〜before chapter of “DESTINY”〜 「…今日も会議か…」 走り書きのメモ帳―――書かれているのはこの国の象徴的代表「カガリ・ユラ・アスハ」の予定ばかり。 こうしたメモはマメにとる習慣はあるのだが、その時間もままならないほど、忙しさを感じさせる。 ―――『第2次ヤキンドゥーエ戦』から2年――― アスランは今、オーブにいる。 プラントと地球軍が停戦になった、とはいえあの『ジェネシス』を使った父の狂気。 自分がその報いに何が出来るのか… 正直『ジェネシス』を自分の命をかけて止める事で、それに報いるつもりだった。 が――― ―――『ダメだ! お前! 逃げるな!! …生きる方が戦いだ!!』 そしてアスランは決めた。 自分の命の危険をも顧みず、飛び込んでこの命を救ってくれた『彼女』 この『彼女』を護る事で、若いては平和への道に繋がるのではないか? ―――そして…自分自身の心が何より救われているという事も――― 夕暮れの窓をふと除き見る。 薄い生地のドレス そのしなやかな身体の線が、浮き出て見えるほどの緑のドレスに身を包んだカガリが、夕暮れに染まったオーブの海岸を一人歩いていた。 「会談は会食を交えてだったな…」 緊張を解す為なのだろうか。 本来ならば、護衛として傍に付き添った方がいいのかもしれないが、あえてアスランはそれを見送った。 ふと、カガリはオレンジの―――ハイビスカスだろうか―――を髪にさし、再び歩き出した。 夕焼けに染まった海と同じ、オレンジの花は、カガリの金の髪によく映えていた。 * * * 「…しかし、まだまだ戦火の爪あとは消えませんな…」 「無理もありますまい…一時の停戦とはいえ、まだまだナチュラルとコーディネーターの溝は深い…」 各国の首脳を交えての会議を兼ねた、オーブでの会食。 元来の中立国として、この国が尤も安全と見なされたからだろう。 「何故、話し合わないんだ?」 鋭く口を挟んだのは、この場の人間からは予想も出来ないような、歳若い少女の声 「何でも言わなきゃ、聞かなきゃ、相手の思っていることなんて理解できないだろう?」 護衛としてその場に立っていたアスランは、ふっと微笑みを漏らす。 そう、何時だって彼女は いとも簡単に 誰もが思いつかない…でも当たり前のことを はっきりと、真っ直ぐに口にする ―――そして俺は、何度それに救われてきた? 「しかし、アスハ嬢…停戦したとはいえ、まだあちこちでナチュラルとコーディネーターの諍いは続いているのですよ。オーブのように中立を護ることが出来る国は別として…まだ至る所でのテロ活動…知らないはずはありますまい。」 その言葉に、カガリはキッと金の瞳をむけ…そして俯く。 会議は結局、何の結果も出せないまま終了を迎えた。 * * * 確かにたった2年で「全人類が平和になりました」とは行かないだろう。 ましてや核を使ってプラントを一掃、同じようにジェネシスを使って地球を一掃しようとした互いが、簡単に分かり合える、という方が難しい。 アスランは自室のベッドに寝転がると、溜息を漏らした。 ―――『何で、話し合わないんだ?』 いとも簡単に答えを出した少女… 自分とカガリが分かり合え、こうして今、時と場所をともに過ごす事が出来るのは、戦時中彼女に本音を引き出され、本音を語られ…そうしたから出来たのではないか? ウトウトとまどろんでいたアスランが「コトリ」という常人では聞き取れないような小さな物音に気付いたのは、夜も白み始めた、明け方近くだった。 (何だ…?) 銃を携え、窓の外を見る。 そこには、昨日と変わらない、薄く華奢な身体が透けて見えるほどの緑のドレスを着たままの少女――― (―――!? カガリ―――?) 慌ててその姿を追った。 「―――っ、カガリっ!」 アスランが走りながら慌てて声を掛けると、金の髪が振り向いた。 「アスラン? 何でお前こんな朝早く―――」 「それはこっちの台詞だ。」 キョトンとしたあと、呆れながらカガリは呟いた。 「何もそんなに焦ってこなくても―――」 「俺はお前の護衛だぞ! それに…」 「…? 『それに』?」 …言えるわけない…そんな身体の線が見えるほどの薄いドレス…幾ら公式の場で着たとしても、そんな肌を露にして、身体の線が見えるなんて…昨夜は暗くて判り辛かったし我慢したが…正直他の男には見せたくない。 「いや…なんでも…」 急に赤くなって口を紡ぐアスランに、「お前ホンとに変なヤツだなー」と笑いながら、カガリは浜辺に向かって歩き出した。 並んで歩きながら、アスランの目に入ったオレンジのハイビスカス――― そっと摘み取ってカガリの髪にさした。 「何だ?」 「いや、昨日、お前自分で髪に挿してたから…その…似合うと思って…」 我ながら何時も女性にかける言葉が見つからない。でもカガリは何でもないように笑顔で答えた。 「そっか…ありがとう。」 カガリにこうした言葉は要らない。本当に必要な時だけ何時も言葉は自然と出てくる。 「さっきの続きだ。何でこんな朝早く…それも昨日の格好のままなんだ?」 アスランからの疑問に、カガリは視線を逸らして呟く。 「…ずっと…考えていたんだ…何で皆そんなにコーディネーターをまだ怖がるのか…って…」 夜明け独自の僅かに冷えた風が吹き、カガリの髪のオレンジの花弁を揺らした。 「私は、キラ――は肉親だから当然として、お前やラクスと話しても、全然怖いとか思ったことないし。 敵だったから―――お前の事は最初撃っちゃったけど…」 カガリは「ごめんな」と付け加えながらアスランを見上げた。 アスランは首を横に振った。 あの時は自分もそうだった。敵だから撃つ――それが「当たり前」だと思っていた。 でも――― 「だから一晩考えて、決めたんだ。」 真っ直ぐな金の瞳を海に向けたあと、カガリはアスランに向かって告げた。 「私がプラントに行って、デュランダルと直接話をする。」 「なっ―――!」 アスランは言葉に詰まる。 話し合って分かり合えるものなら簡単だ。でも父と自分のように、話しても分かり合えなかったとき―――その時カガリは――― 「…なぁ…見ろよ、アスラン…」 カガリはまた視線を海に向ける。 白んだ空は青みを増して、静かに海は揺れている。 「…戦争がまだ過激化してなくて…お父様が生きていた時…いつ見たか忘れたけど、こんな安らかな夜明けを見たことがあるんだ。でも世界ではまだどこかで命のやり取りをしているんだ…だから、そこにも安心して眠る夜があって…こんな安らかな夜明けが手に入れられるなら…私はお父様の意志のともし火を消さないで私の務めを果たしたいんだ。」 「…カガリ…」 そう、父との話が物別れに終わった時も、護り石が―――カガリが護ってくれた。 アスランは向き直ったカガリの瞳をみると、決意したように頷いた。 「なら、俺も行く。プラントへ。」 「…アスラン…?」 「俺ならプラントのことは幾らか知っているし、俺はお前の護衛だし、それに―――」 「『それに』?…って、わぁぁっ!」 砂地にハイヒールで足を取られたカガリの腰を、とっさにアスラン支えた。 だが、その手をアスランは離すことは無かった。 「…約束しただろ?―――君は俺が護る―――何に変えても…」 「…アスラン…」 カガリに言葉は要らない。 だから――― 不器用な言葉の代わりに、顔を近づけ…自然と唇を重ねあった。 護り石が俺を護ったように 今度は俺がお前を護るから ちゃんと約束するから ―――C.E.73―――もう一つの物語の始まり――― ・・・Fin Continue DESTINY. ======================================== >そんな訳で(?)、スペシャルエディション2『遥かなる暁』のEDのアスカガ絵3枚をモチーフに、ストーリー作って 見ました(笑) 一応戦後、一応DESTINYの直前、という事で、妄想バカな話ですが、読んでくださった方、ありがとうございます! >Nami |