Dragon Queen 〜第5話〜

 

 

 

「この数値は何だ!?」

宮中に響く、(カガリ)の怒りの声。

 

その声に答えようと、一人の男――『宇奈都(ウナト)』が立ち上がった。

「・・・ですから陛下。先程も申し上げた通り、今年は西の地域の穀類の取れ高が、予想より少なく、その為に『年貢』を普段の2倍から、3倍に上げたまででありまして―――」

 

「飢饉で苦しむ民から、更に税を絞り上げるのか!?」

(カガリ)の荒げる声に、『宇奈都(ウナト)』の隣に座る、息子の『由宇奈(ユウナ)』が、甘い声で逆に篝に問い掛ける。

 

「そうは言われましてもねぇ〜。陛下。年貢が取れなければ、我々が飢えますよぉ〜?」

由宇奈(ユウナ)の緊張感のかけらもない声に、(カガリ)は声を抑えて問いただした。

 

「・・・では聞く・・・今、此処に座している我らは『何だ』?」

 

由宇奈(ユウナ)は自信たっぷりに答える。

「それは陛下もお解りでしょう? 我々は、この『大府(オーブ)』をまとめ、護る『役目』ですよ。」

 

「・・・それは『何から何を護る』役目だ!?」

(カガリ)の新たな問いに、宇奈都(ウナト)が二人の間に割って入る。

「陛下・・・それはもちろん、この国を護る為に働き、民の安全と無事を護る『役目』で――」

「ならば、民を護る我らが、更に民を苦しめるとは、何事ぞ!?」

 

(カガリ)は更に続ける。

 

「皆、奢るな! 民は国を護らん我らの為に、その身を削って田畑を耕し、穀物を収めてくれる。その民に感謝すべく、我らは民を護る。・・・民なくして、何が『王族』ぞ!?」

 

そして(カガリ)は側近に告げる。

「・・・西国には今年の年貢は一割にし、飢える民あれば、我が宮中の穀倉を開放せよ。」

 

その言葉に宇奈都(ウナト)が、慌てて話し出す。

「陛下! それでは我らが飢えて――」

 

その宇奈都(ウナト)に向かって、強い意志を湛えた金の瞳が睨み付ける。

「―――!!」

宇奈都(ウナト)はその瞳に圧倒され、言葉をなくした。

 

そんな宇奈都(ウナト)に、(カガリ)は冷徹な声で答える。

「・・・今まで、穀倉を検分した。・・・我ら王族が食べても飽きたらんほどの、税が納められている。これ以上取り上げて、宇奈都(ウナト)―――お前は民の苦しみが、我ら王族によってなされる事に、何の疑問も抱かなかったのか!? 『国は『王家』だけのものではない! 『民』無くしては『国』にはならぬこと』を。」

 

 

(カガリ)はそう言って、玉座を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったぁ! 米だ! 米だよっ!!」

「年貢はおろか、これだけの米をお送り下されて、この冬は餓死者は出ないだろう。」

「我ら民の為に・・・(カガリ)様・・・ありがたいことです。」

 

西国の村々に、歓喜の声が沸き立つ。

 

 

その様子をイザークは、木に寄りかかって、民衆の笑顔を眺めていた。

 



「・・・な〜んか『偽善者』っぽい気がするんですけどねー・・・。」

「ふん。・・・何だ。貴様、来ていたのか・・・わざわざ結界まで越えて・・・。」

 

イザークは同じ木の背後で寄りかかってぼやくシンに声を掛けた。

「あの『顔』を見れば答えはお前にだって、判るだろうが。」

「・・・そりゃ・・・まぁ・・・」

なかなか煮え切らないシンに、

「・・・それに『蒼竜(アイツ)』が選んだ女だ。奴の目に狂いはないだろう。」

 

 


まるで自分の事のように、フッと微笑を漏らし、イザークは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええぃっ! 忌々しい小娘め!!」

自分の城に戻った宇奈都(ウナト)が、憎々しげに床に扇子を投げつけた。

 

「ふ〜ん・・・世間知らずの『お嬢さん』かと思えば、随分強くなったもんだねぇ。(カガリ)は。」

腕を組んで、壁に寄りかかりながら由宇奈(ユウナ)が言った。

 

「確かに、あの娘は『10歳までは生きられない身体だ』と薬師は言っていたはず・・・なのに・・・。」

「・・・確かに、あのコがいなければ、父上の思うがままだったのにねぇ〜・・・『大府(オーブ)』は。」

由宇奈(ユウナ)の言葉を受け、宇奈都(ウナト)は小さく呟いた。

 

 

 

「・・・そうか・・・『消せ』ば良いだけの『話』だ・・・。」

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

夕餉の時間、宇奈都(ウナト)は『毒見役』が離れた隙に、忍ばせておいた部下に『猛毒―――トリカブト』の粉末を、(カガリ)の膳に入れるよう指示した。

 

 

 

「あ〜! お腹へったー!!」

「姫様。はしたのうございますよっ!」

乳母(マーナ)に注意を受け、ちょっと拗ねた表情をみせるが、すぐに笑みを戻し、(カガリ)は膳の前に座り、「いただきまーす!」と、汁物の椀に口を付けかけた。

 

 

その時――――

 

 




(―――「それを飲んじゃダメだ!!」)

 

 

「え・・・?」

 

不意に聞こえた声に、(カガリ)は汁物の椀を取り落とした。

 

<バチャン!>

 

「あっ!!」

「大丈夫ですか? (カガリ)様!?」

女中達が、慌てて(カガリ)の傍に駆け寄る。

「大丈夫だ。火傷もしてないし。折角用意してくれた膳を、台無しにしてすまん!」

「いいえ。直ぐに代わりのものを用意しますので。」

「ありがとう。すまんな。皆。」

 

膳を下げる女中にそう言うと、(カガリ)はふと、空を見上げた。

 

 

(さっき聞こえた『声』・・・空耳かなぁ・・・聞き覚えのある声だったけど・・・)

 

 

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

 

 

「何!? 『失敗した』、だと!?」

一部始終を聞いた宇奈都(ウナト)は、密かに毒をしのばせた部下を始末すると、次の手を考えた。

 

 

―――時には王宮に姿を見せた瞬間に、矢で、(カガリ)を射抜こうとした。

   

だが、そのようなことが起きる季節でもないのに、急に霧が立ち込め、視界が利かなくなる。

 

 

―――またあるいは、王宮に火を放とうとしたが、直ぐに勢いよく雨が降り、火は放てず・・・。

 

 

(・・・こうなったら・・・!)

 

 

宇奈都(ウナト)は、次の刺客を(カガリ)に放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、夜もふけた頃・・・

近隣の諸国を訪問し、王宮に戻る(カガリ)の牛車に、顔まで黒服に身を包んだ、一団が取り囲んだ。

 

「な、何だ!? 貴様ら! この牛車が、(カガリ)様の物と知っての狼藉か!?」

護衛の一人が叫ぶ。

「問答無用!」

たちまち(カガリ)の護衛と、黒服の一団が、刃を交える音が、(カガリ)に聞こえた。

 

(私を狙って!? …ならば私も―――!)

 

(カガリ)も懐中から刀を抜くと、牛車から飛び降り、護衛に増さぬとも劣らぬ剣さばきで、一団を圧倒する。

 

「気をつけよ! 一人は生かして捕らえよ! 何処のものか嫌疑を掛ける!」

そういった(カガリ)の隙をつき、一団の一人が、(カガリ)の背後から刀を振り下ろそうとしている。

 

「―――っ!(カガリ)様ぁ!!」

「危ないっ!!」

 

護衛の声にはじかれ、振り向いた(カガリ)に、敵の刃が落ちる―――

 

 

 

(―――殺られる!!)

 

 

 

(カガリ)が、そう思って、頭を咄嗟に抱えた、その瞬間―――

 

 

 

<ゴォォォォォ―――――ッ>

 

 

 

大きな何かが迫ってくる音と同時に、太刀を振り上げていた男に、その『物』が真横からぶち当たり、男は土塀に強く打ち付けられ、失神した。

 

「な、何だ!? 今のは!?」

「一体何が!?」

 

慌てる護衛と、一団を他所に、(カガリ)は突き飛ばされた男の傍によると、その身体に触れ、周囲に四散したものを確かめる。

 

「・・・『水』・・・?」

 

その(カガリ)に向かって、更に一団が護衛を振り切り、(カガリ)に襲い掛かろうとした瞬間―――

 

「ぎゃぁっ!」

「ぐぁっ!!」

 

まるで弾丸のような、『細かなもの』に身体を撃たれ、黒服の一団は、あっという間に血痕を飛び散らせ、倒れる。

 

その様子を見ていた護衛の一人が、天に向かって顔を上げると、その表情はみるみる青ざめ、地面に腰が抜けたように、へたり込んだ。

 

「・・・ぁ・・・ぁ・・・あぁ・・・あれは・・・」

 

その場にいた一同が、護衛の見つめる天に視線を向けると、皆、一斉に言葉を失う。

 

 

―――そこには…

 

 

   『瑠璃色の鱗』

   『逆立った角』

   『鋭い牙』

 

それらを剥き出しにしながら、まるで(カガリ)の盾になるようにして唸る―――『蒼い竜』

 

 

「そ、そ、『蒼竜』様!?」

 

その場から、恐怖に震えたまま慌てて逃げようとする一団に、『蒼竜』は牙を剥き、大きな口を開けると、口の中に水球を作り出し、逃げ惑う一団に勢いよく水球を吐き出す。

 

「うぁぁぁぁぁ!!」

 

(カガリ)を襲った一団は、『蒼竜』の攻撃に、あっけなく吹き飛ばされ、かき消された。

 

 

 

『グルルルルルル……』

 

まだ唸り声を挙げる『蒼竜』に向かって、(カガリ)は腰を抜かし、呆然としたままの護衛の前に立ちはだかると、両手を広げ、『蒼竜』に向かっていった。

 

「この人たちは、悪い奴じゃない!! 私を助けてくれたんだ!! だから、私はともかく、この人たちは、見逃してくれ!!」

 

 

金の瞳に涙を溜め、精一杯、叫ぶ(カガリ)―――

 

 

すると

 

『蒼竜』は、『グルルル…』と唸ったまま、その顔を(カガリ)の傍に寄せる。

 

「か、(カガリ)っ!!」

「お逃げください!! お早く!!」

 

護衛の声を背後に聞きながら、それでも(カガリ)は逃げなかった。

 

 

 

―――何故か、『恐怖』を感じなかった。

寧ろ、『忘れかけていた何か』を思い出すように、そっと『蒼竜』の頭に手を伸ばす。

 

 

 

「か、(カガリ)様ぁ!!」

 

 

(カガリ)が手を伸ばすと、『蒼竜』は自分の頭を、(カガリ)と同じ高さにすると、先程までの怒りに満ちた翡翠の瞳が穏やかになると同時に、じっと懐かしそうに(カガリ)を見つめ、先程まで逆立っていた鱗と角を、ゆっくりと“ペション”と伏せる。

 

まるで、『子犬』が、飼い主に頭を撫ぜてもらうとき、安心して、耳を伏せるように…

 

 

「…お前が助けてくれたんだな…ありがとな…」

 

 

そう言って(カガリ)は『蒼竜』の頭を撫ぜる。

信じられないことに、『蒼竜』は、その感触を慈しむかのように、目を細め、されるがままになっている。

 

 

『フォォーーン…クォォー―ン…』

 

 

聞こえてくるのは、あの唸り声を上げていた者とは同じと思えないほど、高く鼻がかった、甘えるような声…

 

周りの護衛達は、まるで夢でも見ているような感じを受けた。

 

 

(…『蒼竜』…四神竜ならば、『巫女』以外には自分の身体を触れさせたり、みせたりしないはず!! なのに―――何故『(カガリ)』様は…!?)

 

 

「よしよし。…いいコだな。お前。」

篝は、何の疑問もなく、『蒼竜』の頭を撫ぜている。

 

 

 

(―――(カガリ)・・・もっと君に触れたい・・・)

 

 

 

やがて、気持ちよさそうに、細い目をしていた『蒼竜』は、瞳を閉じると『クゥゥ―――ン…』と鳴きながら、(カガリ)の小さな身体に、甘えるようにしてその頬を、身体を摺り寄せる。

 

「わっ! わっ! なんだよ。お前。人懐っこい竜だなぁ〜。」

笑顔で『蒼竜』の頭を撫ぜる(カガリ)―――

 

 

 

「さて、もう行かなきゃ…王宮の皆が心配するから…」

 

(カガリ)の言葉に『蒼竜』は、(カガリ)からその身体を離すと、寂しそうな目をして、名残惜しそうに、天へ飛び立つ。

 

「そんな、寂しそうな顔するな! ホンとにありがとな!!」

笑顔で見送り、牛車に乗り込むと、狐につままれていたかのような護衛達も、王宮に向かって進みだす。

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

その夜あった出来事は、一夜のうちに、王宮中を駆け巡った。

 

「…何? あの小娘が、『蒼竜』の『巫女』だと…?」

宇奈都(ウナト)が放した密偵からの報告に、今度は由宇奈(ユウナ)が答えた。

「何でも、『只の神竜と巫女』の間柄じゃないほど、親密だったらしいよ…。特に『竜』がね。」

 

「…何時、そんな『儀式』を…」

両手を組み机に載せる宇奈都(ウナト)―――

(…確かに『巫女』の命は簡単に断つことは出来ず、神竜の加護を受ける…という話だ。…(カガリ)が幼いとき、もう少しで死ぬところを、『蒼竜』と遭遇し『巫女』となっていたら…ありえない話ではない…)

 

ため息をつく宇奈都(ウナト)に、由宇奈(ユウナ)がこともなげに話す。

「…だけどさぁ…確か『巫女』っていっても、ちゃんと『生娘』で、竜と『真の契り』を交してない限りは、仮初(かりそ)めみたいなモンだって聞いたけどね。」

「じゃぁ、お前には、何か『勝算』がある、というのか?」

「当たり前さ…。」

 

自信たっぷりに由宇奈(ユウナ)は父の視線に、顔を向ける。

(カガリ)には、今、丁度『王家』の中で、『吊り合い』の取れる年頃の『男』は『僕』以外、いないからね…。そう、彼女が此処まで生きると思っていなかったからだけど、返って都合いいじゃないか…父上から『(カガリ)の『婚約者』は『僕』だ』って言えば、周りも納得するしね。」

 

 

「…ふむ・・・お前があの小娘を『モノ』にして、お前が実質『王家』を継げば…。」

 

 

 

父の言葉に、由宇奈(ユウナ)は得意げに「フフンv」とせせら笑った。

 

 

 

 

 

・・・to be Continued.

 

 

=======================================================

ついに成長した(カガリ)を陰謀から護る為、『蒼竜』として立ち上がった(飛び立った!?)アスラン!

 ・・・しかし・・・宇奈都(ウナト)親子が簡単に諦める訳がない!(…だろう…多分…)

由宇奈(ユウナ)の『悪代官』ぶりが、チラチラと…(汗

この先―――(カガリ)のピンチはあるのか!? そしてそれをどう救う!?『蒼竜(アスラン)』!?

 

どうでも良いですが、『蒼竜(アスラン)』より、私のほうが『姫のほっぺ』にスリスリvしたかっ――(殴!