構いもせず、宇奈都は次々と『封印』された扉の施錠を開け、『呪札』を取り払う。
「…一体、幾つこんなに『封印』した扉をつくったのか…」
宇奈都が、鍵の最後を開けると、大きな岩盤があるだけで、行き止まりになっている。
「父上…な、何もないじゃないか…」
「…落ち着いてよく見ろ。」
由宇奈の言葉に宇奈都が松明を寄せると、そこには大きな『呪印』の札が貼られている。
「…こいつさえ、外せば…」
宇奈都は、最後の札を引き剥がした。
すると―――
<ゴゴゴゴゴゴ・・・>
大きな岩盤は奥に向かって倒れ、中からゾクリと来る様な、悪寒が宇奈都と由宇奈の背中に走る。
宇奈都は<ゴクリ>と唾を飲み込むと、その中に入った。
「父上ぇ〜〜〜。真っ暗で何もないじゃないか…」
由宇奈が宇奈都の後を追い、中に入ると、持っていた松明が<フッ>と消えた。
「ひぃぃぃ〜っ!」
由宇奈が声をあげたと同時に、暗闇で何か得体の知れない、大きなものが動く気配―――。
由宇奈は腰を抜かして座り込む。
宇奈都はまだ、虚勢を張りながら、暗闇に向かって叫んだ。
「まだ、そこに居ろう! 『黒竜』よ!」
すると、真っ暗闇の中から二つの鋭い眼光が、二人を捕らえた。
そして、地獄のそこから響くような『声』が聴こえはじめる。
『…やれやれ…人が折角眠りについていたというのに…貴様らは何物だ?』
宇奈都はその声に、震え上がりながらも答えた。
「い、今…我が国を…せ…占拠しようとする、四匹の『竜』がおるのだ…。お、お前なら…そんな竜など、あっという間に倒せるだろう! ど、ど、どうだ?…わしらと手を組まんか?…その四匹――特にあの『蒼い竜』さえ、片付ければ、この国は、お、お前と、我々のものだ!」
宇奈都の言葉に、『黒竜』の鋭い眼光が目を細めると、ニヤリと笑ったかのように、真っ赤な口を開けて言った。
『…先ずは、この長きにわたる、『封印』から開放してくれたことに感謝しよう…』
宇奈都と由宇奈は、安堵の表情を浮かべる。
だが―――
『…ようやく自由の身になれる前に、まずは『腹ごしらえ』が必要だな…』
宇奈都と由宇奈の顔に、緊張が走る。
『…その礼に…先ずは貴様らからだ―――!!』
「お待ちください! 『黒竜』様! お待ち―――うわぁぁぁぁぁ!」
「い、嫌だ! やめ―――ぎゃぁぁぁぁぁ!」
大きな真っ赤な口を開くと、『黒竜』はあっという間に宇奈都と由宇奈を飲み込み、そのまま『封印』されていた洞窟の奥から、岩盤を砕き、真っ直ぐに外に昇り始める。
「…なんか『音』がしないか?」
「そういえば…『地鳴り』みたいなものが―――」
『玉座の間』に立つ護衛兵が呟いた瞬間―――『真っ黒な身体』を持つ竜が、王宮の屋根を突き破り、現れた。
「な、なんだ!?あれは!!」
「は、早く篝様にお知らせを!! いや、その前に早く兵士を集めて、都の警護を!!」
『ギァォォォォー――――ッ』
城の官吏や兵士が慌てる間もなく、王宮の天井を突き破り、『大府』の首都『小野頃』の上空で、『黒竜』は歓喜にも似た声をあげながら、街に、人に、襲いかかろうとしていた。
・・・to be Continued.
=======================================================
>ついにカガリに手を出したか!アスラン!!(まぁ・・・Namiの『お約束』ですから(笑))
『巫女』にしちゃいました(笑:過去の苦労が報われたな!よかったな!)
ちなみに『逆鱗』に『巫女』触ると、「気持ちいいんだ・・・」と、感心してくださった「かずりん様」。
やっぱり『禁断の場所』だけに『お約束』並に『萌え』させていただきました(笑)
ってか、何か得体の知れないものが『王宮』の地下にあったとは・・・。よく今まで無事だったね。
TV本編では『お父さん』はMSに、息子は『グフ』に<プチッ>とやられてしまった『セイラン』親子・・・
TVより悲惨だよ・・・(哀れな・・・)ごめんね〜・・・『チーン』(合掌)
ところで・・・何時まで続くんですか・・・?・・・Namiさん・・・この話・・・